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しおりを挟む忘年会でのオレを見た佐藤先輩は、オレに絡まなくなったし、楓羽にも上司としてしか声を掛けないらしい。
気になって、忘年会に出ていた同僚に話を聞くと、どうやらオレが眠ってしまった後、佐藤先輩が楓羽に酒で挑んで負けたそうだ。楓羽に確認すると、「別に飲めるけど、あんまり美味しいと思えないからソフトドリンクでいい」らしい。弱いと言っていたのは説明が面倒だったからで、元からアルコールには強いらしかった。
◇
「お前、完全に尻に敷かれてんだな」
「え」
「辰巳さん、酔ったお前の扱い慣れてたし」
「ああ、まあ……」
年が明けても、谷先輩と休憩室で軽く近況を言い合うのは変わらない。
正直、楓羽が連れ帰ってくれたことは覚えているけど、それ以外の忘年会の出来事は記憶にないと言ってもよかった。楓羽が言うには、先輩方に失礼なことはしていなかったし、恥ずかしいこともなかったらしい。ただ、眠っていただけだと。家に帰ってきてからの記憶が強烈すぎるのもある。
「あんな酔い方、初めて見たが?」
「普段はやらないです。佐藤さんが、オレが断った分を楓羽に飲ませてたんで」
《楓羽》と呼んだことに、谷先輩がニヤついたことで気付いても遅い。先輩は、言葉では触れなかった。この人は、一線を越えて来ない。だから、先輩のいる会社に転職を決めた。
「それ完全にアルハラだろ、今は大人しいがまたやらかすぞ?」
「そうなれば、全員で通報ですね」
「今回でも十分だと思うぞ? 設計も営業も、技術もいたし、証人は多い」
「入って一年経ってないんで、波風立てたくないのが正直なところですかね。楓羽の居場所も気になりますし」
谷先輩と話す分には、開き直ってもいいかと思った。ここは社員が使える休憩室だけど、この時間は不思議なことに、谷先輩しか来ない。
「辰巳さんは、佐藤と上手くやってるんだもんな」
「特別聞くわけじゃないですけど、気にしてないだけだと思います。自分を保ってるというか、張り合わないというか」
「ああ、言いたいことはなんとなく分かる。だから皐月とくっついたんだろうしな。自分から男にアピールしないし、悪く言えば塩対応」
「そうですね」
「忘年会でびっくりしたよ。大人しくなんかないな、あの子。自我はしっかり持ってる」
「普段、見せないだけですね」
「皐月を潰したの、佐藤に対してかなり怒ってた。言葉で言ってたわけじゃないが、社内では見ない態度だったよ」
「そうですか」
(だからか……)
今更に、忘年会後の楓羽が、機嫌が悪かった理由を知った。楓羽に限って、佐藤先輩に嫉妬したなんてことないと思うけど、うろ覚えの言葉が頭に残っていて、バチっと線になって繋がってしまった。直接聞けばよかったものの、それより先に行為でやり返してしまって、プロポーズしてしまったこともあり、尋ねるタイミングを掴めていなかった。
「で、お前はなんでそれを知れたわけ?」
思わず目を細めて、谷先輩を見た。今日の先輩の本題は、これだった。
楓羽は、社内では大人しくて、壁際の席で黙々と事務をこなしている。営業部の社員とでも、仕事以外の話をすることはないと思えるほど、プライベートを明かしていなさそうだとは感じていた。楓羽と案件が同じでよく話すらしい谷先輩からすれば当然、疑問だろう。入社一年目で楓羽とは別部署のオレが、そんな態度の楓羽と付き合っているのだから。
「……小学校が同じだったので」
「はーん、そういうこと。皐月が積極的なのも変だと思ったんだよ」
確かに、男女関係に受け身だったのは認める。ここで再会してから、楓羽だけは違って、食事もオレから誘って、手に入れたいと思うようになった。人は、変わる。
「ま、幸せそうで何より。大事にしてやれよ!」
そう言って休憩室を出ようとした先輩を、呼び止めた。
「なんだよ、人生の先輩に聞きたいことでもできたか?」
「近々、辰巳さんじゃなくなりますよ」
「……はあ!?」
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