本当に欲しかったもの

ざくろ

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温かい食事、暖かい団欒

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 小学生になってから、ピアノと習字を習い始めた。特別楽しいと思えることもなかったが辞めたいと思うきっかけもなく、長く続いた。五年生からは塾に通い始めた。時間に追われがちな夕方。我が家には、父の定めた「朝晩は家族全員揃って食べる」というルールがあった。
 夕食の時間、私は空気になる。
「今日は学校で〇〇をして、〇〇だった。」
 兄が言う。両親が笑顔で声をかけて褒める。そこに私はいない。
「この料理なに?どうやって食べるの?」
 父が言う。母が答える。怪訝そうな顔で食べ進める父。味覚に鋭い兄が母にフィードバックをする。私は味の違いがよくわからない。黙って様子を伺い食べる。
「職場の人が〇〇でさ~。もう本当に大変!」
 母が言う。父は話半分うわの空。それでも一人話を進める。
 家族の団欒の時間、品数の揃った食事。情報量の多い食卓、感情のサラダボウル。この食卓のメニューに、私への思いやりは含まれていない。私はごはんに集中できないでいる。後につかえる習い事、私の登場しない会話。誰も私に話を振ることはない。ただ同じ時間を過ごしているだけ。それでも、家族が揃う食卓という事実に父は満足げな表情をする。ここに、私の居場所はあるのだろうか。目線を落とした先にあるのは、ふくろうのいない箸。折れてから母が用意したであろう、何の趣もない箸。
 いつからか、私はごはんを味わうという考えを捨てた。どうせ私は空気だから、とにかく早く食べて、自室に戻るか、習い事に行く用意を始める。父の放つ不満げなオーラは気づかないふりをする。あなたが私を無視するように。
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