杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜

メロのん

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第3章 身代わり

第121話 名付けと覚悟

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 「あ!大蜘蛛が帰ってきたー!」

 ゾンが指差す先には大蜘蛛がこちらへと向かってくる姿がある。

 しかしその進行は普段よりも遅く、近づいて来るにつれて、その体に外傷が付いているのが見受けられる。

「…っ!大蜘蛛が怪我してる。急いで治してあげないと」

「そうだな、ルアはポーションを拠点から持ってきてくれるかい」

「うん、分かった」

 ポーションを持って来るのをルアに任せ、僕は回復魔法が使えるため大蜘蛛へと駆け寄る。

 (……?なんだこれは?)

「シャー シャ」

 傷を負った大蜘蛛を治そうと近寄ったのだが、大蜘蛛の後ろに、大蜘蛛の糸に包まれた複数の何かが目に入る。

 大蜘蛛は傷を負ってはいるが大した事はなさそうで、足取りが重かったのは、糸に包まれた何かを持ってきているからのようだった。

 その証拠に、傷を治そうとした僕を振り払い持ってきた糸を解いていった。

「…っ!大蛇が!」

 糸が解かれていった中には双頭の大蛇が深い傷を負って意識を失っていた。その他の糸の中には、初めてこの拠点の場所へと来る途中で見かけた生き物、今まで一度も見かけることのなかった生き物が、同じく深い傷を負って意識を失っている。

 (まずい…かろうじて息はしているが命の灯火が消え掛かっている。早く治癒しないと取り返しがつかなくなる…だが体の表面についている、傷とは別の黒いモヤ。…呪いか。)

「テン、この黒いモヤを取り除けるかい?」

「キュ!」

 テンの呪いを打ち祓う魔法で黒いモヤはスッキリと消え去った。

「よくやっぞテン。他の生き物にも同じようにやっておいてもらえるかい?」

「キュイ!」

「ウカノ、ポーション持ってきたよ!」

「ありがとうルア。ソレじゃあそのポーションを、テンが黒いモヤを取り終えた生き物からかけていって欲しい」

「うん、分かった!」

 ウカノは、ポーションでは治せない体の内側から回復魔法を用いて治していく。ここまで弱っている体で一気に治そうとすると、体力が保たずにより危険になってしまう。

 そのため時間をかけて、徐々にじっくりと治していく。

 ☆

「ふう…なんとか命の危険は去っただろう」

「もう大丈夫…?」

「ああ、後遺症がどうなるかは分からないが、ひとまずは大丈夫なはずだ。ルアのお陰だよ。」

「えへへ」

「キュ!」

「テンもね」

「キュー!」

「お疲れ様ですウカノ様。それで、この後はどうするつもりで…?」

 あらかたウカノの返答に予想はついているのだろう、だが聞かねばならないとタージはウカノに問う。

「もちろん元凶を排除する」

「そうですか…」

 どうか予想していたものとは別の返答を期待していたが、帰ってきた返答は無慈悲にも予想通りのものであった。ウカノの強さについては理解している。

 それでも、大蛇やその他の生き物の酷い傷を負った姿。まず間違いなく食物連鎖の頂点だと分からされるその生き物たちですら太刀打ち出来なかった相手。そんな相手に臆せず挑まんとするウカノの姿。止めるべきだとは分かっている、だが自分にはどうこうできる力などない。そして…自分にはウカノを止める資格もない。

「私たちも――」

「ダメだ」

「なんで!」

「足手纏いだからだ」

 なんとでもついていこうとするルアに伝えられたのは無慈悲なウカノの言葉だった。

「僕らで守ってやれるとは限らない。伴わない実力は他者まで危険に晒す」

「うぅ……」

 自分に実力が無いことを理解しているルアは、目に涙を溜めながら下唇を噛む。理性では理解できても感情では理解したくない。

「向かうのは僕とテンだけだ。テン、付いてきてくれるかい?」

「キュイ!」

 当たり前だ、と言わんばかりに鳴く。

「シャー」

 自分も行く、とばかりに大蜘蛛も鳴く。
 
「大蜘蛛、君には僕がいない間この拠点を護って欲しい。頼む。」

 ……

「シャ」

 ウカノの真剣な眼差しにジッ、と見つめられた大蜘蛛は承知する。ウカノがそう言うのなら自分の役割はこの拠点をウカノがいない間護ることなのだろうと。

「そうか、ありがとう。それと…僕はもはや大蜘蛛を家族だと思っている」

「シャ」

「だから、繋がりを示す名を贈りたい……トゥテラリィ、守護者を意味する名だ。長い間ずっとこの森の生態系を護って来た、そんな大蜘蛛は決して死神なんかでは無い。君には守護者という表現が正しい。どうか、受け取ってくれるかい?」

「シャ!」

「そうか、受け取ってくれるか」

 断られるとは思っていなかったが、ちゃんと自分の考えた名を受け取って貰えたことに安堵する。

「それとタージ、話がある。」

「何ですかな?」

 他の者には聞こえないように、自分の耳元へと口を近づけるウカノに一定の緊張感を表しながら応える。

「もし、僕が帰って来れなかった場合、ゾンとルアを頼む。」

「それは……」

「頼む」

「……分かりました」

 決して受け入れたくないウカノの頼み。しかし、覚悟の決まったウカノの頼みを断れるなんて自分には出来るはずがなかった。

 共に戦うことも、何か力になれることもない。ならば、ウカノの頼みだけでも聞いて、送り出すのがせめてもの事ではないか。

「それじゃあ僕らは行くよ。留守の間ここは任せたよ、みんな。」

「ウカノ!絶対帰って来てね…!」

「……ああ。帰って来るよ、何としてでも」
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