とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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3.ふたりのオッドアイ魔術師

1.緊張の解けた朝

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「ん…」

 ミアの目に入ったのは見慣れない天井で、横を見るとルークがいた。

(……っ、ルーク様がいる!!)

 初夜を過ごして、あのあとの記憶はなかった。小説に出てくる女性のように、意識を失ってしまったのだろう。きっと後処理はルークがしてくれた。汚れているものは見えないし、下半身に気持ち悪さもないし、きちんと初夜用の薄いナイトドレスも着ていた。

 改めて、ルークの寝顔を眺めた。目に入ったのは、涙の流れた跡だ。

(っ……)

 初夜の前の、ルークの緊張の仕方が普通ではないのは、ミアにも分かっていた。騎士であるルークなら、種類は違ったとしても緊張感を感じながら何かをすることはあったはずだ。

 何を考えて、どうしてそんなに追い込まれていたのかと聞きたいけど、ルークが起きても尋ねる勇気は出ない。明らかに様子がおかしかった。騎士でも魔術師でもないミアが聞いても、仕方のないことかもしれない。

 ミアの身体に回された、ぐっすり眠ってしまっているルークの腕をゆっくり降ろして、ベッドから抜け出た。用意された水差しの水を、用意に感謝しながら少し口に含んだあと、鏡の前に立つ。いつも、朝起きると鏡の前で髪を梳くのだ。ルークが、そうするようにと教えてくれた。ここには櫛がないから、手で丁寧に触れていく。

 そこで、気付いた。左目の模様が、ほぼ見えないといっていいほどに薄い。しかも、色のついた左目が現れていた。絶対に、昨日までは、もっとはっきり、模様が顔に残っていたはずだ。

「……っ、ルーク様、ルーク様!!」

 ベッドに駆け寄って、ルークの身体を揺らした。


 ☆


 ミアの声に目を開けると、見慣れない天井と、ルークを揺さぶってくるミアが視界に入った。覚醒してくると、ミアのテンションの高さも理解できるようになる。

「ルーク様!」
「ああ、おはよう。綺麗なピンク色だね」

 先に起きて、鏡を見たのだろう。ミアが前髪を上げて、嬉しそうに話しかけてくる。手を引くと、そのまま腕の中に収まってくれる。はしゃいでいたのを自覚したのか、少し強張った気もした。

(ほんとに、可愛いな…)

「腰とか、身体は辛くない?」
「大丈夫です」
「もう結婚したんだ、敬語も要らないよ」

 一度、交わりの最中にも言ったが改めて伝え、ミアの頬を手のひらで支えて唇に触れるだけのキスをした。目を閉じたまま額を合わせ、ゆっくりと空気を吸い込む。

 人間の姿では感じにくかったミアの甘い匂いも、今では感じられる。ミアを押し倒したくなるが、ここは首元に顔を埋め抱き締めるだけに留めた。ミアからも、返ってくる。

「…ミアで、よかった」
「私もです、ルーク様」

 ミアは、今まで通りに答えてくる。きっと、慣れれば外れるだろう。賢いし、努力家なのも様々な場面で見てきた。

 しばらく腕の力を弱めなかったルークを、ミアは受け入れてくれた。明らかに疲れているのは、伝わっているだろう。やはり、緊張の度合が著しかったのだ。

「…何か食べるもの、作りに行こう」

 まずミアの部屋へ寄り、魔術で清めているとはいえ、風呂に入ってナイトドレスから普段着のワンピースへ着替えてもらった。さすがに、あの薄い初夜用のナイトウェア姿を見続けたら、どんなに疲れていても理性が崩壊する。気を張る必要はなくなったが、ミアとはずっと良好な関係で過ごしたい。ルークも風呂と着替えに自室に寄り、先に台所へ降りた。

 ミアのためにスープを用意しようと思ったが、棚を開けても食材を手に取ることができない。頭が回らず、どの野菜を使おうか決められないのだ。

「あ、ルーク様! 私がやります、待っててください」

 紋章が消えたことが余程嬉しいのか、ミアは元気で、ルークをスツールに座らせてしまう。記録魔術に残っていた女性とは異なっていて、そのまま朝食の準備を任せると、魔術を問題なく扱うミアによって、数分後にはこんがり焼かれたパンと具だくさんのスープが並んだ。

「うん、美味しい」
「よかったです」

 食べ終わってからも、トレーにティーセットを載せたミアに誘導されるまま、ミアの部屋のソファへ収まった。ミアの意図は分かる。当然だろう。初夜を終えたら紋章が消え、瞳が現れたのだから。

「聞きたいこと、山ほどあるだろう?」
「どれから聞いたらいいか…」
「時間はあるよ。あ、でもちょっと待って」

 昨夜、初夜の最中は任務なんて忘れたいと思ったが、結果成功したのだ。今ではミアの魔力の気配も感じられる。ジョンに通信魔術を送らなければならない。おそらく、ジョンからは調整された、チャールズへの謁見の日程が返されるはずだ。

 今までも、ルークの婚約者となったことで王家の管理下にあったミアだが、チャールズに会って正式に認知してもらわなければならない。ミアも無事に、オッドアイ魔術師の仲間入りをしたのだ。

 すぐ隣にいるミアは、ルークが魔術を使ったのを感じられているだろう。何をしたのかを尋ねてこないあたり、やはり賢い。この半年間、ミアが質問をするのは外で魔術の練習をしているときくらいで、ルークの仕事についてはほぼ聞いてこなかった。話せることなら話すのは間違いないが、機密事項も多い。知ってか知らずか、ミアは一線を引いてくれている。

「何から、話そうね」

 魔術で湯を沸かし、テーブルにふたり分の紅茶を用意したミアを引き寄せ、髪を撫でながら問いかけた。
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