GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

文字の大きさ
66 / 99

第66話 情報戦の基礎知識

しおりを挟む
「速攻です」

 サーガが最初に口を開いた。一同は次の言葉を待つ。

「こちらへ来た敵兵は、マルさんが全員始末しました。『オルヴァリオさんが裏切りの裏切りをした』と知られる前に、突撃を仕掛けるべきです」
「そうだな。確かに今しかねえ」

 エフィリスも同意した。クリューとリディも頷く。

「ど、どういうこと? 今まで慎重にやってきたのに」
「ああ。説明しよう」

 マルがまた控えめに挙手をした。そしてまた、クリューが説明する。

「この前話したことの、延長線だ。オルヴァの裏切りによってこちらの情報が相手に筒抜けなのは非常に不利で危険。だが今はチャンスなんだ。何故ならオルヴァが、もう一度裏切ってこちらに帰ってきたからな」
「……ネヴァンの情報が、わたし達にも筒抜け?」
「その通り。今、ネヴァンはオルヴァがこちらに付いたことを知らない。さらに場所も知られた。知られたことも知らない。……だが、時間が経てば気付かれる。その前に、速攻を仕掛けて一気に勝負を決めるんだ」
「うん。分かったわ。ありがとう」

 このような情報戦は、太古の昔から、いつの時代でも行われてきた。たったひとりの裏切りで、一気に形勢は逆転する。そして敗者は、負けるその時までそれに気付かない。

「……前から思ってたがよ。『それ』、ラビアの教育なのか? 随分と実戦的だ」

 そして、『情報が重要』だと知らなければそもそも話にならない。何の教育もなく気付く者は稀である。多くのトレジャーハンターには教養が無い。彼らはハンターであり、軍人ではないのだ。だが、クリューとオルヴァリオ、そしてリディは。

「ラビア王国が平和なのは、国民が『戦争』を理解しているからだ。……よく言われる言葉でな。まあ確かに、教育レベルは他国と比べて高いかもしれん」

 本来ならトレジャーハンターなどしなくても良い階級で育ったからこそ、最初から『対組織戦』の基本知識が身に付いていた。

「サーガも、俺達より教養がありそうだが。罠や仕掛け、毒の知識は少なくとも俺には無い」
「私のは独学ですからねえ。貴方がたより長く生きていますので、それだけですよ。そしてそれも、エヴァルタさんには遠く及びません」
「えっ」

 不意に、名を呼ばれたエヴァルタがぽかんと口を開けた。

「……うーんと。私はもう引退してるからさ。何も盗まれてないし、ここも守ってもらったし。便利そうだから罠は残しておこうかなって。撤去にも時間掛かるでしょ? 速攻ならもう、明日には出ないとね、皆」
「……それは助かる。サーガのやつ調子に乗ってあらゆる箇所に仕掛けまくってるからな」
「一番ノリノリだったのはエフィリスです」
「ぬぐっ……」

 結局、護衛の依頼は完遂となった。エヴァルタの所有する、ネヴァン信仰の『白い杖』も奪われなかった。今回は完全勝利と言える。

「でも、友達の特級ハンター達は結構やられてるからね。国や美術館じゃなくて、自分で管理しとけばよかったって嘆いてる手紙が来るよ」
「……へぇ。俺みたいに自ら立ち上がる奴は居ないのか」
「まあ、特級ハンターって暇じゃないしね。既にハントし終わったトレジャーだし、相手は誰も捕まえられないネヴァン商会だし。結局は警察に任せるしかないよね」
「ヘタレだな。俺ァ俺自身で奴らを突き止めねぇと気が済まねえ。ありゃ『俺の』トレジャーだ!」

 エフィリスが立ち上がった。拳を突き出す。瞳には炎が見えた。

「…………良いこと考えたぜ。サーガ! 手配してくれ!」
「?」
「はいはい。また悪巧みですね」

 瞳を燃やしたまま。エフィリスとサーガの口角が上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷結の夜明けの果て (R16)

ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン) よくある異世界転生? 使い古されたテンプレート? ――そうかもしれない。 だが、これはダークファンタジーだ。 恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも―― まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。 穏やかな始まり。ほのかな優しさ。 だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。 その時が来れば、闇は牙を剥く。 あらすじ 失われた魂――影に見つめられながら。 だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか? 異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。 生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。 ――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。 冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、 彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。 だが、栄光へと近づく一歩ごとに、 痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。 光の道を歩んでいるかのように見えて―― その背後で、影は静かに育ち続けていた。 ――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。 🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。 🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。 🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。 ヴェイルは進む。 その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。 それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

処理中です...