【完結】獣人ディークと赤ずきんちゃん

佐倉穂波

文字の大きさ
9 / 13

9 リリアの決意

しおりを挟む
 懐かしい小さな頃の夢を見ていたリリアは、朝日のまぶしさで目を覚ましました。
 寝る前はなかったふわふわな毛布が掛かっています。きっと、オオカミさんが掛けてくれたのでしょう。
 焚き火の方を見ると、これまた昨夜はなかったカゴが置かれています。
 木の穴から出たリリアは、カゴの上に置かれた紙に気がつきました。
 二つに折られた紙を開くと、『森は危険だから、早く出たほうが良い。この毛布も返さなくていいから』と書かれていました。それから付け足したように小さな字で『良かったら食べて』とも。
 カゴのフタを開けて見ると、野菜とお肉の挟まった大きなサンドイッチが一つ入っていました。
「わぁ、美味しそう」
 リリアは、中の具が飛び出さないように、慎重にサンドイッチを取り出します。
「いただきます──美味しい!」
 木の実や果物でお腹を満たしていましたが、それだけでは、やはり足らなかったようです。お腹が空いていたので、あっという間に食べてしまいました。
 今まで食べた中で一番美味しいサンドイッチでした。
「オオカミさんのお手紙、名前書いてくれてなかったわ……本人に教えて欲しかったんだけどなぁ」
 実はリリアはオオカミさんの名前を知っていました。だけど、本人が教えてくれるまで「オオカミさん」と呼ぶ予定です。なので、名前を教えてくれなかったことに、残念な気持ちになりました。

 小さな頃、リリアを助けてくれたのが狼の獣人であることは、お父さんやお母さんの話で知ることができました。リリアは、もう一度オオカミさんに会いたい、会ってお礼を言いたいと思っていました。
 だけど、森の近くで遊ぶのも禁止になってしまったので、会うことができません。
 何年経っても、オオカミさんに会いたいという気持ちは色褪せることはありませんでした。
 オオカミさんのことを考えると、胸がドキドキするのです。
 これが、恋だと気がついたのは最近になってからのことでした。

 町で、オオカミさんと同じ耳と尻尾の獣人を見かけました。でも、リリアを助けてくれたオオカミさんよりも年上で、お父さんやお母さんと同じ年代に見えます。
 リリアは勇気をだして、その獣人に話しかけてみました。
 色々と話を聞くと、どうやらオオカミさんのお父さんだったようです。そして、オオカミさんの名前が「ディーク」だと知りました。
 ディークが人間不振で森の奥深くで暮らしていることを聞いて、リリアは会いに行く決意をしました。
 お父さんやお母さんは、やっぱり森の中に行くことを反対しましたが、たくさん説得して、三日間だけという期限つきで許して貰えました。

 ディークは、リリアに早く森から出た方が良いと勧めていますが、あと一日残っています。
「オオカミさん、昨日と同じ場所にいるかしら? 今日は、直接お話できると良いな……」
 昨日も今日も、朝起きると優しさの痕跡だけ残して、ディークの姿はありませんでした。リリアは一回眠ると、なかなか起きないタイプなので、夜中にディックが近くで焚き火の番をしてくれていたことを知らないのです。
 昨日はディークを探しまわって、やっと眠っているディークを見つけました。声をかけようとしましたが、気持ち良さそうに眠っていたので、起こすのは可哀想だと思いました。それに、前日にとても驚かせてしまったみたいなので、また驚かせてしまったら悪いと思いました。
 なので、手紙を書いたのです。

 だけど、あと一日しか残りがないので、リリアは、ディークに会えたら、今日は声をかけようと心に決めました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

処理中です...