7 / 51
ふたつめ
放出_1
しおりを挟む「――どう?」
「どう……って」
「カゲであるキミをモデルに、お話を作るって言ったでしょ?」
「あ、あぁ、そういうこと。……んー、少し悲しい話なのかと思ったら、解決してない怖い話?」
「そういう感じ。謎は残しておかないと、不思議にならないでしょ? だから」
「なるほどね」
表情が読めないから、カゲがどう思っているのか私にはわからなかった。声色からすると、可もなく不可もなく……というところか。最初の話だから気合を入れて作ったので、反応の薄さに少しだけガッカリしたのが正直な気持ちだ。
「これを七不思議の第一不思議として、みんなに浸透させたいんだよね」
「どうやって知らせるの?」
「うーん……またボソッと伝えてみるとか?」
「一人一人にやってたら時間かからない? 怪しい一依のほうが七不思議入りするよ」
そう言ってカゲはクククッっと笑った。少しムッとしたが、確かに私はカゲ以外友達もいないし、言われてみればそのかたちで広げることは難しいだろう。
「失礼だし! あ、でも、自分が七不思議入りするって面白くない?」
「そうかな? って、今まさに俺を主人公に七不思議を作ったよね」
「危ない話じゃないから、モデルになってもそんなに不快感ないでしょう?」
「まぁ、それは。……あぁ、じゃあ、最後の第七不思議は俺が一依をモデルに作ってあげるよ」
「え、カゲ、そんなことできる?」
「バカにするなよ? 真面目に作るから、面白かったら受け入れろよ?」
「はーい。楽しみにしてる」
カゲが話を作ると言い出すなんて思わなかった。でも、同じ趣味を共有できるようで少し嬉しい。自分で学校の七不思議を作るなんて、クラスメイトへ話したら鼻で笑われそうだと思っていた。本気にしないか、馬鹿にするか。どっちでも良いが、邪魔だけはしないで欲しい。今のところ、カゲに会う以外で、この学校へ通っていて楽しいと思える数少ない理由なのだから。
「ねぇ一依」
「なに?」
「またここへ来てくれる?」
「もちろん。私、残りの不思議考えてくるね! 最後は譲るけど、今度は怖い話にしなくっちゃ!」
「七不思議って、やっぱり怖くないといけない?」
「怖いほうが、みんな好きなんじゃない? 夜の校舎へ忍び込む輩が出てきたりして。……この文化棟はどうかなぁ。夜の文化棟って、雰囲気出まくってて既に怖いよね」
「そう思うなら、早く行きな?」
「うーん、もう少し話したかったんだけど」
「俺も見回りしたら消えるよ」
「消えるとかあるの?」
「いつまでも残ってることはないよ」
「ふーん。必ず私のほうが先に帰るから、ちょっとカゲの消える瞬間見てみたい」
「なんにも面白くないと思うけど?」
「そんなことないでしょ! 幽霊が消える瞬間! 面白そう!」
「あー……多分、スッと見えなくなるだけだよ」
「そこに興味があるの! ……私も一緒に見回りやっても良い?」
「……あんまり遅くなると、先生が見回りに来るかもしれないだろ? 用務員さんでも。俺は会いたくないね」
「見えるのかな?」
「さぁ?」
早く帰らせたそうなカゲには少し不満もあるが、他ならぬ友人のためだ。仕方なく適当に資料を積んでから、私は帰ることにした。
「じゃあ、またね、カゲ」
私の挨拶へ返事することなく、カゲはただ手をヒラヒラと振って応えた。いつものことだ。仕草だけでも、返事をくれるなんてカゲは優しい。クラスメイトも先生も、近所の人も家族でさえも、そんな優しいことをしてくれる人はいないのだ。死にたがりの私がこの世へ留まっていられるのも、全てはカゲのおかげだった。
そんなカゲを驚かせるため、私は早速七不思議の二つ目を考えることにした。もう文化棟は使ってしまったから、使えるとしたらその他の施設だ。自分に馴染み深いのはやっぱり文化棟で、ここの話を作るのはカゲもいるから簡単だったと思う。ただ先生の話を聞いているだけの教室も、誰とも遊ばない校庭も、一緒に帰らない帰り道も、私には一つも面白くなかった。……でも、面白くないからこそ、私は非情になれるのかもしれない。
カゲの話を作ったが、怖い話にはしたくなかった。優しいカゲが、その闇に引き摺られてほしくなかったからだ。……『学校七不思議の一つにしておいてどの口が言う』と思われるかもしれないが、カゲには私以外に理解してくれる友達が他にいても良いのでは。なんて考えてしまったのだ。賑やかさは似合わないかもしれないが、興味と思いやりはカゲに似合う。そしてあわよくば、カゲを受け入れてくれる人間なら、私のことも受け入れてくれるかもしれない。……という邪な、縋るような私の希望もちょっとだけ含まれている。
カゲを主役にしなければ、どんな怖い話も作れそうだった。残酷で、救いがなくて、真っ暗で。――ただ、自分がちょっとそちらへ引き摺られそうで怖いから、そこまでの話を作り込める自信はない。
けれど、折角七不思議を作るなら、沢山の人に聞いてほしかった。校内に広めるためには、ある程度の怖さやインパクトがなければ廃れてしまう。他所の学校の七不思議に出てくる怪異や、都市伝説に出てくる怪異だって、有機物だろうが無機物だろうが『誰かに知ってもらいたい』『忘れないでほしい』が根底にあるはずだ。きっと。多分。寂しがり屋だと思っている。
0
あなたにおすすめの小説
隣人意識調査の結果について
三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」
隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。
一部、確認の必要な点がございます。
今後も引き続き、調査をお願いいたします。
伊佐鷺裏市役所 防犯推進課
※
・モキュメンタリー調を意識しています。
書体や口調が話によって異なる場合があります。
・この話は、別サイトでも公開しています。
※
【更新について】
既に完結済みのお話を、
・投稿初日は5話
・翌日から一週間毎日1話
・その後は二日に一回1話
の更新予定で進めていきます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる