GIVEN〜与えられた者〜

菅田佳理乃

文字の大きさ
17 / 140
定石編

文化祭十日前の畠山京子(13歳2ヶ月)

「来週の土日、文化祭なんです。ぜひ来て下さい」

 今日は岡本門下の研究会。夕食を終えた岡本家のリビングダイニングで京子は皆にB5サイズの薄らと青みを帯びた紙を渡した。

「このチラシ、必ず持ってきて下さいね。入場券になってますから。一枚につき五名まで入れます」

「入場券?こんな紙切れ、コピーすればいくらでも偽造できるだろ」

 三嶋がチラシを受け取りながら、この仕組みの穴を突いてきた。

「残念でした。透かし模様が入ってますし、紙の色を毎年変えているので、複製はほぼ不可能です。お金をかけて複製を作ってでもウチの学校の文化祭に来たいというなら話は別ですけど」

 江田は受け取ったチラシを照明に照らしてみた。京子の制服の胸ポケットに付いている校章のような模様が見える。

「凝ってるねぇ」

「でしょう?」

 江田の感嘆に京子はニコニコと応じた。

 渡されたチラシには文化祭の日程しか書かれてなく、『詳しくはQRコードで』となっていて、三嶋は早速スマホで読み取りホームページにアクセスしていた。

「へぇ。京子の学校は『学園祭』ではなくて『文化祭』なのか」

 京子と歳の近い二人の子を持つ武士沢がチラシを受け取りながら訊ねた。

「はい。理事長が言うには「文化の日にやるから文化祭」なんだそうです」

「今年は文化の日、週末じゃないよな?」

 三嶋のアラ探しが止まらない。

「ええ。なので文化の日に近い土日に開催します」

「受験生からしたら迷惑な時期だな。それでも文化の日に文化祭やるなんて、真面目なの?アホなの?」

 三嶋がさらに悪態をつく。

「この時期になってバタバタするようじゃ、どこを受けても無理じゃないですか?」

「わお。辛辣~ぅ」

「私は今から大学受験の勉強してますから」

「何マウント?」

「マウントではありません。備えあれば憂いなしです」

「覚えたばかりの言葉使いたいだけシンドローム」

「前々から知ってました」

「文化祭の準備、佳境に入ってるんじゃないのか?今日、よくサボれたな」

「サボリじゃないです。初めから話し合いで『対局日と研究会の日は休ませてもらう』と申告してましたし、私以外にも準備を抜けてる人はたくさんいるので」

「ぜってー陰口、言ってる奴いるだろ」

「ウチの学校にはそんな性格の悪い生徒はいません」

 また京子と三嶋が誰も笑わない漫才を始めた。最近は皆この漫才に慣れてしまい、武士沢すらツッコまなくなった。


 文化祭の詳細を見ていた江田が突然手を止め、スマホが眼鏡にぶつかるんじゃないかと思うほど食い入るように見た。

「ねぇ京子。この『棚橋梨々香ソロライブ』って、もしかしてあの『いちごソーダ』の『棚橋りりか』?」

 今人気のアイドルグループだ。姉妹グループに『りんごソーダ』と『みかんソーダ』がある。

「はい!そうなんですよ!高等部の二年生だそうですよ。軽音部とのコラボだそうです」

「洋峰学園の生徒だったの⁉︎」

「私も最近知ったんですよ。文化祭の予行練習を第一体育館でやってたんで、バスケの練習中チラ見してたんですけど、すごいですね!棚橋先輩、歌もダンスも上手くて!」

 京子は立ち上がって『恋ってボン!キュッ!ボン!』を歌って踊ろうとしたら、隣に座っていた江田が京子の左肩を叩いて動きを止めた。その力は京子が思っていたより強く、立ち上がれずにバランスを崩すようにドスンと座った。

「京子。僕、必ず文化祭に行くよ」

「はい!待ってますね」

 京子は、江田が故意に京子が踊るのを止めたのに気づかず、ニコニコしている。江田なら何をしても許せるらしい。

「このチラシで五人までだったね」

 江田が指を折って何やら数え始めた。



 ●○●○●○



 その翌日、京子が学校から帰ると岡本家の玄関に「あきたこまち」と書かれた出荷用米袋が六袋・三俵の新米がうず高く積まれていた。

 米袋に貼られた伝票を見てみると差出人は畠山隆和たかかずとなっていた。京子が「能代のおじいちゃん」と呼んでいる兼業農家の父の実父だ。

 京子は岡本に許可を得て、固定電話から祖父の家に電話をかけた。

「もしもし、こちら警視庁の者ですが。東京に住むお宅のお孫さんがまた暴力事件を起こしまして、相手方が示談に三百万円を要求してきたんですよ。明日までに指定の口座に振り込まなければ………。あ、バレた?おじいちゃん、京子だよ。あはは!さすが引っ掛からないね!お米、届いたよ!ありがとう!……うん。私、すっごい食べるから純子さん、「作り甲斐がある」って。えへへ。うん。おばあちゃんは?……そう、よかった!……え?……ううん、何も。……うん、大丈夫。いじめられてないよ。この私にそんな事する奴がいたら、もうすでに人の形をしてないし。あはは!ねぇ、大樹と晴登は?あーもうちょっと遅く電話すれば良かったー!あ、そうだ!もうすぐ文化祭があるんだ。画像送るから見てね!うん、伯父さんとおばさんによろしくね。じゃあまた電話するね」


 京子は受話器を置くと、テレビを観ていた岡本に電話の内容を報告した。

「能代のおばあちゃん、快方に向かっていて、もうすぐ退院できるそうです」

「おお、そうか。それは良かったな」

「ありがとうございます。純子すみこさーん!このお米、去年と同じように階段下の収納庫に置いておけばいいですか?」

「ええ。お願いできる?」

 一袋三十キロある。足腰の弱った年寄りの身体には無理がある。

「はい!もちろん!じゃ私、着替えてきますね」

 二階に上がった京子を見届けてから、純子が夫に話しかけた。

のお祖父さんも気にされているんですね……。どうにかならないのかしら……」

「京子が望まない限り、無理だろうな」

 岡本家の家電は、キッチンとリビングを隔てている壁際に置かれている。

 京子の電話を盗み聞きしていた二人は無言で目を伏せた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

今日のオツボネさん

菅田佳理乃
大衆娯楽
このお話はフィクションです。あなたの身近にいるおばさんとは一切関係ありません。  (気が向いたら投稿)

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。