126 / 132
第3章 身代わり
第121話 名付けと覚悟
しおりを挟む
「あ!大蜘蛛が帰ってきたー!」
ゾンが指差す先には大蜘蛛がこちらへと向かってくる姿がある。
しかしその進行は普段よりも遅く、近づいて来るにつれて、その体に外傷が付いているのが見受けられる。
「…っ!大蜘蛛が怪我してる。急いで治してあげないと」
「そうだな、ルアはポーションを拠点から持ってきてくれるかい」
「うん、分かった」
ポーションを持って来るのをルアに任せ、僕は回復魔法が使えるため大蜘蛛へと駆け寄る。
(……?なんだこれは?)
「シャー シャ」
傷を負った大蜘蛛を治そうと近寄ったのだが、大蜘蛛の後ろに、大蜘蛛の糸に包まれた複数の何かが目に入る。
大蜘蛛は傷を負ってはいるが大した事はなさそうで、足取りが重かったのは、糸に包まれた何かを持ってきているからのようだった。
その証拠に、傷を治そうとした僕を振り払い持ってきた糸を解いていった。
「…っ!大蛇が!」
糸が解かれていった中には双頭の大蛇が深い傷を負って意識を失っていた。その他の糸の中には、初めてこの拠点の場所へと来る途中で見かけた生き物、今まで一度も見かけることのなかった生き物が、同じく深い傷を負って意識を失っている。
(まずい…かろうじて息はしているが命の灯火が消え掛かっている。早く治癒しないと取り返しがつかなくなる…だが体の表面についている、傷とは別の黒いモヤ。…呪いか。)
「テン、この黒いモヤを取り除けるかい?」
「キュ!」
テンの呪いを打ち祓う魔法で黒いモヤはスッキリと消え去った。
「よくやっぞテン。他の生き物にも同じようにやっておいてもらえるかい?」
「キュイ!」
「ウカノ、ポーション持ってきたよ!」
「ありがとうルア。ソレじゃあそのポーションを、テンが黒いモヤを取り終えた生き物からかけていって欲しい」
「うん、分かった!」
ウカノは、ポーションでは治せない体の内側から回復魔法を用いて治していく。ここまで弱っている体で一気に治そうとすると、体力が保たずにより危険になってしまう。
そのため時間をかけて、徐々にじっくりと治していく。
☆
「ふう…なんとか命の危険は去っただろう」
「もう大丈夫…?」
「ああ、後遺症がどうなるかは分からないが、ひとまずは大丈夫なはずだ。ルアのお陰だよ。」
「えへへ」
「キュ!」
「テンもね」
「キュー!」
「お疲れ様ですウカノ様。それで、この後はどうするつもりで…?」
あらかたウカノの返答に予想はついているのだろう、だが聞かねばならないとタージはウカノに問う。
「もちろん元凶を排除する」
「そうですか…」
どうか予想していたものとは別の返答を期待していたが、帰ってきた返答は無慈悲にも予想通りのものであった。ウカノの強さについては理解している。
それでも、大蛇やその他の生き物の酷い傷を負った姿。まず間違いなく食物連鎖の頂点だと分からされるその生き物たちですら太刀打ち出来なかった相手。そんな相手に臆せず挑まんとするウカノの姿。止めるべきだとは分かっている、だが自分にはどうこうできる力などない。そして…自分にはウカノを止める資格もない。
「私たちも――」
「ダメだ」
「なんで!」
「足手纏いだからだ」
なんとでもついていこうとするルアに伝えられたのは無慈悲なウカノの言葉だった。
「僕らで守ってやれるとは限らない。伴わない実力は他者まで危険に晒す」
「うぅ……」
自分に実力が無いことを理解しているルアは、目に涙を溜めながら下唇を噛む。理性では理解できても感情では理解したくない。
「向かうのは僕とテンだけだ。テン、付いてきてくれるかい?」
「キュイ!」
当たり前だ、と言わんばかりに鳴く。
「シャー」
自分も行く、とばかりに大蜘蛛も鳴く。
「大蜘蛛、君には僕がいない間この拠点を護って欲しい。頼む。」
……
「シャ」
ウカノの真剣な眼差しにジッ、と見つめられた大蜘蛛は承知する。ウカノがそう言うのなら自分の役割はこの拠点をウカノがいない間護ることなのだろうと。
「そうか、ありがとう。それと…僕はもはや大蜘蛛を家族だと思っている」
「シャ」
「だから、繋がりを示す名を贈りたい……トゥテラリィ、守護者を意味する名だ。長い間ずっとこの森の生態系を護って来た、そんな大蜘蛛は決して死神なんかでは無い。君には守護者という表現が正しい。どうか、受け取ってくれるかい?」
「シャ!」
「そうか、受け取ってくれるか」
断られるとは思っていなかったが、ちゃんと自分の考えた名を受け取って貰えたことに安堵する。
「それとタージ、話がある。」
「何ですかな?」
他の者には聞こえないように、自分の耳元へと口を近づけるウカノに一定の緊張感を表しながら応える。
「もし、僕が帰って来れなかった場合、ゾンとルアを頼む。」
「それは……」
「頼む」
「……分かりました」
決して受け入れたくないウカノの頼み。しかし、覚悟の決まったウカノの頼みを断れるなんて自分には出来るはずがなかった。
共に戦うことも、何か力になれることもない。ならば、ウカノの頼みだけでも聞いて、送り出すのがせめてもの事ではないか。
「それじゃあ僕らは行くよ。留守の間ここは任せたよ、みんな。」
「ウカノ!絶対帰って来てね…!」
「……ああ。帰って来るよ、何としてでも」
ゾンが指差す先には大蜘蛛がこちらへと向かってくる姿がある。
しかしその進行は普段よりも遅く、近づいて来るにつれて、その体に外傷が付いているのが見受けられる。
「…っ!大蜘蛛が怪我してる。急いで治してあげないと」
「そうだな、ルアはポーションを拠点から持ってきてくれるかい」
「うん、分かった」
ポーションを持って来るのをルアに任せ、僕は回復魔法が使えるため大蜘蛛へと駆け寄る。
(……?なんだこれは?)
「シャー シャ」
傷を負った大蜘蛛を治そうと近寄ったのだが、大蜘蛛の後ろに、大蜘蛛の糸に包まれた複数の何かが目に入る。
大蜘蛛は傷を負ってはいるが大した事はなさそうで、足取りが重かったのは、糸に包まれた何かを持ってきているからのようだった。
その証拠に、傷を治そうとした僕を振り払い持ってきた糸を解いていった。
「…っ!大蛇が!」
糸が解かれていった中には双頭の大蛇が深い傷を負って意識を失っていた。その他の糸の中には、初めてこの拠点の場所へと来る途中で見かけた生き物、今まで一度も見かけることのなかった生き物が、同じく深い傷を負って意識を失っている。
(まずい…かろうじて息はしているが命の灯火が消え掛かっている。早く治癒しないと取り返しがつかなくなる…だが体の表面についている、傷とは別の黒いモヤ。…呪いか。)
「テン、この黒いモヤを取り除けるかい?」
「キュ!」
テンの呪いを打ち祓う魔法で黒いモヤはスッキリと消え去った。
「よくやっぞテン。他の生き物にも同じようにやっておいてもらえるかい?」
「キュイ!」
「ウカノ、ポーション持ってきたよ!」
「ありがとうルア。ソレじゃあそのポーションを、テンが黒いモヤを取り終えた生き物からかけていって欲しい」
「うん、分かった!」
ウカノは、ポーションでは治せない体の内側から回復魔法を用いて治していく。ここまで弱っている体で一気に治そうとすると、体力が保たずにより危険になってしまう。
そのため時間をかけて、徐々にじっくりと治していく。
☆
「ふう…なんとか命の危険は去っただろう」
「もう大丈夫…?」
「ああ、後遺症がどうなるかは分からないが、ひとまずは大丈夫なはずだ。ルアのお陰だよ。」
「えへへ」
「キュ!」
「テンもね」
「キュー!」
「お疲れ様ですウカノ様。それで、この後はどうするつもりで…?」
あらかたウカノの返答に予想はついているのだろう、だが聞かねばならないとタージはウカノに問う。
「もちろん元凶を排除する」
「そうですか…」
どうか予想していたものとは別の返答を期待していたが、帰ってきた返答は無慈悲にも予想通りのものであった。ウカノの強さについては理解している。
それでも、大蛇やその他の生き物の酷い傷を負った姿。まず間違いなく食物連鎖の頂点だと分からされるその生き物たちですら太刀打ち出来なかった相手。そんな相手に臆せず挑まんとするウカノの姿。止めるべきだとは分かっている、だが自分にはどうこうできる力などない。そして…自分にはウカノを止める資格もない。
「私たちも――」
「ダメだ」
「なんで!」
「足手纏いだからだ」
なんとでもついていこうとするルアに伝えられたのは無慈悲なウカノの言葉だった。
「僕らで守ってやれるとは限らない。伴わない実力は他者まで危険に晒す」
「うぅ……」
自分に実力が無いことを理解しているルアは、目に涙を溜めながら下唇を噛む。理性では理解できても感情では理解したくない。
「向かうのは僕とテンだけだ。テン、付いてきてくれるかい?」
「キュイ!」
当たり前だ、と言わんばかりに鳴く。
「シャー」
自分も行く、とばかりに大蜘蛛も鳴く。
「大蜘蛛、君には僕がいない間この拠点を護って欲しい。頼む。」
……
「シャ」
ウカノの真剣な眼差しにジッ、と見つめられた大蜘蛛は承知する。ウカノがそう言うのなら自分の役割はこの拠点をウカノがいない間護ることなのだろうと。
「そうか、ありがとう。それと…僕はもはや大蜘蛛を家族だと思っている」
「シャ」
「だから、繋がりを示す名を贈りたい……トゥテラリィ、守護者を意味する名だ。長い間ずっとこの森の生態系を護って来た、そんな大蜘蛛は決して死神なんかでは無い。君には守護者という表現が正しい。どうか、受け取ってくれるかい?」
「シャ!」
「そうか、受け取ってくれるか」
断られるとは思っていなかったが、ちゃんと自分の考えた名を受け取って貰えたことに安堵する。
「それとタージ、話がある。」
「何ですかな?」
他の者には聞こえないように、自分の耳元へと口を近づけるウカノに一定の緊張感を表しながら応える。
「もし、僕が帰って来れなかった場合、ゾンとルアを頼む。」
「それは……」
「頼む」
「……分かりました」
決して受け入れたくないウカノの頼み。しかし、覚悟の決まったウカノの頼みを断れるなんて自分には出来るはずがなかった。
共に戦うことも、何か力になれることもない。ならば、ウカノの頼みだけでも聞いて、送り出すのがせめてもの事ではないか。
「それじゃあ僕らは行くよ。留守の間ここは任せたよ、みんな。」
「ウカノ!絶対帰って来てね…!」
「……ああ。帰って来るよ、何としてでも」
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる