逆転のレヴラデウス

弓チョコ

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結 逆転のレヴラデウス

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「目的は何だ? 和平か? 独立か? 魔物狩りをやめさせることか?」
「違う」

 パレードの後。兄妹は、王の宮殿へ招かれた。かつての魔王城を再建し、改築した巨大で最高級の宮殿である。

「世界に大陸はふたつある。それぞれの『神』が眠る陸地を主とし、『相互不可侵』だ。白き獣の眠る大陸から引き上げ、黒き民は全員この大陸で暮らして欲しい」
「無理だな」

 デウスの提案を、王は一蹴した。

「今、人間——お前達の言う『黒き民』がどれほど居ると思う? 我々はただ徒に侵略するためだけに、そちらの大陸へ進出した訳ではない。数が増えたからだ。もうこの大陸だけでは、住む場所も食べる物の生産も追い付かない」
「ならせめて、神殿の周りのいくらの土地を白き民に与えてくれ」
「無理だな。あの辺りは最早、国が違う」
「?」

 人間が増えすぎたということを、兄妹は真に理解できていなかった。

「知らないのか? 『王』は最早我だけではない。我の元より独立した『小国』は既に無数に存在している。お前達が神殿周辺の土地を欲しいのなら、その土地を所有している国の王へ陳情するべきだ」
「…………なんだと」

 デウスは固まってしまった。これではもう、収拾が付かないのではないか。『救世』など、夢のまた夢なのではないか。

「違うわ。王様」
「?」

 そこで。
 レヴラが前へ一歩、出た。

「『これ』は国とかなんとか、そんな小さな話では無いの。世界全体の話よ。だから一番大きな国の王様である貴方が、全ての国の元首を集めて協議しなければならない。だから、私達はまずここへ来て、貴方とコンタクトを取ったのよ」
「……ふむ」

 デウスは、理想を語る。レヴラが、現実的に考える。
 兄妹として『ふたり』で生まれたことは、様々なことに対して有効に作用していた。

「だが今、世は平和だ。小さな戦争や各地で内戦はあれど、概ねそう言って良い」
「ええ。旅の途中で見てきたわ」
「今から、2000年前の問題を掘り起こして、奴隷や狩猟対象の生物の権利を考えるなど。我々黒き民にメリットが無い。人権団体も無くは無いが、そんなものの声はたかが知れている。それで再度革命を起こしても、1000年前の二の舞だろう。今度は黒き民が恨みを募らせ、1000年後に生まれた魔王がお前達に牙を向ける」
「だから、提案しているのよ」
「ほう?」

 彼らの戦いは。
 言葉によるものだ。
 対談によるものだ。彼ら自身が、それを望んだ。
 知性のある生物なのだ。獣のように傷付け合い、殺し合うことはない。

「前提として。貴方は勘違いしているかもしれないけれど、私達は白き民じゃないし、黒き民でもない。どちらに肩入れもしないし、どちらも愛している。だけど今は白き民の声が小さすぎるから、代弁しているだけよ」
「ほう」
「だから、警告もする」
「警告だと?」

 王に威圧されず、臆さずに対面するレヴラ。
 魔物と呼ばれる見た目だが、こうも知性的なのだと王は感嘆する。

「私達兄妹が、白き民に付いて。白き獣の加護を使って本気で『抵抗』したならば。黒き民の国はいくつか滅亡するし、貴方の国にも甚大な被害を与えられるわ」
「……脅しか」
「いいえ。そんなことはしたくないわ。だから。『しないから』、白き民のことも考えてあげてと、お願いするのよ」
「…………」

 武力は、使うものではない。使えば被害が出るぞと、だからお前達も下手なことをするなと、『抑止』の為に持つものだ。
 理性的な王は、抑止について理解している。

「断れば?」
「さっき言った通りになるでしょうね」
「…………」

 王は、考える。やるメリットは無いが、やらなければデメリットが発生する。少なくとも対等な交渉にはなっている。レヴラの主張も筋が通っている。

「王よ」
「!」

 あとひと押し。レヴラではここまでだ。
 妹の交渉を見て硬直の解けたデウスが、口を開いた。

「白き民は弱く戦闘には向かないが、手先が器用で発想力がある。土地と人数と材料があれば、黒き民が思いもよらない便利な道具を沢山作れるんだ」
「……!」

 1000年前。その科学と加護を以て大いに繁栄した民族。通常では実力の劣る黒き民相手に無双の力を見せ付けていた民族。

「それを、黒き民達にも輸出するようにしよう。代わりに、狩猟や建築など力仕事を頼むかもしれない。俺達は力を合わせることで、もっと発展できる。もっと豊かになれるんだ」
「!!」

 やるメリットが。
 生まれた。

「……良いだろう。諸国に通達を出し、協議会を発足する」
「!!」

 王が頷いた。兄妹の表情はみるみる晴れ、お互いに顔を向き合わせて喜んだ。

——

——

 その後、兄妹は特別な役職を与えられ、王直属の『相談役』として王国での地位と家を与えられた。
 大陸を民族で分け、相互発展のための基盤を作る。その案をまずここで固めなければならない。協議会はまだ先の話だ。
 兄妹が旅の途中で見てきた各国の情勢、白き民の現状。いきなり民族移動などできはしない。段階に分け、徐々に進めていくしかない。
 問題や障害は、考えられるだけでも無数にある。必ず暴動が起きるだろう。国も動かさなくてはならない。それで白き民に恨みを持つようになる黒き民も必ず出てくる。
 白き民も、権利を与えられれば頭に乗って殺人や略奪などに走る者も現れるだろう。なるべくそうならないような法整備をきちんと行い、それを取り締まる警察力も必要になる。

 ひとつ、ひとつ。
 問題を解決する策を考える。軌道に乗り始めると、少しずつ、同盟国から情報を開示していく。少しずつ、賛同者を増やしていく。
 いきなり法、世界、秩序が変われば、人々は必ず混乱する。徐々に、少しずつ、浸透させていかなければならない。
 いきなり変われる方法があるとすれば、戦争による革命である。
 だが、その方法は使わない。後々に禍根が残るからだ。過去2回、それで失敗してきている。2000年前と、1000年前。世界の支配者が何度も逆転するほどの大事件が起こっている。

 それは、繰り返さない。

「1000年も経っていれば、当時の恨みをそのまま持つ当事者はもう生きてない。客観的に、戦争を判断できるのよ」
「だが現役で虐げられている白き民の中には、これを認めない『当事者』も居るだろう」
「根気よく話して、理解してもらうしかない。確かに感情的には『仲良く』は無理だろうけど。結局は自分達の為になるってことを分かってもらう」
「じゃあ、白き民への説得は兄さんにお願いするわね。私は黒き民への説得を」
「逆の方が良くないか? お前達の外見的に」
「…………確かに」

——

 話し合いは。計画は概ね順調だった。長い期間を経てしまったが。
 何度も衝突し、何度も戦争をしてしまったが。
 その度に兄妹が仲裁に入り、加護を使って争いを止めた。時には白き民へも叱責しながら、何度も何度もこの計画の有用性、必要性を説いた。

 白き民の寿命は50年程度だったが、黒き民の寿命は100年。その血を半分受け継ぎ、さらに生活環境や食生活も高水準であった為、兄妹も長生きをした。

 計画公開までに10年。
 主要諸国の賛成までに10年。
 その他小国の併合、戦争終結に10年。
 計画の練り直し、大詰めに10年。
 多方面への説得は常に行い。
 諸問題解決にさらに10年。
 合計50年。

 世界はひとつになろうとしており。
 残る懸念点は、ひとつ。

『何か用か。雑魚ども』
「……お前が『黒き獣』か」

 旧魔王城。宮殿の地下深く。そこで2000年間眠っている、黒き民達の『神』。
 この獣の了承を得なければ、復活した際に再び世界を混沌で包み、白き獣との戦争を再開させてしまう。

「貴方に話があって来たのよ」
『…………話だと?』

 自らを敗北へと追いやった種族に酷似した、レヴラを相手に。憎き敵の加護を受けたレヴラを相手に。
 黒き獣は、怒りに震えるような声を出す。その迫力で宮殿全体が震えているような感覚になる。

「ああ。白き獣との和解。若しくは相互不可侵。お前達が争えば、この世界の生物の被害がとても大きいんだ。復活しても、世界を壊さないで欲しい」
『なんだと……?』
「これは白き獣にも伝えてあるし、了承も得ている。……もう2000年だ。怒りも冷めてるんじゃないか?」
『…………』

 思い馳せる。2000年前を。争いの理由を。
 ……思い出せない。

『ふん。復活できんなら構わねえよ』
「! 本当か!」

 思い出すのは。
 白き獣の。
 優しい笑顔だった。

『まあてめえらが「上」で何してたか、ずっと見てたからな』
「ありがとう!」

 仲良く。
 できていたのかもしれない。
 兄妹を見て、そう感じた。





「——こうして、世界は少しずつ平和に向かっていき、そのまた50年後に、ようやく今の世界と同じ形になったんじゃ」
「ええー! 全然知らなかった!」
「ねえ、その時デウスとレヴラはー?」
「もう100歳を越えていたからねえ。既に死んでいたとも、世界条約締結時に喜びながら笑顔で亡くなったとも言われているよ」

 気付けば、もう陽が暮れようとしていた。老人やれやれと、ベンチから立ち上がる。

「話しすぎてしまったね。何人か寝てしまっているじゃないか」
「あはは! お婆ちゃんのお話、面白いけど長いから!」

 争いの絶えなかった世界を逆転させ、ふたつの相容れなかった民族を纏めた救世主。
 デウスとレヴラの名は、幾千年後も、こうして語り継がれるだろう。

「ねー! じゃあ神様は? 2匹の獣!」
「まだ復活はしていなんだよ」
「そうなの?」
「そろそろ、締結から1000年記念だね。そこで2柱とも復活なさると噂されているよ」
「えーと。じゃあ3100年振りだね!」
「そうそう。永かったねえ」

 坊やはポケットから小さな機械を取り出し。電卓代わりにして計算した。
 それを見て、老人は嬉しそうに笑っていた。
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