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指導碁 畠山京子二段→院生・田村優里亜
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【魔法使い】のケイから【魔力制御】を教わろうと、弟子入りを志願してから早一年。ユリアは未だ魔法制御に梃子摺っていた。
「そこで魔力を溜めて!」
魔力の流れをつかめるようにはなったが、魔法を発動するためには溜めが必要だ。この溜めが何度やっても上手くいかない。以前両腕を吹っ飛ばしてしまった。ケイの所有する魔術書【治癒魔法に関する書】で幸い両手は元に戻ったが、恐怖心からか魔力の流れが不安定になってしまった。
今もまた、魔法を発動できそうな大きさに魔力を溜められたが、両腕を吹っ飛ばした時の痛みが頭を過り、せっかく溜めた魔力を霧散させてしまった。
「あー、惜しい!いいとこまでいってましたよ!あと少し!」
ケイは褒めて伸ばす派らしく、叱ったりダメ出ししたりはしない。
「まだ恐怖心がありますか?」
いくら私が年上でもこっちが教わる側なんだから、ケイに敬語はやめてと言ってるのに、やめてくれない。聞けば方言を誤魔化すためらしい。
「うん。ごめん。何とかしなきゃと思ってるんだけど……」
魔法を使えるだけで白番に回った時、有利に戦えるのだ。白番でしか使えない【シロイシくん】を操るには魔力量がものをいう。この【シロイシくん】は使用者の魔力量と魔法の質に大きく関わるからだ。
「無理することはありません。魔術書に【恐怖心を消す魔法】というのがあるんですけど、試してみますか?」
そう言ってケイは、【空間収納魔法】から魔術書を取り出し、ページを捲って見せた。
「でも……。それって応急処置みたいなものでしょ?魔法が切れたらまた恐怖心がよみがえるなら、使わない方が……」
「たしかに応急処置ですが、【魔力制御】ができるようになるまでの応急処置です。『自分一人でもちゃんと魔力制御できた』と自信がつけば、恐怖心を消す魔法無しでもちゃんと魔力制御できるようになるはずです」
ケイにこう言われてユリアは思い悩む。
正直、この魔法を使うのは自分で努力して手にいれたスキルで無いような気がして、狡い気がしている。
(でもケイの言う通り、とにもかくにも【魔力制御】を覚えなきゃ本格的な稽古は始められないのに、肝心の【魔力制御】すら、いつまでたっても覚えられない……。このままじゃ試験に間に合わない。しょうがない。ここはケイの言う通り、魔法に頼ろう)
「ケイ。【恐怖心を消す魔法】をかけてもらえるかな?」
「わかりました!では、いきます!」
そう言うとケイは杖を取り出し、振った。
杖の先からキラキラと金色の光が溢れる。その光はユリアを包み込んだ。
(温かい……)
まるで温泉に入っているかのような温かさで、ユリアはついウトウトとしてしまった。
「終りましたよ」
ケイに言われてユリアはハッとする。気づいたらヨダレを垂らしていた。慌ててマントの裾で吹いた。
「ちゃんと魔法が掛かったみたいですね」
(は、恥ずかしい……)
相手がケイでなければ恥ずか死にするところだった。
「それじゃ、やってみましょうか」
ユリアはこくんと頷く。目を瞑り魔力の流れに集中して、徐々に魔力を溜めていく。
「そう!良い調子!」
手応えがある。ユリアは目を開けた。
目の前にピンポン玉ほどの大きさの水の玉が浮いていた。
「いいですよ!そのままカメハメ波の要領で撃ってみて下さい!」
普段は理路整然としているケイが、魔法を使う時だけは超感覚的になって、語彙力が急低下する。
(なによ。カメハメ波の要領って)
と思いながら、ユリアは溜めた魔力を見様見真似でカメハメ波のポーズで真正面の岩めがけて放出した。
放たれた『水球』は見事岩に当たり、バシャッと音を立てて飛び散った。威力は全く無かったが、ちゃんと自分の魔力で生成して飛ばした『水球』だ。
「ははっ。できた……!」
あれだけ苦労していた魔力制御が、【恐怖心を消す魔法】ひとつで出来るようになるなんて!
(魔法ってすごい……!)
ケイも杖をブンブン振り回して喜んでいた。
「やった!やりましたね!今の感覚を忘れないうちに、もう一回やってみましょう!」
こう言われてユリアはハッとする。
(そうだ。一回できただけじゃ、ただのまぐれだ。しっかり自分のモノにしないと)
ユリアは再び目を閉じる。魔力の流れに集中して、魔力が溜まったのを感じて目を開ける。今度は野球ボール位の『水球』ができていた。ユリアははしっかり狙いをつけて岩をめがけて『水球』を放った。岩が少し欠けた。
「やるじゃないですか!さっきより威力が増してましたよ!もう大丈夫ですね!」
ケイにこう言われたが、ユリアは納得しない。
「これじゃダメだよ。魔法無しで出来るようにならないと。この【恐怖心を消す魔法】って何時間くらいで効力が切れるの?」
するとケイは鼻の頭をポリポリと掻いた。
「えーと、実は今、先輩にかけた魔法は【恐怖心を消す魔法】ではなくて、【温泉に浸かってる気分になれる魔法】だったんです」
「!!だからあんなに温かく……!?」
「はい。だからもう先輩は普通に魔法を使えると思います」
まさかケイにこんな騙し討ちを喰らうなんて……!
でも、ちゃんと自分の力で魔法を使えるようになったんだ。ケイのやり方は正しかった。
いつまで経っても魔法制御を覚えられなかった私を見捨てないで、根気強く指導してくれた。
「ありがとう、ケイ」
「お礼を言うにはまだ早いです。『棋士試験』に合格してからにして下さい」
「うん。そうだった」
ユリアは泣きながら笑った。本番はこれからだ。
どんなに大変な試験になっても、きっと耐えられる。
だって、憧れていた冒険者になれるのだから。
「そこで魔力を溜めて!」
魔力の流れをつかめるようにはなったが、魔法を発動するためには溜めが必要だ。この溜めが何度やっても上手くいかない。以前両腕を吹っ飛ばしてしまった。ケイの所有する魔術書【治癒魔法に関する書】で幸い両手は元に戻ったが、恐怖心からか魔力の流れが不安定になってしまった。
今もまた、魔法を発動できそうな大きさに魔力を溜められたが、両腕を吹っ飛ばした時の痛みが頭を過り、せっかく溜めた魔力を霧散させてしまった。
「あー、惜しい!いいとこまでいってましたよ!あと少し!」
ケイは褒めて伸ばす派らしく、叱ったりダメ出ししたりはしない。
「まだ恐怖心がありますか?」
いくら私が年上でもこっちが教わる側なんだから、ケイに敬語はやめてと言ってるのに、やめてくれない。聞けば方言を誤魔化すためらしい。
「うん。ごめん。何とかしなきゃと思ってるんだけど……」
魔法を使えるだけで白番に回った時、有利に戦えるのだ。白番でしか使えない【シロイシくん】を操るには魔力量がものをいう。この【シロイシくん】は使用者の魔力量と魔法の質に大きく関わるからだ。
「無理することはありません。魔術書に【恐怖心を消す魔法】というのがあるんですけど、試してみますか?」
そう言ってケイは、【空間収納魔法】から魔術書を取り出し、ページを捲って見せた。
「でも……。それって応急処置みたいなものでしょ?魔法が切れたらまた恐怖心がよみがえるなら、使わない方が……」
「たしかに応急処置ですが、【魔力制御】ができるようになるまでの応急処置です。『自分一人でもちゃんと魔力制御できた』と自信がつけば、恐怖心を消す魔法無しでもちゃんと魔力制御できるようになるはずです」
ケイにこう言われてユリアは思い悩む。
正直、この魔法を使うのは自分で努力して手にいれたスキルで無いような気がして、狡い気がしている。
(でもケイの言う通り、とにもかくにも【魔力制御】を覚えなきゃ本格的な稽古は始められないのに、肝心の【魔力制御】すら、いつまでたっても覚えられない……。このままじゃ試験に間に合わない。しょうがない。ここはケイの言う通り、魔法に頼ろう)
「ケイ。【恐怖心を消す魔法】をかけてもらえるかな?」
「わかりました!では、いきます!」
そう言うとケイは杖を取り出し、振った。
杖の先からキラキラと金色の光が溢れる。その光はユリアを包み込んだ。
(温かい……)
まるで温泉に入っているかのような温かさで、ユリアはついウトウトとしてしまった。
「終りましたよ」
ケイに言われてユリアはハッとする。気づいたらヨダレを垂らしていた。慌ててマントの裾で吹いた。
「ちゃんと魔法が掛かったみたいですね」
(は、恥ずかしい……)
相手がケイでなければ恥ずか死にするところだった。
「それじゃ、やってみましょうか」
ユリアはこくんと頷く。目を瞑り魔力の流れに集中して、徐々に魔力を溜めていく。
「そう!良い調子!」
手応えがある。ユリアは目を開けた。
目の前にピンポン玉ほどの大きさの水の玉が浮いていた。
「いいですよ!そのままカメハメ波の要領で撃ってみて下さい!」
普段は理路整然としているケイが、魔法を使う時だけは超感覚的になって、語彙力が急低下する。
(なによ。カメハメ波の要領って)
と思いながら、ユリアは溜めた魔力を見様見真似でカメハメ波のポーズで真正面の岩めがけて放出した。
放たれた『水球』は見事岩に当たり、バシャッと音を立てて飛び散った。威力は全く無かったが、ちゃんと自分の魔力で生成して飛ばした『水球』だ。
「ははっ。できた……!」
あれだけ苦労していた魔力制御が、【恐怖心を消す魔法】ひとつで出来るようになるなんて!
(魔法ってすごい……!)
ケイも杖をブンブン振り回して喜んでいた。
「やった!やりましたね!今の感覚を忘れないうちに、もう一回やってみましょう!」
こう言われてユリアはハッとする。
(そうだ。一回できただけじゃ、ただのまぐれだ。しっかり自分のモノにしないと)
ユリアは再び目を閉じる。魔力の流れに集中して、魔力が溜まったのを感じて目を開ける。今度は野球ボール位の『水球』ができていた。ユリアははしっかり狙いをつけて岩をめがけて『水球』を放った。岩が少し欠けた。
「やるじゃないですか!さっきより威力が増してましたよ!もう大丈夫ですね!」
ケイにこう言われたが、ユリアは納得しない。
「これじゃダメだよ。魔法無しで出来るようにならないと。この【恐怖心を消す魔法】って何時間くらいで効力が切れるの?」
するとケイは鼻の頭をポリポリと掻いた。
「えーと、実は今、先輩にかけた魔法は【恐怖心を消す魔法】ではなくて、【温泉に浸かってる気分になれる魔法】だったんです」
「!!だからあんなに温かく……!?」
「はい。だからもう先輩は普通に魔法を使えると思います」
まさかケイにこんな騙し討ちを喰らうなんて……!
でも、ちゃんと自分の力で魔法を使えるようになったんだ。ケイのやり方は正しかった。
いつまで経っても魔法制御を覚えられなかった私を見捨てないで、根気強く指導してくれた。
「ありがとう、ケイ」
「お礼を言うにはまだ早いです。『棋士試験』に合格してからにして下さい」
「うん。そうだった」
ユリアは泣きながら笑った。本番はこれからだ。
どんなに大変な試験になっても、きっと耐えられる。
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