上 下
48 / 50
三章 ブーガを狩る娘

48話

しおりを挟む
私はハーフ・ブーガだ。

ルーテのように攫われた女から生まれた。
早熟であるブーガの血のせいか、生まれた直後の記憶がある。女は私を抱え洞窟を駆け抜けた。追手のブーガの足音が迫る中、必死で。

そして、洞窟を流れる水路に私を投げ入れた。

川のほとりで教会のシスターに拾われて、孤児として育てられた。成長が著しく早かったことが幸いした。忌々しい尻尾が生える前に一人で下級モンスターを狩れるレベルには成長し、教会を去った。

ブーガと遭遇するたびに血が騒いだ。一匹も狩らない日が一日あるだけで、とても苛ついた。そういう日はエールを浴びるほど飲んだ。

次第に、そういう子供騙しも効かなくなり
ブーガしか狩らなくなった。

セツと出会ってからの日々はとても楽しかった。

私を魅力的だと言った。同時に口説かないと約束した。そんなことを言う男は初めてだった。

セツは誰よりも強さを求めていた。そして、自分よりも遥かに若い私に対し素直に
教えを請い、貪欲に成長していった。

強くなったセツのおかげでわかったことがある。自分の衰えだ。考えてみれば当然だ。早熟である代わりに私は短命だったんだ……

その衰えを感じたのはセツがハイブーガを倒した時。その直後から私は恐れていた。

いつか、ブーガを倒せなくなる日を。

私に流れる血は、ブーガ玉ほどではないが、あいつらを引き寄せる。戦いから身を引いたところでブーガとの関係を断つことはできない。

いつか、ブーガの道具にされる。それがとても怖かった。ならば、ルーテのように誇り高く死にたい。

「貴女は好きな人と一緒になってね」

ルーテの言葉で気づいた。私は女だったのだと。誰かに愛されたかったのだと。好きな人と添い遂げたかったのだと。

セツへの恋心が芽生えてることにも気付いた。なぜ、初めてのキスをあの時したのかも。

今まで、出会った男たちはセツとは比べ物にならないほどくだらない奴らばっかりだった。

「ブーガの気持ちもわかるよなぁ」とかほざくやつもいた。

私は、咄嗟にそいつの耳を切り裂いた。
バランスが悪いように見えたので、もう一つも落としてやろうとした時、男は悲鳴を上げ騒ぎ出した。顔を思い出せるのはその男ぐらいである。

祝いの宴で飲んでいるとき、セツに惹かれた理由を頭の中で整理してみた。

ブーガを一緒に倒してくれる。戦いが好き。私を口説かない。エールが同じくらい飲める……それくらいしか無かった。

なんとも浅い恋だと思えた。それきしのことで男を好きになったのかと。
だが、おかげで確信した。私はセツを好きだと。

残された時間をどう過ごすべきだろうか?

すべてを打ち明けたらセツは私を守ってくれるかもしれない。私はブーガに襲われることなく、天命を全うできるかもそれない。

だが、セツの重荷となるのは嫌だった。
セツの負担になるのはごめんだ。

私はセツの良い思い出となりたい。

セツが望むこと。それは強くなること。誰よりも強くなること。セツは魔纒を使えるようになった。属性付与も使えるようになった。

だか、“使える”だけだ。上には上がいる。

魔纒を使えるようになる過程は人それぞれだ。だが、全ての起点は欲にある。常識や他人との協和から脱した“我欲”にある。

私はブーガの撲滅を願い、セツは強さを望んだ。

それはヒューマンにとって悪いことではないだろう。ただ、強い我欲は法から逸れがちだ。何かを破壊したい。だれかを殺したいと言うように……

ゆえに、魔纒使いには罪人が多い。罪人ほど強い。

セツが魔纒使いである限り、そういった者たちとの関わりは避けれない。セツは早く強くならなくてはならない。

だから、私は糧になろう。
セツの強さの一部となろう。

そして、セツは強くなるたびに思い出す。
ブーガを狩る娘のことを……
しおりを挟む

処理中です...