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第54話 役立たず
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「花屋を処刑するのじゃ!!」
女王は怒り心頭の様子でそう言い放つ。
(……処刑? 花屋を……?)
待ってくれ。どうかいつものように、感情的になって咄嗟に口走っただけの台詞であってほしい。
(……駄目だ……花屋は、)
あいつはこの国で唯一……俺を特別扱いせず、怖がらず、いつも『普通』に接してくれる……とても大事な、友達なんだよ。
それを、よりにもよって俺のこの手で処刑しろと言うのか?
そんなこと、したくない。
(……違う、違う違う! わかってる……!)
そう、言われなくても最初からよくわかっている。
俺には――女王の命令に抗うことも、反論することも……何もかも、許されてはいないのだと。
「……わ、かり……ました……」
情けないことに、必死で絞り出した声は震えていた。
(……駄目だ、泣くな。感情は殺せ、何も考えるな……何も、)
歯を食いしばり必死に感情を押し殺している俺を見て、黒ウサギは楽しげに赤い目を細めつつ片手をあげる。
「はいはーい、女王陛下。少しよろしいですか?」
「うるさい! 何じゃ!?」
「誠に残念だけど、花屋を今日これからすぐには処刑できませんよ」
「知ったことか……!! どうにかせよ!!」
「それが、どうにもならないんですよねー……ランク持ちを処刑する時は、対象が持つ『ランク』の日数だけ待たなければならない。ね? ルールは守らなきゃ」
「~~っ!!」
「あははっ、僕のランクだったら明日には処刑できたのに。残念でしたね、女王陛下」
(……ランクの、日数……)
花屋のランクなら、処刑するまで『十日』の猶予を設けなければならない。
つまり……あと十日間、足掻くチャンスがある。それだけあれば、どうにかできるかもしれない。
しかし、
「……キング。命令は命令じゃ、決して忘れるな。これに背くことは『ルール』が許さぬ。たとえ……キングがそこの愚か者と友人関係であろうとも、『ルール』は何も変わらぬぞ」
「……っ!?」
俺のそんな甘い考えを見透かしたように、女王は低い声で釘を刺してきた。
(……何で、女王陛下が……?)
ずっと隠し通してきたはずなのに、彼女がどうして俺と花屋は友人関係であると知っているのか……それは、黒ウサギのにやけヅラを見れば簡単にわかる。
(……っ、この……クソウサギ……っ!!)
誰かにこれほど強い怒りを覚えたのは、生まれて初めてかもしれない。
「私のキング? 貴様はもう一つ、大切な事を忘れておるじゃろう?」
椅子から降りて、赤い絨毯の上をゆっくりとした足取りで進み、こちらへ歩み寄る女王陛下。
彼女は俺のすぐ隣で立ち止まり真っ直ぐに瞳を見据えると、口元に弧を描いて歌うように言葉を落とした。
「……私以外の『誰か』に気を移したら処刑すると、最初に教えてあげたというのに」
「……っ! でも、それは……」
「おや? おかしい……キングは、クイーンに口答えをする気か?」
嘔吐感が凄まじくて、胃の中にあるものを全て吐き出してしまいそうになる。
言葉も、感情も、全て。
「……っ、全て……女王陛下の、仰る通りです」
「ふふっ、そうじゃろう? 私がせっかく忠告したというのに、花屋に気を移したキングが悪いの。友情も愛情も関係ない、『浮気』と名が付く同じもの……私の言っていることは、何か間違っておるのか?」
「……女王陛下のお言葉は、正しいです」
「さすがじゃ、キング。物分かりの良い子」
背伸びをした女王はとても上機嫌な様子で俺の頭を撫でてから、笑顔のまま改めてこう告げた。
「キング、花屋を処刑せよ。そのために……これから十日間、地下牢に幽閉しておくれ? わかったら、返事は?」
「……はい」
***
花屋の両腕に手錠をかけて、地下牢へ連行する。
「……」
その間、花屋の顔を見ることも、声をかけることもできなかった。
いや、違う。今、俺は……どんな顔をすればいいのか、何と言葉をかければいいのか。
どうするべきか、わからない。
「なあ、キング」
二人分の足音が小さく響くコンクリートの箱の中で、澄み渡る空のように綺麗な声が鼓膜を揺らした。
「……何だ」
「一つ言っておきたいんだが……あのさ、お前……罪悪感とか、そういう余計なものは一切覚えなくていいからな」
それは、とても落ち着いた物言いで。足を止めてゆっくりとそちらを見れば、緑の瞳が俺を映す。
どこか居心地の悪さを覚えて目を逸らそうとした瞬間、花屋は太陽のようにあたたかい微笑みを浮かべて見せた。
「……っ、」
なあ、花屋。お前は、どうして笑っていられるんだ?普通なら、俺を恨むだろう?
何も手を貸してくれない無能だと蔑んで、信じてたのに最低だなと罵倒して、お前のせいでこうなったんだと嫌えばいい。
なのに、
「大丈夫だ、キング。お前は何も悪くない。俺は、ちゃんとわかってる」
駄目だ、駄目だ……感情は殺せ、殺すんだ。
自分の意思だの、心だの。足枷になるだけのそんなものは、全て、
(こんなもの、全部……)
こんな風に苦しむのなら、感情なんて知らないままでいたかった。
心なんて、欲しくなかった。
「……ごめ、ん……ごめん、花屋……俺が……俺が、もしも……っ」
「……キング、泣くなよ。俺は、お前にそんな顔をさせたくて言ったわけじゃないんだぞ?」
花屋はそう言って、俺の頭を撫でてくる。
「謝らなきゃいけないのは俺の方だ。キング、ごめんな……お前を、信じてやることしか出来なくて」
(違う、花屋……っ、違うだろ……謝らなきゃいけないのは、俺だけだ……俺のせいでこうなった……!)
もしも――俺が、王様なんかにならなければ。
俺にも、発言の自由があれば。
(……もしも、)
俺が――お前と友達になんて、ならなければ。
(……そうだったら、良かったのに……何で、俺は……)
役立たずの王様だねと、誰かが俺を指さして笑っていた。
女王は怒り心頭の様子でそう言い放つ。
(……処刑? 花屋を……?)
待ってくれ。どうかいつものように、感情的になって咄嗟に口走っただけの台詞であってほしい。
(……駄目だ……花屋は、)
あいつはこの国で唯一……俺を特別扱いせず、怖がらず、いつも『普通』に接してくれる……とても大事な、友達なんだよ。
それを、よりにもよって俺のこの手で処刑しろと言うのか?
そんなこと、したくない。
(……違う、違う違う! わかってる……!)
そう、言われなくても最初からよくわかっている。
俺には――女王の命令に抗うことも、反論することも……何もかも、許されてはいないのだと。
「……わ、かり……ました……」
情けないことに、必死で絞り出した声は震えていた。
(……駄目だ、泣くな。感情は殺せ、何も考えるな……何も、)
歯を食いしばり必死に感情を押し殺している俺を見て、黒ウサギは楽しげに赤い目を細めつつ片手をあげる。
「はいはーい、女王陛下。少しよろしいですか?」
「うるさい! 何じゃ!?」
「誠に残念だけど、花屋を今日これからすぐには処刑できませんよ」
「知ったことか……!! どうにかせよ!!」
「それが、どうにもならないんですよねー……ランク持ちを処刑する時は、対象が持つ『ランク』の日数だけ待たなければならない。ね? ルールは守らなきゃ」
「~~っ!!」
「あははっ、僕のランクだったら明日には処刑できたのに。残念でしたね、女王陛下」
(……ランクの、日数……)
花屋のランクなら、処刑するまで『十日』の猶予を設けなければならない。
つまり……あと十日間、足掻くチャンスがある。それだけあれば、どうにかできるかもしれない。
しかし、
「……キング。命令は命令じゃ、決して忘れるな。これに背くことは『ルール』が許さぬ。たとえ……キングがそこの愚か者と友人関係であろうとも、『ルール』は何も変わらぬぞ」
「……っ!?」
俺のそんな甘い考えを見透かしたように、女王は低い声で釘を刺してきた。
(……何で、女王陛下が……?)
ずっと隠し通してきたはずなのに、彼女がどうして俺と花屋は友人関係であると知っているのか……それは、黒ウサギのにやけヅラを見れば簡単にわかる。
(……っ、この……クソウサギ……っ!!)
誰かにこれほど強い怒りを覚えたのは、生まれて初めてかもしれない。
「私のキング? 貴様はもう一つ、大切な事を忘れておるじゃろう?」
椅子から降りて、赤い絨毯の上をゆっくりとした足取りで進み、こちらへ歩み寄る女王陛下。
彼女は俺のすぐ隣で立ち止まり真っ直ぐに瞳を見据えると、口元に弧を描いて歌うように言葉を落とした。
「……私以外の『誰か』に気を移したら処刑すると、最初に教えてあげたというのに」
「……っ! でも、それは……」
「おや? おかしい……キングは、クイーンに口答えをする気か?」
嘔吐感が凄まじくて、胃の中にあるものを全て吐き出してしまいそうになる。
言葉も、感情も、全て。
「……っ、全て……女王陛下の、仰る通りです」
「ふふっ、そうじゃろう? 私がせっかく忠告したというのに、花屋に気を移したキングが悪いの。友情も愛情も関係ない、『浮気』と名が付く同じもの……私の言っていることは、何か間違っておるのか?」
「……女王陛下のお言葉は、正しいです」
「さすがじゃ、キング。物分かりの良い子」
背伸びをした女王はとても上機嫌な様子で俺の頭を撫でてから、笑顔のまま改めてこう告げた。
「キング、花屋を処刑せよ。そのために……これから十日間、地下牢に幽閉しておくれ? わかったら、返事は?」
「……はい」
***
花屋の両腕に手錠をかけて、地下牢へ連行する。
「……」
その間、花屋の顔を見ることも、声をかけることもできなかった。
いや、違う。今、俺は……どんな顔をすればいいのか、何と言葉をかければいいのか。
どうするべきか、わからない。
「なあ、キング」
二人分の足音が小さく響くコンクリートの箱の中で、澄み渡る空のように綺麗な声が鼓膜を揺らした。
「……何だ」
「一つ言っておきたいんだが……あのさ、お前……罪悪感とか、そういう余計なものは一切覚えなくていいからな」
それは、とても落ち着いた物言いで。足を止めてゆっくりとそちらを見れば、緑の瞳が俺を映す。
どこか居心地の悪さを覚えて目を逸らそうとした瞬間、花屋は太陽のようにあたたかい微笑みを浮かべて見せた。
「……っ、」
なあ、花屋。お前は、どうして笑っていられるんだ?普通なら、俺を恨むだろう?
何も手を貸してくれない無能だと蔑んで、信じてたのに最低だなと罵倒して、お前のせいでこうなったんだと嫌えばいい。
なのに、
「大丈夫だ、キング。お前は何も悪くない。俺は、ちゃんとわかってる」
駄目だ、駄目だ……感情は殺せ、殺すんだ。
自分の意思だの、心だの。足枷になるだけのそんなものは、全て、
(こんなもの、全部……)
こんな風に苦しむのなら、感情なんて知らないままでいたかった。
心なんて、欲しくなかった。
「……ごめ、ん……ごめん、花屋……俺が……俺が、もしも……っ」
「……キング、泣くなよ。俺は、お前にそんな顔をさせたくて言ったわけじゃないんだぞ?」
花屋はそう言って、俺の頭を撫でてくる。
「謝らなきゃいけないのは俺の方だ。キング、ごめんな……お前を、信じてやることしか出来なくて」
(違う、花屋……っ、違うだろ……謝らなきゃいけないのは、俺だけだ……俺のせいでこうなった……!)
もしも――俺が、王様なんかにならなければ。
俺にも、発言の自由があれば。
(……もしも、)
俺が――お前と友達になんて、ならなければ。
(……そうだったら、良かったのに……何で、俺は……)
役立たずの王様だねと、誰かが俺を指さして笑っていた。
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