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【第2章】異世界再誕

【24話】決意

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'一人で〈迷宮〉に行くなんて! 
 考え直してください! '

 カレンの言葉が頭の中でリフレインした。
 俺はカレンの制止を聞かず、誰にも告げずに王都を発った。

 目的地はもちろん〈迷宮〉の入り口。

 俺は一人で馬車に乗り、〈迷宮〉の入り口近くの街に到着した。
 今日は宿に泊まり、明日には遂に……。

 少し身震いがする。
 自分から死へ向かうような、捨て身の戦いに身を投じるなかでモンスターへの恐怖は和らいでいたが、それでも。
 前回、臆せずに〈迷宮〉へ入れたのは他の兵士やカレン、フレッドがいたからだ。
 しかし今回はたった一人。

' 俺はつくづく臆病だな '

 あの日、友を見捨てて逃げ出し、決意を決めて弔い合戦に挑もうというのに震えているのだから。
 そんなことを考えているうちにこの街唯一の宿に着いた。
 もう考えるのはやめよう、やるしかないんだ。

「やっぱり一人で来たんですね」

 不意に後ろから声を掛けられて、思わず振り向いた。
 そこにはカレンが立っていた、王都にいるはずのカレンが。

「なんで……?」

「だってコウさん、私が止めたって聞かないでしょう? 現に一人でここまで来てますし。だから、私だけでも付いて行こうと思ったんです」

「そんな! ただでさえ危険なんだ、わざわざカレンが行く必要は……」

「もう決めたんです! 怖いけど……私だけ震えて何もしなかったら、あの時と、同じだから」

 〈迷宮〉の中でのことを思い出したのだろう。カレンは少し俯いて体を震わせた。
 しかし、その目に宿る決心は変わっていなかった。

「……どうしても付いてくるのか?」

「はい。もう足手まといにはなりませんから、お願いします」

 カレンは決意を宿した目で真っ直ぐ俺を見据えた。
 震えていた時とは違う、強い目だ。

「わかった。二人で行こう、あの〈迷宮なか〉へ」

「はい!」

 カレンは俺が付いてくることを許すと、硬い表紙を崩して少し微笑んだ。

 いつのまにか俺の体の震えは消えていた。
 一人が二人になった、たったそれだけで……。
 
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