或いはソレが生きていると仮定して。

三嶋トウカ

文字の大きさ
23 / 51
よっつめ

第四不思議【サッカーボール】_2

しおりを挟む

 その日から、サッカー部で不可解なことが起こるようになったんだとか。……いや、不可解なんだけど、別に悪いことじゃなくて。ボールがピカピカに磨かれている日があれば、アイロンをかけたようにユニフォームがピシッと綺麗になっている日がある。急に暑くなった日は、部室にタオルと飲み物が用意してあって、大雨や強風の日はすぐに練習できるよう、地面が丁寧にならされていた。

 とにかく良いことばっかりなんだ! 最初は意味がわからなくて怖がっていたけど、段々と「これはGがやったんじゃないか?」って、サッカー部の中で囁かれ始めた。Gさんはレギュラーだったけど、いつも雑務なんかも率先してやっていたんだって。それに、ずっとみんなのことを気にしていた。優しい人だった。
 だから、みんなありがたくその恩恵ともいえる不可解なことを、受け入れていました。Gさんは死んじゃったけど、サッカー部のみんなと心はともにある。……そんな感じでしょうね。部員もそういう時は「ありがとう!」ってお礼を言うんですって。誰もいなくても。これは僕もあんまり怖くなくて、良い話だな……くらいの気持ちで聞いていました。じいちゃんもニコニコしながら話をしていましたし。

 でも、その話が終わって、じいちゃんの顔が曇り始めたんですよね。その瞬間『あ、ここからは良い話じゃないな』って思いました。僕でもわかるレベルの、露骨な表情でした。

「こちら側はね、良いことばかりだったんだけど。……お相手さんは、そういうわけでもなくてなぁ……」

 淡々と、無機質な声でじいちゃんは話した。怖かったよ、ちょっと。僕の知っているじいちゃんじゃないみたいで。

「そうだな……。お相手さん……つまりは、Gに嫌がらせをしておったヤツらだな。練習試合をしたサッカー部。何であんなに……あんなに、Gに対してムキになっとるか、私にもわからんかった」
「Gさんは優秀だったんじゃない? ライバルが嫌がらせをするくらい、サッカーが上手かった? エースだったんだよね?」
「それはあったなぁ。素人の私から見ても、Gは格別上手かった。ひょいっと仲間にパスをして、ものすごい勢いで人を抜いてゴールへ向かって行った。身軽で運動神経の良い、明るいヤツで、みんなアイツが好きだったよ」
「そっか」
「だから余計に、Gの気落ちした顔は見たくなかったなぁ。それくらい、気にかけていたんだ」
「……うん」
「話が逸れたな。それで、お相手さんは、ちょっとずつ闇に飲まれていった」
「え、どういうこと?」
「『罰が当たる』『しっぺ返しを喰う』と言うやろて。一人は事故に遭って歩けなくなった。一人は別の学校の生徒へも嫌がらせをして、その報復に遭った。一人は怖いもんでも見たのか、家から一歩も出て来んくなった。一人は気がふれたのか、近所から白い目で見られて親に幽閉されとった」
「たまたま、じゃない? だって、悪いことをしてるんだから。自分がそういう目に遭ってもおかしくないよ」
「それがなぁ。みんな口を揃えてこう言ったもんだから、無碍にできなくてなぁ。……『今そこに、Gがいた』『こっちを見て笑っていた』だと」

 幽霊を見るってこと、あり得ますか? 見たことありますか? 幽霊。感じたことは? 僕は今まで生きてきて、そういう経験はないんですよ。だから、鵜呑みにできなくて。気のせいだったんじゃないか、見間違えたんじゃないか。そう思いました。
 ……本音を言うと、幽霊だったら怖いから、偶然であってくれと思いましたね。偶然に偶然が重なって、そんなことが起こった。そっちのほうが怖くないですもん。わかってますよ、そんなに偶然が重なるものでもないってことは。

「そいつらが部活に来なくなって、パタリとよくない話はなくなって。……落ち着いたんだろ、Gの気持ちも……お疲れ様でしたって、みんな手を合わせて」
「じゃあ、話はそれで終わり?」
「――いや。まだ続きはある」
「あるの? え? 本当に?」
「あれは、霧雨の降る日じゃった。これくらい大したことはないと、練習試合をしたんだ。例の学校と」
「お相手さんは、部活にみんな来なくなったんでしょ?」
「練習にはなぁ。でも、練習試合が組まれたことで、自棄になったのか仕返しでもしようと思ったのか、全員ではないが来たんじゃ。信じられんかった」
「そりゃそうだよ……だって、人によってはすごい怪我負ったんだよね?」
「勿論」
「治っていても、怖くないのかな、試合するの」
「そのうえ雨なのになぁ。アイツらなりの意地があったやもしれん。雨天決行で、試合は始まった。こちらがホームだから、相手はアウェイ。気まずかったと思うが、こう、攻撃的な試合だったよ。ありゃ忘れんわ。もうGはいないから行くつもりはなかったが、むしろ、Gがいないからこそ、私が行くべきかもしれんと思ってな」
「友達のためだ」
「そうだ。……それで、どれくらい時間が経ったかなぁ……。ボールを蹴っていたお相手さんが、大きな音を立てて転んでな。最初は、霧雨とはいえ雨も降っていたから、滑ったんだろうくらいの気持ちだった」
「……違うの?」
「あの顔は、ただ転んだだけじゃあならん。……恐怖に引き攣った顔。何か、見てはいけないものを見てしまったような、知ってはいけないものを知ってしまったような」
「……」
「一人が転んだのを皮切りに、どんどんお相手さんが倒れていった。立ち上がるものの、みんな心ここに在らずでなぁ。コート外の私がそう思ったんだから、目の前で試合をしていたメンバーは、もっと感じはずだ、違和感を」
「……」
「お相手さんは動きも鈍くなって、周りはざわつき始めて、こりゃいよいよおかしいぞ……って全員がなった時、お相手さんの一人が叫んだんだ。大きな声で」
「……それで?」
「コートの外へ走っていって、ベンチに座って震えておった。みんながどうしたのか聞いても、要領を得なくてなぁ。ようやくの一言で、場が固まったんだ」

「俺たちはGの頭を蹴ってる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ
ホラー
それは、あなたの『隣』にも潜んでいるのかもしれない。 日常風景が歪む瞬間、すぐそばに現れる異様な気配。 襖の隙間、スマートフォンの画面、アパートの天井裏、曰く付きの達磨…。 身近な場所を舞台にした怪異譚が、これから続々と語られていきます。 じわりと心を侵食する恐怖の記録、短編集『隣の怪異』。 今宵もまた、新たな怪異の扉が開かれる──。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

処理中です...