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第一篇
32.蒼玉宮の二番手・君影 2
しおりを挟むどうやら君影は、天月の来れない日に翠月と話してくれるらしかった。「紅玉に目を付けられすぎるのも嫌だから」と、翠玉宮までは来ない。食堂で会って、一緒に朝食を食べるだけだ。
朝、天月の姿が見えなければ、そっと食堂へ下りる。タイミングが良ければ、番台に出る戸の前に君影が待っていてくれることもあった。翠月が食堂へ下りることを君影と天月が知っているから、きっと宵に話していて、翠月が目を覚ました時にはもう寝間にいない緑翠も把握しているだろう。
君影は、歳の離れた姉や結婚を迫る両親に嫌気が差して、深碧館に来たらしい。「背も高くて威圧的で怖くて、逃げてきた」と、教えてくれた。天月と芸者歴はそこまで変わらず、一年に満たないそうだ。歴の長さは関係なく上位芸者の方が敬われるはずなのに、そうはならないのが男色、つまり蒼玉宮所属で、君影も天月と同じように「仕方ないこと」と諦めていた。
「天月はもうすぐ十九、僕は二十一。あれだけ見世を頑張る年下の人間を見ると、ちょっと勝てないなって。ひと月後輩なだけなのに」
「ひと月?」
「うん、一応天月が後輩なんだ。所作はあんなだし僕の方ができてる自信があるけど、見世はすぐに抜かれて、僕なりに頑張ってもがいて二番手まで来たんだよ。でも天月は抜けないなって」
そう言う君影はなんだか楽しそうで、言葉とは裏腹に、完全に諦めているわけではなさそうだった。
「まあ、元々こっちの世界にいて、所作に慣れていた僕と比べるのが不公平かもね。その代わりに、僕が持ってない物を持ってる」
「持ってない物?」
「…人間の匂いとか? 興味だけで御座敷に入ってくれる御客もいるし、翠月もそうかもね」
「……」
「ほんとだよ? だから余計に芸者から嫉妬されるんだ。良くも悪くもね。もちろん天月は見世の上手さもあるけど、それは僕がそう思うだけ。見習いを終えてしまうと見世は同じ宮じゃないと見学できないから、本当に上手いのか、程度は分からないし」
翠月が何も言わずにいると、君影は言葉をつけ足してくれた。
「天月とは、たまに同じ御座敷に入るんだ。僕たちでひとりの御客を相手にする」
「え」
「よっぽど本業で稼いでて余裕のある御客しかやらないと思うよ? それこそ高位貴族とかね。あと、蒼玉は他と違って男色、御客も変わった妖が多い。僕と天月は体格も似てるし、揃ってるのが好きな御方もいるんだ。その時に、天月の見世を見て、盗めるところは盗む」
「なるほど…」
翠月には、まだまだ知らない見世がある。ひとりの御客にふたりの上位芸者がつくなんて、黄玉宮にいたら経験しないことだろう。星羅と淡雪が同じ御座敷に出る想像がつかなかった。
「天月は、どの御客とどこまで進めるか、その駆け引きが上手い。床見世に入る御客も自分で選んでる。翠月は、先輩の床見世には出た?」
「これからです」
「僕たちのところにも来るといい。御客がいなくても、僕と天月で交わるから」
「え?」
戸惑って固まった翠月を見て、君影は「ふっ」と鼻で笑った。完全に、反応を弄ばれている。
「僕の発情期の対処を天月に頼んでるし、練習も兼ねて」
「なるほど…?」
「大丈夫、芸者同士でそれをやってるのは蒼玉だけだから。僕たちのところはいろいろと特殊なんだよ」
花街で唯一、男色芸者が待機している廓だからこそ、蒼玉宮は紅玉宮や黄玉宮にないルールで動いている宮だと、無理にでも納得するのが早そうだ。天月が頻繁に翠月のところに来れるのは人間だからだと思っていたが、蒼玉宮所属で深碧館の中でも比較的自由度が高いからなのかもしれない。
「深碧館にいる妖でそこまで強い欲のは少ないし、僕は例外だよ。どうしても抑えられなければ、ひとりでするか、御客との床で発散してもいい。翠月のいる黄玉にも、欲の強い芸者がいるだろう?」
すぐに思い当たったのは、黄玉宮の二番手、淡雪だ。一番手の星羅よりも、床が多いらしく、見学する予定になっている。
「芸者と御客、その組み合わせの数だけ床の種類がある。初めはびっくりするかもしれないけど、徐々に慣れる」
「はい」
「素直だね、いい芸者になれるよ」
天月よりも大人に、流し笑いをしながら、君影は翠月と目線を合わせてきた。その笑顔に、翠月はまた戸惑うことになる。この瞬間を、御客は気に入るんだろうなと、腑に落ちてしまった。
(割と無表情な妖だけど、笑わないわけじゃないんだ…!)
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