とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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3.ふたりのオッドアイ魔術師

5.王宮への移動

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「本当に、これでいいの?」
「うん、大丈夫だよ」

 昼食を取り王宮へ向かう準備を始めると、普段着のワンピースしか持っていないミアが、服をしきりに心配している。

 ミアが言うには、小説でも架空の王家がよく登場して、王家以外の人間は対面するために正装を用意し、実際に姿を見たときには頭を下げるらしい。セントレ王国でも間違った作法ではないが、ルークにとってチャールズに会うことは幼馴染としての私的な部分もあり、完全には当てはまらない。

 ルークは正装として騎士の制服があるが、職の決まっていないミアには正装がない。ルークの妻としてドレスを着ればいいが、そもそも貴族令嬢が身に着けるコルセットの必要な衣服を持ち合わせていない。一緒に生活を始める前にミアの衣服を準備するのを、エリザベスに手伝ってもらった。王家側は知っているから問題ないと伝えても、納得できないようだ。

「ミア、式でも着なかったでしょ?」
「それはそうだけど…」
「大丈夫だって、そんなに気を遣わないといけない人じゃないから」

 王家に対する反応として、ミアが正しいと分かっていても、その様子は可愛らしく、つい口角が上がってしまう。誤魔化すよう額にキスを落として目を合わせると、どうやら諦めてくれたらしい。

「ルーク、これは?」
「オッドアイは隠してないと、目立つから。また今度、話してあげる」

 サイドテーブルに置いていた、白い眼帯をミアに着けた。同化魔術を掛け顔色に馴染ませたあと、気配を消す。ルークも自分のレッドの目に眼帯を着けた。ひとりで買い物に行く際には眼帯をつけていたが、ミアにも着けるのは初めてだった。

(あれ…? うわ……)

 式のときには、眼帯を着けていなかった気がする。転移魔術で出入りしたため、誰にも見られてはいないが、外出で眼帯を忘れるなど、今までなら絶対になかった。ジョンにもチャールズにも咎められなかったものの、思い出した今の気分は最悪だ。

 夕刻というにはまだ早いが、ジョンの書斎で行ってやりたいことがある。それで、気を紛らわせるしかない。

「行くよ?」
「うん」

 転移魔術で、ジョンの書斎に降り立った。ここに来るのは半年ぶりで、ルークは一息吐きながら結界の確認をし、ミアに向かって声を掛ける。

「ここが、王都にある魔術学校の一室。僕の師匠であるジョン・ミッチェル教授の書斎。僕たちと同じオッドアイだけど、レッドとは逆の目を隠して普通の魔術師だと偽ってる」

 壁中に積み上げられた書物の山に、ミアは見惚れながらも頷いてくれた。

「書物が、いっぱい…」
「僕の魔術の知識は全てここのもの。自由に見てていいよ」
「本当?」
「うん、僕はちょっとやることがあるから」

 この部屋には結界もあって、ジョンに許された者しか入れない。魔の紋章について、ミアとの記録を残しておかなければならない。記録魔術として残すには、この場所が適している。

 ミアとの屋敷で作ってもいいのだが、王都の魔術関係の資料は全てこのジョンの書斎に集約されている。ルークの部屋にはここまでの資料はないし、機密事項でもあるオッドアイ関連の資料になるルークの記録は、ここで作られるべきだろう。

 ジョンが、後から書物とするために作っている記録魔術のメモがある。机の隅に置かれた、表紙が白紙のノートを広げると、やはりまだ書物にまとめられていない草案がたくさんあった。その続きのページを一枚借りた。

 まずひとつ、やらなければならなかったことを終え、ミアを探した。しゃがみ込んで、なにやら興味津々に見ているものがある。

「気になる?」
「うん」

 ミアが読んでいたのは、魔術学校の教科書だ。昔、ジョンとの個別指導の中で試してはいて、ルークには物足りないものだった。ルークと同じく魔力量の多いミアには、一日で終わってしまう内容だろう。魔力を使って遊んでいるなかで、すでに超えている可能性のほうが高い。

「持ち帰ってもいいが、おそらく必要ないと思うな」
「師匠」

 扉が開いて、ジョンが入ってくる。ミアが、慌てて教科書を閉じた。

「ミア、驚かなくていい。これが普通だ。ルークが勝手に来て、勝手に書物を読んでるのが普通だよ」
「人聞きの悪い言い方しないでください」
「事実だろう?」

(師匠は、いつもどおりだ…)

 これ以上余計なことを言われないよう、荷物を片付けるジョンに、書斎に来てメモを作ったことを話した。

「ああ、また確認して、何かあれば聞くよ。準備はいいかい?」
「ミアは? 王宮へ向かうよ」
「…はい」
「では、行こうか」

 王都内、魔術学校にあるジョンの書斎から、王宮への廊下を並んで進む。ミアは王宮を外から見るのも初めてで、魔術学校の校舎を見るのも初めてだ。旧公爵邸に迎えに行ったときと同じで、とにかく周囲を見ている。ジョンも気付いて歩調を合わせてくれていて、いつもよりスピードが遅い。

「ルークに言えば、ここには出入りできる」
「え」
「うん、好きに来れるよ。王宮内は無理だけど、さっきの書斎とか、この廊下とかなら」

 ミアの顔がきらきらと輝く。屋敷にいれば、抱き寄せてキスをしているところだ。ジョンの前では、手を取ることすら恥ずかしい。なにせ、ジョンにもあの式を見られているのだ。ミアから目を逸らし、また大きく一息吐いた。

(これから、あの笑い転げてたチャールズに会うんだから…、何を言われるか分かったものじゃない)

「ルークは忘れているかもしれないが、英雄として戦果を上げたあと、休暇を取っていることになっている。半年ぶりに騎士学校の前を通ることになるから、少々覚悟がいるかもしれない」

(そういえば、そうだった)

 思わず眉間に皺を寄せ、一度肩に力を入れてから、すとんと落とす。ジョンの言う通り、すっかり忘れていたのだ。

 ミアと婚約し同居することになってから、宿舎には帰っていない。半年前に荷物も持ち出しているし、ミアと生活して魔の紋章を解放することで、とにかく頭がいっぱいだった。

「同化魔術も掛けられるが…」
「師匠がしないなら、しないほうがいいんでしょう」
「そういうことだ」

 王都には軍隊の訓練を受けている魔術師もいて、教育機関や王宮の周囲には結界もあり、魔力が漂った状態だ。魔術が使われると、気配で分かる。それが誰のものか分かるくらい敏感なのはオッドアイくらいだが、念には念を、だろう。

「ミアも、ルークへの視線には慣れたほうがいい」
「まだいろいろと、話せてないんですよ」
「急ぐ必要はない、ゆっくり知っていけばいいよ」

 ミアには、紋章と魔術師の番については話したが、魔術学校を一年で辞めて騎士学校に転入したことも、その騎士学校を飛び級で卒業したことも、騎士歴五年で褒賞をもらったことが異例なことも、まだ話せていない。特別任務をこなすルークには、例外が多いのだ。それに関わる嫉妬の目が強いことも、話す時期を図っている。ミアにとっては、今日の夕食会も疑問だらけになるのだろう。

 視線は感じたが、ルークに話しかけてくる者はいなかった。魔術学校教授のジョンと騎士のルークが一緒にいること自体が不自然で、以前からふたりそろっているときに声を掛けてくる人は少なかった。眼帯という共通点があり、片目での生活の知恵を共有しているとジョンが噂を流した。職務上接点がなくても、違和感を訴える者がいない理由だ。
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