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その6

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 ……くだらない?
 王子が好きで、会いに来ていた女の子が?

 私のことなど二の次で、その言葉自体に『怒り』という感情を思い出しました。


「王子を好きな人が、くだらないというんですか」
「ええ、そうです」


 彼はそう言って、トンと人差し指で肘を叩く。


「恋は! くだらなくなんてありません!」


 場所が変わったことで気を配る必要もなく、声を張り上げた。

 王子は少し驚いたように目をまん丸くさせる。


「人を好きなことは! 素敵なことです!」


 食らいつくようにそう続けると、彼はぱちくりとまばたきをした後プッと吹き出した。 


「な、なぜ笑うんですか!」


 人が真面目な話をしている時に!

 王子は声を出してけらけら笑ってから、また私の頭に片手を置く。
 それだけで、顔に熱が集まった。


「お前、犬みたい」
「はい?!」
「ほら、お手」


 この人は私をバカにしているんでしょうか!
 いえ、確実にバカにしていますね!

 差し出された片手をぺいとはねのけ、頭上に置かれていた手も振り払う。


「犬じゃありません!」
「わんわんうるせぇ」
「なっ……!?」


 わざとらしい敬語がなくなると、途端に口の悪さが目立つ王子(仮)。

 あの喋り方はカモフラージュですか! 


「あと、王子って呼ぶのやめてくださいね」
「でも、」
佐伯さえき


 名前を知りませんと言いかけた時、王子の声が重なる。


佐伯彗さえきけい


 さえき、けい……くん。


「も、森中もりなか彩花あやかです」
「彩……」


 ぽつり、呟くように呼ばれた名前。
 どきり、跳ねる心臓。


「じゃあ、彩。僕に、その『恋の素晴らしさ』とやらを教えてください」


 ふわり、咲く微笑み。


「ずっとそばにいて……僕を、恋に落としてみせて?」


 そう続けた……佐伯、くん。 
 告白にも似たその言葉は、


「……宣戦布告、ですか?」
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