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4 アランside

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ぼう然としながら、僕はうちに帰った。

どこをどう歩いたか、覚えていない。



今まで僕は、欲しいものが無かった。

優しい両親、愛しい婚約者、穏やかな日々。

欲しいものは、すべて手に入れていたから。



だから、僕は何の努力もせずに、ボンヤリと暮らしてきた。

父の友人という男がなんだか胡散臭いと思っていたのに、何も調べず、

領地の経営も父に任せっぱなしで、そのうち覚えていけば良いと思っていた。



権力にも、地位にも、金儲けも、興味が無かったから、

剣も学問も、たしなむ程度で満足していた。



その慢心の結果がこれだ。

それでは、大事なものは守れなかったんだ。



婚約破棄を告げた君は、痛いほどこぶしを握りしめていた。

どこかで見た光景だ。



ああ、そうだ。イレーヌの母君が、亡くなったときだ。

泣きわめく弟をなだめ、気落ちした父君を支えて、君はひとりこぶしを握りしめていたね。

そう、あれは、君が涙をこらえているときの癖だ。



泣きたいのを我慢して、僕に婚約破棄を告げたんだね。

きっと、婚約破棄の違約金を借金返済に当てれば良いと思ったんだね。

本当のことを言うと、僕が困るから、金に目がくらんだ振りをしたんだね。

僕では、役に立たないと思ったんだね。

ごめんね。僕が慢心してたばっかりに。



これから、僕は全力で君を取り返しに行くよ。

どんな伝手やどんな手段もとるよ。全力で努力するよ。

そして、僕を信用してくれなかったことを、僕の手を離したことを、死ぬほど反省してもらうよ。





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