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真珠戦一局 細川雪江真珠王 vs 挑戦者畠山京子
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ケイは敵の戦場に降り立った。
寝殿造の建物。服装は十二単。どうやら平安時代を模した戦場らしい。
(おおーっ!いかにも京都っぽい!)
初めて着る十二単にケイがはしゃぐ。時代物の戦場といったら、戦国時代が大半だが、まさか平安の世の貴族を模す戦場とは!
周囲をキョロキョロと見渡す。簾に屏風、香も焚かれ、かなりリアルな作りになっている。
(どんな戦いになるんだろう!?)
衣擦れの音でケイは振り向いた。
同じく十二単を纏う細川雪江こと【ユキエ】が、扇子で顔の下半分を隠すように持って立っていた。そして京子を見つけると、上から下まで舐めるように眺めた。
「ほう。よう似合てはりますなぁ。馬子にも衣装やなぁ」
「誉め言葉じゃないってわかってて、わざと言ってますよね!?」
ケイがツッコむと、ユキエは「おほほ」と微笑み、白々しくこう言った。
「あら。バレた?」
先輩棋士の皆さんから、ユキエについて色々話を聞いて来たが、噂通りの人物のようだ。
(上等じゃねぇか!)
そもそも戦場に来ているのに、喧嘩をしないというのはあり得ない。
やられたら利子をつけてやり返す。それがケイだ。
「ええ。バレましたね。京都という所がどういう所か、しっかり勉強してきたので」
今度はケイが「うふふ」と笑う。
ユキエは眉間に皺を寄せた。
「まぁええわ。さっさと始めまひょか。ただし、ウチは殴り合いなんて野蛮な戦い方はせえへん。あんさんも、ウチの戦場に来たなら、ちゃんとここの戦場の流儀に従ってもらいますぇ」
「もちろん。その為にここに来たんですから」
「なんや、変な子やなぁ。普通は戦い慣れた自分の戦場で戦うんが、ええやろうに」
「え?だって飽きるでしょ?いっつも自分の戦場だけで戦ってたら」
これを聞いたユキエが高笑いする。
「なんや、ほんまオモロイ子ぉやなぁ」
「ありがとうございます。で、この十二単の衣装で、何でどうやって戦うんですか?」
京子の問いに答えるように、ユキエは持っていた扇子を高く掲げた。
「……もしかして投扇興ですか?」
「おや。知ってはったの?若いのに、物知りやなぁ」
ユキエは掲げていた扇子を下げて、また口許を隠した。
「ええ。祖父の経営する碁会所のお客さんに、若い頃、お座敷遊びで何度かやったことがあるって、話には聞いてました。なので、やったことは無いけど、ルールなら知ってます」
「そか。ほな、説明はいらへんか?」
「はい。不要です」
ユキエはまた眉間に皺を寄せる。てっきり、投扇興など知らないだろうと思っていたので、「今からルールを覚えられないし、やりたくない」と喚き散らすだろうと思っていたのだ。
(なんや。可愛げの無い子ぉやなぁ)
ユキエは、京子が狼狽える姿を見て、優越感に浸ろうと思っていたのだ。
しかし、そもそも簡単にユキエの戦場にやって来たのが、おかしいと気付いた。
(抵抗もしなかったな。この子。普通なら悪足掻きするんに)
投扇興をやったことが無いと言ったが、本当だろうか?普通は、やったことが無いモノなら、抵抗があるだろうに、すんなり受け入れた。しかも、タイトルが掛かった大一番で。
(やったことが無い言うんは、嘘かもしれん)
警戒するにこしたことはないだろう。
ユキエは扇子を一振する。すると畳の部屋が現れた。部屋の奥には蝶の載せられた枕も用意されてある。
「ここが戦場ですか」
ケイは臆する事なく部屋に入っていく。
「じゃあ、早速始めましょうか」
ケイが仕切ると、ユキエはまた眉間に皺を寄せた。
「なんで、あんさんが仕切んねん!」
「あ、失礼しました。初めてやる競技だから、楽しみで!ワクワクが止められませんでした!」
(まさか、ほんまにやった事ない?)
「やったことないんやったら、一回、練習で投げてみるか?」
「え?いいんですか?」
「ウチかて鬼やない」
「ありがとうございます!じゃあ、一回だけ!」
そう言うとケイは早速正座して扇子を持ち、蝶めがけて投げてみた。
扇子は全く飛ばず、すぐにストンと落ち、畳を滑って枕に当たった。
「うーん。かなりコツが要りますね」
ぎこちない手付きでケイが扇子を投げる様子を見て、ユキエは確信した。
(間違いない!この子、ほんまにやったこと、あらへん!)
「言うとくけど、今から「やっぱり無し」言うんは、あきませんえ」
「言いませんよ!すっごく楽しそう!」
(は?楽しそう?負けるかもしれへんゆうんに、楽しそう?)
「早く始めましょうよ!」
ケイがユキエを急かす。
(初めてやる遊びに、抵抗なく、しかも策も無しで、ウチに勝つつもりなんかい?)
ユキエは違和感を覚える。
ケイのこれは、演技なのか、ハッタリなのか、それとも素なのか。
戦い慣れたはずの自分の戦場。しかしユキエはなぜか危機感を覚えていた。
寝殿造の建物。服装は十二単。どうやら平安時代を模した戦場らしい。
(おおーっ!いかにも京都っぽい!)
初めて着る十二単にケイがはしゃぐ。時代物の戦場といったら、戦国時代が大半だが、まさか平安の世の貴族を模す戦場とは!
周囲をキョロキョロと見渡す。簾に屏風、香も焚かれ、かなりリアルな作りになっている。
(どんな戦いになるんだろう!?)
衣擦れの音でケイは振り向いた。
同じく十二単を纏う細川雪江こと【ユキエ】が、扇子で顔の下半分を隠すように持って立っていた。そして京子を見つけると、上から下まで舐めるように眺めた。
「ほう。よう似合てはりますなぁ。馬子にも衣装やなぁ」
「誉め言葉じゃないってわかってて、わざと言ってますよね!?」
ケイがツッコむと、ユキエは「おほほ」と微笑み、白々しくこう言った。
「あら。バレた?」
先輩棋士の皆さんから、ユキエについて色々話を聞いて来たが、噂通りの人物のようだ。
(上等じゃねぇか!)
そもそも戦場に来ているのに、喧嘩をしないというのはあり得ない。
やられたら利子をつけてやり返す。それがケイだ。
「ええ。バレましたね。京都という所がどういう所か、しっかり勉強してきたので」
今度はケイが「うふふ」と笑う。
ユキエは眉間に皺を寄せた。
「まぁええわ。さっさと始めまひょか。ただし、ウチは殴り合いなんて野蛮な戦い方はせえへん。あんさんも、ウチの戦場に来たなら、ちゃんとここの戦場の流儀に従ってもらいますぇ」
「もちろん。その為にここに来たんですから」
「なんや、変な子やなぁ。普通は戦い慣れた自分の戦場で戦うんが、ええやろうに」
「え?だって飽きるでしょ?いっつも自分の戦場だけで戦ってたら」
これを聞いたユキエが高笑いする。
「なんや、ほんまオモロイ子ぉやなぁ」
「ありがとうございます。で、この十二単の衣装で、何でどうやって戦うんですか?」
京子の問いに答えるように、ユキエは持っていた扇子を高く掲げた。
「……もしかして投扇興ですか?」
「おや。知ってはったの?若いのに、物知りやなぁ」
ユキエは掲げていた扇子を下げて、また口許を隠した。
「ええ。祖父の経営する碁会所のお客さんに、若い頃、お座敷遊びで何度かやったことがあるって、話には聞いてました。なので、やったことは無いけど、ルールなら知ってます」
「そか。ほな、説明はいらへんか?」
「はい。不要です」
ユキエはまた眉間に皺を寄せる。てっきり、投扇興など知らないだろうと思っていたので、「今からルールを覚えられないし、やりたくない」と喚き散らすだろうと思っていたのだ。
(なんや。可愛げの無い子ぉやなぁ)
ユキエは、京子が狼狽える姿を見て、優越感に浸ろうと思っていたのだ。
しかし、そもそも簡単にユキエの戦場にやって来たのが、おかしいと気付いた。
(抵抗もしなかったな。この子。普通なら悪足掻きするんに)
投扇興をやったことが無いと言ったが、本当だろうか?普通は、やったことが無いモノなら、抵抗があるだろうに、すんなり受け入れた。しかも、タイトルが掛かった大一番で。
(やったことが無い言うんは、嘘かもしれん)
警戒するにこしたことはないだろう。
ユキエは扇子を一振する。すると畳の部屋が現れた。部屋の奥には蝶の載せられた枕も用意されてある。
「ここが戦場ですか」
ケイは臆する事なく部屋に入っていく。
「じゃあ、早速始めましょうか」
ケイが仕切ると、ユキエはまた眉間に皺を寄せた。
「なんで、あんさんが仕切んねん!」
「あ、失礼しました。初めてやる競技だから、楽しみで!ワクワクが止められませんでした!」
(まさか、ほんまにやった事ない?)
「やったことないんやったら、一回、練習で投げてみるか?」
「え?いいんですか?」
「ウチかて鬼やない」
「ありがとうございます!じゃあ、一回だけ!」
そう言うとケイは早速正座して扇子を持ち、蝶めがけて投げてみた。
扇子は全く飛ばず、すぐにストンと落ち、畳を滑って枕に当たった。
「うーん。かなりコツが要りますね」
ぎこちない手付きでケイが扇子を投げる様子を見て、ユキエは確信した。
(間違いない!この子、ほんまにやったこと、あらへん!)
「言うとくけど、今から「やっぱり無し」言うんは、あきませんえ」
「言いませんよ!すっごく楽しそう!」
(は?楽しそう?負けるかもしれへんゆうんに、楽しそう?)
「早く始めましょうよ!」
ケイがユキエを急かす。
(初めてやる遊びに、抵抗なく、しかも策も無しで、ウチに勝つつもりなんかい?)
ユキエは違和感を覚える。
ケイのこれは、演技なのか、ハッタリなのか、それとも素なのか。
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