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第8話「王都サダルスウド」
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「ユミト・レイピアの倅」
「!」
街を出るとき、宿の入り口でアルファがシャムシール翁に呼び止められた。翁はリリーが連れてきて椅子に座っている。怪我は良くなっているようだ。
「パトリックは時代に殺されたのだ」
「……?」
「お前には『星海の姫』が居る。お前は敗けるな」
だが、その顔も声も、目付きさえしわくちゃになってしまっていた。
アルファは初め翁が言っている事が理解出来なかったが、敗けるな、の部分だけは解った。
「勿論」
そう答えた。
☆
それから、ジャアの街を出て約1ヶ月が経った。
道程は出来るだけ最短に、街の滞在も最小限に抑え、戦闘も出来るだけ避けた。
それでも1ヶ月。
予定より大幅に遅れてしまった。
「見えますか?」
アニータがアルファへ訊ねる。現在彼らはとある山中に身を潜めていた。
「そうですね……。ここから見て西側が王宮で、東側が……敵陣でしょうか」
木に登るアルファは遠くに見える建物や陣営を確認する。
アクアリウスの王都サダルスウドは四方を山々に囲まれる盆地になっている。彼らが今居る山からは王都周辺がよく見えるのだ。
アルファはそれから空を見る。
「そろそろ日が暮れますね。急げば着きそうですけど」
「ええ。このまま速やかに王宮へ向かいます」
アルファは木から降りて木屑を払う。アニータは地図を確認し歩き始めた。
「この辺りで王宮からの使者と落ち合う予定です。姫様は?」
「ステラ様は先程から……」
☆
王都を囲む山々には沢山の川が流れている。
それらは全て王都へ流れる。サダルスウドは水と緑の都なのだ。
「…………」
ステラは眼前に王都を見据えながら、この1ヶ月の旅を思い出していた。
本来なら年に一度しか訪れる事の無い王宮。何故こんな時期にここに居るのか。それを思い返していた。
☆
「では幹部会を始めます。何か議題はありますか?」
ジャアの街を出た川の畔でアニータがふたりを集めた。
まずアルファが手を挙げた。
「はいアルファ殿」
「……幹部会、とは?」
戸惑った様子のアルファ。アニータの表情は真剣である。
「会議をすると旅の初めに言ったではありませんか」
「……なるほど」
「……ねえ」
続いてステラが口を開けた。その表情はやや暗い。
「発言は手を挙げてください」
「……」
「はい、ステラ様」
「……どうして私は王都へ行かないといけないの?」
「……何故そう思ったのですか?」
「……」
ステラは少し考える。
「……アニータはずっと急いでた。早く王都に、速く王宮にって。よく考えたら敵は王都へ向かっていて危険なのに、なんで私は行かなきゃいけないんだろうって、思ったの」
「ふむ」
「そもそも、還御ってなんなの?」
ステラは真っ直ぐアニータを見た。アニータはアルファと目を合わせてからステラへ向き直る。
「王都サダルスウドには『宝瓶宮アクエリアス』があります」
「お父様の居る王宮でしょ?」
「そこには国宝と呼ばれる水があるのです」
「水?」
アルファが訊ねた。
「ええ。アルファ殿も『水将候補』ならば知っておいてください。この国が世界で『宝瓶』と呼ばれる理由を」
☆
「姫様」
「わっ。びっくりした。……アルファ」
ステラは気付けば考え込んでいた。声をかけられ、はっとして振り向く。
「今、王宮の使者が来ました。行こう」
「うん」
ステラの言葉数は少なかった。
☆
「状況は?」
アニータが使者へ訊ねる。4人はやや急ぎ足で山を降りている。
「良くはありません。現在は硬直状態ですが、敵の兵力だといつ攻め込まれてもおかしくはありません」
「敵の兵力は?」
「12万。まだ増えるでしょう」
「……」
使者は淡々と絶望的な状況を挙げていく。
「もう少しで南西の門に出ます。が、敵が使用している門なので西門まで回り込みます」
「了解」
その後ろで、ステラは浮かない顔をしていた。
「ねえアルファ」
「ん?」
「私が行った所で、何か出来る事はあるのかな……」
「……姫様は家族が心配じゃないのか?」
「え……」
「!待ったっ」
ステラの思考が止まった、と同時にアルファが皆に待ったをかけた。そして木の陰に隠れるように指示をする。
ステラは一瞬動きが止まったがアルファが手を引いた。
「……ネヴァン商会だ」
4人は馬車道のある辺りまで下山していた。それを茂みから覗く。
☆
黒衣を纏う男はひとりでここまで歩いてきた様子だった。
「やあやあ。お疲れ様」
「これは協力者殿!お待ちしておりましたぞ」
この馬車道は南西の門へと続いている。その途中で甲冑兵が迎えに来たのだろう。
「って言っても、俺要るかな?」
「勿論!協力者殿と『火器』は城攻めの要です!」
「フギンとムニンはもう着いてるんだよね」
「ええ。おふたりとも3日前に。それと……コルヴォ殿の事ですが」
「ああ……なんかやられたらしいね」
「その……誠に残念で」
「いいよ別に気を使わなくても。敵の『水装』が進化している事は知ってる」
「はあ……」
「どうせムニンが泣き出したんだろ。あいつコルヴォに懐いてたからな」
「……はい」
「放っといていいよ。俺はカハ。以後よろしく」
「はっ!」
☆
黒衣の男と甲冑兵が去り、4人は馬車道へ出る。
アニータは使者へ訊ねた。
「……黒衣の男……ネヴァン商会は今王都に集まっているのでしょうか」
「はい。『火器』持ちの者は現在敵陣にふたり確認しております。……先程の者を含めて3人」
「……『火器』」
アルファが呟いた。
「ネヴァン商会の者が持つ謎の武器の名です。それひとつで戦況を左右する恐ろしい兵器です」
「……まるで50年前の『水装』発明時のようですね」
「未だ『火器』持ちを仕留めた報告はありません。我々と敵の間には絶望的に戦力差があります」
「……じゃどうするんですか?」
「女王陛下には何かお考えがあるようで。それに、こちらには『水将』様が居ります。さあ、急ぎましょう」
☆
4人は王宮へ急ぐ。彼らの向かう先には夕陽に照らされた真っ赤な『宝瓶宮』がある。
ーーその夕陽が西の彼方に沈んだ時だった。
「…………?」
始めに気が付いたのはステラだった。
「……火?」
ステラのその言葉と同時に、眼下に見える王都から悲鳴や絶叫が聞こえてきたのだ。
『ネヴァン商会』率いる甲冑の軍に攻め込まれ、各地の敗戦の報せが飛び交った時から、王都一帯の盆地が戦場になることは予想された。
王都に住む市民には避難勧告が出され、今日から7日前までには避難は完了している。
だが現在の王政の方針として、王府からの勧告の強制力はあまり強くない。個人が各々の事情と状況を判断し避難する。
勿論王都から動けない者も居る。高齢者や病人、妊婦等は簡単に山を越えられない。
中には自分の屋敷に家族で籠る者も居る。
記者団等は仕事で残るだろう。
国に仕える『水装士』の家族にも、残る者も居るだろう。
避難が完了したとは言え王都にはまだ市民は一定数残っていた。
彼らは出来るだけ街の端に移動したり、頑丈な屋敷を持ち市民を招き入れたりして可能な限りの自衛はしている。
アクアリウスと『ネヴァン商会』の膠着状態が始まって3日。
『商会』側は……王宮からのアプローチが無い事に対して、まず街へ火を放った。
街に残った市民を標的にしたのだ。
☆
「あああぁぁぁああ!!痛ええええ!」
血だらけで、地面をのたうち回る男性。その脇をひとりの少女がしゃがんで見ていた。
「あああーー!!」
「うるさい」
「……!!」
少女は黒衣のローブを纏い、フードを深く被っている。
そしてその手には男性に止めを刺した小さな『火器』が握られていた。
「……ぐすっ」
少女は泣いていた。彼女の名はムニン。
立ち上がったムニンの前に、ひとりの青年が現れた。
「まだ泣いてんのか」
彼も黒衣を纏っている。
「うるさい」
「ま、死ななけりゃなんでもいい。そろそろ王宮から兵が出てくる。お前も迎撃に当たれムニン」
「……了解」
ムニンはぶかぶかの袖で涙を拭い、ローブの端を引き摺らせながら王宮の方へ向かっていった。
☆
街は火の海だった。人の居ない家からどんどん燃えていき、やがて端に避難している市民が炙り出される。そうして出てきた市民を甲冑兵と黒衣の者達が次々と襲っていく。
「ーー……!!!」
都に入りその光景を見たアルファは怒り、長剣を抜く。
そして甲冑兵へ躍りかかる瞬間に……それはアニータに止められた。
「離してください!奴等、俺達の街にした事と同じ……!!」
アルファはアニータの手を振りほどこうとする。だがアニータは離さなかった。
「今ここで何を優先すべきですか!アルファ殿!」
「!」
アルファの動きが止まった一瞬を見逃さず、アニータはアルファを引っ張り家の陰に隠れた。
使者とステラも続く。
「敵が仕掛けてきた以上、こちらも黙っては居ないでしょう。しかし、街の平和は街の『水装士』が守るのです。アルファ殿が護るべきは街ではなく」
「姫様、引いてはアクアリウス」
「アルファ殿」
アルファはすでに落ち着いていた。
「もう大丈夫です。ただ、1ヶ月前の事を思い出しただけです。行きましょう」
「…………」
アニータは妙に落ち着いた様子のアルファに少し違和感を覚えたが、非常時であるため深くは考えず、王宮へ向かう事にした。
☆
一行は裏路地を行き、敵に見付からないように進む。
今は一刻も早くステラを王宮へ送り届ける事が最優先事項である。
しかし、当のステラは恐怖していた。
「……ぅ……」
燃える民家、逃げ惑う市民、飛び交う血、転がる死体。
王宮から出てきた『水装士』達も参加し本格的に戦場となった王都サダルスウドは、『森の泉の街』で起きた出来事をステラに思い出させた。
この旅で幾度とアルファの戦いは見てきている。敵を殺す場面も、彼が傷つく場面も。
しかし、ステラはまだ10歳だ。もっと小さければ何も分からなかったろうが、記憶にトラウマとして残るタイミングとして最悪の状況だった。
「うわあぁぁぁぁん!」
ステラは大声で泣き出した。
「!」
街を出るとき、宿の入り口でアルファがシャムシール翁に呼び止められた。翁はリリーが連れてきて椅子に座っている。怪我は良くなっているようだ。
「パトリックは時代に殺されたのだ」
「……?」
「お前には『星海の姫』が居る。お前は敗けるな」
だが、その顔も声も、目付きさえしわくちゃになってしまっていた。
アルファは初め翁が言っている事が理解出来なかったが、敗けるな、の部分だけは解った。
「勿論」
そう答えた。
☆
それから、ジャアの街を出て約1ヶ月が経った。
道程は出来るだけ最短に、街の滞在も最小限に抑え、戦闘も出来るだけ避けた。
それでも1ヶ月。
予定より大幅に遅れてしまった。
「見えますか?」
アニータがアルファへ訊ねる。現在彼らはとある山中に身を潜めていた。
「そうですね……。ここから見て西側が王宮で、東側が……敵陣でしょうか」
木に登るアルファは遠くに見える建物や陣営を確認する。
アクアリウスの王都サダルスウドは四方を山々に囲まれる盆地になっている。彼らが今居る山からは王都周辺がよく見えるのだ。
アルファはそれから空を見る。
「そろそろ日が暮れますね。急げば着きそうですけど」
「ええ。このまま速やかに王宮へ向かいます」
アルファは木から降りて木屑を払う。アニータは地図を確認し歩き始めた。
「この辺りで王宮からの使者と落ち合う予定です。姫様は?」
「ステラ様は先程から……」
☆
王都を囲む山々には沢山の川が流れている。
それらは全て王都へ流れる。サダルスウドは水と緑の都なのだ。
「…………」
ステラは眼前に王都を見据えながら、この1ヶ月の旅を思い出していた。
本来なら年に一度しか訪れる事の無い王宮。何故こんな時期にここに居るのか。それを思い返していた。
☆
「では幹部会を始めます。何か議題はありますか?」
ジャアの街を出た川の畔でアニータがふたりを集めた。
まずアルファが手を挙げた。
「はいアルファ殿」
「……幹部会、とは?」
戸惑った様子のアルファ。アニータの表情は真剣である。
「会議をすると旅の初めに言ったではありませんか」
「……なるほど」
「……ねえ」
続いてステラが口を開けた。その表情はやや暗い。
「発言は手を挙げてください」
「……」
「はい、ステラ様」
「……どうして私は王都へ行かないといけないの?」
「……何故そう思ったのですか?」
「……」
ステラは少し考える。
「……アニータはずっと急いでた。早く王都に、速く王宮にって。よく考えたら敵は王都へ向かっていて危険なのに、なんで私は行かなきゃいけないんだろうって、思ったの」
「ふむ」
「そもそも、還御ってなんなの?」
ステラは真っ直ぐアニータを見た。アニータはアルファと目を合わせてからステラへ向き直る。
「王都サダルスウドには『宝瓶宮アクエリアス』があります」
「お父様の居る王宮でしょ?」
「そこには国宝と呼ばれる水があるのです」
「水?」
アルファが訊ねた。
「ええ。アルファ殿も『水将候補』ならば知っておいてください。この国が世界で『宝瓶』と呼ばれる理由を」
☆
「姫様」
「わっ。びっくりした。……アルファ」
ステラは気付けば考え込んでいた。声をかけられ、はっとして振り向く。
「今、王宮の使者が来ました。行こう」
「うん」
ステラの言葉数は少なかった。
☆
「状況は?」
アニータが使者へ訊ねる。4人はやや急ぎ足で山を降りている。
「良くはありません。現在は硬直状態ですが、敵の兵力だといつ攻め込まれてもおかしくはありません」
「敵の兵力は?」
「12万。まだ増えるでしょう」
「……」
使者は淡々と絶望的な状況を挙げていく。
「もう少しで南西の門に出ます。が、敵が使用している門なので西門まで回り込みます」
「了解」
その後ろで、ステラは浮かない顔をしていた。
「ねえアルファ」
「ん?」
「私が行った所で、何か出来る事はあるのかな……」
「……姫様は家族が心配じゃないのか?」
「え……」
「!待ったっ」
ステラの思考が止まった、と同時にアルファが皆に待ったをかけた。そして木の陰に隠れるように指示をする。
ステラは一瞬動きが止まったがアルファが手を引いた。
「……ネヴァン商会だ」
4人は馬車道のある辺りまで下山していた。それを茂みから覗く。
☆
黒衣を纏う男はひとりでここまで歩いてきた様子だった。
「やあやあ。お疲れ様」
「これは協力者殿!お待ちしておりましたぞ」
この馬車道は南西の門へと続いている。その途中で甲冑兵が迎えに来たのだろう。
「って言っても、俺要るかな?」
「勿論!協力者殿と『火器』は城攻めの要です!」
「フギンとムニンはもう着いてるんだよね」
「ええ。おふたりとも3日前に。それと……コルヴォ殿の事ですが」
「ああ……なんかやられたらしいね」
「その……誠に残念で」
「いいよ別に気を使わなくても。敵の『水装』が進化している事は知ってる」
「はあ……」
「どうせムニンが泣き出したんだろ。あいつコルヴォに懐いてたからな」
「……はい」
「放っといていいよ。俺はカハ。以後よろしく」
「はっ!」
☆
黒衣の男と甲冑兵が去り、4人は馬車道へ出る。
アニータは使者へ訊ねた。
「……黒衣の男……ネヴァン商会は今王都に集まっているのでしょうか」
「はい。『火器』持ちの者は現在敵陣にふたり確認しております。……先程の者を含めて3人」
「……『火器』」
アルファが呟いた。
「ネヴァン商会の者が持つ謎の武器の名です。それひとつで戦況を左右する恐ろしい兵器です」
「……まるで50年前の『水装』発明時のようですね」
「未だ『火器』持ちを仕留めた報告はありません。我々と敵の間には絶望的に戦力差があります」
「……じゃどうするんですか?」
「女王陛下には何かお考えがあるようで。それに、こちらには『水将』様が居ります。さあ、急ぎましょう」
☆
4人は王宮へ急ぐ。彼らの向かう先には夕陽に照らされた真っ赤な『宝瓶宮』がある。
ーーその夕陽が西の彼方に沈んだ時だった。
「…………?」
始めに気が付いたのはステラだった。
「……火?」
ステラのその言葉と同時に、眼下に見える王都から悲鳴や絶叫が聞こえてきたのだ。
『ネヴァン商会』率いる甲冑の軍に攻め込まれ、各地の敗戦の報せが飛び交った時から、王都一帯の盆地が戦場になることは予想された。
王都に住む市民には避難勧告が出され、今日から7日前までには避難は完了している。
だが現在の王政の方針として、王府からの勧告の強制力はあまり強くない。個人が各々の事情と状況を判断し避難する。
勿論王都から動けない者も居る。高齢者や病人、妊婦等は簡単に山を越えられない。
中には自分の屋敷に家族で籠る者も居る。
記者団等は仕事で残るだろう。
国に仕える『水装士』の家族にも、残る者も居るだろう。
避難が完了したとは言え王都にはまだ市民は一定数残っていた。
彼らは出来るだけ街の端に移動したり、頑丈な屋敷を持ち市民を招き入れたりして可能な限りの自衛はしている。
アクアリウスと『ネヴァン商会』の膠着状態が始まって3日。
『商会』側は……王宮からのアプローチが無い事に対して、まず街へ火を放った。
街に残った市民を標的にしたのだ。
☆
「あああぁぁぁああ!!痛ええええ!」
血だらけで、地面をのたうち回る男性。その脇をひとりの少女がしゃがんで見ていた。
「あああーー!!」
「うるさい」
「……!!」
少女は黒衣のローブを纏い、フードを深く被っている。
そしてその手には男性に止めを刺した小さな『火器』が握られていた。
「……ぐすっ」
少女は泣いていた。彼女の名はムニン。
立ち上がったムニンの前に、ひとりの青年が現れた。
「まだ泣いてんのか」
彼も黒衣を纏っている。
「うるさい」
「ま、死ななけりゃなんでもいい。そろそろ王宮から兵が出てくる。お前も迎撃に当たれムニン」
「……了解」
ムニンはぶかぶかの袖で涙を拭い、ローブの端を引き摺らせながら王宮の方へ向かっていった。
☆
街は火の海だった。人の居ない家からどんどん燃えていき、やがて端に避難している市民が炙り出される。そうして出てきた市民を甲冑兵と黒衣の者達が次々と襲っていく。
「ーー……!!!」
都に入りその光景を見たアルファは怒り、長剣を抜く。
そして甲冑兵へ躍りかかる瞬間に……それはアニータに止められた。
「離してください!奴等、俺達の街にした事と同じ……!!」
アルファはアニータの手を振りほどこうとする。だがアニータは離さなかった。
「今ここで何を優先すべきですか!アルファ殿!」
「!」
アルファの動きが止まった一瞬を見逃さず、アニータはアルファを引っ張り家の陰に隠れた。
使者とステラも続く。
「敵が仕掛けてきた以上、こちらも黙っては居ないでしょう。しかし、街の平和は街の『水装士』が守るのです。アルファ殿が護るべきは街ではなく」
「姫様、引いてはアクアリウス」
「アルファ殿」
アルファはすでに落ち着いていた。
「もう大丈夫です。ただ、1ヶ月前の事を思い出しただけです。行きましょう」
「…………」
アニータは妙に落ち着いた様子のアルファに少し違和感を覚えたが、非常時であるため深くは考えず、王宮へ向かう事にした。
☆
一行は裏路地を行き、敵に見付からないように進む。
今は一刻も早くステラを王宮へ送り届ける事が最優先事項である。
しかし、当のステラは恐怖していた。
「……ぅ……」
燃える民家、逃げ惑う市民、飛び交う血、転がる死体。
王宮から出てきた『水装士』達も参加し本格的に戦場となった王都サダルスウドは、『森の泉の街』で起きた出来事をステラに思い出させた。
この旅で幾度とアルファの戦いは見てきている。敵を殺す場面も、彼が傷つく場面も。
しかし、ステラはまだ10歳だ。もっと小さければ何も分からなかったろうが、記憶にトラウマとして残るタイミングとして最悪の状況だった。
「うわあぁぁぁぁん!」
ステラは大声で泣き出した。
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