こいつ弟の彼女だから【R18】

まきします

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天童寺姉妹編

暑いですねー、お兄さん

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 おいで、と手を振ってくる子がいる。
 そのおさげをした子はまだあどけなくて、玄関を少し開けながら廊下にいる俺が近づくのを待っている。
 外からの明かりを受けたワンピースは眩しいくらいで、きょときょと通りを眺める仕草だけで躍動感が伝わる。
 そろそろと足音を立てないように気をつけて廊下を進み、懐に抱えていた革靴を履くと……ようやく天童寺家の外に出れた。

 がちゃんと閉じられた玄関に、そして明け方の湿度だけは高い早朝の空気に包まれてホッとする。手助けしてくれた子に「ありがとう」と囁きかけると、健康的に日やけした千夏ちゃんはこくっと頷いてきた。

 しかし不思議なのはバイバイと手を振られることなく、なぜか玄関の鍵を取り出し、当たり前のように閉めるという彼女の行動だ。
 昨夜、俺は痴態を見せつけ、少女もまた自慰をするという行為に及んでいる。はっきりと日常が崩れるのを感じたし、大人として責任を感じた俺はもう天童寺姉妹と顔を合わせられないと思っていた。

「徹、朝マッコに行かない?」

 しかし千夏ちゃんはごく自然と隣を歩き、マッコナルドに誘ってくる。平然とした様子に言葉も出なかったが、俺を見かねたのか指を開いた手を伸ばしてくる。いつもみたいに握ってという誘いだ。
 少し悩んでから誘いに応じ、その小さな手を握り返す。
 最初、ちょっと硬かった。兄妹みたいな今までとは違い、手を繋ぐだけでギクシャクする。昨夜、夏休みに訪れた非日常の空気がまだ残っていて、身体の芯にほんのりと情欲がくすぶっていたからだ。
 すると唐突に千夏ちゃんは大きな声を出す。

「あー、どうしよー!」

 びっくりして思わず足を止めた。そのぶん一歩だけ少女は前に進み、ワンピースの裾をぱっと広げて目の前に立つ。そしてただの冗談だと言うように大きな瞳で見あげてきた。

「んー、困ったなー、今すぐマッコシェイクを飲みたいのに、お財布を忘れてきちゃったー。ねえねえ、どうしよう。飲みたいよー」
「なんだその棒読みは。大声は心臓に良くないぞ。マジで通報されるかと思ったし」

 だよねーとケラケラ笑われて、俺はげんなりした。学生の子から弄ばれて、これから朝マッコを奢らないといけないなんて。
 でも彼女の言いたいことは分かる。実際に肩の力も抜けたし「じゃあ、たらふく食うかー」なんて普段通りの声も出せた。一歩だけいつもの関係に戻れた気がして、それに満足したのか少女は笑う。いや、気づいたら俺も笑ってたか。

 人知れず消えるはずだったのに、何が起こるかなんて自分には分からないものだ。やっぱり女の子って強いなと思いながら、黄色いアルファベットの看板を指差す少女を眺めた。
 空は青くって、今日も暑くなるだろうなと俺は思う。

 ◆

 天童寺 茜はふと目を覚ます。
 何かすごく幸せな夢を見ていた気がするけど、夢と同じくらいあやふやで思い出せない。
 例えるなら宝の山を大発見して、きゃいきゃいはしゃいだかのようだ。さて、昨夜は一体なにがあったのだろう。

 ぽーっとした瞳をしており、思い出そうとしてもうまくいかない。寝起きのせいで身体も頭もまだ鈍くて、やきもきさせられる。
 だからその答えを一番知っている人に聞こうと、ぎっとベッドを鳴らしながら振り返った。

「お兄さん、昨夜は……」

 呼びかけの声は唐突に静まり返る。
 隣には誰もいなくて、布団はからっぽだった。
 少しだけ呆然とした顔を茜はする。そして裸体のままでも構わず上半身を起こし、彼がいたはずのシーツを手で触れた。温もりはすでに無く、そのまま数秒間ほど彼女は動けない。

 ゆっくりと緩慢な動きで茜は振り返る。そしてフローリングに置かれていたものに気づいて、ぎっとベッドを鳴らして立ち上がった。
 素足でぺたぺた歩み、指を伸ばして拾い上げたものは……何の変哲もない紙、彼の革靴を置くために敷いていたものだ。
 靴も所有者の彼も消えてしまい、残されたのは手書きの文字だけ。そこに書かれていた文字を茜は読み始めた。

 お邪魔しました。
 茜ちゃんはずっと幸せでいて欲しい。

 その端的な文章を幾たびか読み直し、ふうと茜は溜息を漏らす。
 彼の文字は言動に合わずきちんとしており読みやすい。社会人として真面目に働いていると感じ取れるもので、やはり年上なのだなとこういうときに思う。

 つきあってもいないのに、別れ話をされるなんて。
 大丈夫、元の関係に戻るだけだ。
 お兄さんに話しかけることもできるし、前みたいにプールへ誘うこともできる。

 そう思いながらも、茜は手書きの文字をじっと眺めていた。
 すごいものを見つけた感覚が急にしぼんでしまい、そして気づいたらフローリングにうずくまっていた。

 ◆

 ゆっさゆっさと貧乏ゆすりをする太もも。
 それを俺は何というか……こう、すごく微妙な気持ちで眺めていた。
 ジージーと外では相変わらずセミが鳴いていて、うるさいなーとか思っていたときに、ぐるんっと椅子を回して千夏ちゃんが正面を向いてきた。

「でー、つまりお姉ちゃんと別れたってコト?」

 そう言う彼女の目つきは、ものすごく変な生き物を見るようだった。
 はあ、そうです、と俺が答えても貧乏ゆすりは止まらない。あのね、お嬢さん。可愛いワンピースから太ももを見せるのはやめてくださいね。
 仕草がまんま短パンのときと一緒だから、こっちが落ち着かないんだよ。太ももの根元のところは日やけしていなくって、その白さが気になってチラチラ見ちゃうのは男なら仕方ないことだから。いいね、そういうものだから。

「意味が分かんない。別れたって元から二股でしょ? エッチして飽きたからー……ってわけじゃないか、ごめん」

 背もたれを胸に抱えて、ぎしっと椅子を鳴らす。彼女は俺の表情になにかを察したらしく、しばらく考え込むそぶりを見せる。
 はぁーあ、いいことなんにも無い。朝になってコソコソ外に出たってのに、あとから千夏ちゃんがついてくるんだもん。それで俺の家まで来て、今度は根掘り葉掘り聞いてこられているのが今ってわけ。

 しかし学生の子はみるみる機嫌を損ねていく。
 まだむっすりした表情で俺を見て、呆れるような……いや、実際に呆れていたのかな。
 なぜか正座をさせられているので、昨夜は茜ちゃんから、そして今日は千夏ちゃんから尋問を受けることになっている。なるほどね。これが「どうしてこうなった」状態ってやつか。

「だいたい事情は分かったよ。ボクが徹と会ったときには、やっぱりお姉ちゃんのことが好きだったんだ」
「へえ、そうです。ん、そういや千夏ちゃんにはあのとき気づかれてたか?」

 千夏ちゃんと出会ってすぐに「お姉ちゃんと付き合ってる人?」と指さされた記憶がある。同じ質問を繰り返してきたりと、彼女なりに何かしら核心に気づいている節があった。
 やはり少女は頬杖をつきながらこっくり頷いてくる。

「うん、男子のそういうのってすぐ分かるし。さりげなくアピールしたり、会話しながらちょっとずつ距離を縮めたり、背伸びをしたり、あと具合が悪くなったらすごく心配したり。他にも荷物を持って男らしさをアピールしたり、高い物を買ってあげたり……」

 彼女が指折り数えていくたびに、茜ちゃんに対する過去エピソードがひとつずつ思い浮かんでくる。ぐおお、これはキツい。ごく自然とグサグサ心臓を抉ってくるのは姉妹の血ってやつなのか。
 冷汗を滴らせながらもふと気づくことがあった。俺ではなく彼女自身のことについて。

「アピールを見慣れてるって、つまり千夏ちゃんもそういうことをよくされるの?」
「まーね、一応とボクは可愛いから。お姉ちゃんと比べたらガサツだし趣味も変わってるから人数はそこまでじゃないけど」

 へー、やっぱり本人も可愛いって分かってんのな。しかし自慢するというよりは、面倒くさくて仕方ないという表情だ。
 椅子の背もたれを抱えて、窓からの逆光を受けながら少女はじっと見つめてくる。表情は少しだけ大人しくなり、ジージーとセミが鳴いているなか彼女はひとつ提案をしてきた。

「じゃあボクと付き合おっか」
「はっ!?」
「は、じゃなくって。別れたならボクと真面目に交際しようよ。浮気じゃないし、あと4年経ったら親にもちゃんと言えるし、徹も収入が落ち着いてそうだし、克樹だって働いてるだろうから……健全でしょ?」

 あれ、おかしいな。彼女の言葉がうまく理解できなくて、なんかうまいこと「健全」に丸め込まれてしまったような気がする。
 いやいや、違うから。犯罪だから。都の条例で決まってるから。一瞬だけ考えこんだけど、淫行条例にバッチリ引っかかるから。

「ムリデス」
「ふーん、あっそ。言っとくけどお姉ちゃんとだって条例に引っかかってるよ?」

 どきゅりと胸を穿たれた。
 そんな簡単なことを忘れていたわけじゃなくって、確かにマズいのは分かっていたのに……違うからぁ、あの子がエッチすぎてつい忘れちゃっただけで……ってほんと言い訳にもならないね。
 天井を見あげて、ぽつっと俺は呟いた。

「そういう意味でも別れて正解だったのかな」
「さあ、知らない。でも一応とボクの大事なところを見たんだから、責任くらい取ってもいいと思う」

 そう不機嫌そうな顔をされてしまった。
 考えてみればおかしな状況だ。
 彼女がオナニーを見せてくれた代わりに、俺はセックスを見られ、ついでに浮気と淫行条例違反までバラすことになった。なのにこうして平然とマッコシェイクを飲みながら交際を求められている。

「それで、別れる前にお姉ちゃんとなにか話した?」

 唐突な質問に驚く。交際を迫られていたはずが、まるで異なる問いかけをされて呆けてしまったんだ。でも女性はそういうものなので、早朝のことを思い出しながら質問に答える。

「いや、寝ているあいだに帰ったから何も話はしていない」
「……それさあ、たぶん別れた気になってないよ?」

 眉間に皺を浮かべると、少女の目つきはものすごく変な生き物を見るような感じに戻った。
 しかしそう言われても別れをちゃんと伝えているし、彼女だって頷いてくれている。それがどうして別れた気になっていないんだ?
 まったく理解できていない俺に、はーーと彼女は長い溜息をして、ついでに「やれやれ」と両肩を持ち上げる。

「ちゃんと、さよならって言った?」
「……言ってない」
「言葉では分かっていても、区切りがついてないから気持ちはまだ変わってないってこと。徹だって未練たらたらだし、お姉ちゃんもきっとそうだよ」

 そう答えてくれながら、彼女は椅子から立ち上がる。
 そしてフローリングを歩いてくると、目の前にしゃがみこんだ。
 可愛いワンピース姿なのに、ガニ股のうんこ座りをしては台無しだ。しかしその大きな瞳に力を感じて、思わずじっと俺は見つめた。

「じゃ、もっかい言うね。ボクと付き合って、徹。そうしたらお姉ちゃんも諦めるんじゃない? 昔っからボクのものは絶対に欲しがらなかったし」

 それと、と彼女は言葉を続ける。
 ワンピースの裾を指で摘まみ、するすると持ち上げていく仕草に俺の目は自然と吸い寄せられる。よく日やけした太ももがあり、だんだん色素が薄くなる。
 もうすぐ見えてしまうと思ったときに「よいしょ」と彼女は膝の上に座ってきた。

 くりんとした大きな瞳がすぐ近くに現れて、思わずパッと仰け反る。その距離を彼女は埋めて、温かくて柔らかい太ももの感触に包まれた。
 首筋から少しだけ汗の匂いをさせており、ふっくらした唇には姉に似た色気がある。

「ほんとーにボクのことを意識しない? あ、テストしようと思ったのに……なに、これ?」

 ほら、これ、と証拠を示すように腰を揺すってくる。
 そこにある男性的なものは硬さを高めており、ワンピースのなか、彼女の下着に触れているのは……失態だ。
 いや、これはたぶん世の男性のほとんどが同じじゃないのか。どういうことだと不審げに見つめてくる可愛い子が、自分で意識せずに柔らかい胸を当てているんだぞ。

 しかしこの天性の色気は天童寺姉妹に共通するのか?
 もしも、もしもだぞ、この姿勢のままアレをシゴかれたとしたら……あかんあかん、ちょっとやめよう! 妄想をやめよう! いまのはストップだ!

「ち、千夏ちゃん、この話はいったん保留にしようか!」
「ん、じゃあ許す。断らないなら見込みがあるってことだし。徹、飲まないならマッコシェイク頂戴。あとそろそろ小説の話をしたいんだけど、今日は会社平気なの?」

 え、会社って、今日は平日……あーーッ! 完全に忘れてた!
 そうだ、ずっと思ってたけど夏休み気分になってんだよ、俺。だって周りがみんな学生で、あいつらの浮かれている気分が伝わってくるんだぞ。そりゃあもう現実逃避のひとつもしたくなるって。

「ま、まだ間に合うか。千夏ちゃん、今日のご予定は?」
「んーー、徹が帰るまで執筆する。会社帰りに待ち合わせして、今後の方針とかを決めよ? あ、ごめん。ほんとにお財布忘れたから、お昼代を頂戴」

 おっけ、了解!
 千円札を渡し、手を振りあうと俺はすぐに部屋をあとにした。
 階段を駆け下りて、そのまま路上に飛び出してからふと気づく。
 待てよ、おごったりお金を渡したりしたけど、これって援助交際に当たるのか? いやいや、まさか。だって健全……じゃないのか。えーと、つまり俺は社会人としてどうなんだ?

 んんーーと眉間に生涯最大級の皺を浮かべながら、炎天下のアスファルトを駆けた。



 俺は二度見した。
 いや、三度見も四度見もした。
 おかしいなと目をこすっても、その光景はなにひとつとして変わらない。
 待ち合わせをしていた銅像の前には、千夏ちゃん、そしてお姉さんの姿があったんだ。
 ぺちゃくちゃおしゃべりをしている様子は普段とそう変わらない。暑いねーとか寒いねーとか言っている感じ。
 いつもと少し違うなと思うのは、茜ちゃんが黒髪を横に結わいていることくらいか。袖のないノースリーブの服装で艶のある髪をまとめているから、避暑地に訪れた令嬢という感じがする。
 ふとお姉さんがこちらに気づき、品のある笑みを浮かべてきた。

「暑いですねー、お兄さん。お仕事ご苦労様です」
「や、やあ、茜ちゃん。今日は二人でどうしたの?」
「買い物の途中で妹を見かけたから話をしていたんです。そっかー、待ち合わせの相手って徹さんだったんだー」

 振り返ってそう言っていたので俺から表情は見えない。けれど千夏ちゃんはビクッと震えて、流れ落ちる冷汗を指ですくう。

「だ、だいたいこの時間は徹と待ち合わせしているの。お姉ちゃんは何のお買い物? 克樹君に料理してあげるの?」
「……ええ、そうなの。じゃあ三人で一緒に帰りましょうか」

 そう答える前に何かを考えるような間があって、しばし俺と千夏ちゃんは買い物袋に目を向ける。トイレットペーパーや日用品ばかりで、食材らしきものが見当たらないのだが。
 俺たちの視線に気づいたのか彼女はくすっと笑った。

「あ、もちろん買い置きはあります。カレーでいかがです?」
「うーん、いいね。疲れてたしちょうど食べたかったか、ら……」

 待って、という仕草を彼女の背後で千夏ちゃんがしている。表情が少しだけ険しくて、俺にだけ伝えようとする様子に一抹の不安が胸を占めた。
 そして元通りの顔つきに戻ると、千夏ちゃんはお姉さんの前に立つ。

「お姉ちゃん、徹と少し話があるから先に帰ってて。すぐ戻るから」
「……そう。分かったわ、じゃあまたあとでね」

 ばいばいと手を振る仕草もお嬢様らしく上品だ。しかしどこか迫力があるように感じたのは俺の気のせいだろうか。背後の陽炎が怪しく蠢いて見えた気がしたんだ。
 分からない。分からないが、彼女の姿が見えなくなると、そっと千夏ちゃんは俺の袖を握り、こそこそと裏道を歩き出した。



 個人経営の喫茶店に入り、席に座るとすぐに千夏ちゃんがスカートから何かを取り出す。ごとんとテーブルに乗せられたそれはごく普通のスマホであり、最近の子ってみんな持ってて凄いよねーとか思う。

「これがどうかしたの?」
「ボク、小学生のころ知らないおじさんに追いかけられたんだ」

 唐突な話題はいつものことだ。興味あることや好奇心を刺激されたものに飛びつく性格をしているので、俺はとっくに慣れている。むしろそれくらいのほうが小説家に向いているだろうな、とか悠長なことを思いながら頷く。

「怖いな。何も無かった?」
「すぐ逃げたし平気。でもそれがあって、ボクはこれを親から持たされている」

 どきどき心臓が鳴り始めた。彼女の緊張が伝わってきたからだ。
 会話の筋道も、何を言おうとしているかも分からない。しかしこの雰囲気は……例えるならオカルト話が始まるときのようだった。

 スマホを立ち上げると、彼女は画面を操作していく。
 そして起動するアプリ画面を俺に見せてくれた。

「おかしな事件が起きなくてボクは今までずっと忘れてた。この……位置情報把握アプリを」

 はあ? と俺は間抜けな声を出した。
 なぜいま位置情報アプリのことを話題にされたのかが分からない。しかし少女を眺めているうちに、ぞっと鳥肌が立つのを感じた。

 千夏ちゃんの位置を調べた?
 もしかしなくても相手はあの銅像の前にいた女子高生の……茜ちゃんだ。

「どうしてボクをすぐに見つけたのか不思議だったんだ。あそこは商店街から遠いし、いつもお姉ちゃんが買い物をする場所じゃなかったから。徹と小説の相談をしたかったし、そもそも出会いづらい場所をボクは選んでいたんだ」

 思わず呻く。
 位置情報を調べてまで来るとは、いったいどんな考えがあったのだろう。もしも俺に会いたかったなら、そう連絡をすれば済むというのに。
 しかし言いたいことにはまだ続きがあったらしい。

「もうひとつ、すごく気になってることがあるんだ。まさかと思うし、そんなことは絶対に無いと信じているけど……」

 えっ、ちょっと待って! なんかすごい怖くない?
 見れば千夏ちゃんの腕にまで鳥肌が立っているし、ちょっともう……夏のオカルトとかそういうのはやめましょうよ!
 ばくばく鳴る心臓を必死に抑えていると、ようやく千夏ちゃんの抱える疑問を教えてくれた。

「さっきの待ち合わせ場所に行ったのは、徹から帰るって連絡を受けてからだよね。時間通りに来たし、もしこれを使って位置を知ったとしても、移動するまでには間に合わない。つまり……今日一日ボクの後をつけていた可能性が高い」

 ぞわあ、と背筋になにかが駆けあがった。
 先ほどの別れ際、茜ちゃんの発したかすかな迫力はこれだった。見えなくとも奥底にある感情がわずかに伝わってきたのだろう。

 何度も千夏ちゃんから「違うよね?」と問いかけられたが、俺には何も答えられない。
 それよりも、彼女がどうしてそんな行動を取ったのかが気になり続けていた。
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