『関係解消』までの再放送

あかまロケ

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第六話

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 ――場面が変わる。
 
 おぉ!映像の流れが速い。音声もミュートにされてるじゃん!!
 ……なっ、なんか、自分で操作するミュート&早送り機能と違って、自動でこうなるって……走馬灯感ありありで待合室の俺大丈夫か?って心配になっちまう。
 実は本当の俺はもうこの世には……。って、ホラー映画見過ぎ?

 まぁ、この頃は高3って事で進路とかでかなりストレス溜めてたんだよな。
 成績は地を這っていたし、素行も悪かったからね。進学なんてあり得なくて、就職も……。
 進路調査で“就職希望”って書いたのは良いけど、希望会社欄は空欄で、学校から家に連絡あったりして母ちゃん激怒とか。
 自分がどうなりたいか?……なんて考えられなかったんだよな。

 あ、今映像に白森のバカっ面が映ってる。
 白森ってさ、学校行けばいつも俺に絡んで来て、後ろついて回って…。好意を隠そうともせず、隙あれば俺に手を出して来て。それに俺が怒るんだけど、コイツ全然めげなくて…。
 それで最終的に白森が笑い出すから…怒ってた俺もつられて笑って。誰かさんと違って一途で憎めなくて可愛い奴だった。……趣味はかなり悪いけど。
 今こうして再放送で白森の事見てると、俺と白森の関係って出会った頃の俺と日夏先輩みたいだな。
 先輩の好意には再放送見るまでは気付かなかったけどね……。


 その日夏先輩だが。
 この走馬灯映像の8割方は日夏先輩が占めている。
 そりゃそうだ。あの“小包”を返しに行った日、――俺、あの後先輩とセックスしたから。そこでまた体の関係を持つ事になったんだよな……。
 ……いや、まぁ、悩んだよ。そりゃ。
 ただ“小包”を返しに行っただけなのに……。
 関係なんてとっくに終わったと思っていたし、関係修復する気なんて更々無かったし。
 別に会っても会えなくても良かったし…。
 “小包”が目障りだったから返しに行っただけで、それ以外の理由なんて無かったし。
 でも、いざ…日夏先輩を目の前にした時、頭の中で思っていた事と違う展開になって、日夏先輩の言葉が痛かった。
 そんな時に甘い匂いが微かに香って来て、気付いたら大泣きかましながら先輩に抱かれてたって……話し。
 
 この時のセックスが、それまでみたいな一方的に欲望をぶつけて己だけが快感を得るモノ…ではなく。……今までとやる事は同じなんだけど…。
 前戯は穴広げる位だし、愛撫なんて全く無く、言葉も交わさない。
 入れて擦って出す。
 ……でもそこに、
 頭を撫でられる。
 抱きしめられる。
 背中を撫でられる。
 ―― が加わって、気持ち良くて、温かくて、仏頂面の先輩も気持ち良さそうな顔して。
 俺、それで何故か涙腺崩壊してしまった。
 終わった後は心も身体も満たされてストレス発散も出来て、安心感まで得られたという……。
 
 まぁ、安心感セックスはこれ一回きりだけだったけどな……。
 
 それでまだ先輩とのセックスに夢中になって、“小包”の中の鍵とSuicaで先輩のアパートに頻繁に通う様になった。
 通うと言っても、目的はもちろん先輩とのセックスのみ!
 ストレスが溜まると先輩のアパートに行く。
 でもその時アパートに先輩が居れば良いけど、大学やらバイトやらで忙しくて居ない事も多く、そういった時は待ってたり終電で帰ったり。
 ……学校休んだり。
 先輩は他に女がたくさん居たから、色んな良い匂いを体からのさせてたし、アパートの玄関に女の人の靴があったり…。
 だから行く時は予め連絡する様になった。
 
 ―― 夢中になっているのは俺だけ。
 
 うん、でも夢中と言っても、目的はストレス発散のセックスだけで、日夏先輩に対しては恋愛感情は感じなかった。先輩からもそんな感情は一切感じられず、俺とはあくまで過去の“奴隷契約”と償いの為の関係。
 自分が口にした事だとして先輩は律儀にそれを全うしていた。
 ……俺が“関係解消”と言えばすぐに解消されるのだが、ハマってしまったモノはね……都合が良いし。
 あと、このアパートが現実からの逃げ口になっていた事も“関係解消”を口にしなかった要因だろうな。


 ――場面が変わる。
 3月某日。高校卒業式。
 卒業式後。図書準備室――。

 日焼け防止の厚いカーテンの隙間から陽の光が漏れ出している。
 時間も昼頃ということもあり薄暗い程度の明るさの中の俺は、只今、白森に床に押し倒されている。
 扉に鍵はかけられ、小窓のカーテンは引かれている。

 留年ギリギリのラインで、なんとか卒業する事が出来た俺。
 浮かれていたんだろうな。
 卒業式が終わって、帰ろうとした所に神妙な面持ちの白森に呼び出されて。……いや、まぁ、さ、卒業式で好意持たれてた奴からの呼び出しって『告白』って頭の片隅にはあったけど、いきなり押し倒しは想定外だったんだよな。
 で、手を引かれ図書準備室に連れ込まれた俺の今。
 視界に白森の欲に満ちた顔のアップが映っている。
 (くっ、いつもバカ面してる癖に、やっぱりコイツ王子様と言われるだけあるんだなっ。……クソッ、爆発しちまえっ!)

「……っ、鱗先輩っ、俺の気持ち知ってますよね?」
「だったら、何?」
「先輩、好きな人居ないって、恋人も居ないって言ってましたよね?」
「それで?」
「だったら、俺……先輩のっ、……恋人になりたい!……って、……いっ~~~っ!!!」
 白森の悲痛な叫びが図書室に響く。
 俺を押し倒し覆い被さっていた白森は、今、俺の横で背を向けて股間を抑え床の上で芋虫みたくのたうち回ってる。
 
「お前さ、いっつも脇が甘いんだよな。 そんな所パンパンに膨らませてりゃ狙いやすいっちゅーの。おかげで膝当てただけでこのザマ」
 
 目の前から障害物が消えた俺は体をゆっくりと起こすと、背を向けて丸まってる白森の腰の部分を撫でてやる。
「ほら、白森大丈夫か?「痛いの痛いの飛んでけ」だぞ」
 白森からの返事は無いが、鼻を啜る音が聞こえる。
「あ~もぉ、泣くなよ、痛かったのか?…悪かったって。 俺、腫れてないか見てやろうか?」
 この時の俺、他意は無い。
 すると白森は物凄い速さで起き上がり、俺の前に座り込むと、その綺麗な顔をクシャクシャにして泣き出した。
 俺はそんな白森の頭を撫でてやる。
「お、俺っ、先輩の事が好きで……。 今まで男も女も「好き」って言われてたくさんの人と付き合って来たけど、……じっ、自分から好きになったのは、鱗先輩だけで……ズズッ」
「……うん」
 白森の顔は涙と鼻水でグチャグチャで、俺は持っていたハンカチでそれを拭ってやる。
「最初は支倉先輩と付き合っていたって聞いて、女の子にしか興味が無いって…諦めてて」
「……まぁ、うん」
「でも、俺、結構あからさまに好意出してて、スキンシップとか結構攻めてたのに先輩躱すだけで拒絶はされなかったし。……恋人も好きな人も居ない状態なら押せばいつかはって、期待して…長期戦覚悟して……」
「う……ん?」
「なのに、鱗先輩……夏休み明けてからガラリと雰囲気変わって。 色気も出て……俺みたいな人間しか分からない様な所に跡まで付けて来て」
 声のトーンが少し低くなった様に聞こえ、俺を見る目付きも鋭くなった様な……。
「!?」
「先輩、…………夏休み中に男の恋人出来たでしょ?……抱かれる側で」
「!!」
「……学校まで休みがちになって、先輩その男に夢中で。 男も先輩に夢中で……あんな所に跡付けて、牽制のつもりかよっ!……なのに先輩、俺、最近聞きましたよね? 答えましたよね?「恋人も好きな人も居ない」って。 何なんですか? ハッキリ「恋人が出来た」って言ってくれれば……俺だってっ!……でも、そう俺に答えたって事は、俺にもチャンスあるって思うじゃないですか!!!」
「ちょっ!」
「だから、俺、玉砕覚悟で卒業式狙って……先輩に隙があればって」
「なっ!」
 白森の大きな手が、頭を撫でていた俺の手を掴み、下の、膨らんだ……ソコに当てられる。ソコはガチガチに固くなってていて、ズボンをギチギチに押し上げて苦しそうだ。
「ここがどうなってるのか、鱗先輩が見てくれるんですよね?」
 もう一方のハンカチを持つ方の腕を掴まれ、力が強かったのか思わずハンカチを床に落としてしまう。
 いつもなら白森如きの力など簡単に振り解けていたのに……。
 この俺は必死に解こうと苦戦している様で。
「鱗……好きだよ」
 俺の腕が引かれて白森の顔が近付いて来る。
 
 キスされる――――――――――――――――――「い”っ!!!!!」
 
 部屋にゴッと鈍い音と白森の呻き声。
 俺の目下で白森が額を抑え、床でのたうち回ってる。
 俺の頭突き攻撃が白森の額にクリティカルヒットした模様だ。
 
「クッソ痛ぇなぁ! 頭が割れそうだぞバカ白森。 お前は本当に脇が甘いよな~バカ森が。 俺お前に嘘は言ってないぞ!」
 
 床に転がっていた白森が、またガバッと起き上がり俺の前に座ると「嘘だっ!」と俺の顔に唾を飛ばす。
 (きったねぇ~クソ森)
「確かにお前の言う通り、夏に男と体の関係は持った。 今も絶賛継続中だ。 でも、ただの体だけの関係。 俺、その人に一度も恋愛感情持った事無いし、その人も俺の事何とも思ってない。 女たくさん居るしね。……まぁ、経緯とかは面倒臭いから省くけど。その人とはストレス発散の為にセックスしてんの。 高3のストレス半端無いから、頻繁に足蹴なく通ってストレス発散してたって訳。 男に夢中なんかじゃねーよ、セックスに夢中なんだよ!―― な、恋人でも好きな人でも無いだろ? バカ森っ!!」
「じゃあ、男の方が鱗先輩に夢中で、……跡付けてたし……」
「あー、無い無い。 それこそ絶対無い。 言っただろ、あの人女たくさん抱えてて、いつも違う匂い付けて帰って来て、それで俺を抱くの。 部屋にも連れ込んでいるし。 跡なんて付ける様な関係じゃねーし、女と勘違いしたんじゃね?」
「そんな関係なら、その男と別れて俺でも良いじゃん! 俺、鱗先輩の事、大好きだし、大事にするし、幸せにする自信もあるよ! 先輩が居れば他に何も要らないし、セックスだって…先輩が満足するまで出来るし。 今ここで試してくれても良いよ。 先輩、俺とセックスしよ?」
 大きな体を丸めて、甘える様にずいっと身を寄せて来て、下から覗き込む様に上目遣いで見つめて来る。
 
「お前、俺とヤリたいだけだろ?」
「……そう、だよ。……ずっと好きだったんだから、チャンスあればしたいじゃん。 それで先輩が俺の事好きになってくれるかもしれないし……」
「無いな」
「……っ!」
 白森の顔が悔しそうに歪められる。
「俺、お前の事気に入ってるから、お前とは良い思い出でいたい」
「酷っ」
「うん、……酷いな俺」

 俺と白森は向き合ったまま、お互い見つめ合っている。

「……………………………………」
「……………………………………」
 シーンと静まり返った部屋に、外からの賑やかな音。

「……………………………………」
「……………………………鱗先輩」
「ん?」
「……………………最後だからキスしても良い?」
「………………………………………………………………………………………………………ヤダ」
 
 俺が拒否してるのに白森が俺の両肩に手を置いて来て、そっと体を引き寄せられる。
 俺が顔を上げると白森の顔はもう近くにあって、俺の視界は一瞬だけ真っ黒になって……。
 すぐに映し出されたのは少し離れた白森の顔。
 けどその表情は何か企んでいる時の表情で……。
「痛っ!」
 声を上げたのは俺。
 どうやらいきなり白森が鎖骨に噛み付いて来たみたいだ。
「先輩も脇が甘いよね~。 ここに噛み跡、俺に付けさせるなんて……」
「お前っ!これ、俺、明日面接っ!」
「大丈夫、シャツで充分隠れる場所だし。 試させて? その男が先輩のここ見た時どんな反応するのか。 俺は何かいつもと違う反応があると思うなぁ~。 反応あればその男、先輩の事好きって事だからね!!」
 
「……お前さ……。……クソッ、……まぁ、良いや」
「鱗先輩さ、俺の事忘れられないなら何時でも連絡して来てよ!」
「無ーよ。バカ森」
「俺と先輩絶対運命なんだよなぁ~」
「無い」
「あるって」
「無い」
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ――場面が変わる
 高校卒業後―― 3月某日。

 先輩の部屋のドアの前。――夕方。

 昼に親と就職の事で大喧嘩して、ここの鍵とSuicaだけを持って薄着のまま家を飛び出して来た。
 いつもは貰った鍵を使って勝手に入って勝手に過ごしてるのだが、今日はなんとなくそれではダメだという気がする。
 今この部屋に日夏先輩が居れば遠慮なく入れて貰ってたけど、生憎の留守。
 部屋の前で冷たいコンクリートに腰を下ろし、ボーッと家主が帰って来るのを待っている。昼間は薄着でも暖かく過ごせたが、夕方になると流石にこの時期はまだ冷える。
 何時間位経ったのだろうか、アパートの共有廊下の電気が点き出した頃。階段をゆっくり上がって来る足音が聞こえる。
 その足音は段々と俺に近付いて来て……。
 

「鱗…」
 
 俺は伏せてた顔をゆっくりと上げ、声の主を見る。

 ―――――――― 日夏先輩だ。



 ―― 部屋に入るとすぐに暖房器具を点け、俺をその前に座らす。
 背負っていた荷物を敷布団の脇に置き、扉一枚向こうの玄関方面に消えると、湯気の立ったマグカップを持って現れ、俺にソレを手渡す。中身は温かい牛乳。
「ありがと……」
 両手でマグカップを受け取り口をつけると、珍しく先輩の方から話しかけて来た。
 
「ソレ飲んだら親御さんに連絡しなよ? ほら、コレ使って」
 俺の目の前に差し出された先輩のスマホ。
「……………………っ」
 ソレに対し、首を横に振る俺。
 
「何があったのか知らないけど、家、飛び出してきたんでしょ? 財布とスマホも持たずに…。親御さん心配してるから連絡くらいは入れないと、ここには置けないよ」
「………………べ、つに、いつもここに来る時は親になんか言ってねーし。 何で今日だけ……」
「事情が違うだろ?」
「………………なら、ここを出て行くっ!」
 
 俺の言葉に先輩は溜息を吐く。

「今、風呂に湯を張ったから、浸かってその冷えた体温めに行きな」
 そう言い立ち上がる先輩は、クローゼットから先輩の部屋着、タオル、新品の下着を俺に渡し、俺を扉一枚向こう側の玄関横に設置されているユニットバスに押し込めた。
 俺は仕方なくノロノロと着ているものを脱ぎ、トイレの蓋の上に乱雑にソレを乗せると、その上に借りたモノを乗せ、すぐ隣にある湯が張られた湯船にゆっくりと浸かる。
 
 (この時の俺、明日からの生活と実家から出る事で頭の中一杯で、不安に襲われ温かい湯の中で声を殺して泣いていたんだよな……)

 風呂から上がると、小さな机の上にトマトパスタとスープが湯気を立てている。
「それ食べたら今日はもう寝なよ」
 机の隣にはすでに布団が敷かれている。
 先輩は俺にそう言い残すと、バタバタと扉一枚向こう側に消えて行ってしまった。

 ノロノロと食事を終え、「ご馳走様」と小さく呟くと、隣に敷かれた布団に寝転がり目を瞑る。
 静まり返った部屋に暖房器具のモーター音。
 遠く……扉一枚向こう側からは、ゴォーっとボイラーの使用音。水の流れる水道管の音。
 玄関入ってすぐに横にある洗濯機の回る音……。生活音が騒がしい。
 でも、その音がとても心地良く、懐かしく。俺の視界も閉じられたり、開けられたりを繰り返し、映像が暗闇に包まれる――。
 ―― けれど、そこからすぐに視界がボヤけながらも再開すると、部屋の電気は消されていて暗いが、すぐ隣から薄い明かり。
 先輩がスマホを見ている明かり。
 この部屋に布団は一つ。この部屋に泊まる時はいつも俺と先輩は狭い布団で体をくっつけて横になっている。
 もちろん、今も――。

「ねぇ、先輩……」
「ん?」
「今日、いきなり来て迷惑かけてごめん」
 隣の先輩の肩に頭を擦り付け甘える様な仕草をする俺。
 
「別に」
「……あ、……で、……さ。……今、セックス、しても良いよ? 今なら生で…中出ししても良いし、先輩が望む事なら何でもしてあげるよ?」
 顔をパッと上げると体を横に向け、片手で先輩に抱き付き、片脚を先輩の下肢に乗せ、少し固くなった股間を先輩の腰に押し付ける。
 
「………………………………」
「あ、ね、俺、先輩の咥えた事無いよね?……特別にしよっか、フェラ……」
「要らない」
「えぇ?何で? だって、俺、先輩に迷惑かけたし…、お礼って言っても何も持って無いしさ、なら体で返すしか……」
「鱗さ、自分の体に価値あると思ってるの?」
 
「……え?」
「一晩泊めるだけで体でお礼? そんな事ですぐ股開く様な安い体なんて価値あるの?」
 
「……その価値の無い体を抱いているアンタはどうなんだよ!!!」
 ガバッと上半身を起こし、スマホの明かりに照らされた先輩の顔に向け、怒鳴る俺。
 
「俺に拒否権は無いからね」
 スマホから視線を外す事なく、薄い明かりに浮き出される先輩の顔はいつもの仏頂面。
 言葉も淡々と紡いでくる。
「何だよそれ!」
「俺は鱗の奴隷だから鱗が望んだ事は嫌な事でも叶える。 それが“奴隷契約”」
「嫌な事って……」
「俺から鱗に連絡して家に来いと言った事はある? 俺からセックスしたいと言った事は? 全部鱗から連絡寄越して来たでしょ? 俺は鱗の望みを奴隷として叶えてただけ」
 
 
「……っ」
 先輩の言葉にぐうの音も出ない。

 ……けど。

「…………………………嫌なら何で鍵とか送って……」
「“奴隷契約”の有無の確認。 鱗の性格上、小包を捨てる事はあり得ないから、送り返すか持って来るの2択になる。 送り返して来れば、会う気が無いから“奴隷契約”は“解消”。 持って来れば、会う気があると言う事で契約の“解消”か“継続”を直に聞けば良い。 あの時、俺、鱗に選択させたよね?」
 
 ようやくスマホから視線を外し、その外した視線を俺に向けて来た先輩。
 
「…………」
 
「鱗はこの関係の継続を選んだ」
「……だって、あの時アンタ……。「会いたかった」って、「抱きたい」……って」
「鱗が欲しい言葉を“奴隷”として言ったまでだよ?」
 
「……っ、何で、そこまで“契約”に拘って……」
「俺が口にした事だからね。……償いの為の“奴隷契約”。 鱗が「関係解消」と言うまでは俺はこの関係を続ける義務がある」
「……義務って。……じゃあ、もういーよ。……今晩はここに置いてもらうけど、明日の朝にはここを出て行く。 これで日夏先輩とは終わり。「関係解…」」
「行く所も無いのにずいぶん余裕なんだ?」
 
 スマホの明かりが消され、視界が闇に覆われる。
 
「……は?」
「自分の状況分かってるの? 家には帰りたくない。逃げ場だったここにも居られない。 じゃあ明日の夜はどうするの? この寒空の下野宿できるの? それとも誰か知らない人にお願いして、ついて行って泊めて貰うの? 人は見返りを求めるモノだから、何も持たない鱗はその体を差し出すしかないね。 出来るの? 知らない人とセックス。 その日は良かったとしても、次の日は? また体差し出して……それを続けるの?」
 
「……そ、そんなの、…………そんなの俺の勝手で、先輩には関係無いだろ……」
 
「そうだね。“奴隷契約”が解消されたのなら俺は何も言わないよ。 でも、まだ残念な事に契約は継続されている。 俺に何か言われたくなければ早くこの関係を解消して欲しい」
 
「……契約、契約って馬鹿みたいに拘って……義務とか、償いとか先輩はどっかおかしーんじゃねーの? “奴隷”って? …………じゃあそれなら、俺の為に動けよ! 俺をここに置いて養え! 親の事を先輩がどうにかしろ! 面倒事は全部先輩が全てやれっ!!!」
 
「……………………………」
 
「ふんっ、ダンマリかよ。……ま、黙るしかねーよな? できねー事俺言ったし。 こんな関係俺から願い下げだ! じゃあ今度こそ嘘吐き日夏先輩とは終わり。「関係解…」」
「いいよ」

 
「…………………………………………………………は?」
 
「「いいよ」と言った」
 
「…………「いいよ」って、…………先輩、意味……分かってんの?」
「……俺は“嘘吐き”にはなりたくない。 なら、やるしかないから……」
「何、その理由……」
「プライドの問題だよ。 今まで俺は口にした事は実行して来た。 こんな事も出来なくて、それが違える事がどうしても許せない。……だから、鱗の言った事は明日から全て実行するよ」
 
 
「…………アンタ……バカじゃないの?」
 
「バカ……そうだね。 そう思うし、不本意ではあるよ。……だから、今回だけ見返りを求める。…………「落ち着いたら親御さんに連絡を入れる事」それを鱗に求めるけど?」

「……………………………………落ち着いたら……で良いのなら」
 
「じゃあ、これでこの話しはお終い。 鱗と話すのは疲れるから、もう寝るよ。……おやすみ」
 


 ――過去も、この再放送でも、暗闇…だったから、この時の日夏先輩がどんな表情をしてたのか結局分からなかった……。
 

 日夏先輩は言葉通り次の日には俺の親に連絡を取って先輩との同居…の了承を得ると、俺がここに居られる為の全ての手続きを一人で行い、俺は何も知らず2年にもわたるヒモ生活を送る事となる――。
 

 
 


 
 ―― 場面が変わる。
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