傷持つ姫と僕

ユウヒ シンジ

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第2章 始まりの出会い

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「シンジ、用意は良いな?」
「大丈夫だよ、父ちゃん!」

シンジの返事に頷くドアルドは、チラッとレアイアの方に視線を送る。
するとレアイアがその視線に気づくと無言で小さく頷く。

シンジの事は私が支援するから心配すんなと心の中でドアルドに返事をするレアイアだった。
それを判ったのか、ドアルドは視線の向きを変え、片手を大きく振り上げる。
それが合図だった。
突然、商隊の少し後方の林の中から、ヒュー、という音と共に火の玉が青い空に向けて上っていった。
それを合図に、林の中に潜んでいたシンジ達は一斉に飛びだし、商隊の馬車を囲んだ。

ヒッヒーン!!

馬車を引いていた馬が、突然人が現れたので驚きいななき興奮しだす。
御者はなんとか馬を宥めようと悪戦苦闘している間に、護衛の5人の冒険者に魔法や弓を向けて牽制する。
護衛達は突然の襲撃に為す術無く降参すると思われた時、奴隷を運ぶ車以外の二つの荷車から火の矢が飛びだし、護衛を牽制していたクルデの仲間達が次々と倒されていく。

「しまった!ダミーか!」

レアイアは飛んで来る火の矢を交わしながら叫ぶ。

「集結!体制を立て直す!」

レアイアの言葉でクルデの仲間達がドアルドのいる方に集結し、防御陣形をしく。
盾と、魔法障壁で火の矢を防ぐと相手の攻撃も一旦止まった。

相手の商隊も陣形を作り、馬車を盾にドアルド達の一団を牽制する。

「出ましたね、青の守り人達。我が商会の邪魔ばかりするのはやめてもらえませんかね?」

商隊の先頭車の中から、高そうな絹の服を着た少しと言うよりかなり膨よか体型のおっさんがニタニタと笑いながら降りて来た。

「お前が、ゴルゴン商会の会長、ブルダだな。」

クルデの族長、ドアルドが相手の名前を言い当てると、ブルダはホホホと余裕を出して笑う。

「知っておいでなら話は早いですね。このまま生きて帰れるとは思わない事ですね」

クルデ側は先ほどの奇襲で死人は出なかったものの、10人程負傷者が出てしまった為、まともに戦える者が9人となってしまっていた。
それにひきかえ相手は5人の護衛に荷車に潜んでいた8人と御者までが冒険者だった為、総勢17人となり、形勢は完全にブルダ側が有利だった。

「これは提案なんですがね、そちらに数人、結構綺麗な女性がおられるようなので、その方達を私に譲って頂けませんかね? 了承してもらえたら、他の男共は見逃してあげても良いんですけどね。どうです?」

嫌みったらしく笑いながら、レアイアを含めた女性を品定めするように見回してくるブルダ。

「な!何を言いやがる!この外道が! そんな取引出来る訳がないだろう!」

タイゾウが、馬鹿げた提案に激怒する。

「そうですか? 結構、奴隷も良いもんですよ。特に綺麗で戦える女性は、人気がありますからね。良い服も着せてもらえますし、食べ物だって今よりずっと良い食事ができるんじゃないですか? たまに、主人の快楽に付き合ってあげれば良いだけなんですからね、ホホホホ。」

「馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」

レアイアが自分たち女性を商品の様に考えている事に怒りが爆発する。

「まあ、仕方がありませんね。そちらのリーダーさんもかなり出来るようですけど、こちらも全てBクラス以上の冒険者を揃えてますから。抵抗しても数の差は埋まりませんよ」

案外、冷静に判断するブルダ。
商人として闇とはいえ成功した者というべきなのだろうか。

「それじゃ、男共は殺して、女達を少し痛め付けて抵抗出来なくなってから奴隷の契約首輪を付けさせていただくとしましょう。」

ブルダが手を上げ、雇う冒険者達に攻撃の指示を出そうとしたその時。

「ねえ、おじさん、僕の大事な仲間の女性に対して失礼だよ」

ブルダの立つ真下にいつの間にかシンジが、しゃがみ込む形で座り、ブルダを見上げていた。
シンジは、見上げるブルダの股間に向かって剣を突き出し、ニッコリと笑う。

「おじさん、ちょっとでも動いたら股間の物が綺麗に無くなるからね。それと、この人に雇われたおじさん達も動かない方が良いよ。足元に、雷撃の術式を展開してあるから動くと雷が身体を突き抜けるから気をつけてね」

シンジの言葉に、ここにいたブルダ達は冷や汗をかき身動き一つ取れない状態となってしまった。

「な、なんだ貴様は? 子供なのか?」
「そうですよ?」

今まで優位に立っていたと思っていたら、急に出てきた子供に脅され、身動きが出来なくなってしまった事がブルダにとっては理解出来なかった。

「くそ! こんなのハッタリだ!」

一人の護衛が大声を上げて、シンジに襲いかかろうと動いた。
その瞬間、目映い光が地上から天へと登り、その後には黒焦げになった男がヘナヘナと倒れてしまった。

「あ~あ、忠告したのに」

シンジの困り顔にブルダ達は恐怖を感じ言葉が出なくなり、金縛りにあったように身動き一つしなくなった。
その間に、クルデの皆が冒険者達の武装を解除し縛り上げ始める。
ブルダは服を剥がされ、パンツ一枚で縄でグルグル巻きにされ、その辺に転がされていた。
時々、女性陣が転がっているブルダを見えていない振りをしながら、どかどか踏み付けて歩いているようだ。
その度に、「グエ!」とか「ギャ」とかヒキガエルの様な声を発していた。

「シンジ、ありがとう」

感謝の言葉と共にシンジをギュッと抱きしめるレアイア。

「当然でしょ? 僕の大事な師匠の身体をあんなエロ狸がなめ回すように見てたんだよ? つい、殺しそうになっちゃた」

てへ、とか言っておどけてみせるシンジを抱きしめながら、レアイアはその才能に底知れぬものを感じていた。

あんな完璧に気配を殺して仕掛けて行けるなんて私では無理ね。
完全に私を今の時点で超えてしまってるわ。

「それよりレアイア。早く奴隷にされている子達を解放してあげようよ」

先ほどからシンジは奴隷が乗っているだろう馬車が気になってしょうがなかった。
レアイアは、もう少しシンジを抱いていたかったが、ドアルドがこっちを見て早くしろと目で訴えかけていたので、渋々馬車の方へとシンジと一緒に歩いて行く。
最初に木製の2台の鍵を開けた。
その中には5才から12、3才位の男の子や女の子が6人ずつ、全員で12人の子供が入れられていた。
窮屈な中に長時間入れられ、食事も少ししか与えてもらえなかったようでやせ細り、普通に立つことさえ出来ない子ばかりだった。
シンジはその光景を見て、何か心の奥底で熱いようで冷たいようで、なんとも言えないぐらい気持ち悪いものを感じていた。

「この子等は、負傷者と共に村へ先行で送るぞ」

ドアルドの命令で、皆が子供達と負傷者を、拝借した馬車に手際よく乗せ、村へと先に向かい出した。
ブルダ達の方はというと、馬車を1台残しこれに全員を乗せ、冒険者自信でロンデシア帝国の帝都に向かってもらうことになった。
ブルダ側の冒険者には、今後クルデ盗賊団に一切の関わりを持たない事を条件に解放された。

「あとは、この鉄の荷車の調査だね」

レアイアとドアルドが鉄の荷車の前に立つと、掛けられた鍵を壊しにかかった。
しかし簡単には壊れず、2時間掛けてようやく全てを壊すことに成功したのだった。

「!!!! 父ちゃん、レアイア!そこを離れて! 何か居る!」

シンジの言葉に条件反射のように答える、パッと横へ離れる二人。
そしてゆっくりと扉が開かれていった。
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