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第2話 そして再び訪れる。
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「どうして謝るの? 私が死んでから何かあった?」
どうしてだろう、涙はぽろぽろと止めどなく溢れ続けて、止めたくても止まらない。執着も無力もかき消すくらいの夢だと思った。
「僕には、何も無かった。だから、今こんなにも嬉しいんだと思う」
「そっか。よく分からないけど頑張ったんだね」
彼女はそれだけしか言わずに僕の隣に腰掛ける。
人の少ない公園で僕は子供みたいに泣いた。泣き虫は卒業したはずだけど根っこは変わらず子供のままだ。
涙が止まると彼女は撮った写真を精査し始める。その横顔はやはり綺麗だ。
僕は未だ何も言えない。言ってはいけない気がする。
「千咲はさ、前、一瞬とか唯一とか言ってたよな」
何故か昔のような距離感で話すことが出来た。なぜかは分からないけど僕の時間は千咲が死んでからずっと止まっていたからかも知れない。
「そうだね。君には知って欲しかったからかも」
「今ならわかる気がする」
今だって唯一の一瞬だ。どれだけ悔やんでも、後悔しても本来は戻ってこないもの。
だからこそ、彼女は一度きりの一瞬を写真という形で残そうとしたのだろう。
「ありがと。でも今はそれが全てじゃないって思うよ」
「と言うと?」
「君に私の心の中を当てられたくないなぁ......恥ずかしいし。だから内緒」
「失礼じゃない?」
「むしろ礼儀だけどな。心配しなくてもいいよ。最期に全部言うつもりだし」
「最期なんて言うなよ。こんな時に」
「じゃあ変えて見せてよ」
皮肉っぽく彼女は言った。
「私は全部分かってる。だから全部墓場に持っていくつもり。君はどうなの? 私が死んで何か変わった?」
「分からない」
言葉を濁す。そう、僕は変わった。それも最悪の方向に。
でも言いたくない。夢だとしても彼女に失望されたくないから。
「ほら、言いたくないんじゃん。私も一緒」
「ぐうの音も出ないな」
隠し事ばかりだ。本心を隠して、繕うだけの上辺だけの関係。僕らは結局それだけだったのかもしれない。
「でも私にとってはそれも含めて大事なんだと思う」
「千咲にしては月並みね」
「別に特殊な人間になりたいとは思ってないし」
「僕の勝手なイメージだったか」
「そういうものだと思うよ私も蒼はこういう人間だってイメージを前提に置いて今話してる訳だし」
懐かしい感覚が戻ってくる。千咲は聡かった。僕は彼女の語ることをただ聞いて相槌を打つだけ。それでもその時間が何より心地よかった。我ながら薄っぺらな人間だと思うけど。
僕は彼女に何も出来なかった。彼女が居眠り運転のトラックにはね飛ばされるのをただ無力に傍観していただけだ。どうしようもない。
「蒼はさ、なんで戻ってきたの?」
彼女が口を開く。
「分からない。千咲が残したカメラ持ってこの公園に行ったら突然飛ばされた」
「んー何か理由があると思うけどな。まぁいっか」
「そうそう。僕は千咲ともう一度会えただけで十分だ」
「いや、さっきの『まぁいっか』はまた別の意味だよ」
「つまり?」
「君さ、私の死を見届けてよ」
体がフリーズする。これまた意味がわからないと思った。どうにかしてでも助けてでもなく、「見届けて」とそれだけ。
そうだこの世界であれば助ける方法ももしかするとあるのかの知れない。
そんな僕の考えを他所に彼女は続ける。
「私が死ぬことを知ってる君に私が死ぬ所を見ていて欲しい。何も知らない君に悲しんで欲しくないからさ」
残念ながら、その要望には答えられそうにない。
「いや無理だ」
「どうして。私は君に......」
「どうせなら、僕に助けさせてくれ」
「? 助ける?」
「今日は何年の何日?」
「え? あぁ二千二十年の八月二十日だけど」
告げられたその日付、それは彼女の命日だった。
いける、助けられる。そんな希望に似た確信が僕の中でどんどん募っていく。
「えぇ......まぁ、よく分からないけど、頑張れー」
彼女は無気力そうにぽつりとそう言った。
どうしてだろう、涙はぽろぽろと止めどなく溢れ続けて、止めたくても止まらない。執着も無力もかき消すくらいの夢だと思った。
「僕には、何も無かった。だから、今こんなにも嬉しいんだと思う」
「そっか。よく分からないけど頑張ったんだね」
彼女はそれだけしか言わずに僕の隣に腰掛ける。
人の少ない公園で僕は子供みたいに泣いた。泣き虫は卒業したはずだけど根っこは変わらず子供のままだ。
涙が止まると彼女は撮った写真を精査し始める。その横顔はやはり綺麗だ。
僕は未だ何も言えない。言ってはいけない気がする。
「千咲はさ、前、一瞬とか唯一とか言ってたよな」
何故か昔のような距離感で話すことが出来た。なぜかは分からないけど僕の時間は千咲が死んでからずっと止まっていたからかも知れない。
「そうだね。君には知って欲しかったからかも」
「今ならわかる気がする」
今だって唯一の一瞬だ。どれだけ悔やんでも、後悔しても本来は戻ってこないもの。
だからこそ、彼女は一度きりの一瞬を写真という形で残そうとしたのだろう。
「ありがと。でも今はそれが全てじゃないって思うよ」
「と言うと?」
「君に私の心の中を当てられたくないなぁ......恥ずかしいし。だから内緒」
「失礼じゃない?」
「むしろ礼儀だけどな。心配しなくてもいいよ。最期に全部言うつもりだし」
「最期なんて言うなよ。こんな時に」
「じゃあ変えて見せてよ」
皮肉っぽく彼女は言った。
「私は全部分かってる。だから全部墓場に持っていくつもり。君はどうなの? 私が死んで何か変わった?」
「分からない」
言葉を濁す。そう、僕は変わった。それも最悪の方向に。
でも言いたくない。夢だとしても彼女に失望されたくないから。
「ほら、言いたくないんじゃん。私も一緒」
「ぐうの音も出ないな」
隠し事ばかりだ。本心を隠して、繕うだけの上辺だけの関係。僕らは結局それだけだったのかもしれない。
「でも私にとってはそれも含めて大事なんだと思う」
「千咲にしては月並みね」
「別に特殊な人間になりたいとは思ってないし」
「僕の勝手なイメージだったか」
「そういうものだと思うよ私も蒼はこういう人間だってイメージを前提に置いて今話してる訳だし」
懐かしい感覚が戻ってくる。千咲は聡かった。僕は彼女の語ることをただ聞いて相槌を打つだけ。それでもその時間が何より心地よかった。我ながら薄っぺらな人間だと思うけど。
僕は彼女に何も出来なかった。彼女が居眠り運転のトラックにはね飛ばされるのをただ無力に傍観していただけだ。どうしようもない。
「蒼はさ、なんで戻ってきたの?」
彼女が口を開く。
「分からない。千咲が残したカメラ持ってこの公園に行ったら突然飛ばされた」
「んー何か理由があると思うけどな。まぁいっか」
「そうそう。僕は千咲ともう一度会えただけで十分だ」
「いや、さっきの『まぁいっか』はまた別の意味だよ」
「つまり?」
「君さ、私の死を見届けてよ」
体がフリーズする。これまた意味がわからないと思った。どうにかしてでも助けてでもなく、「見届けて」とそれだけ。
そうだこの世界であれば助ける方法ももしかするとあるのかの知れない。
そんな僕の考えを他所に彼女は続ける。
「私が死ぬことを知ってる君に私が死ぬ所を見ていて欲しい。何も知らない君に悲しんで欲しくないからさ」
残念ながら、その要望には答えられそうにない。
「いや無理だ」
「どうして。私は君に......」
「どうせなら、僕に助けさせてくれ」
「? 助ける?」
「今日は何年の何日?」
「え? あぁ二千二十年の八月二十日だけど」
告げられたその日付、それは彼女の命日だった。
いける、助けられる。そんな希望に似た確信が僕の中でどんどん募っていく。
「えぇ......まぁ、よく分からないけど、頑張れー」
彼女は無気力そうにぽつりとそう言った。
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