5 / 103
1.今回の特別任務
5.未届の少女 後
しおりを挟む(……番だ)
客間の厚いマットレスの上で、ルークはひとり、しばらく考え、思い出した。
魔術学校を修了した魔術師なら、基本的に全員が見つけている番という相手は、魔力の鍵となる人物だ。魔術師ひとりにつきひとり、魔術師が生涯の相手となり、心を通わせることで魔力の回復や増強ができるらしい。
ルークはオッドアイで、生まれ持った魔力の総量が桁違いであることや、魔術学校を卒業していないことを理由に、番探しをしていなかった。ルークの師匠でオッドアイであるジョンも番を持たない魔術師のため、特に気にもしていなかった。
未来予知ができるチャールズには、彼女がルークの番であることが見えたのだろうか。
(何か、忘れている……。そうだ、あの前髪っ!)
匂いに気を取られすぎて、彼女の左目を確認してこなかった。ルークの番であるなら、彼女にも魔力があるはずだ。
(そもそも、出生記録すらなかったのはなぜだ?)
魔術に関係のない家系でも、魔術師が生まれることはあるし、普通は隠すほどの事態にはならない。隠された左目は、おそらく右目とは色が違う。ルークと同じ理由で、虐げられている。
☆
翌日のルークは、昼間には人間の姿で今までと同じように屋敷内を散策し、中庭にも行ってみたが、少女の姿を確認することはできなかった。夜になると、子犬の姿で彼女の部屋へ向かった。今日も、扉を引っ掻くと開けてくれる。
「…来てくれたのね」
彼女が番だと思うと、この強烈な甘い匂いも受け入れられる気がした。拒絶しようとするから辛くなる。夜の間、ずっと嗅いでいることは難しいが、少し話を聞くくらいの時間は平気だろう。ベッドに腰掛けた彼女の膝に乗り、うずくまる。
「昨日は中庭に出られたんだけど、今日は部屋に閉じこもっていたの。見つかってしまったから」
ルークが立ち会った、執事に引きずられていたあの場面のことだろう。綺麗に話しているので、頬が腫れている様子はない。
少し悲しそうなトーンの言葉に、昨日の素っ気ない態度とは違い、今日は少し彼女に慣れた子犬を演じておく。もし本当に番であるなら、ルークの魔力増強のために、親しくなっておくほうが都合がいい。少しこけた彼女の頬に鼻先を擦って、目を開けた。
「可愛い子犬さん…、下から見るあなたには、みんなが醜いと言う顔が見えてしまうよね…」
(っ……!)
ルークが見たのは、オッドアイではなかった。ヘーゼルの右目と、魔の紋章だ。書物でしか見たことがないが、間違いない。彼女の左目は白目のない漆黒で、魔の紋章によって封印されていた。
「やっぱり怖い…?」
ルークは、驚いて硬直してしまったことを後悔した。この紋章のせいで、彼女は虐げられているのだ。自分を落ち着かせ切り替えるために、深呼吸をしたあと、子犬らしく彼女の頬を舐め、ぽたぽたと流れる涙の跡を消してあげる。
(んん…? 涙が甘い?)
「優しいのね…。あなたも、珍しい目をしてる。可愛い…」
頬を挟まれ、わしゃわしゃと撫でられる。子犬の姿になっても、オッドアイのままなのが少し難点ではあるが、彼女には怖がられなかったのが救いだった。
抱きかかえるように背中を撫でてくる手は、少し震えていた。なかなか泣き止まなかった彼女をひとりにしておくことはできず、子犬姿なのをいいことに、誘われるままベッドに潜った。
一旦王都へ帰って、書物を見直す必要がある。魔の紋章は、一般的な魔術師であれば知らない可能性もあるくらい、伝説に近いような話だ。休暇を、隊長であるアーサーに申し出なければ。
すっかり任務で頭がいっぱいになったルークは、甘い匂いにすっかり慣れ、身体に触れられたまま目を閉じた。
☆
今日も、あの子犬はディムの部屋を訪れてくれた。子犬を撫でているだけで気分が落ち着くけど、そのおかげで、この子犬が綺麗な毛並みをしていてふっくらと健康的なことに気付いてしまった。首輪はしていない。でも、きっとどこかの家の飼い犬で、抜け出して迷い込んだのだろう。
(私も、抜け出せたらいいのに…)
もう、何度も思った。それでも抜け出さないのは、外に出ても連れ戻されてしまう気しかしないからだ。どうやっても、ひとりで生きていける自信は生まれてこない。この屋敷で死ぬのも、勇気を出した先で死ぬのも、どうせ死ぬのなら、ここにまだ居てもいいかと諦めてしまう。雨風は凌げるし、食事ももらえるし、身体も拭ける。たまに小説も読める。頑張る気力なんて、そんなにたくさんは持ち合わせていない。
(はあ……)
ディムの模様を見た子犬は、身体を強張らせた。動物になら、模様なんて関係ないと思っていたけど、そうではなかった。やはり虐げられると思うと、どうやってもディムに味方をしてくれる人は絶対に作ることができないのだと、思い知らされてしまう。
そのあとの子犬はディムの涙を拭ってくれて、一緒にベッドに入ってくれたけど、明日以降も来てくれるどうかは分からない。意思疎通のできない動物は、気まぐれだ。
小説の中で、珍しくて虐げられていたオッドアイを、この子犬は持っている。動物の世界だと、虐められはしないのだろうか。飼い犬だから、関係ないのかもしれない。子犬がくれる体温はあたたかく、ディムが感じたことのない温もりだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる