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出会い

2  回想①

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 4月。この俺、西野誠は順風満帆の人生を送っていたはずだ。
中途で入社した外資系の保険会社は、自分に合っていたらしく、順調に結果を出していった。他より早い速度で出世していき、インセンティブを含めた給料も満足のいく物だった。その結果として10歳以上歳下の妻には、専業主婦をさせてあげれたし、利便性の良い場所に新築マンションも購入できた。
唯一問題なのが、仕事が忙しすぎて、あまり妻との時間が取れない事だが。
(そのうち二人で温泉でも行こうかな、いつか子供も欲しいし)
くらいに考えていた。
いつか・そのうち
その言葉を軽く考えすぎていたのかもしれない。
状況が変化したのは5月に入ってからだ。
自分の下に部下が一人配属されてきた。
『喜多方絵美』
25歳。いかにもキャリア憧れの強い女性でベンチャー大手からの転職らしい。
美人なのだが肩書を持つ相手に媚びるような目がどうにも苦手だった。
実際何度か食事や飲みに誘われたが、全て断った。既婚者だからというのもあったが、ただ仕事が忙しくそんな暇が無かった。
いつしか、誘いも無くなり俺に興味も無くなったようだったので安心していたのだが、ある時この子が仕事で大きなミスをした。本音を言えば怒鳴り散らしたかったが、相手はまだ新人。怒らずに優しく言い聞かせたはずだった。
はずだったのだが、6月に入り上司から呼び出しを受ける。
どうやら俺にセクハラ・パワハラ疑惑が上がっているらしい。
何故?という問いに返ってきた答えは、会社に複数のタレコミが入ったらしい。
身に覚えも、思い当たる節も無かったので断固否定したが組織のルールとして調査が入るとのこと。
(まぁ調査が入れば疑いも晴れるだろう。)
その時は、そう考えていた。今から思えば危機感が欠如していたんだと思う。
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