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みっつめ
共同_2
しおりを挟む言われた通り、私は二日後に第二不思議を貼り出した。前回と同じ、中央土間の掲示板に。今回も紙と文字を加工して、貼りだす位置に差をつけてどうしたら少しでも怖さが増すのか、を考えながらの作業だった。触れる範囲は狭いから、毎回違った演出をするのは難しい。結果、一は多少違うものの、いかにも「こちらは第一不思議の続きです」と言わんばかりの掲示物ができあがっていた。
「……もしかして、また……?」
今回も変わらず、第一不思議を発見した生徒が掲示板を見つめていた。昨日は怖くて遅刻ギリギリの時間に登校したのに、第二不思議を出した今日は「昨日はなかったし」と、安心していつも通りの時間に登校してきた。彼女はそれを早々に後悔していたが、口をギュッと噤んでから覚悟を決めたのか、順番に書かれている文章を読み始めた。一枚一枚読んでスマホで写真を撮る。読み進めるにつれて眉間にシワが寄っていく。この話が怖いのか、それともまた同じように貼り出しのあったことが怖いのか。どちらが理由なのかはわからない。
「おはよう」
「……」
「……おはよう?」
「……あっ、おはよう!」
挨拶に気が付かないほど、彼女が目の前の紙に夢中になっていたことは確かだ。良い意味でも、悪い意味でも。
「これ、もしかして続編?」
「あー、うん、そうかも」
「俺も読もうかな」
二人は同級生で、気さくに言葉を交わすと一緒に目の前の紙を見つめていた。そうしているうちに、一人、また一人と登校してくる生徒が増え、第一不思議を掲示した時と同じように人だかりができた。最初の二人はその間も舐めまわすように掲示板を見つめていたが、やがで人込みから抜け出して階段を上っていった。
掲示板を見ていった人たちの反応は上々で、全体的に騒がしかったし『怖い』『気持ち悪い』『見ないほうが良い』といった、端から聞いたらネガティブでもホラーで考えたらポジティブな感想が聞けた。中には当然『こんなの趣味の悪い悪戯だ』『面白がってるだけだから乗せられるな』『子ども騙しに過ぎない』なんて嬉しくない評価もあったが、総じて目が泳いでいたり手に汗をかいていたり、強がっているような反応をしていたから、本心じゃないと思っている。せいぜい『怖いからそうであってほしい』という希望だ。つまりは怖いのだ。怖がってくれて非常に嬉しい。
「ねぇ、これって第二不思議って書いてあるし、前回のは第一不思議って書いてあるから、多分七まで続くよね?」
「学校と言えば七不思議じゃない……?」
「だよね? そう思うよね?」
「ってことは、あと五回これがあるの……?」
「え、こわ」
「怖いよ……」
女子生徒二人組がそう話しているのが聞こえた。
第三不思議も、今までと同じようにこの掲示板へ貼るつもりだ。何か危険なことがあったわけでも、誰かが怪我をしたわけでもない。悪戯だと思われているなら、ずっと見張っているなんてこともないはずだ。きっと、今まで通り問題なく掲示できる。
この反応が欲しかった。どうせ作るなら、好ましい反応がもらえるものを。
カゲの友達を増やすには、文化棟に絞って階段を作るべきだったか。一瞬そう思ったが、文化棟は広くない。すぐにネタが枯渇してしまうだろう。それでは七不思議を作り切る前に文化棟を荒らされるのがオチだ。そのせいで建て替えが早まる可能性もある。そうしたらカゲに会えなくなってしまうから、私はまた友達のいない生活へ逆戻りだ。
そこまで考えて、やっぱり文化棟で絞り込まなくて良かったと感じた。
「これ、明日も貼り出されるのかな?」
「えーっと、あれ、第一が貼ってあったのって、昨日だったっけ?」
「うーん、一昨日だった気がする」
「じゃあ、明日はないのかな? 明後日?」
「わかんないね。できあがったら貼られるのかな?」
「何だか発表会みたい」
次に貼り出されるのは明日でも明後日でもない。明々後日、三日後だ。
私は次の反応に大きな期待を抱きながら、第三不思議をどんな内容にするか考え始めた。明々後日の貼り出しまで、今までと比べたら時間はあるが、全体的に見ればない。今まだ何も思いついていないから、私は今日文化棟へ行くのはやめて、すべての時間を第三不思議へつぎ込むことにした。前日……明後日の授業後には、カゲへ話せるようにしておきたい。
「ちょっと楽しみになってきたかも」
「怖いって言ってたじゃん」
「そうなんだけどさ。ちょっとしたサプライズイベントみたいじゃない? これが貼ってあって、何か悪いことが起こったわけでもないし」
「それはそうだけど……」
「『今日は貼ってあるのかな?』って思ったら、ちょっと面白くなるじゃん、登校するのも」
「そういうのホント好きだよね。ま、確かに何にも起きてないか」
「楽しんだもん勝ちだって。誰がやったか先生にバレたら、きっともう貼り出されないだろうし。あーあ、って、つまんなくなるでしょ?」
「何かちょっとなるほどって思っちゃった」
楽しみにしてもらえるなら何よりだ。私も作り甲斐がある。彼女たちのようなオーディエンスがいるからこそ、私たちは輝くのだ。
彼女たちの期待に応えるべく、第三不思議もしっかり考えなければ。
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