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「おぉ!マーガレット・・・・・・、ミルフィーユ、ここにいたのか。
王太子殿下、ガナッシュ君、この度は巻き込んでしまって申し訳ない。」

「いえ、構いませんよ?
ただ、言葉が通じずに困ってはおりましたが...きちんと説明しても理解してくださらなくて、どうしようかと思っておりました。」

「えぇ、フィーユの愛する姉君を守ることも私の義務であり権利ですから。」

お父様とお母様も無事に到着されましたのね。
馬車には定員がございますから、両親とは馬車が違いましたのよ。
それにしても、お父様?お姉様の名前を呼ぶときに強調なさるのは、グリスフィルドのご子息様への当て付けかしら?
あぁ、お母様、どうかその扇は使わないでくださいませね?
いえ、表情を隠したりなどの通常の使い方であればよろしいのですけれど、どうかもう1つの使い方は慎んでくださいませ。

「さて、うちの可愛いマーガレット・・・・・・を、脅迫や権力などを用いて強引に婚約者としておきながら、このような衆目のある夜会で堂々と不貞ですか...グリスフィルドのご子息は、まだ子息であるというのに随分と偉くなったものですなぁ?

そちらのご令嬢と腕輪を揃いとしているようですが...どうやらその腕輪は、マーガレット・・・・・・とも揃いのようですねぇ?
婚約の段階で愛人など認める筈はないのに、その腕輪は何故そのご令嬢の腕にあるのでしょうか?
そもそも、婚約者であるマーガレット・・・・・・の名前もきちんと覚えていないようですし、この婚約は是非とも破棄することにいたしましょう。
いやぁ、諸々破棄に足る証拠を集めていたのだが...このように堂々となさっていただけて本当に助かりました。
どうも、ありがとうございました。」

お母様、自信満々に振る舞う格好よいお父様に見惚れるお気持ちは分かりますけれど、もう少し後にしてくださいませ。
恋する少女のようで可愛らしいのですけれど...場違いですわよ。

そしてお父様ったら、グリスフィルドのご子息様のことを随分と煽りますわね。
顔を真っ赤にして、お父様に怒鳴りつけたいご様子ですけれども、何も言い返せないわよね...腕輪やお父様、そしてお姉様と私を行ったり来たりする視線でよく分かりますわ。
ご自分で先程仰っておられましたものね、お姉様が夜会に来ないと思っていたのだと...招待されたのはお姉様ですのに、勘違いも甚だしいわ。

「一応、集めておいた証拠を出しておきますわね?
こちら、グリスフィルドのご子息様から本日届きましたの。
ご本人様曰く...先触れ?だったのだそうですけれど、宛先が婚約者であるマーガレットではなく、妹の方のミルフィーユとなっておりますのよね。
婚約者であるマーガレットではなく、その妹のミルフィーユ宛に送られてきた意味が分かりませんのよね。
それに、中身を読んでも意味不明なことしか書かれておりませんのよ。
まるで、ミルフィーユが自分の恋人であるかのように書かれておりますの。
ミルフィーユは、貴方に名前を呼ぶことすら許してはおりませんのに...気持ちの悪いこと。
気持ちが悪くて、読んでから直ぐにでも燃やしてしまいたくなりましたけれど、証拠としてこうして保管しておきましたの。
伯爵様もお読みになられますか?」

「おや、よろしいのですかな?
では、失礼して...読ませていただきます。」

伯爵様ったら、いつの間にお母様の後ろに移動なさっておられましたの?

「ほぅほぅ、たしかに...これは気持ちが悪いですなぁ。
あ、大事な証拠品ですから、お返しいたします。」

気持ちが悪いと言う割には、楽しそうにしておられますわよ?
お母様もなんだか楽しそうに見えますし、追い詰めるのがそんなに楽しいのかしら?
私は不愉快になるだけなのですけれど...まだ子供だということかしら。

「さて、そちらのプディング嬢は...婚約者様はどうされたのですかな?
私は、グリスフィルドのご子息様もプディング嬢のどちらも招待しておりませんが?」

「私、いつも参加しておりましたわよ。」

「婚約者様のパートナーとして...でしょう?
そちらの、グリスフィルドのご子息様も同様だった筈です。
どちらも、私は婚約者様を招待してはおりますが、ご本人を招待したという記憶はありませんから。
さて、お2人はお引き取り願えますかな?」

「そんな?!折角来ましたのに、酷いですわ!」

ドレスをフワッとさせながら座り込んで、まるで悲劇のヒロイン気取りですわね...可愛くも儚くもありませんけれど。
主催なされている伯爵様が招待していないと断言なさっておられますのに、この場に残れる筈がありませんわ。





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