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二章 エルフの森

20話

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「良い支援アシストだったろ?」

アルクがどや顔で俺に手を差し伸べる。

「俺に刺さるところだったよ」

「想定では頬を多少えぐる計算だったんだ。」

俺は苦笑いでアルクの手をとって立ち上がり、アルクと抱擁を交わした。

「見事だ。セツ」
アルクは俺を強く抱きしめながら言った

「助かった。最高のタイミングだったよ」

そしてククリ刀じゃなければこうはいかなかった。

アリアの言う通り、俺は自分の限界を感じていた。
自分はこれ以上なところまで強くなっていて、あとは力をふるうだけだと。武昌様に尽くすだけだと。
日本にいるときからそう感じていた。

違うのかもしれない。
魔纏の取得以前にまだやれることはあるのかもしれない。
連携、そして新たな武器。10分にも満たない戦いで伸びしろを見つけた。
極めなければいけない。極める前にあきらめてはいけない。

そして、この世にはモンスターがいる。大銀狼、大牙猪以上の力を持つものや魔法も持つものもいるという。未知の驚異と例えようのない緊張感は俺の精神をさらに高めてくれるだろう。

「お前はまだ強くなれる」

俺はアルクを抱きしめながら、アリアがくれた言葉を心の中で反芻していた



「なんだ。アリアは諦めたのか」

大牙猪を倒した直後に到着しておきながら、抱擁する様子をしばらくの間見つめていたクルクが言った。


――――夜になり、お決まりの宴が始まった。

俺はいつも通り、アルクとクルクとともに座り、エールを飲み始めた。

が、そこにルシアが加わった。

「ご一緒していいですか?」


そう言って、ルシアは俺の対面に座る。
いつもならアリアが座る位置だが、所用から戻ったアリアは疲れたから寝るといって宴には参加していなかった。

ルシアは、初日の宴の夜にアリアが「集落一番の美人」だと紹介してくれた女性だ。

肌は透き通るように白く、濃く澄んだ藍色の瞳が映える。
他のエルフ同様に美しい顔立ちには違いないが、ルシアにはどこかあどけなさが残る。
元気いっぱいの子犬のような笑顔は多くの男の本能をくすぐる。

4人で他愛のない話をしている間も男たちからの視線が痛い。

一人の男が近づいてきてルシアを誘ったが、ルシアは「今は楽しく話してるから」と断った。
もう少し、かまってやってもいいんじゃないかと思ったが、ルシアの言動は清々しいすがすがしい。あざとらしさがなく、キツさもない。
ルシアは老若男女問わず、集落の皆に愛されていた。


「やはりアリア様が良いですか?」

ルシアは脈絡がない問いを口にした。

クルクに向けられた言葉かと思ったが、
藍色の瞳は俺を捉えている。

初日の俺の発言のことだろうか。

「あの時は、せっかく来てもらったのに本当に申し訳なかった」

「気にしてません。それに申し訳ないと言うのであれば質問に答えくれませんか?」

ルシアは真剣だ。気にしてないというのも本当だろう。怒ってはいない。なんとなくそう感じる。

「ルシアと話すのは楽しいよ。だが、アリアはどうしているかと気になっている自分がいる。態度に出ていたならすまない」

「アリア様が好きですか?」

「あぁ、大好きだ」

ひゅーっ
アルクが小さく口笛を吹いて軽くおちょくる。

はぐらかしてもルシアは同じように追求してくるだろう。そして隠す必要もない。

「私では駄目ですか?」

一瞬、何を聞かれているのかわからなかった。

「私をセツさんの女にしていただけませんか?」

ぶほっ ごほっごほっ

ルシアの言葉に驚いたのか、エールを飲んでいたクルクが大きな咳をする。むせたのだろう。

「セツさんが好きです。私じゃ駄目ですか?」

うぉおおおおおおおおおおおーーー

クルクの咳で注目を集めたせいか、広場にいた殆どのエルフがその発言を聞いた。

「セツはアリア様狙いじゃないのか?」
「いつの間にルシアに手を出してたんだ?」
「ルシアぁぁぁ~」

外野が騒ぎだす。

「私じゃ駄目ですか?」

ごほっごほっ
クルクの咳は止まらない。

外野もクルクもお構いなしにルシアは黙って俺の答えを待っている。

「言ったろう?俺はアリアが好きだと。他の女のことは考えられないんだ。駄目とか良いとかの問題じゃない。だいたい、アリアは20歳そこそこだろう?俺は32だぞ!?」

「今年で22歳になります。420歳を口説いたセツさんがそれ言います?」

正論だ。

「アリアさんが大好きなことはわかりましたが、年齢を理由にうやむやにするのはやめてください」

ルシアは少しムッとした様子で訴える。そしてすぐに可愛らしい顔に戻り、言葉を続ける。

「セツさんが大好きです。それが言えただけで今夜は十分です」

ルシアはそう言うと小屋の方へと去っていった……



「お前の妹は度胸があるな。見なしたよ」
アルクが気まずそうな顔をしたクルクに言葉をかける。

クルクとアリアは兄妹だった。
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