滅亡の畔

藤見暁良

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一章

◆逃避◆

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 私――――及川愛咲実おいかわあさみの元に突如、札束が届いた。

『貴女に特別プロジェクトへの参加を依頼をします。支度金として、百万円を送ります。プロジェクトへの参加の意思は自由です。不参加の場合でも、このお金は差し上げますが、口止め料です。この手紙の内容を他言した場合は、貴女の命で返金して頂きます。』

「他の人に言ったら、私が死ぬってこと……?」
  札束に添えられていた手紙には、そう記されている。
「別に……死んでもいいけど……」
 そう――私が今すぐこの世から居なくなったところで、誰も悲しまないだろう――――。
 送り主が誰だかも分からない手紙をぼんやりと眺めながら、自嘲的に微笑んだ。

 そんなことを思いつつも自暴自棄にはなれなくて、人目を気にしながら地味に大人しく生活を送る日々。高校を卒業してから就職をしようとしたが見つからず、アルバイトで何とか働いている。
 地方の田舎町での賃金は、正直高くない。それでも少しずつお金を貯めて、いつかこの町から出ていきたい。
 私のことを知っている人がいない世界へ。
 それだけが今の私の、細やかな希望だ――――。

「百万か……」
 明らかに胡散臭い内容と、札束。だけどこのお金があれば、夢が叶うことに気付く。途端、手紙への警戒心が少し崩れ始める。
 現実、今のバイトで百万も貯めるのは、かなり時間が掛かる。その間に、アイツらにいつどこで会うか分からない。その恐怖に苛まれるくらいなら、一か八かこの誘いに乗ってみるのも手だと思った。
『一月六日 十四時 東京駅八重洲中央口』
 手紙の最後に端的に記された日時と場所が、くっきりと浮き上がって見える。

「騙されたつもりで、行ってみようかな」
 今の世の中、甘い手口に引っ掛かって、詐欺や犯罪に巻き込まれるのは日常茶飯事。これもその類の可能性大だ。でも――――それでも良い。
 一瞬でも、この土地から離れられるなら、騙されても良いと思った。

 パッチン――――私の中で電気がショートしたみたいに、光が弾けた。途端、勝手に身体が動き出し、自分が持っている中で一番大きなバッグに手あたり次第、荷物を詰め込みだす。

 足りないものは、向こうで買えば良いよね。百万円は支度金――な筈なんだから。
 旅行する予定もいない、一緒に出掛ける友達もいない――――。学生時代、修学旅行すら休んだ私には旅行用のアメニティなんて、揃っていなかった。
「東京なら、何でも簡単に手に入るよね……」
 アメニティも、希望も、自由も――――。
 百万円の裏側に潜む罠など、この時はどうでもよく思えた。

 逃げたい! 逃げたい! 逃げたい――――!
 今すぐにでもこの場所から逃げられるなら、何でもする!
 自分の世界を包んでいた闇の風船に小さな針が刺さって、一気に破裂する。長いこと私の全てをヘドロのように纏わり付く闇は簡単には振り払えないが、一瞬垣間見えた光に呼吸が楽になる。

 東京へ行かなきゃ――――!

 妙な使命感に駆られたように、若しくは自分に言い聞かせるように、心の中で何度も繰り返した――――。

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