お前とあなたの異世界冒険譚

夜嵐 海莱

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初まりの選択

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─────────────────────


 お前が語り、あなたが綴る。
三因の輪に蝕まれた、そんなものがたり



 人は自らの決定を、最高の是とする。
それを疑うことはないだろう。



 ──少なくとも、自らの選択ではないと気付くまで。



 世界のすべての事象は三因の輪によって決定されている。

必然か、偶然か。
因果か、運命か。
そして────────。






 異世界はそう簡単ではない。なぜなら、今の現実以上に理不尽・鬼畜だからだ。異世界転生と聞くと、大抵の転生好きはチート能力や魔力に王道ファンタジーや金髪ヒロイン、荘厳な風景に城砦都市を想像しがちであろう。それは間違っていない。事実俺が転生し、体験してきた異世界は確かにそれらの想像であった。
 しかし、転生特典によるチート能力や身体能力の向上はなかった。転生先の肉体が異世界の住人のものであればその世界に順応した体で成長できるであろうが、残念ながら俺は元の肉体ごと異世界に転生した。元の世界の肉体であるから身体能力は皆無、魔力も皆無、能力なんかもある訳がなかった。
 
 転生した時の状況は高校のジャージ、ポケットに入っている財布とスマホ。それ以外何もなかった。ほぼ丸裸の状態で異世界転生をした。そんな状態の異世界転生なんてどんな罰ゲームだろうか。異世界転生による女神の案内やシステムの案内、女神でなくても何かしらの者が案内するものだろう普通は。しかし、転生といっても現実。そんな甘いものはなかった。

 ふと気がついたらどこかの野原にほっぽり出されていた。40秒ほど当惑していた気がする。しかし、俺の性格上起こってしまったものは仕方ないとして割とすぐに状況を飲み込めた。その後すぐに高揚感が込み上げ、心臓はかつてないほど早鐘を打ち、ありとあらゆる神経が焼き切れそうな感覚に陥った。

 ここからは、実際に俺たちが体験してきた異世界冒険ものがたりを綴ろうと思う。



★☆★☆



「明日も学校めんどくせ~……なんか今死んだら異世界行けそうな気がするわ。いや行ける。確信している。」


 時刻は23時ちょっと、曜日は金曜。いつもの日課である夜の散歩が今日は少しだけ遅かった。


「アホか。行けるわけないでしょー。例え行けたとしても一瞬で死にそうだけどーww」

「お?俺こう見えて結構強いけど、どうする?やる時はやる男だぞ俺は。ごめんやっぱ取り消すわ。」


 たまたま散歩に着いてきた妹と、何気ない会話をしながら、まだ明るい夜の雑踏を踏み歩く。いつもは家で勉強している彼女だが、今日は休憩したいと言い着いてきたのだ。


「にしてもお前、最近太ってきたんじゃあないか?たまには俺みたいに歩け!歩くのは良いぞ。歩くだけで人は痩せられるし体力もつけられるんだ!」

「ぶっ飛ばすよお兄ちゃん。確かに太ってきたけど乙女に向かって直接太ってるはナンセンス。ってか毎日歩いてるくせに全く体力付いてないじゃん。お兄ちゃんはさ。」


 全くもってその通りであった。俺、天上寺 蒼翠てんじょうじ はるは高校に入学してからこの2年半ずっと散歩している。なのに全く体力が付かないでいる。
 散歩し始めた理由としては170.0cmの身長をもう少し伸ばすことが9割以上の理由であったが、散歩していくうちにいつの間にか日課になり、今では5km以上は散歩している。
 

 「まぁ……走ったりはしてないから体力付かないのかもな……。だとしても、お前は歩け!勉強するのは素晴らしいことだが、学校に通ってるだけじゃあどんどん太っていくぞ。それに、リフレッシュできるしな。」

「はいはーい。どうせ私は太りますよーだ。まぁお兄ちゃんが毎日一緒に歩いてくれるなら考えても良いけどね~♪それに~、夜中じゃなくても女の子一人で歩かせるのはね~……?」

「え、めんどくさ。歩くの遅いじゃんお前。それにお前俺より強いだろ。合気道習ってるじゃん合気道。逆にお前が俺を守れ。」

「うっわ最低。一回理解わからせたがいいかなクソ兄貴。どっちの立場が上だって。」

「暴力反対!というかなんでお前理解らせるなんて言葉知ってんだよ……ハッまさかっそういう性hいででぁあ?!ほっぺた取れる!取れちゃうからぁっ!」


 そう、彼女天上寺 藺草てんじょうじ いぐさといつも通りの言い合いをしていた。俺に対しては暴力的で、よく耳を引っ張られたり太ももをつねられたり足で首を絞められたり、俺が毎回受け手になっている。
 彼女は中学生の頃からほぼ毎日勉強しており、やはりストレスも貯まるのだろう。そのストレス発散相手に俺が選ばれている。それだけでストレスが発散されるのなら、と毎回俺も付き合っている。


 「ね、お兄ちゃん。帰ったら久々に大暴動スラッシュバンカーズやろ?久々にやりたくなってきちゃった。」

 
  俺より少しだけ身長が低い彼女は、そう言うと3歩ほど前に進み、くるりと俺の方に振り返って、セミロングの髪を前に垂らした。その様は、幼い少女を彷彿とさせていた。

 
 「はっ!兄より優れる妹などいないってまた理解《おしえ》てやる!……ゲーム限定で。」

  「なっさけな!情けなさすぎるよお兄ちゃん!もう私の方が強いんじゃない?ゲームでも私に勝てなくなったらいよいよ取り柄なくなっちゃうねw。」

 「君消す。」


 俺は確かに、彼女に比べてほぼ全てが劣っている。唯一勝てるのがゲーム全般と身長ぐらいだろうか。
 だが、そんなことをコンプレックスに感じることは今まで一度となかった。それは、彼女の兄で居たかったからなのか、もしくはただ何も考えていないだけなのか、俺には分からなかった。

 
 「よーしそれじゃあさっさと帰ろ~!今日は徹夜するぞ~!勉強はどうとでもなるし、今日と明日はゲーム三昧だ~!」

「おいおい、俺は徹夜なんかしないぞ。睡眠命だからな。毎日8時間は寝ないと次の日のコンディションが最悪だ。お前睡眠舐めんなよ。」

 「ごめんごめん!でも、少し遅くまでは付き合ってくれても良いでしょ?ここから走ったら……5分ぐらいで着くかな。先行ってるよ~!」

 
 彼女の背中はもう遠く、本気で走っても追いつかなそうだった。


「はいはい、俺も着いて行きますよ。昔からお転婆なやつだよお前は。本当は、勉強するのも辛いだろうに。」


 そして、彼女との約束を守るため。俺も走った。



 しかし俺は、彼女との約束をついには果たすことができなかった。

 人間というものは案外タフだが、死ぬ時はあっけなく死ぬ。自分は死なない、絶対に生き残る。と確信していても、あっけなく死ぬものだ。

 気づいた時には既に体が吹き飛ばされいた。街頭の光が視界の端に写り、そのまま引き伸ばされ光が餅のように伸びていく。自分の時間も、また伸びていく。何かを考えることも疑問を持つこともできず、そのまま────────────────────。

 ごめんな、藺草。



★☆★☆



 「ぁ……?どこだここ………。俺……どうなったんだっけ………?あ、死んだのか………俺。そしてここは………別の世界線なのか……異世界なのか。」


 突然未知の地にほっぽり出された俺は、かなり冷静であった。いや、理解できなかったからこそ何も考えることができず、冷静もどきであったのだろう。しかし、前述した通り、俺は起こってしまったことは仕方がないとして、すぐに呑み込むことはできた。
 
 風が吹いている。風により白い雲が空を漂流し、自在な形で空を楽しんでいる。鳥が飛んでいる。風の流れに誘《いざな》われるように、必死に飛んでいる。草花が踊っている。果てしなく続くこの草原は、異質な俺を怪しくも受け入れている感じがした。


 「やっべ、めっちゃワクワクしてきた。絶対これ異世界だろ!こんな景色異世界にしかないだろぉ!ふぅっはっはっはっ!!俺は、やったんだあああああああ!フゥアッハッハッハッハッハァァァァァア!!!」


 間違いなく、前世の自分を超えた笑いをしただろう。人っこ一人いない草原で、誰も責め立てる者がいない。このような状況は初めてだった。俺だけがこの舞台に相応しい。そう、確信していた。
 だが、そんな高揚感も一瞬で消え去る。彼女を置いてきてしまった罪を、忘れることなんてできなかったのだから。


 「約束。守れなかったなぁ………。あいつ一人にしてしまった。ごめんな……ごめん。許してくれ………。藺草ぁ……。」


 誰も聴いてくれない、だけど受け入れてくれるこの場所で、俺は本当に久しぶりに泣き、懺悔した。
 
 俺が11歳の頃、両親が心中してしまった。理由は、わからない。考えたくもないし知りたくもなかった。俺たち2人……いや藺草を置き去りにした両親を、一生許すことができなかった。


 「いや……まだほんの少し未来にタイムスリップしたとか、違う人物に乗り移っただけだとか、死んだと思ったけど能力が発動して別の場所に超速移動しただけだとか……可能性はある。ひとまず……自分の格好は……。」


 すぐに違う人物に乗り移ったという可能性は消え去った。なぜなら格好は俺の高校のジャージで、ポケットには俺のスマホと俺の財布が入っていたから。



 「川があれば自分の姿を確認できたり川に沿って進むこともできるんだが……。仕方ない。ひとまず、寝るか。」


 寝るしかなかった。全くの未知の地でローミングするなんて自殺行為に他ならない。それに、異世界だった場合はモンスターとかに襲われるかもしれない。そんな中での選択肢は、人が来ることを信じて寝るだけだ。



 「今何時なんだ……スマホだと………10時か。合ってるかわからんが、まぁ、大きく外れてる訳でもなさそうだな。さて寝るか……………ッ!!!?」



 大地が揺れた、風で踊っていた草花がみんな怯えている。地震ではない、間違いなく何かが進撃している音だった。そして、異世界だと確信した。だって、何百mも先にそびえ立っている崖の裏から30mは超えている巨人が、現れたのだから。



 「冗談じゃあねぇぞ……!本当に異世界じゃないかここは!クソっ!森まで間に合うかっ!?」


 疾走《はし》った。森が俺を護ってくれそうだった、だから疾走った。今度は死なない為に。


 「間に合った……地面が揺れすぎて転ぶところだった……。にしてもなんであんな化け物が急に………。あの崖が巨人の住処なのか……?」


 灰色の肉体に逞しい筋肉。二つの目に、鼻、口。2本の腕と2本の足に、そして10本の手指に10本の足指。外見の肉体は完全に人間と同じ構造だろう。
 巨人は、草原の真ん中で止まり、そして、叫んだ。風が怖気付いた。木々が悲鳴をあげた。しかし、草花は怯えているのに間違いなくそこで雄々しく生きていた。


 「おいおい……鼓膜が破れるっ……。頭が痛てぇ……。これは、見つかったら間違いなくデッドエンドだな………。早くどっか行ってくれ頼む………。」


 俺の生存への微かな叫びは、違う形で届いた。


 しかし、先ほどより頭痛が酷くなり、頭が割れる寸前だった。その理由は……。



 鈍い金属の叫び声を聴いた。衝撃波により風が泣き叫び、草花はついには死んでしまった、根こそぎ吹き飛ばされ、一瞬のうちに焼塵と化していた。しかし木々は、生きていたのだ。俺を護るかのように勇々しく立ち、力強く自らの幹《からだ》を揺らし、波に耐えていた。
 
 轟音の原因は音速だ。何かの物体が音速で駆け抜ける時、周囲の物は吹き飛び、焼け、不快な音を発し生物を壊す。そしてこの金属音は剣の一閃によるものであった。


 「あ……あぁぁぁ!!痛てぇ!頭が!!!割れる!!耳が壊れる!!!熱い!耳が熱いぃ!!誰かぁ!この音を止めてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 俺の願《さけび》がまた届いた。すぐに、音は消えていった。だが、次はまた再び大地が揺れた。木々の葉っぱが大量に落ちた。しかしこれも、すぐに収まった。何かが倒れたんだろうか。その問いは、すぐに答えが出た。

 巨人は、大量の血を吹き出して草原に倒れていた。


 「なんで倒れて………、んぁ……?誰だあれ………金髪ロングしかわからないな……。しまった!助けを求めないと!!」


 巨人を倒したであろう人間の元へ急いで走った。しかし、木の根っこで数回転び、森は俺を離そうとしなかった。いや、護ろうとしてくれたのだろう。だけど俺はそれに気づくことができず、裏切るような形で森を離れていった。


 「クソっ……血が気持ち悪い……。だけど今はあの人の元へ走らなければ………!おーい!そこの人~!助けて欲しいんですが~!!!」


 その瞬間、俺の体は急に支えを失うように、重力に従い倒れていった。


 「あ……?え?あっ…………?あががががががが!!!!痛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 膝から下が、なかった。それしか認識できなかった。他のことなんて、考えることはできなかった。ただ、痛い。痛いだけ。


 「私の領域に無断で踏み込むのか、普段なら首を落としているところだが、貴様の格好は少し妙だ。拷問していろいろ吐き出させてやろう。」

 「いぐ…………さぁ──────────。」



 そして、次第に視界が真っ暗になっていった。藺草に、再び届きもしない懺悔をしながら、そのまま堕ちた。
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