49 / 103
4.茶会・夜会にて
15.国王夫妻の夜 1
しおりを挟む
「時間が、なくなったな…」
「そうね、チャールズ。でも私たちは、最善を尽くしたはずよ。予知から逆算して、子を成すつもりがあれば、それができる時間があるうちに、意識させるような会話をしたもの。上手く伝わらなかったのか、伝わったうえでの選択かは、ふたりにしか分からないわ」
「それはそうなんだが……」
王子のジェームズがすでにすやすやと眠っているのを見ながら、隣同士寄り添って話すのは、いつもどおりだ。
エリザベスとのこの私的な時間には、できるだけ国政の話はしないようにしてきたが、今日ばかりは出てしまった。最近のチャールズの頭には、ずっとこのふたり、特にルークが浮かぶ。
ミアはルークに従うだろうし、そのルークに子どもを持つ余裕はない。国王として、国益のためにオッドアイの夫妻には子どもを残して欲しかったし、それを意識させるために自分たちの跡継ぎを産むタイミングも図ったのだが、ルークの意志は変わらなかった。
あのルークが、柔らかい表情を見せていた。ルークにそんな顔をさせるのは番のミア以外におらず、貴族のしきたりや作法に馴染みのないふたりが、互いに支え合っているのがよく伝わってきた。
ルークがこんなふうに変わるなど、誰が予想しただろう。情愛を知らず、暇を埋めるように任務をこなしていたルークが、ミアに対してはずっと隣に居ようとする。執務室での資料整理すら最低限にしたいのも、隠しきれていない。
「…エリザベス。私は、年下のふたりに、ここまで背負わさなければならないのか?」
何を言いたいのか、聡いエリザベスには分かるはずだ。
「あの日ほど、緊張したルークは見たことがない。番を見つけて結婚して、初夜ではかなりの無理をして、それでも柔らかい優しい表情をミアに向けて。幼いころからルークを知っているが、あの任務以降、ルークはミアに対して心を開いている。一生大事に愛していくのは予知がなくても分かる。それなのにあのような運命を…」
「チャールズ、厳しいことを言うようだけど…」
「いや、分かっている。私は王家の人間だ。セントレ王国、そして今回は同盟国を含め、国民を守るための最善を取らなければならない。それが私の役目だ。予知に従って、その選択をするしかない。しかし、四年以上も前から見えていたとはいえ、少し疑いたくもなる…。特に今回、ふたりにさせようとしていることは、恨まれても仕方のないこと。私たちの親友を失うのだぞ…!」
エリザベスにとって、ミアは結婚してから初めての友達に近いはずだ。王家に嫁ぐと、以前までの交友関係と同じではいられない。チャールズにはルークがいたが、エリザベスには長期間、そのような存在はいなかったはずなのだ。
「…ええ、その覚悟、ぜひ私にも背負わせてくださいな、チャールズ国王様」
「っ、ベス…!」
はっとして顔を上げると、柔らかく微笑むエリザベスがいる。「酷い顔っ」と歯を見せながら、頬を両手で包まれる。
「ひとりで抱えようとするから、辛くなるのよ。ルークとも似ているわ。頼れるところは頼ればいいのに、ふたりともひとりで抱えようとする。よくても、ふたりで共有するだけでしょう? ルークにも今はミアがいるし、私たちが親友であるより前に、王家の人間なことも分かっているわ」
力強くエリザベスに諭され、目を反らしてしまった。理解していることだが、受け入れられないのだ。国王として、こういった感情の迷いは不必要なものでもある。だから、近しい友人としては、オッドアイ魔術師のルーク、ミアとしか関わり合いを持たない。
(あのふたりをこれから……)
チャールズが任務の指令を出すことは変わらないが、気持ちに区切りをつけるには、まだもう少し時間が欲しかった。
「そうね、チャールズ。でも私たちは、最善を尽くしたはずよ。予知から逆算して、子を成すつもりがあれば、それができる時間があるうちに、意識させるような会話をしたもの。上手く伝わらなかったのか、伝わったうえでの選択かは、ふたりにしか分からないわ」
「それはそうなんだが……」
王子のジェームズがすでにすやすやと眠っているのを見ながら、隣同士寄り添って話すのは、いつもどおりだ。
エリザベスとのこの私的な時間には、できるだけ国政の話はしないようにしてきたが、今日ばかりは出てしまった。最近のチャールズの頭には、ずっとこのふたり、特にルークが浮かぶ。
ミアはルークに従うだろうし、そのルークに子どもを持つ余裕はない。国王として、国益のためにオッドアイの夫妻には子どもを残して欲しかったし、それを意識させるために自分たちの跡継ぎを産むタイミングも図ったのだが、ルークの意志は変わらなかった。
あのルークが、柔らかい表情を見せていた。ルークにそんな顔をさせるのは番のミア以外におらず、貴族のしきたりや作法に馴染みのないふたりが、互いに支え合っているのがよく伝わってきた。
ルークがこんなふうに変わるなど、誰が予想しただろう。情愛を知らず、暇を埋めるように任務をこなしていたルークが、ミアに対してはずっと隣に居ようとする。執務室での資料整理すら最低限にしたいのも、隠しきれていない。
「…エリザベス。私は、年下のふたりに、ここまで背負わさなければならないのか?」
何を言いたいのか、聡いエリザベスには分かるはずだ。
「あの日ほど、緊張したルークは見たことがない。番を見つけて結婚して、初夜ではかなりの無理をして、それでも柔らかい優しい表情をミアに向けて。幼いころからルークを知っているが、あの任務以降、ルークはミアに対して心を開いている。一生大事に愛していくのは予知がなくても分かる。それなのにあのような運命を…」
「チャールズ、厳しいことを言うようだけど…」
「いや、分かっている。私は王家の人間だ。セントレ王国、そして今回は同盟国を含め、国民を守るための最善を取らなければならない。それが私の役目だ。予知に従って、その選択をするしかない。しかし、四年以上も前から見えていたとはいえ、少し疑いたくもなる…。特に今回、ふたりにさせようとしていることは、恨まれても仕方のないこと。私たちの親友を失うのだぞ…!」
エリザベスにとって、ミアは結婚してから初めての友達に近いはずだ。王家に嫁ぐと、以前までの交友関係と同じではいられない。チャールズにはルークがいたが、エリザベスには長期間、そのような存在はいなかったはずなのだ。
「…ええ、その覚悟、ぜひ私にも背負わせてくださいな、チャールズ国王様」
「っ、ベス…!」
はっとして顔を上げると、柔らかく微笑むエリザベスがいる。「酷い顔っ」と歯を見せながら、頬を両手で包まれる。
「ひとりで抱えようとするから、辛くなるのよ。ルークとも似ているわ。頼れるところは頼ればいいのに、ふたりともひとりで抱えようとする。よくても、ふたりで共有するだけでしょう? ルークにも今はミアがいるし、私たちが親友であるより前に、王家の人間なことも分かっているわ」
力強くエリザベスに諭され、目を反らしてしまった。理解していることだが、受け入れられないのだ。国王として、こういった感情の迷いは不必要なものでもある。だから、近しい友人としては、オッドアイ魔術師のルーク、ミアとしか関わり合いを持たない。
(あのふたりをこれから……)
チャールズが任務の指令を出すことは変わらないが、気持ちに区切りをつけるには、まだもう少し時間が欲しかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる