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姉妹誘惑のお宿編
外へ買い物に行きませんか?
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くらっと俺は眩暈を起こした。
広い部屋だねーなんて生ぬるいことは言えない。
俺の家がすっぽり収まる50平米という床面積は、信じられないことにたった数名を泊めるためにあるらしい。
窓の外には真夏の海が一面に広がるオーシャンビュー。いや、ちょっと待って欲しい。その手前に見えるのってもしかしてプール? ばっかじゃないの? ちょっと寝て朝食をいただく程度の場所に……おげえ、バーベキュー用の庭があるよぉ。もう分かんないね、お金持ちの人が考えることって。
そう俺は心のなかで延々と叫んでいたけれど、白と青を基調にしたスイートルームというものは女性にとってたまらなく魅力的に映るらしい。わああーと姉妹らは喜色を浮かべて、広々としたエグゼクティブハウスという名のファンタジー世界を歩いていく。
まあ、俺にとっては学校のプールにグッピー1匹を放流された気分だけど。
「ふふ、驚いてくれたようで良かったわ。志穂(しほ)姉さんに内緒にしておくよう頼んでおいたの」
ん、志穂? だれだろう。茜ちゃんのお母さんかな?
そう満足げに笑う彼女はこの施設のオーナーらしく、太ももまでの上品な黒のドレスを身にまとっている。肌が白いためコントラスト差が激しくて、また品のある顔立ちは叔母という呼び方があまり似合っていないなぁと俺は思う。
「ええ、びっくりしました。ペンションが無くなったなんて千夏が言うものですから」
茜ちゃんは海を背後に、たまらなそうな笑顔で振り返った。
肩を露わにするシャツを着ており、両手を後ろに組むだけでゆさっと弾む胸を強調して、俺をむらっとさせてくる。おまけにここまで慌てて駆けてきたから汗をかいてしまい、ぴっとりと布地が張りついているんだよね。女子高生が発する無自覚の色気。うーん、これは芸術点が高いですよ。
姉妹を驚かせたことに満足したのか、ふふっと叔母さんは笑う。
「ほら、ここは立地がかなりいいし、ホテルに買い占められるよりはと去年リニューアルしたのよ。全室ゲストルームの超高級リゾート施設にね」
ババーンと得意げに形の良い胸を反らしているけれど、肝心の俺はチワワみたいにプルプル震えることしかできないんだよね。
なんかさ、規模が違くない? ペンションって聞いてたからこぢんまりした可愛いのを想像してたのに、なによこれ。富豪向けの場所じゃん。端っこの二畳くらいあれば俺みたいな庶民には十分だよ?
もうね香りが違う。エグゼクティブな気品のある香りが漂っていて、俺の汗くささで相殺してごめんなさいって気持ちになるんだ。どうしてお金持ちってファブ〇ーズで事足りないのかね。
うんこが漏れそうな気持ちになっている俺を放置するのは、好奇心旺盛な天童寺の姉妹だ。叔母さま大好き! と首ねっこにしがみついて、オーナーもまた満足そうに笑う。
だけどそんなに美味しい話は転がっていないらしく、商魂たくましそうに瞳をキランと輝かせた。
「その代わり、あなたにはモデル撮影の仕事があるからね」
唐突に指さされて、ふぁっと瞳を丸くしたのは茜ちゃんだった。
「えっ、モデルってなんですか! アルバイトは学校で禁じられているんですよ!?」
「この場合、金銭は発生しないから問題ないでしょう。そのぶん宿泊日を一日延ばしたんだから……って、その顔は聞いてないの? 千夏ちゃんに伝えたわよね?」
皆の視線を浴びた千夏ちゃんは、あっけらかんと「言い忘れてたー」などと答えており、やっとこの不自然なまでの超待遇をしてくれる理由に俺と茜ちゃんは気づけた。
これはアレだ。ここまできたらもう何も考えなくても分かるけど、千夏ちゃんはお姉さんを影で売っていたんだ。やはりというか当然というか、茜ちゃんは肩を怒りでふるふる震わせており、すぐさま妹さんに詰め寄った。
「ち、千夏? これはどういうこと?」
「えー、難しいこと分かんないー。たぶんお姉ちゃんはモデルのお仕事をして、ボクと徹はのんびりここで遊ぶのかもー……いふぁいっ!」
きりりと頬をつねり上げられて、瞬時にぴょいんっとつま先立ちになった。上品でお嬢様然とした笑顔を崩さずに、お姉さんの怒りのオーラが吹き荒れる。
「千夏、おもしろいことを言うのね。ふふ、だからお兄さんをダシにして私を呼びつけたんだー。千夏ちゃんのほっぺたを取っちゃいたいくらいおかしいなー」
「とふぇはい、とふぇはい、ほっへは取れふぁいーっ!」
その恐ろしさに「やーん」と泣き始めてしまったけれど俺も泣きたいよ。てっきり俺と茜ちゃんの仲を取り持ってくれたと思っていたのに、まさかの私利私欲とは。
俺からは茜ちゃんの背中しか見えないけれど、妹さんの顔が蒼白になっていくのでどんな顔をしているのかは大体想像がつく。氷のように冷たい笑顔で、きっと心臓まで凍りつくような思いをしているだろう。
どうしたものかなと思っていると、隣の女性も俺とまったく同じ思いをしていたのかもしれない。叔母さんの濃い黒色の瞳がくるっとこちらに向けられた。
「それで、あなたは? 茜が交際している人を連れてくると姉から聞いていたけれど、それはあなたのこと?」
うっと息が詰まる。
おそらく元々伝えていた交際相手とは克樹のことだろう。しかし辿り着く前に破局を迎えてしまった。俺自身は克樹の兄であり、また告白をしただけでお付き合いには至っていないという立場だ。
どう答えたものかと悩んでいると、ぱっと腕を掴まれた。
「はい、こちらが交際をしている方です。ね?」
振り返るとそこには黒髪を揺らす茜ちゃんがいて、俺にぱちんと片目を閉じてきた。口裏を合わせて欲しいということだろうけど、まさか交際している演技を求められるとは。
いやもちろん嬉しくないわけがない。ぴとりと隣に寄り添って、しかも他の人の面前で恋人宣言してくれるというのは胸がドキドキして仕方ない。くうっ、人前で横乳をぺったり当ててくるなんて高等テクニックを……。
「あなた、名前は?」
「あ、えっと、伊勢崎 徹です。会社勤めをしています」
「そう、もっと若い人かと思っていたわ。真面目そうで悪くないのに学生の子と交際をねぇ……あとで志穂にも伝えておくわ」
「叔母さま!」
その品定めをするような視線には汗が浮く思いだった。
社会人と学生の交際というのは周りの人からおかしな目で見られやすい。それは知っていたけど、面と向かってそう言われるとこたえるものがある。
さらなる追求をされるかと思ったが、そんなことよりもと彼女は茜ちゃんに向き合った。
「どうしようかしら。男性のモデルとはもう契約しているし、男だけというのも……ねえ。茜ちゃん、叔母さんを助けると思って一日だけ手伝ってくれない? そうしたら彼のことも悪く言わないわ」
え、悪く言わないとか、ちょっと感じ悪いね。
お母さんに俺のことをどう伝えるかは彼女次第という意味だろうけど、そんな脅しまがいのことを言われたら……あーあ、茜ちゃんも「どうしよう」って困った顔をしているよ。可哀想に。
「嫌だったら普通に断っていいんだよ?」
「え、でも徹さんのことを……この部屋だって交換条件だし……」
「いや、モデルに興味があるなら別だけど、そもそも悪いのは黙っていた千夏ちゃんだからねぇ。宿が無いのなら今からだって変えれるし」
そう言うと「ちょっとあなたね」と叔母さんはお怒りの顔を向けてくる。きっと計画を破壊する悪者として見られただろうし、険しい顔をする気持ちもよく分かる。
だけど俺にとっては優先順位の一番上は茜ちゃんであり、かつ営業マンとしての知恵もある。なので顔を寄せると彼女にしか聞こえない小声で話しかけた。
「まずいですよ、最近では肖像権が厳しいんですから。モデル撮影で収益が発生するのに、契約書も交わさないなんて」
収益、契約書、という現実的な単語を混ぜると、うっと彼女の顔色が変わる。
普通なら使用できる範囲、たとえばウェブに載せるなら別費用という風に取り決めをするものだ。使用期間だって無限じゃない。毎年更新をして費用を払うのが当然なので、彼女はそういう面倒くささを嫌がったんだと思う。たぶんね。
となると面倒になってくる。
支払いを含めた契約書の取り決めという前提条件が求められるので、とても撮影には間に合わない。ひとことも彼女が話せないのは、そんなことを考えているからだと思う。
ふーん、となるとかなり本気でモデルにしたがっていたのか。もしかしたらこの黙っていた件は千夏ちゃんだけの悪知恵だけではなくて、二人で共謀したのかもしれない。
期待していたものを目の前で取り上げるという仕返しを終えると、立場はこれで五分になった。いや、顔色から察すると引っくり返ったかもしれない。
だけど問題を引き起こすことしかしないのなら営業マン失格だ。困っていることの解決策を示して、互いにちょっとだけ嬉しい思いをしないといけない。
「契約書は後からでもなんとかなります。まず乗り気になるかどうかが大事ですので、今夜の宿泊を相談できるなら僕の方からそれとなく誘ってみましょうか?」
どうしようと焦っていた瞳が不意に俺を見あげてくる。瞳の下にふっくらとした膨らみがあり、また紺色の混ざった瞳にはなぜか魔女を連想する怪しさがある。
素肌を黒レースで覆い、なだらかな鎖骨を透かせる彼女は見定めるようにじっと見つめてくる。敵か、味方か、使えるか、使えないのか。そんな視線にはあいにくと営業で慣れている。
僕で良ければ力になりますよと目に笑みを浮かべると、ふっと彼女からの吐息が届く。
「……そう、お願いをするわ。徹さん」
マニキュアを塗った指先で胸をついて、そう彼女は答えた。
たぶん彼女からあまり好かれていなかったと思う。つい先ほど「え、こんな人が?」という顔をされていたし、その第一印象を崩すのは簡単じゃない。
しかし困っていることを救える唯一の人物だと思われたら別だ。営業スマイルはこういうときにこそ使うべきだし、きっと印象に残せただろう。
宿を確保したし、モデルも引き受けない。あとは帰り際に「お力になれず申し訳ありません」と答えるまでがワンセットだ。
ぼすんっと千夏ちゃんがソファーに腰かける。
運んできた荷物を近くに置くと、ふてくされた顔がこっちを向いた。
「あーあ、せっかくの超豪華な部屋だったのに。徹があんなことを言うからぁ。向こうに泊まりたかったなー」
「こら千夏、わがままを言わないの。こっちの貸別荘も素敵よ。さっきより海からすこし離れてしまったけど、山が近いし離れのぶん落ち着けるわ。ね、徹さん」
うん、と彼女の言葉に頷く。
予定ではペンションだったのだし、こうして離れを貸していただけると小市民としてはホッとする。とはいえ二階建てのおしゃれな一軒家という空間であり、かなり上等な宿だと感じている。
「せっかくの夏休みなんだし、仕事とかしないでのんびり過ごしたほうがいいよ。少なくとも千夏ちゃんが騙したのは悪いことだと思うし」
結局、あのゲストルームを使うのは、モデルを引き受けてからという形で落ち着いた。
代わりに用意してもらったのは貸別荘であり、キッチンやコンロなども用意されている。先ほどの施設にあるレストランを利用するなら歩いていく必要はあるが、充分以上の宿を提供してもらえたので満足だ。
というよりも、俺のことを良く伝えるなんていう交換条件さえ無ければもっと真面目に考えたよ。ダシにされて、はいそうですかとは男として言えないでしょ。
「ですね。あとで私からも叔母さんに謝っておきます。千夏、あなたも一緒よ」
「んもー、二人とも融通がきかないなぁー」
はぁーと溜息をしながら彼女は荷物からノートパソコンを引っ張り出す。そして膝もとに置いて起動をすると、それまでふてくされていた顔が「ひょっ!」という奇声とともに瞳を見開く。
「? どうしたの、千夏?」
「なな、なんでもない! 徹、徹、ちょっとこっち来て! お二階にボクの荷物をいますぐ運んで!」
おっと、慌ただしいな千夏ちゃんは。ソファーから勢いよく立ち上がると、ノートパソコンを小脇に挟んで俺を引っ張ってくる。
待て待て、荷物を運べって言ったのはそっちでしょ。あと階段を駆け上がってはいけません。
ここは二階建てのお洒落な家だ。吹き抜けの階段を上っていくと窓には一面の海が見える。ほおーと感心している暇もないし「ちょっと二人ともー?」という茜ちゃんの声に返事もできない。ぐいぐい引っ張られて、ベッドのある個室に連れ込まれたんだ。
「荷物はこの辺りでいい? あの、聞いてる?」
ぼすんっとベッドに乗った彼女は、再びモニターを覗き込む。うつぶせになり、短パンで包まれたお尻を俺に向けている姿勢で、こっちに来てと手だけで招いてくる。
どうしたのと肩から覗き込むと、きらきら輝いた瞳で振り返ってきた。
「ほら、見て!」
んー、と唸りながらモニターを見つめると、そこには彼女が投稿した小説『美少女パーティーを結成した3日後……私たちは山賊から集団レイプされた』の画面が映っている。そして指さすところを眺めると……。
「総合評価、122!?」
おっとこれは驚いたぞ。
投稿して初日であり、しかもまだ半日も経っていない。なんだなんだ、どういうことだね。
ちょっと隣を空けたまえと身体を寄せると、ずりずり端っこにどいて場所を作ってくれる。
「マジかぁー、かなりハードなタイトルだったのに」
「ボクの自己記録を大幅更新っ!」
いえいっと両腕でガッツポーズをする彼女を見たら、もう頭なでなでコースしか俺にはできない。頭をぐしゃぐしゃにされながら千夏ちゃんはたまらなそうに笑っていて……なんでかな、すっごい俺のほうが癒されてる。
やめてよー恥ずかしいなーと言いながらも手をはねのけてこないし、もっとなでてオーラも感じるし、なんだかすごく犬と遊んでいる気分!
いや待て待て、こんなことをしている場合じゃない。
「さて千夏ちゃん、これは事件だぞ」
「え、殺人事件? じゃあ徹が全身黒タイツ役ね!」
誰が真犯人やねん。
まあそんなボケは置いといてだね、これでも俺はアホかと思うくらい入念に小説投稿サイトをチェックしている。読んだ数はまだ200タイトルほどだが、たいていの物事は数字で決まると思う派なので、ランキングの傾向や推移というのを真っ先に調べているんだ。
ぴっと二本の指を彼女の目の前に立てると、大きな瞳が見つめてきた。
「ここの選択肢は2つ。連投をするか、しないかだ」
なに言ってんの、この人って感じの「?」という疑問符が千夏ちゃんの頭に浮かぶ。ふむふむ、事態が飲み込めていないようなので順番に説明していこう。
「半日でこの成績ということは、ランキングでまずまずの位置に入る。たぶん10位前後だと思う」
ゴクリと彼女は喉を鳴らした。
真剣な顔をするのは当然だ。それくらいランキング入りというのは大きいし、また多くの者が憧れてやまない。
読者に読まれないとポイントを入れてもらえず、しかし高ポイントを得なければ人の目に触れることがまずないという悪循環たるや恐ろしい。この作者の心を折ってやるぜという厳しいシステムこそが無数の更新停止を引き起こしている要因であり、かつ作者たちの熱意を奮い立たせているのだ。
「で、でも分からないよ。ポイントが落ち着いてランキングに載らないかも。今のうちにもう一話を投稿する?」
「そこなんだけど、俺は不要だと思っている」
まだ一話目でポイントが入っているということは、読んだ人が続きを読みたいと感じているんだと思う。
彼女の一番のファンとして俺も読ませてもらっているけど『美少女パーティーを結成した3日後……私たちは山賊から集団レイプされた』――って長いな。これからは『3日後レイプ』でいいか――は千夏ちゃんの個性を垣間見れるものだった。
一話目の内容は、偶然出会った女性たちが意気投合して、和気あいあい過ごすというものだった。明日からの冒険を楽しみにして、そっと寝床につくまでを書いている。
いいなと感じるのは、その女性的な文章だ。女子会のような賑やかさと華やかさがあって、このリアルさは彼女の実体験が影響していると思う。
「でも不穏なタイトルだ。この可愛い彼女たちがこれからどうなってしまうのか気になって、ついブックマークをしたんだと思う。要は『引き』があるんだ」
そうキリッとした顔で伝える。
どうしてエロ小説のことにここまで真剣な顔ができるのか。もし1ヶ月前だったら俺もそんな疑問を浮かべていたと思う。
だけど当事者になれば分かる。書いた人のことを知っていたら、鼻で笑うようなひどいことなんて絶対にできない。だから俺の顔も真剣だ。真剣に俺なりの戦術を伝えていく。
「連投が必要なのは、ランキングに載せたい場合、そして一話だけではまだ面白い段階にたどり着いていない場合だと思う」
でもいまの段階でも期待を持たれている。そして何といっても彼女の持ち味は、男性には決して書けない女性的な感性のエロス。まさに期待を裏切らない展開がこれから待っている。
焦るよりも続きを書いて定期的にアップすること。そしてなによりも大事なのは創作を楽しむこと。そう伝えていくと、素直にこくこく頷いてくれる。
「でもこれは千夏先生の作品だから、最後は自分で決めようね」
千夏ちゃんは真剣な瞳をしており、そして頬を赤くしながら頷いてくる。活が入ったのか執筆にちょうど良さそうな窓際の机を眺めると、すぐにノートパソコンを移動させた。
「続きを書くからしばらく篭る」
振り返りもせずにそんな宣言をされたので、うんと俺は頷く。小さな背中なのに、ちょっとだけプロの小説家に近づいた気がしてなんだか不思議な気持ちだったよ。
明日のランキングがどうなっているか楽しみだ。そう思いながら廊下に向かうと、足元にスリッパのつま先が見えた。戸をくぐるとやっぱりそこには茜ちゃんがいて、しぃっと人さし指を唇に当ててきた。
うーん、ずっと隠してきたけどさすがにお姉さんにはバレてしまったか。いや、執念深い彼女のことだ。もしかしたらとっくに気づいていたかもしれない。
気づかれないよう静かに降りようか。
そう身振りで伝えると、にこりと笑ってから彼女はついてくる。そして一階にたどり着くと、後ろから袖を引かれた。
「お兄さん、外へ買い物に行きません? 私、大事なものを買い忘れました」
うん、ちょうど千夏ちゃんの趣味について話をしたかったところだ。もちろんエロ小説である点は除いて、これまでのことを簡単に伝えたいので外出のときにでも伝えるとしよう。
「そうしようか。あ、急いで来たから下着とかも買わないと。それで茜ちゃんは何を忘れたの?」
そう問いかけると彼女は「んー」と天井を見あげてしばし伝えるべきか悩んでいるようだった。それから背伸びをして耳元に顔を寄せてくる。
すぐ近くで唇を開かせる音が聞こえてドキッとしたときに、彼女はこう囁いてきた。
「千夏には秘密なこと、そして夜に使うものです。なんだか分かりますか、お兄さん?」
うっと呻く。
振り返ると彼女の笑みは先ほどより少しだけ種類を変えている。女子高生らしからぬ色気のある唇に、ちらりと桜色の舌をのぞかせた。悪戯をしたあとのような仕草だけど、感じ取れる意味はまったく別のものだった。
彼女はたぶん強烈なフェロモンを自在に出せるのだと思う。そして俺はその誘惑に決して抗えない。
気がついたら一歩ずつ互いに近づきあい、そして普段なら絶対こんなことはしないが、彼女のお尻の形がはっきり分かるくらい指で掴む。
のしっとシャツに包まれた乳房の重みを感じ、また腰を押しつけるようにして体重を全て預かると、真っ白で長い脚が巻きついてきた。
両手には彼女の柔らかいお尻を感じており、また触れ合う股間同士はじっくりと熱と硬さを伝えあう。抱き合ったまま数歩ほど歩いて、ごく自然と彼女を流しの上に座らせた。
そうして密着しきった姿勢のままでいると、だんだん呼吸が乱れてくる。乳房ごと彼女を抱きしめて、またふっくらとした唇が半開きになって、唾液に濡れた舌が見えると俺の理性なんて粉々に破壊される。
はあっという吐息を聞いたとき、抱きすくめられるまま唇を重ねた。
「あン、もうお兄さんったら。お出かけの時間なんですよ?」
とろっと溶けかけた瞳でそう囁かれたけど、今のは誘われていたとしか思えない。両腕で俺の首に抱きついて、ぺろぺろ舐めてくるのがその証拠だ。
ジンと痺れる。唇を舐められて、彼女の唾液の匂いを嗅ぐと、それだけで俺の頭は痺れてしまう。
ノースリーブから覗く真っ白な脇を見ただけで、そこに鼻を突っ込みたくて仕方なくなる。汗の匂いに混じって甘い香りが漂うんだ。すぐ上に千夏ちゃんがいるというのに。
「待って、茜ちゃん、上に妹さんが……」
いま、私のお尻をまさぐっているのはどなたです?
スカートから太もものほとんどをはみ出させているのは?
などと問いかける視線を受けても、この弾力あるお尻の感触には抗えない。スカートのなかに手を入れるとしっとり汗ばんだ太ももがあって、そっと脚を開いてくれるんだ。
暗がりの奥には真っ白い下着が見える。ぬるりとした愛液がすでに染みており、ほんの少しだけ内側が透けて見える。その視線を感じたのか彼女は背筋をぶるっと震わせて、そして……焦らすようにゆっくりと太ももを開いていく。
気がついたらスカートのなかに頭を入れていた。辺りは暗くなって、また布地越しに頭を撫でられているのを感じる。
透けた陽で太ももの産毛が見えて、そこを鼻先でじっくりと匂いを嗅ぐ。すうーっと胸いっぱいに吸うと、びくっと太ももが震えた。
たぶん俺はみっともない姿勢をしている。
女子高生のスカートに頭を突っ込んで、太ももとお尻、そして背筋を飽きることなく俺は撫でる。ぴく、ぴく、と彼女の震えが増えてきて、ときおりため息のような大きな息を吐いていた。
「は……」
むちゃりと吸いつく。
全体を唇で覆いつくして、体温と唾液を伝えると太ももはわななく。指の腹を噛んで声を出さないようにこらえても、ねちょり、とスカートのなかで音を立てていた。
執拗だと思う。俺は慎重で怖がりで、なのにこのむせかえるような匂いからもう離れられない。
舌に乗る唾液は、いつのまにか唾液以外の粘液も絡みつき始めている。下から上に、上から下に。じっくりと時間をかけて、唇で覆いつくしたまま舐め続ける。
「うッ、うッ……!」
弱い弱い刺激だ。
ゆっくりとした動きだし、布地ごしの愛撫でもある。達するのはまだまだ先だと分かるくらいの刺激であり、ダメぇと焦らされた彼女は首を横に振っていた。
片膝を流しに立てて、反対の脚をだんだん開いていく。いやらしくお尻をまさぐられて、艶かしい真っ白な太もものほとんどをスカートから覗かせる姿は女子高生らしからぬ色気を放つ。ぴんと背筋をまっすぐにして、うつろな瞳でふうふうと興奮した呼吸をし続ける。
◆
がらんっとコップが倒れた。
まな板に背をつけて、両のつま先を天井に向ける体勢に変えさせられると、その姿勢のままピクピク震え続ける。肘をついて体重を支えていた茜は、ふううーと熱い息を吐いた。
ひだの外側を食まれた。甘噛みの刺激にも関わらず、いけないことをしているという性的な興奮が高くて思わずイキかける。びくっと大きく腰から震えて、見えない愛撫に朦朧としてきた。
それでも腰をしっかり支えられており、この姿勢を変えられない。脚を開いて、つま先をピンと伸ばして、そして肘をついた姿勢、舐められるための姿勢に固定されてしまったようだ。
「んーー……っ!」
懸命に身体をひねり、そして己のスカートのなかに手を入れていく。そして下着の端に指をかけると、ぶちゅっと音を立てるほど濡れそぼる感触があった。
そして指先に力を込めて、ぺったり張りついた下着を剥がしていく。
風が触れてきて、ほうと息を吐いた瞬間に、徹の舌が直接触れてきた。
「うふうッ!」
ぬるっと入ってきた。一番弱いところを舌先で押してきて、こらえきれず茜は仰け反る。きりりと指に下着を食い込ませており、身体の芯が甘痒くて仕方ないのに、隙間なくむしゃぶりつかれて動けない。
太ももを触れられて、押してくる。それは弱い弱い力なのにじっくりと脚を開かされていく。もっといやらしい姿にされてしまう。
はっはっはっ……。
はしたない格好になぜか興奮をする。みっともなく脚を開いて、股間にはこんもりと人の頭ぶん膨らんでいて、舐めまわされている光景を思い浮かべるとまた背筋がゾクッと震えて仰け反る。
あううと声にならない声で呻いて、ぴくっぴくっとつま先が揺らぎ始めているのが視界に入った。これはイクときの合図だと自分でもう気づいている。ぼんやりと茜はそれを眺めながら、芯からじんわりと溶けていくのを感じていた。
声が、出る……。
「おうウッ!」
ぺたんと唇を手で覆い、そして腰までの痙攣をし始めた。もう自分では制御しきれないほど身体が溶けていて、呆然と「い、キ、ます……」と呟くのがもう限界だった。
じわーっと溢れる感覚と、内側のすごく弱いところを執拗に舐められている性的な感触と、頭のなかで彼の舌を思い浮かべて……。
「うふウッ! ウッ、ウッ!」
太ももでぎゅうっと彼を挟みつけて、スカート越しに頭を掴んで、びぐっびぐっと全身が揺らいだ。
全身の肌は静電気を帯びているのか産毛が一斉に逆立つのを感じ、じんわりとした波が引いていくと、ようやく自分がどれだけ恥ずかしい格好をさせられていたのかに気がついた。
まだ太ももを痙攣させたまま、己の身体を見下ろす。
ブラはいつの間にかズレていて、薄手のシャツから乳首をはっきりと浮き立たせている。もう汗で張りついて半ば透けており、恥じらいを意識するとピククと先端は震える。
スカートは汗だくの太ももを滑り落ちていて、よく見たら女性器を露わにされており、そこは窓から差し込む陽に照らされている。己の指で下着を引っ張っているせいだと気づいても、ふっふっという生暖かい吐息をかけられると喉がわなないて言葉も出せない。
あそこをじっと見られていて、ズボン越しにはっきり分かるほど勃起させている。そんな彼を見て、ものすごく興奮するのを茜は自覚した。
広い部屋だねーなんて生ぬるいことは言えない。
俺の家がすっぽり収まる50平米という床面積は、信じられないことにたった数名を泊めるためにあるらしい。
窓の外には真夏の海が一面に広がるオーシャンビュー。いや、ちょっと待って欲しい。その手前に見えるのってもしかしてプール? ばっかじゃないの? ちょっと寝て朝食をいただく程度の場所に……おげえ、バーベキュー用の庭があるよぉ。もう分かんないね、お金持ちの人が考えることって。
そう俺は心のなかで延々と叫んでいたけれど、白と青を基調にしたスイートルームというものは女性にとってたまらなく魅力的に映るらしい。わああーと姉妹らは喜色を浮かべて、広々としたエグゼクティブハウスという名のファンタジー世界を歩いていく。
まあ、俺にとっては学校のプールにグッピー1匹を放流された気分だけど。
「ふふ、驚いてくれたようで良かったわ。志穂(しほ)姉さんに内緒にしておくよう頼んでおいたの」
ん、志穂? だれだろう。茜ちゃんのお母さんかな?
そう満足げに笑う彼女はこの施設のオーナーらしく、太ももまでの上品な黒のドレスを身にまとっている。肌が白いためコントラスト差が激しくて、また品のある顔立ちは叔母という呼び方があまり似合っていないなぁと俺は思う。
「ええ、びっくりしました。ペンションが無くなったなんて千夏が言うものですから」
茜ちゃんは海を背後に、たまらなそうな笑顔で振り返った。
肩を露わにするシャツを着ており、両手を後ろに組むだけでゆさっと弾む胸を強調して、俺をむらっとさせてくる。おまけにここまで慌てて駆けてきたから汗をかいてしまい、ぴっとりと布地が張りついているんだよね。女子高生が発する無自覚の色気。うーん、これは芸術点が高いですよ。
姉妹を驚かせたことに満足したのか、ふふっと叔母さんは笑う。
「ほら、ここは立地がかなりいいし、ホテルに買い占められるよりはと去年リニューアルしたのよ。全室ゲストルームの超高級リゾート施設にね」
ババーンと得意げに形の良い胸を反らしているけれど、肝心の俺はチワワみたいにプルプル震えることしかできないんだよね。
なんかさ、規模が違くない? ペンションって聞いてたからこぢんまりした可愛いのを想像してたのに、なによこれ。富豪向けの場所じゃん。端っこの二畳くらいあれば俺みたいな庶民には十分だよ?
もうね香りが違う。エグゼクティブな気品のある香りが漂っていて、俺の汗くささで相殺してごめんなさいって気持ちになるんだ。どうしてお金持ちってファブ〇ーズで事足りないのかね。
うんこが漏れそうな気持ちになっている俺を放置するのは、好奇心旺盛な天童寺の姉妹だ。叔母さま大好き! と首ねっこにしがみついて、オーナーもまた満足そうに笑う。
だけどそんなに美味しい話は転がっていないらしく、商魂たくましそうに瞳をキランと輝かせた。
「その代わり、あなたにはモデル撮影の仕事があるからね」
唐突に指さされて、ふぁっと瞳を丸くしたのは茜ちゃんだった。
「えっ、モデルってなんですか! アルバイトは学校で禁じられているんですよ!?」
「この場合、金銭は発生しないから問題ないでしょう。そのぶん宿泊日を一日延ばしたんだから……って、その顔は聞いてないの? 千夏ちゃんに伝えたわよね?」
皆の視線を浴びた千夏ちゃんは、あっけらかんと「言い忘れてたー」などと答えており、やっとこの不自然なまでの超待遇をしてくれる理由に俺と茜ちゃんは気づけた。
これはアレだ。ここまできたらもう何も考えなくても分かるけど、千夏ちゃんはお姉さんを影で売っていたんだ。やはりというか当然というか、茜ちゃんは肩を怒りでふるふる震わせており、すぐさま妹さんに詰め寄った。
「ち、千夏? これはどういうこと?」
「えー、難しいこと分かんないー。たぶんお姉ちゃんはモデルのお仕事をして、ボクと徹はのんびりここで遊ぶのかもー……いふぁいっ!」
きりりと頬をつねり上げられて、瞬時にぴょいんっとつま先立ちになった。上品でお嬢様然とした笑顔を崩さずに、お姉さんの怒りのオーラが吹き荒れる。
「千夏、おもしろいことを言うのね。ふふ、だからお兄さんをダシにして私を呼びつけたんだー。千夏ちゃんのほっぺたを取っちゃいたいくらいおかしいなー」
「とふぇはい、とふぇはい、ほっへは取れふぁいーっ!」
その恐ろしさに「やーん」と泣き始めてしまったけれど俺も泣きたいよ。てっきり俺と茜ちゃんの仲を取り持ってくれたと思っていたのに、まさかの私利私欲とは。
俺からは茜ちゃんの背中しか見えないけれど、妹さんの顔が蒼白になっていくのでどんな顔をしているのかは大体想像がつく。氷のように冷たい笑顔で、きっと心臓まで凍りつくような思いをしているだろう。
どうしたものかなと思っていると、隣の女性も俺とまったく同じ思いをしていたのかもしれない。叔母さんの濃い黒色の瞳がくるっとこちらに向けられた。
「それで、あなたは? 茜が交際している人を連れてくると姉から聞いていたけれど、それはあなたのこと?」
うっと息が詰まる。
おそらく元々伝えていた交際相手とは克樹のことだろう。しかし辿り着く前に破局を迎えてしまった。俺自身は克樹の兄であり、また告白をしただけでお付き合いには至っていないという立場だ。
どう答えたものかと悩んでいると、ぱっと腕を掴まれた。
「はい、こちらが交際をしている方です。ね?」
振り返るとそこには黒髪を揺らす茜ちゃんがいて、俺にぱちんと片目を閉じてきた。口裏を合わせて欲しいということだろうけど、まさか交際している演技を求められるとは。
いやもちろん嬉しくないわけがない。ぴとりと隣に寄り添って、しかも他の人の面前で恋人宣言してくれるというのは胸がドキドキして仕方ない。くうっ、人前で横乳をぺったり当ててくるなんて高等テクニックを……。
「あなた、名前は?」
「あ、えっと、伊勢崎 徹です。会社勤めをしています」
「そう、もっと若い人かと思っていたわ。真面目そうで悪くないのに学生の子と交際をねぇ……あとで志穂にも伝えておくわ」
「叔母さま!」
その品定めをするような視線には汗が浮く思いだった。
社会人と学生の交際というのは周りの人からおかしな目で見られやすい。それは知っていたけど、面と向かってそう言われるとこたえるものがある。
さらなる追求をされるかと思ったが、そんなことよりもと彼女は茜ちゃんに向き合った。
「どうしようかしら。男性のモデルとはもう契約しているし、男だけというのも……ねえ。茜ちゃん、叔母さんを助けると思って一日だけ手伝ってくれない? そうしたら彼のことも悪く言わないわ」
え、悪く言わないとか、ちょっと感じ悪いね。
お母さんに俺のことをどう伝えるかは彼女次第という意味だろうけど、そんな脅しまがいのことを言われたら……あーあ、茜ちゃんも「どうしよう」って困った顔をしているよ。可哀想に。
「嫌だったら普通に断っていいんだよ?」
「え、でも徹さんのことを……この部屋だって交換条件だし……」
「いや、モデルに興味があるなら別だけど、そもそも悪いのは黙っていた千夏ちゃんだからねぇ。宿が無いのなら今からだって変えれるし」
そう言うと「ちょっとあなたね」と叔母さんはお怒りの顔を向けてくる。きっと計画を破壊する悪者として見られただろうし、険しい顔をする気持ちもよく分かる。
だけど俺にとっては優先順位の一番上は茜ちゃんであり、かつ営業マンとしての知恵もある。なので顔を寄せると彼女にしか聞こえない小声で話しかけた。
「まずいですよ、最近では肖像権が厳しいんですから。モデル撮影で収益が発生するのに、契約書も交わさないなんて」
収益、契約書、という現実的な単語を混ぜると、うっと彼女の顔色が変わる。
普通なら使用できる範囲、たとえばウェブに載せるなら別費用という風に取り決めをするものだ。使用期間だって無限じゃない。毎年更新をして費用を払うのが当然なので、彼女はそういう面倒くささを嫌がったんだと思う。たぶんね。
となると面倒になってくる。
支払いを含めた契約書の取り決めという前提条件が求められるので、とても撮影には間に合わない。ひとことも彼女が話せないのは、そんなことを考えているからだと思う。
ふーん、となるとかなり本気でモデルにしたがっていたのか。もしかしたらこの黙っていた件は千夏ちゃんだけの悪知恵だけではなくて、二人で共謀したのかもしれない。
期待していたものを目の前で取り上げるという仕返しを終えると、立場はこれで五分になった。いや、顔色から察すると引っくり返ったかもしれない。
だけど問題を引き起こすことしかしないのなら営業マン失格だ。困っていることの解決策を示して、互いにちょっとだけ嬉しい思いをしないといけない。
「契約書は後からでもなんとかなります。まず乗り気になるかどうかが大事ですので、今夜の宿泊を相談できるなら僕の方からそれとなく誘ってみましょうか?」
どうしようと焦っていた瞳が不意に俺を見あげてくる。瞳の下にふっくらとした膨らみがあり、また紺色の混ざった瞳にはなぜか魔女を連想する怪しさがある。
素肌を黒レースで覆い、なだらかな鎖骨を透かせる彼女は見定めるようにじっと見つめてくる。敵か、味方か、使えるか、使えないのか。そんな視線にはあいにくと営業で慣れている。
僕で良ければ力になりますよと目に笑みを浮かべると、ふっと彼女からの吐息が届く。
「……そう、お願いをするわ。徹さん」
マニキュアを塗った指先で胸をついて、そう彼女は答えた。
たぶん彼女からあまり好かれていなかったと思う。つい先ほど「え、こんな人が?」という顔をされていたし、その第一印象を崩すのは簡単じゃない。
しかし困っていることを救える唯一の人物だと思われたら別だ。営業スマイルはこういうときにこそ使うべきだし、きっと印象に残せただろう。
宿を確保したし、モデルも引き受けない。あとは帰り際に「お力になれず申し訳ありません」と答えるまでがワンセットだ。
ぼすんっと千夏ちゃんがソファーに腰かける。
運んできた荷物を近くに置くと、ふてくされた顔がこっちを向いた。
「あーあ、せっかくの超豪華な部屋だったのに。徹があんなことを言うからぁ。向こうに泊まりたかったなー」
「こら千夏、わがままを言わないの。こっちの貸別荘も素敵よ。さっきより海からすこし離れてしまったけど、山が近いし離れのぶん落ち着けるわ。ね、徹さん」
うん、と彼女の言葉に頷く。
予定ではペンションだったのだし、こうして離れを貸していただけると小市民としてはホッとする。とはいえ二階建てのおしゃれな一軒家という空間であり、かなり上等な宿だと感じている。
「せっかくの夏休みなんだし、仕事とかしないでのんびり過ごしたほうがいいよ。少なくとも千夏ちゃんが騙したのは悪いことだと思うし」
結局、あのゲストルームを使うのは、モデルを引き受けてからという形で落ち着いた。
代わりに用意してもらったのは貸別荘であり、キッチンやコンロなども用意されている。先ほどの施設にあるレストランを利用するなら歩いていく必要はあるが、充分以上の宿を提供してもらえたので満足だ。
というよりも、俺のことを良く伝えるなんていう交換条件さえ無ければもっと真面目に考えたよ。ダシにされて、はいそうですかとは男として言えないでしょ。
「ですね。あとで私からも叔母さんに謝っておきます。千夏、あなたも一緒よ」
「んもー、二人とも融通がきかないなぁー」
はぁーと溜息をしながら彼女は荷物からノートパソコンを引っ張り出す。そして膝もとに置いて起動をすると、それまでふてくされていた顔が「ひょっ!」という奇声とともに瞳を見開く。
「? どうしたの、千夏?」
「なな、なんでもない! 徹、徹、ちょっとこっち来て! お二階にボクの荷物をいますぐ運んで!」
おっと、慌ただしいな千夏ちゃんは。ソファーから勢いよく立ち上がると、ノートパソコンを小脇に挟んで俺を引っ張ってくる。
待て待て、荷物を運べって言ったのはそっちでしょ。あと階段を駆け上がってはいけません。
ここは二階建てのお洒落な家だ。吹き抜けの階段を上っていくと窓には一面の海が見える。ほおーと感心している暇もないし「ちょっと二人ともー?」という茜ちゃんの声に返事もできない。ぐいぐい引っ張られて、ベッドのある個室に連れ込まれたんだ。
「荷物はこの辺りでいい? あの、聞いてる?」
ぼすんっとベッドに乗った彼女は、再びモニターを覗き込む。うつぶせになり、短パンで包まれたお尻を俺に向けている姿勢で、こっちに来てと手だけで招いてくる。
どうしたのと肩から覗き込むと、きらきら輝いた瞳で振り返ってきた。
「ほら、見て!」
んー、と唸りながらモニターを見つめると、そこには彼女が投稿した小説『美少女パーティーを結成した3日後……私たちは山賊から集団レイプされた』の画面が映っている。そして指さすところを眺めると……。
「総合評価、122!?」
おっとこれは驚いたぞ。
投稿して初日であり、しかもまだ半日も経っていない。なんだなんだ、どういうことだね。
ちょっと隣を空けたまえと身体を寄せると、ずりずり端っこにどいて場所を作ってくれる。
「マジかぁー、かなりハードなタイトルだったのに」
「ボクの自己記録を大幅更新っ!」
いえいっと両腕でガッツポーズをする彼女を見たら、もう頭なでなでコースしか俺にはできない。頭をぐしゃぐしゃにされながら千夏ちゃんはたまらなそうに笑っていて……なんでかな、すっごい俺のほうが癒されてる。
やめてよー恥ずかしいなーと言いながらも手をはねのけてこないし、もっとなでてオーラも感じるし、なんだかすごく犬と遊んでいる気分!
いや待て待て、こんなことをしている場合じゃない。
「さて千夏ちゃん、これは事件だぞ」
「え、殺人事件? じゃあ徹が全身黒タイツ役ね!」
誰が真犯人やねん。
まあそんなボケは置いといてだね、これでも俺はアホかと思うくらい入念に小説投稿サイトをチェックしている。読んだ数はまだ200タイトルほどだが、たいていの物事は数字で決まると思う派なので、ランキングの傾向や推移というのを真っ先に調べているんだ。
ぴっと二本の指を彼女の目の前に立てると、大きな瞳が見つめてきた。
「ここの選択肢は2つ。連投をするか、しないかだ」
なに言ってんの、この人って感じの「?」という疑問符が千夏ちゃんの頭に浮かぶ。ふむふむ、事態が飲み込めていないようなので順番に説明していこう。
「半日でこの成績ということは、ランキングでまずまずの位置に入る。たぶん10位前後だと思う」
ゴクリと彼女は喉を鳴らした。
真剣な顔をするのは当然だ。それくらいランキング入りというのは大きいし、また多くの者が憧れてやまない。
読者に読まれないとポイントを入れてもらえず、しかし高ポイントを得なければ人の目に触れることがまずないという悪循環たるや恐ろしい。この作者の心を折ってやるぜという厳しいシステムこそが無数の更新停止を引き起こしている要因であり、かつ作者たちの熱意を奮い立たせているのだ。
「で、でも分からないよ。ポイントが落ち着いてランキングに載らないかも。今のうちにもう一話を投稿する?」
「そこなんだけど、俺は不要だと思っている」
まだ一話目でポイントが入っているということは、読んだ人が続きを読みたいと感じているんだと思う。
彼女の一番のファンとして俺も読ませてもらっているけど『美少女パーティーを結成した3日後……私たちは山賊から集団レイプされた』――って長いな。これからは『3日後レイプ』でいいか――は千夏ちゃんの個性を垣間見れるものだった。
一話目の内容は、偶然出会った女性たちが意気投合して、和気あいあい過ごすというものだった。明日からの冒険を楽しみにして、そっと寝床につくまでを書いている。
いいなと感じるのは、その女性的な文章だ。女子会のような賑やかさと華やかさがあって、このリアルさは彼女の実体験が影響していると思う。
「でも不穏なタイトルだ。この可愛い彼女たちがこれからどうなってしまうのか気になって、ついブックマークをしたんだと思う。要は『引き』があるんだ」
そうキリッとした顔で伝える。
どうしてエロ小説のことにここまで真剣な顔ができるのか。もし1ヶ月前だったら俺もそんな疑問を浮かべていたと思う。
だけど当事者になれば分かる。書いた人のことを知っていたら、鼻で笑うようなひどいことなんて絶対にできない。だから俺の顔も真剣だ。真剣に俺なりの戦術を伝えていく。
「連投が必要なのは、ランキングに載せたい場合、そして一話だけではまだ面白い段階にたどり着いていない場合だと思う」
でもいまの段階でも期待を持たれている。そして何といっても彼女の持ち味は、男性には決して書けない女性的な感性のエロス。まさに期待を裏切らない展開がこれから待っている。
焦るよりも続きを書いて定期的にアップすること。そしてなによりも大事なのは創作を楽しむこと。そう伝えていくと、素直にこくこく頷いてくれる。
「でもこれは千夏先生の作品だから、最後は自分で決めようね」
千夏ちゃんは真剣な瞳をしており、そして頬を赤くしながら頷いてくる。活が入ったのか執筆にちょうど良さそうな窓際の机を眺めると、すぐにノートパソコンを移動させた。
「続きを書くからしばらく篭る」
振り返りもせずにそんな宣言をされたので、うんと俺は頷く。小さな背中なのに、ちょっとだけプロの小説家に近づいた気がしてなんだか不思議な気持ちだったよ。
明日のランキングがどうなっているか楽しみだ。そう思いながら廊下に向かうと、足元にスリッパのつま先が見えた。戸をくぐるとやっぱりそこには茜ちゃんがいて、しぃっと人さし指を唇に当ててきた。
うーん、ずっと隠してきたけどさすがにお姉さんにはバレてしまったか。いや、執念深い彼女のことだ。もしかしたらとっくに気づいていたかもしれない。
気づかれないよう静かに降りようか。
そう身振りで伝えると、にこりと笑ってから彼女はついてくる。そして一階にたどり着くと、後ろから袖を引かれた。
「お兄さん、外へ買い物に行きません? 私、大事なものを買い忘れました」
うん、ちょうど千夏ちゃんの趣味について話をしたかったところだ。もちろんエロ小説である点は除いて、これまでのことを簡単に伝えたいので外出のときにでも伝えるとしよう。
「そうしようか。あ、急いで来たから下着とかも買わないと。それで茜ちゃんは何を忘れたの?」
そう問いかけると彼女は「んー」と天井を見あげてしばし伝えるべきか悩んでいるようだった。それから背伸びをして耳元に顔を寄せてくる。
すぐ近くで唇を開かせる音が聞こえてドキッとしたときに、彼女はこう囁いてきた。
「千夏には秘密なこと、そして夜に使うものです。なんだか分かりますか、お兄さん?」
うっと呻く。
振り返ると彼女の笑みは先ほどより少しだけ種類を変えている。女子高生らしからぬ色気のある唇に、ちらりと桜色の舌をのぞかせた。悪戯をしたあとのような仕草だけど、感じ取れる意味はまったく別のものだった。
彼女はたぶん強烈なフェロモンを自在に出せるのだと思う。そして俺はその誘惑に決して抗えない。
気がついたら一歩ずつ互いに近づきあい、そして普段なら絶対こんなことはしないが、彼女のお尻の形がはっきり分かるくらい指で掴む。
のしっとシャツに包まれた乳房の重みを感じ、また腰を押しつけるようにして体重を全て預かると、真っ白で長い脚が巻きついてきた。
両手には彼女の柔らかいお尻を感じており、また触れ合う股間同士はじっくりと熱と硬さを伝えあう。抱き合ったまま数歩ほど歩いて、ごく自然と彼女を流しの上に座らせた。
そうして密着しきった姿勢のままでいると、だんだん呼吸が乱れてくる。乳房ごと彼女を抱きしめて、またふっくらとした唇が半開きになって、唾液に濡れた舌が見えると俺の理性なんて粉々に破壊される。
はあっという吐息を聞いたとき、抱きすくめられるまま唇を重ねた。
「あン、もうお兄さんったら。お出かけの時間なんですよ?」
とろっと溶けかけた瞳でそう囁かれたけど、今のは誘われていたとしか思えない。両腕で俺の首に抱きついて、ぺろぺろ舐めてくるのがその証拠だ。
ジンと痺れる。唇を舐められて、彼女の唾液の匂いを嗅ぐと、それだけで俺の頭は痺れてしまう。
ノースリーブから覗く真っ白な脇を見ただけで、そこに鼻を突っ込みたくて仕方なくなる。汗の匂いに混じって甘い香りが漂うんだ。すぐ上に千夏ちゃんがいるというのに。
「待って、茜ちゃん、上に妹さんが……」
いま、私のお尻をまさぐっているのはどなたです?
スカートから太もものほとんどをはみ出させているのは?
などと問いかける視線を受けても、この弾力あるお尻の感触には抗えない。スカートのなかに手を入れるとしっとり汗ばんだ太ももがあって、そっと脚を開いてくれるんだ。
暗がりの奥には真っ白い下着が見える。ぬるりとした愛液がすでに染みており、ほんの少しだけ内側が透けて見える。その視線を感じたのか彼女は背筋をぶるっと震わせて、そして……焦らすようにゆっくりと太ももを開いていく。
気がついたらスカートのなかに頭を入れていた。辺りは暗くなって、また布地越しに頭を撫でられているのを感じる。
透けた陽で太ももの産毛が見えて、そこを鼻先でじっくりと匂いを嗅ぐ。すうーっと胸いっぱいに吸うと、びくっと太ももが震えた。
たぶん俺はみっともない姿勢をしている。
女子高生のスカートに頭を突っ込んで、太ももとお尻、そして背筋を飽きることなく俺は撫でる。ぴく、ぴく、と彼女の震えが増えてきて、ときおりため息のような大きな息を吐いていた。
「は……」
むちゃりと吸いつく。
全体を唇で覆いつくして、体温と唾液を伝えると太ももはわななく。指の腹を噛んで声を出さないようにこらえても、ねちょり、とスカートのなかで音を立てていた。
執拗だと思う。俺は慎重で怖がりで、なのにこのむせかえるような匂いからもう離れられない。
舌に乗る唾液は、いつのまにか唾液以外の粘液も絡みつき始めている。下から上に、上から下に。じっくりと時間をかけて、唇で覆いつくしたまま舐め続ける。
「うッ、うッ……!」
弱い弱い刺激だ。
ゆっくりとした動きだし、布地ごしの愛撫でもある。達するのはまだまだ先だと分かるくらいの刺激であり、ダメぇと焦らされた彼女は首を横に振っていた。
片膝を流しに立てて、反対の脚をだんだん開いていく。いやらしくお尻をまさぐられて、艶かしい真っ白な太もものほとんどをスカートから覗かせる姿は女子高生らしからぬ色気を放つ。ぴんと背筋をまっすぐにして、うつろな瞳でふうふうと興奮した呼吸をし続ける。
◆
がらんっとコップが倒れた。
まな板に背をつけて、両のつま先を天井に向ける体勢に変えさせられると、その姿勢のままピクピク震え続ける。肘をついて体重を支えていた茜は、ふううーと熱い息を吐いた。
ひだの外側を食まれた。甘噛みの刺激にも関わらず、いけないことをしているという性的な興奮が高くて思わずイキかける。びくっと大きく腰から震えて、見えない愛撫に朦朧としてきた。
それでも腰をしっかり支えられており、この姿勢を変えられない。脚を開いて、つま先をピンと伸ばして、そして肘をついた姿勢、舐められるための姿勢に固定されてしまったようだ。
「んーー……っ!」
懸命に身体をひねり、そして己のスカートのなかに手を入れていく。そして下着の端に指をかけると、ぶちゅっと音を立てるほど濡れそぼる感触があった。
そして指先に力を込めて、ぺったり張りついた下着を剥がしていく。
風が触れてきて、ほうと息を吐いた瞬間に、徹の舌が直接触れてきた。
「うふうッ!」
ぬるっと入ってきた。一番弱いところを舌先で押してきて、こらえきれず茜は仰け反る。きりりと指に下着を食い込ませており、身体の芯が甘痒くて仕方ないのに、隙間なくむしゃぶりつかれて動けない。
太ももを触れられて、押してくる。それは弱い弱い力なのにじっくりと脚を開かされていく。もっといやらしい姿にされてしまう。
はっはっはっ……。
はしたない格好になぜか興奮をする。みっともなく脚を開いて、股間にはこんもりと人の頭ぶん膨らんでいて、舐めまわされている光景を思い浮かべるとまた背筋がゾクッと震えて仰け反る。
あううと声にならない声で呻いて、ぴくっぴくっとつま先が揺らぎ始めているのが視界に入った。これはイクときの合図だと自分でもう気づいている。ぼんやりと茜はそれを眺めながら、芯からじんわりと溶けていくのを感じていた。
声が、出る……。
「おうウッ!」
ぺたんと唇を手で覆い、そして腰までの痙攣をし始めた。もう自分では制御しきれないほど身体が溶けていて、呆然と「い、キ、ます……」と呟くのがもう限界だった。
じわーっと溢れる感覚と、内側のすごく弱いところを執拗に舐められている性的な感触と、頭のなかで彼の舌を思い浮かべて……。
「うふウッ! ウッ、ウッ!」
太ももでぎゅうっと彼を挟みつけて、スカート越しに頭を掴んで、びぐっびぐっと全身が揺らいだ。
全身の肌は静電気を帯びているのか産毛が一斉に逆立つのを感じ、じんわりとした波が引いていくと、ようやく自分がどれだけ恥ずかしい格好をさせられていたのかに気がついた。
まだ太ももを痙攣させたまま、己の身体を見下ろす。
ブラはいつの間にかズレていて、薄手のシャツから乳首をはっきりと浮き立たせている。もう汗で張りついて半ば透けており、恥じらいを意識するとピククと先端は震える。
スカートは汗だくの太ももを滑り落ちていて、よく見たら女性器を露わにされており、そこは窓から差し込む陽に照らされている。己の指で下着を引っ張っているせいだと気づいても、ふっふっという生暖かい吐息をかけられると喉がわなないて言葉も出せない。
あそこをじっと見られていて、ズボン越しにはっきり分かるほど勃起させている。そんな彼を見て、ものすごく興奮するのを茜は自覚した。
応援ありがとうございます!
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