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【序章】

【3話】フェニックス討伐

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 フェニックスの極大の攻撃で、視界が炎に覆われる。かろうじてスキルで防御しているが……。

「おい! まだか! もう〈白熱光の覆いフラッシュヴェール〉もすぐ消し飛んじまう!」

「まだだ! あと3秒」

 ダメだ……光の壁もジワジワと小さく、薄くなっている。もう保たない。

「2……1……いっけぇぇぇぇええ!!!!」

 フレッドが虚空に向かって剣を振るうと、迫り来る轟炎が切り裂かれ視界が拓けていった。放たれた目に見えない真空の刃は、ちょうど振るった剣の鋒の延長線上に広がっていき、遂には遥か上空のフェニックスを捉えた。
 渾身の一撃がフェニックスの胴体に直撃すると、纏っていた炎が大きく弾けて、フェニックスは斜めに両断された。
 そしてフェニックスは甲高い断末魔をあげながら、切断面から消えていき、大火は小さくなり、極小の灯火に成り果てて最期には空に消えてしまった。


《【討伐完了】》

《EXP +5400》

《LV.187→188》

《獲得報酬:〈不死鳥のローブ〉》


「ああー、死ぬかと思った!」

 フレッドは倒れこむように地べたに座り込んだ。
そしてポップアップしてきた通知を確認しながら言った。

「お、討伐EXPめっちゃ入ったぞ。さすがAA級」

「苦労して倒した甲斐があったな」

 俺もフレッドの向かいに腰掛けた。

「レアなスキルとかは今回ドロップしなかったな。装備品だけだ」

「ああ、俺もだよ」

「ふう、疲れた疲れた」

 フレッドはアイテムウィンドウを開いて、『水』を取り出して、勢いよく飲み干した。

「ぷはー、なあ、ところでさ、明日の重大発表ってなんだと思う?」

 フレッドが唐突に話題を変えるから少し面食らう。コイツはいつも話が急だ。

「なんだよ、いきなり」

「だって運営が重大発表なんて言って告知するの珍しいじゃん。8月1日の12時のはずだったよな?」

「そうだな、明日、いや、もう日が回ってるから今日か、正午には発表だもんな」

 視界に呼び出したウィンドウ上では時刻は0時8分だったので発表は約12時間後だ。

「なんだろうな! 大型アップデートとかかな?」

「けど、これまでの大型アップデートでは告知とかなかっただろ?」

「うーん、そっかぁ」

 フレッドはうーんと唸りながらその場に寝転んだ。

「いやー、けどやっぱりゲームはいいよな。嫌なことを忘れられるっていうか。ここ最近全然イイことないんだよな」

 また話が飛ぶ。

「なんだよ、突然」

「いや、だって実際現実リアルはなんもおもしれーことねーじゃん? いっそのこと、このゲームの世界に本当に入れたらいいのにな。」

 突拍子のない話題が始まった。

「うーん、俺はこの世界で暮らすのはやだな。実際モンスターと戦うとなったら痛いし怖いし」

 フレッドのこういうのは慣れっこなので適当に返事を返す。

「やっぱコウは夢がねえなー」

「俺はリアリストなんだよ」

「うーん、じゃあさ、コウの今の夢って何?」

「え?」

「夢っていうか目標? 何かないの?」

 夢? 19歳にもなって夢を聞かれると小っ恥ずかしいな。
 そんな大それた夢も持ってなくて、俺は少し黙ってしまう。それから少しだけ考えてみる。

「夢っていうほどでもないけど、フツーにそこそこのトコ就職して、そのうちフツーに結婚とかして……」

 俺が真剣に答えているのをフレッドは相槌を打ちながら聞いていた。しかし突然、フレッドはログアウトした。

「あいつ、人に話振っといて……寝落ちしやがった!」

 フルダイブ型ゲームを使用中、プレイヤーは「半覚醒」という状態になっている。しかし現実で寝てしまうと、自動的にログアウトする仕組みになっているのだ。
 インターフェース上でオートセーブ履歴を確認してから俺もログアウトをした。
 現実世界の部屋に戻った俺はヘッドホン型のゲーム端末を外し、ウェアラブル端末で新着メッセージがないかを確認してから、ベッドに戻って眠った。

 これが俺の現実世界での最後の記憶だ。


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