電気羊は少女のユメを見るか?

チタン

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【第1話】電気羊は少女のコエを聞いた

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「お父さん、プレゼントあけていい?」

 ミラは目を輝かせて父に尋ねた。

「ああ、開けてごらん」

 父の許しが出るとミラはプレゼントの入った大きな箱のラッピングをびりびり破いて開封し始めた。
 ミラは8歳の女の子だ。けど、友達がいない。家では利発な子どもだったが、外だと恥ずかしくて話せなくなってしまうからだ。

 そんなミラをみかねて、両親はミラの誕生日に「ヒツジ」を買ってきた。ヒツジといっても本物のヒツジではない。そのヒツジは金属と電子部品で精巧に作られた「電気羊」だった。

 「電気羊」はとても高価だったけれど(ゼネラルモーターズの全自動運転車が新車で買えるくらいの値段だ!)、ミラの父親は大きな企業の役員をしていてとても裕福だったし、両親はミラのことを溺愛していたので、彼らにとって金額はどうという事はなかった。

 兎にも角にも、「電気羊」はミラのもとへやってきたのだった。


 ミラが大きな箱を開け終えると、電気羊のセンサーは開封されたことを察知して中枢機能を自動的に起動した。ほんの数ミリ秒で起動し終えると、『メーーー』というとても羊らしい鳴き声が広い洋室に響きわたり、電気羊は自然な歩き方で箱の外に歩み出た。

 ミラは嬉々とした悲鳴を上げながら電気羊に飛び付いた。そして電気羊の首元に抱きつきながら尋ねた。

「ねぇ、ヒツジさん。あなた、名前はなんていうの?」

『メーー』

 電気羊は一つ鳴き声を返した。本物の羊を精巧に模した電気羊はデフォルト設定では人語を話すことはない。

「そうよね、喋れないわよね。名前なんにしよっか?」

『メーィ』

 電気羊のカメラが新しい主人の顔を捉え、搭載された高知能AIがその表情を解析し、電気羊に困ったような鳴き声を出させた。

「そうだ! バフォメットなんてどう? この前、ご本で読んだけど、あなたに顔がソックリよ」

「ミラ、バフォメットは悪魔の名前だよ? それにあの頭は羊じゃなくて山羊だよ」

 しばらく様子を静観していた父親がミラを宥めた。

「そうなの? うーん、まあいいわ。ヒツジさん、お外に行きましょう。ね、お父さん、いいでしょ?」

「うん、行っておいで。けど、お庭のなかで遊ぶんだよ」

「はーい。じゃ、行きましょ、ヒツジさん」

『メー』

 電気羊は返事をした。



「高い買い物だったけど良かったわね。プレゼント、気に入ってくれて」

 ミラの母親が夫に言った。

「ああ。ミラも電気羊と遊ぶうちに外でももう少し活発になってくれるといいんだが」

 父親も妻に同意した。二人は友達のいないミラのことをつねづね心配していた。

「大丈夫よ、ミラは賢い子だから。そのうち自然と友達もできるわ」

 ミラの両親は窓の外でヒツジと戯れる娘を見ながら、娘のことを案じた。

「え!!?」

 突然、窓の外の娘が叫んだ。
 両親が驚いて外を見ると、ミラは両親の方へ駆け寄ってきた。

「どうしたんだい、ミラ?!」

 父親が窓を開けて、娘に問いかける。
 ミラは興奮気味に走り寄ってきて言った。

「お父さん、ヒツジさんが喋ったの! あのヒツジさん、お話できるのよ!」

 走る主人をのそりのそりと追いかけて電気羊も側までやってきた。
 そして電気羊はゆっくり口を開いた。

『お嬢様、待ってください。急に走ると転んでしまいますよ』

「ね?」

 ほらね、という顔でミラは電気羊を指差した。

「ミラ、ヒツジさんの耳のあたりを触らなかったかい?」

「触った……かも?」

 ああ、と父親は得心した。
 このヒツジ型ロボットには遠隔操作が出来ないときのために、耳の裏に設定切り替えスイッチがあると説明書に書いてあった。「人語モード」の他にも、「待機モード」、「非常時モード」、「アサルトモード」etc.がこのヒツジには搭載されている。

「ねぇ、ヒツジさんは何で喋れるの? 普通のヒツジは喋れないものでしょう?」

『それはワタシが人間の言葉を勉強したからです、お嬢様』

 ヒツジは子供向けロボットなので、搭載されたAIは子供の質問への答え方まで学習済みであった。

「へー、話し始めるからロボットなのかと思ったわ。最近のヒツジは賢いのねぇ」

 ギクッと顔を引きつらせた父親に対して、電気羊は表情一つ変えない。そして、ミラは年の割に素直で夢見がちな少女であったため、電気羊の返答に納得した。

「けどヒツジさん、お嬢様はやめてちょうだい。わたしのことはミラって呼んで」

『かしこまりました、ミラ様』

「『様』もなくていいわ。ヒツジさん」

『かしこまりました、ミラ』

「フフ、よろしい」

 ミラは満足気だ。

『ではワタシにも是非名前をつけて下さい、ミラ』

「そうね、「ヒツジさん」じゃほかのヒツジと区別がつかないものね。うーん、何にしようかしら?」

 ミラが「うーん」と考え込むのを両親と電気羊が見守る。しばらく考えてから「あっ」と何か思いついたようにミラはパッと顔を上げた。

「そうだ! 「ウール」にしましょう。あなたの白いふわふわの毛がウールの毛布にそっくりだもの」

「ミラ、ウールは……」

 父親は途中まで言いかけて、やっぱり言うのをやめた。ミラは「ウール」という言葉がどういう意味か知らないが、それを指摘してまた名前を考えさせるのは野暮というものだろう、と思ったからだ。

『ミラ、ありがとうございます。ではこれからワタシのことは「ウール」とお呼びください』

「ええ、よろしくね、ウール」

 こうして電気羊は新しい主人と出会った。


  ♢♢


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