傷持つ姫と僕

ユウヒ シンジ

文字の大きさ
21 / 32
第4章 旅立ち

しおりを挟む
「青の神木を守護する巫女、僕の母様エレノアール・コーウェルの様にそれぞれの神木には必ず巫女となる存在が居るって、母様からは聞いてるんだけど? ルアルの鬼人族にもいるはずなんだけどな?」

シンジの言葉を聞いたルアルは、走るのを止め立ち止まった。

「私の国は確かに赤の森の守護を任されているけど、巫女が誰なのかは不明だったんだ」
「それはどうして?」

レアイアもいつの間にかシンジ達の側に居て話を聞いていたようだ。

「我が王家でも王を継承した者以外は知る事は許されていなかったの。当然私も知らないわ。だから大精霊様に会ってみたいとずっと思ってた」

ルアルが昔を思い出しながら語るその表情はどこか寂しそうに見える。

「そうか。まあこの青の森もずっと昔は普人族の国が守護していたらしいんだけど、その1000年前の戦争を起こした元凶として追放されたからね。たしか、ボー、ボーグ?」
「ボーグアラデシア帝国、今のロンデシア帝国の母体国だね。当時はこの世界の3分の1を支配していたって聞いた事があるね」

シンジの心許ない記憶をレアイアが補助してくれる。

「そうそう!ってあ! そのゴメン! ルアルにとってはかたきの国だったね」
「ううん、いいの。昔からろくなことしない国だって判ってよけいに負けられないって思えたから」

静かにそう言っているルアルだけど、シンジとレアイアは背筋に悪寒が走るのを感じていた。

「とりあえず、僕達の当面の目標はそのロンデシア帝国に捕まっているルアルのお母さんを助ける事だね」
「そうね、でも何でロンデシアはルアルのお母様、お妃様だけを捕まえたのかしら?」 

シンジの言葉にレアイアが疑問を投げかける。
どうしてルアルの母だけ生きて捕まえられたのか。
実際、ルアルのお父さん、ダイアファレス王は捕らえられた後、公開処刑をされている。
その事を知ったルアルが暴走し始めた為呪縛の呪いを掛けられたという事だった。
そのルアルもロンデシア帝国には逃走中に捕まり部下共々殺されたと伝わっているというのが一般的な世間の話だった。

「良くは、解りません。もしかしたら母は国民から聖女としても人気がありましたから、ロンデシアの支配下となっている、ダイアファレスの民への見せ付けなのでは?」

重々しい雰囲気で話すルアル。
自分の母さんが辛いであろう事を話すのは気が思いのだろう。

「確かにそうかもね。お妃様には自害すればダイアファレスの民を根絶やしにするとか言っといて、その反対に、ダイアファレスの民には自分達が崇拝するお妃様の命と引き換えに、ロンデシア帝国に忠誠を誓えとか言ってるかもしれないね」

レアイアの推測にルアルは手を奮わせ怒りの表情を隠すことなく現す。
そんなルアル以上に怒っている人物がいた。

「あー!!物凄く腹が立つ!同じ普人族の血が半分流れてるかと思うと嫌になる!」
「そんな事言ったら私なんか普人族そのものなんだからもっと嫌になるよ。」

シンジの怒りにレアイアも同調する。

「絶対に、ルアルのお母さんを助ける! そしてダイアファレスの人も助ける!! そして普人族の皆が全て悪い人で無いことも知ってもらう!」

シンジは拳を高らかに挙げ力強く宣言する。
そんなシンジお見て、ルアルは毒気を抜かれた様に冷静になれた。
そしてどうしてこんなに人の事で一生懸命になれるのか不思議だった。
実際、シンジが自分を助けてくれてからまだ日が浅く、私の事なんか良くも知らないだろうにと思っていた。

「シンジ、どうしてそんなに私の事の為に命の危険が在るかもしれないのに親身になってくれるの?」

ルアルの質問に、シンジはキョトンとする。

「どうしてって? う~ん、女の子だから?」
「はあ?」

予想もしていなかったシンジの返答にマヌケな言葉がつい出てしまったルアル。

「何それ?! そんな理由で命を掛ける馬鹿が何処にいるのよ!」

あまりにの返答に声を荒げるルアル。

「でも、母様も言ってたよ? 困っている女の子がいたら助けるのが格好良い男だって。それに、ルアルあの時泣いてたもの」
「あの時?」
「うん、ルアルの暴走を止めようとしていた時。ルアル泣いて助けを求めてた。だから助けるって決めたんだ」

なんの気負いもなく当たり前の様に言うシンジに対して呆れて物も言えないルアルだった。

「べつに良いじゃないの? シンジは一度こうと決めたら梃でも動かないからね。それにルアルを助ける絶対の理由が他にもあるだろ?」

レアイアはシンジが助ける理由があると言う。
よく考えてもそんな事あっただろうかと頭を悩ますルアルに、レアイアは自分の額に指を当てながら、口を大きく開けて何かを噛む仕種をして見せた。

「!!」

その仕種にルアルは直ぐに反応し、シンジは頭の上に?マークをいっぱい飛ばしていた。
ルアルは思い出し、自分の額に巻いてある額当ての上から角を触る。

そういえば、シンジに角噛まれてたんだ。

鬼人族にとって婚姻の証となる痕を不可抗力であったとはいえシンジに付けられたルアルにとってそれは、無視出来ない出来事だった。
ただ、初めはハーフとはいえ、普人族とハイエルフのハーフのシンジを良くは思ってなかったはずだった。
でも今はルアル自身でもはっきりとは言いきれない感情があるのは自覚していた。

「そうですね。最終的にどうなるかは別としても、シンジにはちゃんと責任を取ってもらう必要がありますね」

半分苦笑い気味に言うルアルに対し、レアイアは大きく頷き、シンジは相変わらず?マークをいっぱい頭から出していた。

「でも良いんですか? レアイアさん」
「何が?」
「このまま本当に私がシンジと、その、何かあったらレアイアさん大丈夫かなって?」
「!!!!!! な! 大丈夫も何も!」

急に慌て出すレアイアの顔が赤くなっていた。

「案外、レアイアさんって乙女ですね。いつからシンジのこと思ってたんです?」

あまりに反応が解りやすかったので、ルアルは少し悪戯心が出てきたようだ。

「ば、馬鹿やろう! そ、そんな事あるはずが・」
「無いのですか?」

ルアルはレアイアに近づき下から覗き込む様にして顔を伺う。

「う、・・・・・・・くそ! 4年くらい前シンジと初めて出会った頃からだよ!」

ルアルと視線を合わせないように横を向きながら吐き捨てるように話す。

「か、可愛い! レアイアさんって歳の割に目茶苦茶可愛いですね!」
「歳の割にとか言うな! これでもまだ18歳だぞ!」
「十分じゃないですか。私は11歳ですよ?」
「それに、レアイア気づいてます? それってロリコンですよ?」
「!!・・!!」
「アハハハ!ハハ!!」

レアイアは恥ずかしいのか怒っているのか判らないくらい、全身を真っ赤にしているルアルを睨みつける。
しかしその反応が面白かったのか、腹を抱えて笑い転げるルアル。
それから少しの間その状態が続いたが、どちらからと判らずに顔を見やり、いつの間にか二人で笑い合っていた。
そんな二人の様子を見ていたシンジは、あれ?あの二人あんなに仲良かったかな? とか思っていたりする。

「シンジ! これからどなるか判らんけど私たち二人を宜しく頼むよ!」

唐突のレアイアの言葉に一体何を宜しくするのか今ひとつ解らなかったが、二人が楽しそうに笑っている姿を見て、まあどうでも良いや、と思えるシンジだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...