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第36話 会食
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『まず、ワタシの構造を全て把握していただく必要があります』
「ああ。しかし複雑だろう。古代文明を何も知らない俺で大丈夫なのか」
『ひとつひとつ理解してください。ワタシも精一杯分かりやすくお伝えします』
布団を全て退けたベッドの上に、サスリカが仰向けになっている。ベッドの隣にテーブルがあり、先程買ってきた工具がいくつか置かれている。
サスリカは、衣服を全て脱いでいた。人形とは思えない、温もりすら感じられる女性の柔肌が露になっていた。まだ少女であるから、クリューの琴線には触れなかったが。見る者が見れば非常に性的に映ったことだろう。それほど正確に『人体』の形を成していた。
『ワタシの身体に、ネジや釘など「弛みやすい」モノはありません。確かめていただきたいのは金属の劣化です。まず、今からお伝えする手順でワタシを「開いて」ください』
「ああ。頼む。痛くしてしまったらすまない」
『……痛みは、ありませんよ。ますたー』
ロボット、というものを。この世界の人々は知らない。言葉を話して人の形をしていれば、当然に痛みもあるだろうと考えるクリューは自然である。
何かひとつ失敗してしまえば取り返しがつかないかもしれない。クリューは最大限の注意を払いながら、慎重に作業を行っていく。
「……小さいが、穴が空いているぞ。湿っているな」
『ハイ。やはり「水漏れ」がありましたか。穴を塞ぎたいです。鉄板をいくつかの大きさで購入しました』
「これか。だがどうやって固定するのだ」
『原始的ですが。熱で溶かして固定し、冷やして固めます。火は、蝋燭しかありませんから温度が足りるか不安ですが』
「いや待て。確か火を出す『トレジャー』があるとリディが言っていた。同じ古代文明の道具なら使えないか?」
『……それ、欲しいです。きっと使えます』
当然だが、至る所でガタがきていた。だが全てを完璧には直せない。技師は居ないのだ。クリューの協力があろうと彼も素人以下。しかもサスリカ自身の意識を保ったままの作業しかできない為、重要な回路には手も出せない。自分には『寿命』があると、サスリカは自覚した。恐らくは、もう何年も稼働し続けることは不可能だろうと。1万年の時の流れには逆らえない。今動けているのか奇跡なのだと。
「ご友人様。お食事のご用意ができました」
「そうですか。感謝します」
「いえ。リディ様のご命令ですので。旦那様もお待ちですよ。勇敢なトレジャーハンター様のお話を是非聞きたいと」
「……ふむ。行こうかサスリカ。どんな高級な『水』が出てくるだろう」
『ハイ。ますたー。ありがとうございました』
「治療ではなく応急処置に過ぎないのだろう? 無理はするなよ」
ひと通りの説明と応急処置を終えた頃に、メイドが呼びに来た。サスリカには水のみで良いことは伝わっているらしく、食事はクリューとオルヴァリオの分が用意されていた。
広い会食場に、あのハッシュバルトも座っていた。その隣に、大柄で中年太りの男性。
妙な形の髭をした、ハッシュバルトと同じような余裕の笑みを浮かべる男性が座っていた。
「やあようこそ。私がハクラー子爵だ。リディが友人を招くのは初めてだ。歓迎しよう」
「……こちらこそ。ありがとうございます」
クリューとサスリカが到着する時には、既にオルヴァリオとリディも席に着いていた。用意された席に、ふたりも座る。
「さあ食べようじゃないか。リディの帰宅祝いでもある。さあさあ」
「……いただきます」
「じゃ、遠慮なく」
用意されていた料理は、クリューやオルヴァリオも食べたことの無いような高級料理だった。オルヴァリオなどはもうつつき始めている。ラビア人の彼らが普段食べない、ルクシルアの高級料理だからだ。バルセスでは猛獣の肉をそのまま焼いたようなものしか食べていない。
「美味い! これはなんだ? 魚か? ルクシルアは海に面してない筈だが」
「川魚だろうな。確かに美味だ。この味付けは初めてだな。何のソースだろうか」
「ほう! 分かるかね。ルクシルアの名物、カラコラをソイソースで煮込んだものだ。ソイビーンズという植物から作られた珍しいソースなんだ」
「……ちょっと良いかしら」
「?」
そんな会話を、遮って。リディが口を開いた。
「あたし、今度こそ家を出るわ。もう帰ってこないから」
「!」
「ああ。しかし複雑だろう。古代文明を何も知らない俺で大丈夫なのか」
『ひとつひとつ理解してください。ワタシも精一杯分かりやすくお伝えします』
布団を全て退けたベッドの上に、サスリカが仰向けになっている。ベッドの隣にテーブルがあり、先程買ってきた工具がいくつか置かれている。
サスリカは、衣服を全て脱いでいた。人形とは思えない、温もりすら感じられる女性の柔肌が露になっていた。まだ少女であるから、クリューの琴線には触れなかったが。見る者が見れば非常に性的に映ったことだろう。それほど正確に『人体』の形を成していた。
『ワタシの身体に、ネジや釘など「弛みやすい」モノはありません。確かめていただきたいのは金属の劣化です。まず、今からお伝えする手順でワタシを「開いて」ください』
「ああ。頼む。痛くしてしまったらすまない」
『……痛みは、ありませんよ。ますたー』
ロボット、というものを。この世界の人々は知らない。言葉を話して人の形をしていれば、当然に痛みもあるだろうと考えるクリューは自然である。
何かひとつ失敗してしまえば取り返しがつかないかもしれない。クリューは最大限の注意を払いながら、慎重に作業を行っていく。
「……小さいが、穴が空いているぞ。湿っているな」
『ハイ。やはり「水漏れ」がありましたか。穴を塞ぎたいです。鉄板をいくつかの大きさで購入しました』
「これか。だがどうやって固定するのだ」
『原始的ですが。熱で溶かして固定し、冷やして固めます。火は、蝋燭しかありませんから温度が足りるか不安ですが』
「いや待て。確か火を出す『トレジャー』があるとリディが言っていた。同じ古代文明の道具なら使えないか?」
『……それ、欲しいです。きっと使えます』
当然だが、至る所でガタがきていた。だが全てを完璧には直せない。技師は居ないのだ。クリューの協力があろうと彼も素人以下。しかもサスリカ自身の意識を保ったままの作業しかできない為、重要な回路には手も出せない。自分には『寿命』があると、サスリカは自覚した。恐らくは、もう何年も稼働し続けることは不可能だろうと。1万年の時の流れには逆らえない。今動けているのか奇跡なのだと。
「ご友人様。お食事のご用意ができました」
「そうですか。感謝します」
「いえ。リディ様のご命令ですので。旦那様もお待ちですよ。勇敢なトレジャーハンター様のお話を是非聞きたいと」
「……ふむ。行こうかサスリカ。どんな高級な『水』が出てくるだろう」
『ハイ。ますたー。ありがとうございました』
「治療ではなく応急処置に過ぎないのだろう? 無理はするなよ」
ひと通りの説明と応急処置を終えた頃に、メイドが呼びに来た。サスリカには水のみで良いことは伝わっているらしく、食事はクリューとオルヴァリオの分が用意されていた。
広い会食場に、あのハッシュバルトも座っていた。その隣に、大柄で中年太りの男性。
妙な形の髭をした、ハッシュバルトと同じような余裕の笑みを浮かべる男性が座っていた。
「やあようこそ。私がハクラー子爵だ。リディが友人を招くのは初めてだ。歓迎しよう」
「……こちらこそ。ありがとうございます」
クリューとサスリカが到着する時には、既にオルヴァリオとリディも席に着いていた。用意された席に、ふたりも座る。
「さあ食べようじゃないか。リディの帰宅祝いでもある。さあさあ」
「……いただきます」
「じゃ、遠慮なく」
用意されていた料理は、クリューやオルヴァリオも食べたことの無いような高級料理だった。オルヴァリオなどはもうつつき始めている。ラビア人の彼らが普段食べない、ルクシルアの高級料理だからだ。バルセスでは猛獣の肉をそのまま焼いたようなものしか食べていない。
「美味い! これはなんだ? 魚か? ルクシルアは海に面してない筈だが」
「川魚だろうな。確かに美味だ。この味付けは初めてだな。何のソースだろうか」
「ほう! 分かるかね。ルクシルアの名物、カラコラをソイソースで煮込んだものだ。ソイビーンズという植物から作られた珍しいソースなんだ」
「……ちょっと良いかしら」
「?」
そんな会話を、遮って。リディが口を開いた。
「あたし、今度こそ家を出るわ。もう帰ってこないから」
「!」
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