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次の一手編
キラキラネームまみれでも「伝統を貫く」か「新風を巻き起こす」か
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今年も5人の女子バスケ部の新入部員がきてくれた。
京子が中1の秋、部員数が5人で、試合のできるギリギリの人数しかいなかったのを思えば、こんなに喜ばしい事はないのだが、上級生は皆、浮かない表情をしている。
洋峰学園女子バスケ部では試合中、味方とコンタクトを取りやすいように、互いをニックネームで呼んでいる。正式入部が決まればすぐニックネームを付ける。呼びやすく、聞き取りやすいように大体、仮名で二文字だ。
ほとんどが「名前を短く」する。中等部部長になった大森詩音は「シオ」。稲川梨花はそのまま「リカ」。副部長になった畠山京子は、京子の京の文字を音読みして「ケイ」だ。
大抵「こう呼んで欲しい」という本人の意思を尊重している。だけど、今年ばかりはそう簡単にはいかないかもしれない事案が発生した。
「飯島凛です」
「上野凛です」
「小野凛です」
「笠原沙羅です」
「片岡紗良です」
入部した5人のうち、3人が「りん」、2人が「さら」と、名前が丸被りなのだ。しかも「仮名二文字」なので略せない。
どうニックネームをつけたらいいのか。上級生、特に部長の詩音は頭を悩ませている。
●○●○●○
「どうしよう、ケイ!なんかいいアイディア無い!?」
昼休み。京子の3年A組に詩音がやってきて、一緒に弁当を広げる。もう優里亜に稽古をつけなくてもよくなったので、教室で食べるようになったのだ。
京子も空になった弁当箱を前に、「うーん」と言ったまま黙ってしまった。京子は前例が無い事には対応出来ない。記憶力はいいが、頭の回転はいい方ではない。すぐにアイディアが浮かぶタイプの頭脳ではないのだ。それは京子自身が一番よく知っている。
「思ったんだけど」
京子が曲げわっぱの弁当箱を片付けながら言った。
「うん。なに?」
詩音が殆ど手を付けていない弁当の上に身を乗り出す。
「私たちが一年生のニックネームを考えてもさ、私たちが呼ぶのは長くても4ヶ月くらいしか無い訳じゃない。だけど一年生同士は部活を引退するまで、約2年半は一緒にいる訳じゃない」
「うん。そうだね」
「だったらさ、一番長く時間を過ごす一年生だけで話し合って決めてもらった方が良いんじゃない?勿論、私たち三年生も相談に乗る」
「それはそうなんだけど!そうじゃなくて、私が悩んでるのは、その先、「何を基準にニックネームをつけるか」ってこと!」
「基準」
「そう!例えば、「名字を略す」とか」
「あ。そっか。それでいいじゃん」
「え?ケイ。今まで気づいて無かった?」
「うん。もう名前を略すって、頭から離れなくて」
詩音が箸を持ったまま固まる。相談する相手を間違えたかもしれない。もしかしたら、学業の成績は残念だけど、時々「神通力か?」と思わせる能力を発揮する梨花の方が相談役にふさわしかったかもしれない。
「……んじゃあ放課後、一年生に名字を略すって提案してみようか」
「うん」
京子がまるで我関せずな返事をし、詩音は弁当を急いで掻き込んだ。
●○●○●○
放課後。第一体育館は修羅場となっていた。
飯島凛は「「イイ」じゃ自分が呼ばれたのかどうかがわかりづらい」と言い、
上野凛は「「ウエ」だけだとただの指示にしか聞こえない」と言い、
小野凛は「「オノ」って斧みたいじゃないですか」と拒否し、
笠原沙羅は「傘じゃないです」と小野凛と同じ理由で拒否し、
片岡紗良は「「肩」に聞こえる」と、
全員部長の提案を蹴っ飛ばした。
「ど、どうしよう……」
詩音がガックリと項垂れる。こんな事に時間を使いたくない。早く練習して、今年の一年生の実力を知っておきたいのに。
「あのさぁ」
空気を読まない梨花だった。
「みんな、「私こういう名前が良かった!」とかある?」
一年生全員首を横に振る。
「この名前、気に入ってます」
「私も」
「じゃあ、みんな、ペットとか飼ってる?」
飯島と笠原は犬、他は猫を飼っていると答えた。
「みんな、自分が飼ってるペットの名前で呼ばれるのはイヤ?」
詩音が慌てる。
(さすがにそれは無いだろ!犬猫の名前で呼ばれるなんて!)
「嫌じゃないです」
「まぁ、他の名前で呼ばれるよりは、いいかな」
「私が名前つけたんで」
と、何故か梨花の提案を、一年生全員受け入れ体制だった。
(うっそーん!犬猫の名前でいいんだ……)
梨花の提案を採用してたった5分。あれだけ難航していた呼び名が即、決まった。
飯島凛は「ハル」
上野凛は「トト」
小野凛は「ムギ」
笠原沙羅は「ルナ」
片岡紗良は「メイ」
あれだけ人間の名前は被っていたのに、ペットの名前は全く被らず、しかもみんな「仮名二文字」の条件をクリアしていた。
「よし!じゃあ準備体操の後、一年生の実力を知りたいので、ミニ紅白戦をやります!」
洋峰学園中等部女子バスケ部部長・大森詩音は部員全員に指示を出しながらこう胸に誓った。
(今度、こういう相談事は梨花にしよう)
と。
京子が中1の秋、部員数が5人で、試合のできるギリギリの人数しかいなかったのを思えば、こんなに喜ばしい事はないのだが、上級生は皆、浮かない表情をしている。
洋峰学園女子バスケ部では試合中、味方とコンタクトを取りやすいように、互いをニックネームで呼んでいる。正式入部が決まればすぐニックネームを付ける。呼びやすく、聞き取りやすいように大体、仮名で二文字だ。
ほとんどが「名前を短く」する。中等部部長になった大森詩音は「シオ」。稲川梨花はそのまま「リカ」。副部長になった畠山京子は、京子の京の文字を音読みして「ケイ」だ。
大抵「こう呼んで欲しい」という本人の意思を尊重している。だけど、今年ばかりはそう簡単にはいかないかもしれない事案が発生した。
「飯島凛です」
「上野凛です」
「小野凛です」
「笠原沙羅です」
「片岡紗良です」
入部した5人のうち、3人が「りん」、2人が「さら」と、名前が丸被りなのだ。しかも「仮名二文字」なので略せない。
どうニックネームをつけたらいいのか。上級生、特に部長の詩音は頭を悩ませている。
●○●○●○
「どうしよう、ケイ!なんかいいアイディア無い!?」
昼休み。京子の3年A組に詩音がやってきて、一緒に弁当を広げる。もう優里亜に稽古をつけなくてもよくなったので、教室で食べるようになったのだ。
京子も空になった弁当箱を前に、「うーん」と言ったまま黙ってしまった。京子は前例が無い事には対応出来ない。記憶力はいいが、頭の回転はいい方ではない。すぐにアイディアが浮かぶタイプの頭脳ではないのだ。それは京子自身が一番よく知っている。
「思ったんだけど」
京子が曲げわっぱの弁当箱を片付けながら言った。
「うん。なに?」
詩音が殆ど手を付けていない弁当の上に身を乗り出す。
「私たちが一年生のニックネームを考えてもさ、私たちが呼ぶのは長くても4ヶ月くらいしか無い訳じゃない。だけど一年生同士は部活を引退するまで、約2年半は一緒にいる訳じゃない」
「うん。そうだね」
「だったらさ、一番長く時間を過ごす一年生だけで話し合って決めてもらった方が良いんじゃない?勿論、私たち三年生も相談に乗る」
「それはそうなんだけど!そうじゃなくて、私が悩んでるのは、その先、「何を基準にニックネームをつけるか」ってこと!」
「基準」
「そう!例えば、「名字を略す」とか」
「あ。そっか。それでいいじゃん」
「え?ケイ。今まで気づいて無かった?」
「うん。もう名前を略すって、頭から離れなくて」
詩音が箸を持ったまま固まる。相談する相手を間違えたかもしれない。もしかしたら、学業の成績は残念だけど、時々「神通力か?」と思わせる能力を発揮する梨花の方が相談役にふさわしかったかもしれない。
「……んじゃあ放課後、一年生に名字を略すって提案してみようか」
「うん」
京子がまるで我関せずな返事をし、詩音は弁当を急いで掻き込んだ。
●○●○●○
放課後。第一体育館は修羅場となっていた。
飯島凛は「「イイ」じゃ自分が呼ばれたのかどうかがわかりづらい」と言い、
上野凛は「「ウエ」だけだとただの指示にしか聞こえない」と言い、
小野凛は「「オノ」って斧みたいじゃないですか」と拒否し、
笠原沙羅は「傘じゃないです」と小野凛と同じ理由で拒否し、
片岡紗良は「「肩」に聞こえる」と、
全員部長の提案を蹴っ飛ばした。
「ど、どうしよう……」
詩音がガックリと項垂れる。こんな事に時間を使いたくない。早く練習して、今年の一年生の実力を知っておきたいのに。
「あのさぁ」
空気を読まない梨花だった。
「みんな、「私こういう名前が良かった!」とかある?」
一年生全員首を横に振る。
「この名前、気に入ってます」
「私も」
「じゃあ、みんな、ペットとか飼ってる?」
飯島と笠原は犬、他は猫を飼っていると答えた。
「みんな、自分が飼ってるペットの名前で呼ばれるのはイヤ?」
詩音が慌てる。
(さすがにそれは無いだろ!犬猫の名前で呼ばれるなんて!)
「嫌じゃないです」
「まぁ、他の名前で呼ばれるよりは、いいかな」
「私が名前つけたんで」
と、何故か梨花の提案を、一年生全員受け入れ体制だった。
(うっそーん!犬猫の名前でいいんだ……)
梨花の提案を採用してたった5分。あれだけ難航していた呼び名が即、決まった。
飯島凛は「ハル」
上野凛は「トト」
小野凛は「ムギ」
笠原沙羅は「ルナ」
片岡紗良は「メイ」
あれだけ人間の名前は被っていたのに、ペットの名前は全く被らず、しかもみんな「仮名二文字」の条件をクリアしていた。
「よし!じゃあ準備体操の後、一年生の実力を知りたいので、ミニ紅白戦をやります!」
洋峰学園中等部女子バスケ部部長・大森詩音は部員全員に指示を出しながらこう胸に誓った。
(今度、こういう相談事は梨花にしよう)
と。
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