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ゆけ!サイバー高校デジタル野球部!(前編)
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ゆけ! サイバー高校デジタル野球部!
世はまさに空前の高校野球ブーム!
しかし、人々が熱狂するのは甲子園ではなく、バーチャル甲子園だ!
我らが私立ヨコハマ学院サイバー高校デジタル野球部も、バーチャル甲子園大会出場を目指し、日夜練習に励んでいる!
デジタル野球部キャプテン・タカハシの朝は遅い。サイバー高校の始業は9時だが、彼が起きたのはその5分前だ。
けど大丈夫!
タカハシは枕元にあったインターフェースを頭に被り、電源をいれる。
それだけで、彼の仮想体が「教室」にログインする。
時刻は8時57分。ベッドから2分で「登校」だ。
「教室」のアナログ時計(といっても教室自体がデジタルなバーチャル空間だが)が、9時を指し示すと同時に教師アバターが教室に入ってくる。
今日の朝礼担当の教師アバターはAIだった。
そういえば担任(人間)は今日から有給を取ると言っていたことを、タカハシは思い出した。
AIの合図で、今日も一日が始まる。
♢♢
走れ! サイバー高校デジタル野球部!
終礼が終わると、遂に部活のスタートだ!
最近、デジタル野球部キャプテン・タカハシは焦っていた。
タカハシの焦りは、目前に迫ったバーチャル甲子園大会予選が原因だった。
サイバー高校への進学率が、アナログ高校を上回ったのはつい数年前。
生徒数の増加に伴い、「デジタル部活」が凄まじい盛り上がりを見せていた。
特に「デジタル高校野球」の隆盛は、他に類を見ない。
熾烈な予選大会を勝ち抜くためには、チーム力を底上げしなくては!!
タカハシは今日の練習前にミーティングを開くことにした。
部員達が集まると、タカハシは口を開いた。
「みんな、聞いてくれ! 遂に予選大会まであと1週間だ。しかし、このままじゃ予選を勝ち抜けないとオレは考えている!」
「そんな!」
「どうすれば?」
部員達が口々に驚きや悲嘆の声をあげる。
「みんな、落ち着け! オレたちにはひたすら練習することしかできない! これから1週間、猛特訓してチーム力を底上げするんだ!!」
「キャプテン!!」
タカハシの檄に、部員たちは目の色を変えた。
「さあ! 全員、グラウンドに集合だ!」
♢♢
燃えろ! サイバー高校デジタル野球部!
部員たちの頭上に映し出されたバーチャルな空は、日が落ち真っ暗になっていた。
それでも部員たちはバットを振り続ける。
このバットがドットの集合体だとしても。
それでも、アバター越しに感じる重みパラメータや、スイングのたびに蓄積される疲労パラメータは、インターフェースから部員たちの脳へフィードバックされ、確かな実感として反映されるのである。
部員の中でもタカハシの熱の入りようは一段と凄かった。
なぜなら次の大会はタカハシにとって最後の夏!
バーチャル甲子園でも、8月に開催される大会は特別な意味を持っていた。
夏の暑さが人々の熱狂を掻き立てるのだろうか。
大会を控えるチームの士気は最高潮だ!
♢♢
恋せよ! サイバー高校デジタル野球部!
いよいよ明日は予選大会!
最後の練習を終え、部員たちがログアウトするのを見送ると、タカハシは自分もログアウトしようとポップアップを開いた。
「待って、タカハシ君」
呼び止められて振り向くと、デジタル野球部マネージャーのミナミが立っていた。
デジタル野球において、ボールの管理やグラウンド整備などでの練習の手伝いは不要なので、デジタル野球部のマネージャーは練習の進捗管理や選手のデータ管理など、本当の意味でのマネージメントを行う。
「どうしたんだ、ミナミ? 帰らないのか?」
タカハシが問いかける。
「うん、少しタカハシ君と話がしたくて……」
そう言うとミナミは少し俯いた。
ミナミのアバターは、躊躇いや恥じらいなど様々な感情が複雑に入り混じった微妙な心理状態を、その顔面部に見事に表現していた。
「いよいよ、明日から始まるね、予選大会。チームのみんなもタカハシ君の言葉のおかげですごく良い雰囲気」
「ああ!みんな気合いが入ってて、これまでにないくらい良い状態だ。今度こそ甲子園に行くよ!」
「うん! ……タカハシ君たちならきっと行ける」
「けど、オレたちがここまで上手くなれたのもミナミのおかげさ」
「ううん、私なんて全然なにもできてないわ。みんなが頑張ったからよ」
「そんなことないさ! みんな、ミナミには感謝してる」
「うん、ありがとう」
微妙な沈黙……。
二人は互いに本当に言いたいことを口に出せずにいた。そのことにお互いが何となく気が付きながらも、踏み切る決心が付かなかった。
タカハシが沈黙を破った。
「絶対に連れて行くから、甲子園に」
力強い声にはある種の決心が含まれていた。
「うん……! 期待してるね」
緊張の高まりが、アバターの心拍数パラメータを上方修正し続けた。それが脳へのフィードバックによって作られたものだということを忘れるくらいに、その鼓動には確かな実感があった。
「もし、甲子園に行けたらオレと……!」
タカハシは言葉に詰まった。これまで野球一筋だった不器用な男は、この後に続く言葉が思いつかなかった。
「タカハシ君の気持ち、伝わったよ。だから、その続きは……大会が終わった後に聞かせて」
「……わかった、待っててくれ」
二人は別れの挨拶をして、ログアウトした。
意識が自宅に戻ったタカハシは、インターフェースを頭から外した。
そして夜の自室で一人、決意をさらに強くするのだった。
世はまさに空前の高校野球ブーム!
しかし、人々が熱狂するのは甲子園ではなく、バーチャル甲子園だ!
我らが私立ヨコハマ学院サイバー高校デジタル野球部も、バーチャル甲子園大会出場を目指し、日夜練習に励んでいる!
デジタル野球部キャプテン・タカハシの朝は遅い。サイバー高校の始業は9時だが、彼が起きたのはその5分前だ。
けど大丈夫!
タカハシは枕元にあったインターフェースを頭に被り、電源をいれる。
それだけで、彼の仮想体が「教室」にログインする。
時刻は8時57分。ベッドから2分で「登校」だ。
「教室」のアナログ時計(といっても教室自体がデジタルなバーチャル空間だが)が、9時を指し示すと同時に教師アバターが教室に入ってくる。
今日の朝礼担当の教師アバターはAIだった。
そういえば担任(人間)は今日から有給を取ると言っていたことを、タカハシは思い出した。
AIの合図で、今日も一日が始まる。
♢♢
走れ! サイバー高校デジタル野球部!
終礼が終わると、遂に部活のスタートだ!
最近、デジタル野球部キャプテン・タカハシは焦っていた。
タカハシの焦りは、目前に迫ったバーチャル甲子園大会予選が原因だった。
サイバー高校への進学率が、アナログ高校を上回ったのはつい数年前。
生徒数の増加に伴い、「デジタル部活」が凄まじい盛り上がりを見せていた。
特に「デジタル高校野球」の隆盛は、他に類を見ない。
熾烈な予選大会を勝ち抜くためには、チーム力を底上げしなくては!!
タカハシは今日の練習前にミーティングを開くことにした。
部員達が集まると、タカハシは口を開いた。
「みんな、聞いてくれ! 遂に予選大会まであと1週間だ。しかし、このままじゃ予選を勝ち抜けないとオレは考えている!」
「そんな!」
「どうすれば?」
部員達が口々に驚きや悲嘆の声をあげる。
「みんな、落ち着け! オレたちにはひたすら練習することしかできない! これから1週間、猛特訓してチーム力を底上げするんだ!!」
「キャプテン!!」
タカハシの檄に、部員たちは目の色を変えた。
「さあ! 全員、グラウンドに集合だ!」
♢♢
燃えろ! サイバー高校デジタル野球部!
部員たちの頭上に映し出されたバーチャルな空は、日が落ち真っ暗になっていた。
それでも部員たちはバットを振り続ける。
このバットがドットの集合体だとしても。
それでも、アバター越しに感じる重みパラメータや、スイングのたびに蓄積される疲労パラメータは、インターフェースから部員たちの脳へフィードバックされ、確かな実感として反映されるのである。
部員の中でもタカハシの熱の入りようは一段と凄かった。
なぜなら次の大会はタカハシにとって最後の夏!
バーチャル甲子園でも、8月に開催される大会は特別な意味を持っていた。
夏の暑さが人々の熱狂を掻き立てるのだろうか。
大会を控えるチームの士気は最高潮だ!
♢♢
恋せよ! サイバー高校デジタル野球部!
いよいよ明日は予選大会!
最後の練習を終え、部員たちがログアウトするのを見送ると、タカハシは自分もログアウトしようとポップアップを開いた。
「待って、タカハシ君」
呼び止められて振り向くと、デジタル野球部マネージャーのミナミが立っていた。
デジタル野球において、ボールの管理やグラウンド整備などでの練習の手伝いは不要なので、デジタル野球部のマネージャーは練習の進捗管理や選手のデータ管理など、本当の意味でのマネージメントを行う。
「どうしたんだ、ミナミ? 帰らないのか?」
タカハシが問いかける。
「うん、少しタカハシ君と話がしたくて……」
そう言うとミナミは少し俯いた。
ミナミのアバターは、躊躇いや恥じらいなど様々な感情が複雑に入り混じった微妙な心理状態を、その顔面部に見事に表現していた。
「いよいよ、明日から始まるね、予選大会。チームのみんなもタカハシ君の言葉のおかげですごく良い雰囲気」
「ああ!みんな気合いが入ってて、これまでにないくらい良い状態だ。今度こそ甲子園に行くよ!」
「うん! ……タカハシ君たちならきっと行ける」
「けど、オレたちがここまで上手くなれたのもミナミのおかげさ」
「ううん、私なんて全然なにもできてないわ。みんなが頑張ったからよ」
「そんなことないさ! みんな、ミナミには感謝してる」
「うん、ありがとう」
微妙な沈黙……。
二人は互いに本当に言いたいことを口に出せずにいた。そのことにお互いが何となく気が付きながらも、踏み切る決心が付かなかった。
タカハシが沈黙を破った。
「絶対に連れて行くから、甲子園に」
力強い声にはある種の決心が含まれていた。
「うん……! 期待してるね」
緊張の高まりが、アバターの心拍数パラメータを上方修正し続けた。それが脳へのフィードバックによって作られたものだということを忘れるくらいに、その鼓動には確かな実感があった。
「もし、甲子園に行けたらオレと……!」
タカハシは言葉に詰まった。これまで野球一筋だった不器用な男は、この後に続く言葉が思いつかなかった。
「タカハシ君の気持ち、伝わったよ。だから、その続きは……大会が終わった後に聞かせて」
「……わかった、待っててくれ」
二人は別れの挨拶をして、ログアウトした。
意識が自宅に戻ったタカハシは、インターフェースを頭から外した。
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