ネフィリム・エスカトロジー

弓チョコ

文字の大きさ
35 / 120
第3章:堕天島

第35話 悪魔の正体

しおりを挟む
 話は、これで解散となった。目的地に着いてからは忙しくなる。今は身体を休める時だ。

 船室は狭く小さく少ない。女性で纏めて5人突っ込まれた部屋からぎゃーぎゃーと声がする。文月は休めずに甲板へ出てしまった。

「…………」

 陽が暮れ始めていた。

「(……結局、俺は『何』の子なのか)」

 遠い昔に、『姉』が居た。
 どんな感情を抱いて良いのか分からない。その人は既に寿命で死んでいるのだ。自分が生まれる前に。

「やかましいだろ」
「!」

 船首の方に、『K』が居た。夕日で瞳が光っている。それをとても悪魔っぽいと、文月は思った。

「女ふたりでもかしましいんだ。ウチは」
「……いえ。こっちも子供が居ますので」

 座れよ、と円卓に促される。

「……これまでの人生、全く『こっち』に関わってこなかった感じだな」
「当たりです。……ここ最近は毎日驚きの連続ですよ」
「ははは」

 目の前に、悪魔がいる。だが不思議と嫌な気持ちは無い。

「『悪魔』って何ですか?」

 いい加減、『驚き』に慣れなければ。文月はそう考えていた。これが普通になるんだ。これからの彼の生活は。

「……これはお前んとこの説明になるが」
「?」

 『K』は優しい好青年だ。色々と教えてくれるのだ。
 まるで後輩を見ているような目で。

「『人』『人間』『人類』。この3つを、使い分けてる」
「…………?」
「『人類』ってのは、生物的な話だ。霊長類ヒト科って感じだな」
「はあ……」
「だから、俺もお前も、あの双子もざくろも、『人類』じゃねえ」
「!」

 人類を人類足らしめる要素。それは全身がすべて、『人類』である必要がある。学問とは別に、彼らの中の『分け方』として、そう表現する。

「『人間』てのは、『知能と人格』を認められる場合を言う。つまり俺もお前も双子もざくろも人間だ」
「…………なるほど……?」

 人間であること。それは『話し』『感じ』ていれば、大体当てはまる。動物と人間が分けられる差でもある。喋る鳥は知能がなく、賢い猿やイルカは喋られない。

「『人』はな……。『敬意』だ」
「敬意」
「俺やお前、双子は半分は人類だ。だがざくろは正真正銘、1%も『人類』じゃねえ。だが……お前があいつのことを今話すとすれば、『あの犬』とは言わねえだろ」
「……『あの人』と、言いますね」
「そうだ。『犬生』とは言わねえだろ。そんな単語はねえ。あっても造語だ。『犬の人生』『犬の一生』が正しい。違和感あるやつは居るだろうがな。『人』ってのは何も人間だけに使う言葉じゃねえ」
「……!」

 彼は。日本語が流暢なだけでなく。色々なことを知っている。
 150年生きているのだ。

「会話じゃ、俺らは『半分人間』て言うけどな。まあ知識程度だ。片隅にでも置いとけ」
「……はあ」

 この前提を置いて。
 初めの質問に戻る。

「人類は、3種類しかいねえ」
「えっ?」
「白黒黄色だ。あとはその組み合わせだろ」
「……はい」
「だが『人間』は、ホモ・サピエンスだけじゃねえってことだ」
「え」

 彼を見る。
 半分人間と言うが。どう見ても『白黒黄色』のどれにも該当しない。顔色の悪さではなく、真に青白い肌など。

「知ってるか? 人間の歴史は、戦争の歴史だ。他の種族を全て滅ぼして、ホモ・サピエンスが生き残った。支配権を勝ち取った。それからもまあ、同じ人間同士で戦争は絶えないがな。今も」
「……では、『悪魔』とはその戦争に負けた人間の生き残りですか?」
「…………そう呼ばれる奴もいる。そいつらは知能が低く、『下級悪魔』なんて呼ばれるな」
「下級……」

 魔術の存在。召喚という単語。そして宗教。
 説明が回りくどいのではない。ひとつひとつ段階を踏まなければ理解できないのだ。文月は、『何も知らない』のだから。

「『悪魔』は霊的な存在で、肉体を持たない。……聖書じゃそうなってる」
「はい。アルテから聞きました」
「その悪魔は、人を乗っ取り、肉体を得る。それが『召喚』だ。悪魔1体の召喚に、人ひとりを犠牲にする」
「!」

 霊。
 今さら驚きはしない。悪魔が居るのだ。幽霊も居るだろう。

「乗っ取られた肉体は、変質する。特に脳だ。意識を『世界のルール』に干渉させ、小規模に乱すことができる」
「……ルール?」
「空飛んだり、透視したり、呪ったりな。端から見りゃ『あり得ない』ことを起こす力を持つ。だからこそ馬鹿な人間に崇められ、調子に乗る訳だ」

 魔術のことだと分かった。引力や電気など。人類が『ルール』と呼ぶ世界の力を限定的に変更することができる力。それを人の手によって『術』として、学問として整理して確立させたのだ。

「世界とルールは『神』が創られた、ってのが聖書の教えだからな。それを乱す者は『悪魔』であり、乱す技は『魔術』と呼ばれた。人間のまま使う者は『魔女』だ」

 『それ』が悪魔であるのならば。

「じゃあ肉体的には、やっぱり人間なんじゃ」
「変質するっつったろ。子ができたのは『偶然』だ。悪魔の契約って分かるか? 『乱交』だぞ」
「!!」

 どきりとした。
 『K』は依然、表情を変えないが。さらりと言うが。
 そうだ。
 調べれば出てくる。昔のヨーロッパで言われていた悪魔の契約とは。『そういう』ことだった。

「まあ、子が出来るまでやってたって理由もあるらしいがな。普通、1度や2度、10度くらいじゃ子はできん。似ているがもう別の生物なんだ。……昔、オ◯バー君てのが居たろ」
「? なんですかそれ」
「知らねえなら良い。『異種族』で子なんか作ることはねえんだ。良い事は何もねえ。倫理的な問題もあるし、感情的に嫌だし、法整備が追い付かねえ。人と動物の子に『市民権』はあるか?」
「…………分かりません」
「そうだ。判断できねえ。そもそも片方の親に人権が認められねえんだ。届け出もできねえ。『ペット』は法的には『物』だからな」
「………………」

 何の、話をしていたのだったか。文月は混乱し始めていた。

「『悪魔』は、国際社会で認められてねえ。それこそ獣と同じだ。『人類じゃねえ』なら、それはもう『動物』なんだ」
「!」

 『K』は。
 悪魔についての詳細ではなく。悪魔を取り巻く世界を説明してくれていたのだ。

「だから、お前の母親は『凄え』んだ。いずれあの双子の父親とも会うんだろうが……。あいつらの間には確実に、種族を越えた『愛』があった。それは俺にも分かる。あの『愛』を貫く為なら、今の人間世界なんぞ余裕で敵に回せるんだろうな」
「…………母さん」

 人類とは別の人間。それがこの世界に存在している。
 歴史的背景、国際社会、倫理的、法的に認められずに『悪魔』と呼ばれる『人間』が。
 そう考えれば。『絶対悪』とは。知らぬ者が勝手に言っているだけなのかもしれない。

「……『K』さんは?」
「そういや、さん付けも敬語も要らねえよ。日本名は『足利黥』だ。ケイでいい」
「……分かった。ケイの親は?」
「言ったろ。拉致強姦の末の子だ。父親も屑だが母親も母親でイカれてた。『娘』欲しすぎて現実をねじ曲げて俺に『キャサリン』なんて名付けたくらいだからな」
「…………そう、なんだ」
「……なんだよ」
「いや、俺の目的が、『家族全員集合』でさ。やっぱり皆仲良くしたいなって」
「……はっ!」

 文月の言葉を、嬉しそうに鼻で笑った。

「縷架はどうすんだよ。確証はねえが恐らく姉だぜ」
「うん。それも悩んでた。全員は無理なのかなって。ていうかケイが150年生きてるんだから、どうにかならなかったのかな」
「……あいつはずっと死に場所を探してたんだよ。あれもあれで過酷な人生だったからな」
「…………そうなんだ」
「因みに長生きはしてた。死んだのも最近だ」
「えっ!」

 人の寿命は、今は80年程度だが。最高齢ならば120歳越えも記録にある。ならば『復元能力』のある者ならばもっと生きていても不思議ではない。
 最近死んだというのも、納得はできる。

「……まあその話は、また今度でいいだろ。お前の家族って何人居るんだ」
「えっと……。俺と、両親と、妹ふたりと、その父親で……6人?」
「親3人子3人てか。妹の父親はお前と関係ねえけど良いのか」
「そりゃ、俺と血の繋がった妹の父親だし。それに母さんの夫だし。家族だよ」
「そうか」
「……まあ、母さんと愛し合った男性がふたりっていうのは、なんかこう、複雑だけど……」
「だろうな。お疲れさん」

 既に、法からは外れている。この船に乗っている時点で『人の目』に触れていない。
 ならば真実は政府などから与えられるのではなく、自分達で選択するものだ。
 自分が人間かどうかすら、もはやどうでも良いのかもしれない。
 家族揃って、幸せであれば。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...