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二章 エルフの森

18話

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アリアは俺に言った。

「まだ俺は強くなれる」と。

「聞かせてくれ」
俺は濡れた顔を拭いながら聞いた。

「この世には魔力が存在する」

アリアは言い切った。たしかに日本には存在しないものだ。

「セツが感じている限界は人の肉体としての限界だ。個人差や種族によっての差異こそあるが骨格や構造によって、動きや最大出力に制限が生じる」

確かにその通りだ。関節は反対には曲がらないし、筋肉量にも限界がある。腕をいくら羽ばたいても鳥のように羽ばたくことはできない。

「魔力はそれを凌駕すると?」

アリアは口元に笑みを浮かべて頷く。

「魔法がいい例さ。人には本来できないことを可能とする。」

「俺は魔法が使えない」

「ああ、使えない。だが魔法の源となる魔力はセツの体内にも存在する。魔法は精霊の力を借りて具現化しているに過ぎない」

そういうとアリアは俺の胸元へ手を当てて目を閉じる。
何かを探るように数秒黙り込んだ後ゆっくりと目を開ける。

アリアと目が合い俺の胸が高鳴る。そして期待を込めてアリアの言葉を待つ。

「うん。あるね。ヒューマンの平均値といったところだろう。だいぶ奥に潜んではいるが確かにある」

つまり、俺はまだ強くなれる。
おれは自分で自分の胸に手を当てて、目を閉じた。だが何も感じないし、変化もない。

「俺はどうすればいい?」

「『魔纏まてん』を習得しな。」

「魔纒?」

「魔力を肉体に纏ってまとって戦う技をそう呼ぶんだ。肉体が持つ力と魔力が相乗し、人としての枠組みを超えた所業を成す」

「例えば何ができる?」

「水破斬が切れる」

俺は素直に驚いた。

あの技が切れる?大銀狼を一瞬で両断したあの技を?俺は躱す手段すら見つけていない。

だが、アリアの目は真剣そのものだ。
俺を励ますためのでまかせを言っているとは思えない。

「私が魔道の使い手に会ったのは一度きり。だがこの目ではっきり見た。そして、その使い手に私は尋ねた。『その技は何だ?』と」

俺は唾を飲み込んだ次の言葉を待った。

「『我欲を張れ。それが魔道を拓く』。そう叫んで勝ち逃げしていったよ」

「なんとも要領を得ない言葉だな」

「だね。だが、お前が私に勝つ術は確かに存在する」

アリアはニカッと笑った。
この笑顔を信じよう。



―――「話は終わったか?さて、湿っぽい話は終わりにしよう。今日は宴だ」
アルクが俺の肩をポンと叩いて言う。

クルクは空になった俺とアリアのコップにエールを注いだ。

二人は俺とアリアのやり取りを静かに見守ってくれていた。

改めて乾杯をし、一斉にコップに口をつけ、エールを乾ききった喉へと流し込む。

ングッ グッグググ

「ぷっはぁぁぁぁ」

俺たちは4人ともエールを一気に飲み干し、わざとらしく感嘆の声を上げた。

その日は前の晩より遅くまで飲み明かした。

飲んでいる最中、アリアはふいに顔を近づけ耳元でささやいた。

好きな女をモノにすること。それも我欲だと。
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