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殿下、大丈夫ですか?
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何とかフローラと話をして誤解を解きたいジェイドだったが、開国祭間近でジェイドもフローラも多忙を極めた。なかなかタイミングが合わない状況が続き、あっという間に開国祭当日になってしまった。
舞踏会でジェイドは、もちろんフローラをエスコートすることになっている。
(このまま、嫌われていると勘違いされたまま悲しい思いをさせるのは、男として駄目だろ)
と心意気はあるが、これまで失敗続きなので、実際にフローラを前にして自分の想いを伝える事が出来るか自信はなかった。
王宮に到着したフローラが控え室に居ると連絡を受けたジェイドは、今控え室の前に立っていた。
ソワソワと落ち着かず、深呼吸して気持ちを落ち着かせていると、静かに扉が開いた。
「ジェイド様、本日は宜しくお願い致します」
ジェイドが顔を挙げると、瞳と同じ淡い桃色のふんわりとしたドレスのフローラがいた。薄く化粧をしたフローラは、いつもよりも三割増しで可愛いかった。いや、五割増しと言っても良いだろう。
(ああああっ、天使か!?)
「ああ」
内心悶絶しているが、やはり表情と声には全く感情を出さず、素っ気ない返事になっていた。いや、普段だったら「女性は準備に時間が掛かるな」とか余計な一言を添えていたかもしれない。
今のジェイドには、余計な一言を添える余裕もなかった。
フローラをエスコートして会場へ向かう。そっとジェイドの腕に添えられたフローラの小さな手を意識してしまうが、正面ではなく隣に居ることで、フローラを直視していない分、考え事をする心の余裕が少し出てきた。
ほんの、極わずかだが。
(「綺麗だ」とか「美しい」と伝えた方が良いんだろうな。だが、ドレスに対して?それとも容姿?全てが完璧に可愛いんだが、どうすれば?)
ジェイドは女性を誉めたことがないわけではない。普通に夜会や外交で会った女性に対して社交辞令として、相手の容姿やら才覚を誉めることが出来ていた。
思考がポンコツになるのは、フローラに対してだけだった。
そして、悶々と話しかける言葉を考えているうちに、会場についてしまう。
(ああ、もう少し会場が遠ければ……)
遠くてもきっと、まともな台詞は言えていないだろうが、ジェイドは自分の不甲斐なさを誤魔化す。
国王の演説のあと、いよいよ舞踏会が始まった。
一曲目のダンスは配偶者や婚約者と躍り、その後は自由に舞踏会を楽しむことになっている。
ジェイドもフローラと踊っていた。
周りから見れば二人のステップは完璧だったが、ジェイドは今日一度もフローラと目が合っていない事に気がついた。
小柄なフローラはジェイドよりも頭ひとつ分くらい低いため、立っていると見上げるように見つめてくれていた。しかし、今日のフローラは俯いたまま視線が合わない。
(私は……)
自分の態度が、フローラを俯かせてしまっていることにやっと気が付いた。フローラは何も悪くないのに、だ。
一曲目が終わる。
「フローラ……」
もう一曲踊らないかと、誘う前にフローラの手がジェイドから離れた。
「ありがとうございました、ジェイド様」
いつもと同じ穏やかで可憐な声。けれど、やはり視線が合うことはなかった。
「あ……ああ」
これまでの舞踏会では、気恥ずかしさを理由にジェイドが先にフローラから離れ、背を後ろに向けていた。
(視線が合わないのも、そっけない態度をされることも、こんなにも寂しくて悲しい気持ちに……。私は、ずっとフローラにこんな気持ちにさせていたのか)
そっけない態度どころか、冷たい態度と言葉を放っていたことを思うと、サーッと血の気が引いた。
(愛想尽かされて当然だ……)
静かにジェイドから離れていったフローラを引き留めることが出来なかった。
その後、何人かの令嬢に「踊って貰えないか」と誘われたが、それを当たり障りのない笑顔でかわしながら、ジェイドは人気のない壁際に向かう。途中ウェイターから果実酒を受け取ったジェイドは、それを一気に呷り項垂れた。
「大丈夫ですか?」
ジェイドを見つけ、近づいてきたランツが小声で尋ねる。近くには誰もいないが、公の場なので外用の口調だ。
「大丈夫、じゃない」
自分の最低さを再認識して、絶望していたところだ。
婚約を渋る伯爵を「幸せにするから」と説き伏せて、なんとか承諾を貰ったというのに、自分の態度はフローラを悲しませていただけだった。
好き過ぎてどう接したら良いのか分からなかったという理由は、悲しませて良い理由にはならない。
「私は、フローラにふさわしくない」
「殿下……」
「……諦めた方が良いのか?」
初恋だった。
ずっと側に居たい。
自分が彼女を幸せにしたい。
でも、好きな人を幸せに出来ないのなら、身を引いた方が良いのだろうか?
舞踏会でジェイドは、もちろんフローラをエスコートすることになっている。
(このまま、嫌われていると勘違いされたまま悲しい思いをさせるのは、男として駄目だろ)
と心意気はあるが、これまで失敗続きなので、実際にフローラを前にして自分の想いを伝える事が出来るか自信はなかった。
王宮に到着したフローラが控え室に居ると連絡を受けたジェイドは、今控え室の前に立っていた。
ソワソワと落ち着かず、深呼吸して気持ちを落ち着かせていると、静かに扉が開いた。
「ジェイド様、本日は宜しくお願い致します」
ジェイドが顔を挙げると、瞳と同じ淡い桃色のふんわりとしたドレスのフローラがいた。薄く化粧をしたフローラは、いつもよりも三割増しで可愛いかった。いや、五割増しと言っても良いだろう。
(ああああっ、天使か!?)
「ああ」
内心悶絶しているが、やはり表情と声には全く感情を出さず、素っ気ない返事になっていた。いや、普段だったら「女性は準備に時間が掛かるな」とか余計な一言を添えていたかもしれない。
今のジェイドには、余計な一言を添える余裕もなかった。
フローラをエスコートして会場へ向かう。そっとジェイドの腕に添えられたフローラの小さな手を意識してしまうが、正面ではなく隣に居ることで、フローラを直視していない分、考え事をする心の余裕が少し出てきた。
ほんの、極わずかだが。
(「綺麗だ」とか「美しい」と伝えた方が良いんだろうな。だが、ドレスに対して?それとも容姿?全てが完璧に可愛いんだが、どうすれば?)
ジェイドは女性を誉めたことがないわけではない。普通に夜会や外交で会った女性に対して社交辞令として、相手の容姿やら才覚を誉めることが出来ていた。
思考がポンコツになるのは、フローラに対してだけだった。
そして、悶々と話しかける言葉を考えているうちに、会場についてしまう。
(ああ、もう少し会場が遠ければ……)
遠くてもきっと、まともな台詞は言えていないだろうが、ジェイドは自分の不甲斐なさを誤魔化す。
国王の演説のあと、いよいよ舞踏会が始まった。
一曲目のダンスは配偶者や婚約者と躍り、その後は自由に舞踏会を楽しむことになっている。
ジェイドもフローラと踊っていた。
周りから見れば二人のステップは完璧だったが、ジェイドは今日一度もフローラと目が合っていない事に気がついた。
小柄なフローラはジェイドよりも頭ひとつ分くらい低いため、立っていると見上げるように見つめてくれていた。しかし、今日のフローラは俯いたまま視線が合わない。
(私は……)
自分の態度が、フローラを俯かせてしまっていることにやっと気が付いた。フローラは何も悪くないのに、だ。
一曲目が終わる。
「フローラ……」
もう一曲踊らないかと、誘う前にフローラの手がジェイドから離れた。
「ありがとうございました、ジェイド様」
いつもと同じ穏やかで可憐な声。けれど、やはり視線が合うことはなかった。
「あ……ああ」
これまでの舞踏会では、気恥ずかしさを理由にジェイドが先にフローラから離れ、背を後ろに向けていた。
(視線が合わないのも、そっけない態度をされることも、こんなにも寂しくて悲しい気持ちに……。私は、ずっとフローラにこんな気持ちにさせていたのか)
そっけない態度どころか、冷たい態度と言葉を放っていたことを思うと、サーッと血の気が引いた。
(愛想尽かされて当然だ……)
静かにジェイドから離れていったフローラを引き留めることが出来なかった。
その後、何人かの令嬢に「踊って貰えないか」と誘われたが、それを当たり障りのない笑顔でかわしながら、ジェイドは人気のない壁際に向かう。途中ウェイターから果実酒を受け取ったジェイドは、それを一気に呷り項垂れた。
「大丈夫ですか?」
ジェイドを見つけ、近づいてきたランツが小声で尋ねる。近くには誰もいないが、公の場なので外用の口調だ。
「大丈夫、じゃない」
自分の最低さを再認識して、絶望していたところだ。
婚約を渋る伯爵を「幸せにするから」と説き伏せて、なんとか承諾を貰ったというのに、自分の態度はフローラを悲しませていただけだった。
好き過ぎてどう接したら良いのか分からなかったという理由は、悲しませて良い理由にはならない。
「私は、フローラにふさわしくない」
「殿下……」
「……諦めた方が良いのか?」
初恋だった。
ずっと側に居たい。
自分が彼女を幸せにしたい。
でも、好きな人を幸せに出来ないのなら、身を引いた方が良いのだろうか?
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