戦場ーバトルフィールドー 盤上の格闘技【囲碁】を異世界バトル風にアレンジしたらこうなりましたー

菅田佳理乃

文字の大きさ
6 / 8

真珠戦一局 細川雪江真珠王 vs 挑戦者畠山京子

しおりを挟む
 ケイは敵の戦場バトルフィールドに降り立った。

 寝殿造の建物。服装は十二単。どうやら平安時代を模した戦場らしい。

 (おおーっ!いかにも京都っぽい!)

 初めて着る十二単にケイがはしゃぐ。時代物の戦場といったら、戦国時代が大半だが、まさか平安の世の貴族を模す戦場とは!

 周囲をキョロキョロと見渡す。簾に屏風、香も焚かれ、かなりリアルな作りになっている。

 (どんな戦いになるんだろう!?)


 衣擦れの音でケイは振り向いた。

 同じく十二単を纏う細川雪江こと【ユキエ】が、扇子で顔の下半分を隠すように持って立っていた。そして京子を見つけると、上から下まで舐めるように眺めた。

「ほう。よう似合てはりますなぁ。馬子にも衣装やなぁ」

「誉め言葉じゃないってわかってて、わざと言ってますよね!?」

 ケイがツッコむと、ユキエは「おほほ」と微笑み、白々しくこう言った。

「あら。バレた?」

 先輩棋士の皆さんから、ユキエについて色々話を聞いて来たが、噂通りの人物のようだ。

 (上等じゃねぇか!)

 そもそも戦場バトルフィールドに来ているのに、喧嘩をしないというのはあり得ない。

 やられたら利子をつけてやり返す。それがケイだ。

「ええ。バレましたね。京都という所がどういう所か、しっかり勉強してきたので」

 今度はケイが「うふふ」と笑う。

 ユキエは眉間に皺を寄せた。

「まぁええわ。さっさと始めまひょか。ただし、ウチは殴り合いなんて野蛮な戦い方はせえへん。あんさんも、ウチの戦場に来たなら、ちゃんとここの戦場の流儀に従ってもらいますぇ」

「もちろん。その為にここに来たんですから」

「なんや、変な子やなぁ。普通は戦い慣れた自分の戦場で戦うんが、ええやろうに」

「え?だって飽きるでしょ?いっつも自分の戦場だけで戦ってたら」

 これを聞いたユキエが高笑いする。

「なんや、ほんまオモロイ子ぉやなぁ」

「ありがとうございます。で、この十二単の衣装で、何でどうやって戦うんですか?」

 京子の問いに答えるように、ユキエは持っていた扇子を高く掲げた。

「……もしかして投扇興ですか?」

「おや。知ってはったの?若いのに、物知りやなぁ」

 ユキエは掲げていた扇子を下げて、また口許を隠した。

「ええ。祖父の経営する碁会所のお客さんに、若い頃、お座敷遊びで何度かやったことがあるって、話には聞いてました。なので、やったことは無いけど、ルールなら知ってます」

「そか。ほな、説明はいらへんか?」

「はい。不要です」

 ユキエはまた眉間に皺を寄せる。てっきり、投扇興など知らないだろうと思っていたので、「今からルールを覚えられないし、やりたくない」と喚き散らすだろうと思っていたのだ。

 (なんや。可愛げの無い子ぉやなぁ)

 ユキエは、京子が狼狽える姿を見て、優越感に浸ろうと思っていたのだ。


 しかし、そもそも簡単にユキエの戦場にやって来たのが、おかしいと気付いた。

 (抵抗もしなかったな。この子。普通なら悪足掻きするんに)

 投扇興をやったことが無いと言ったが、本当だろうか?普通は、やったことが無いモノなら、抵抗があるだろうに、すんなり受け入れた。しかも、タイトルが掛かった大一番で。

 (やったことが無い言うんは、嘘かもしれん)

 警戒するにこしたことはないだろう。


 ユキエは扇子を一振する。すると畳の部屋が現れた。部屋の奥には蝶の載せられた枕も用意されてある。

「ここが戦場ですか」

 ケイは臆する事なく部屋に入っていく。

「じゃあ、早速始めましょうか」

 ケイが仕切ると、ユキエはまた眉間に皺を寄せた。

「なんで、あんさんが仕切んねん!」

「あ、失礼しました。初めてやる競技だから、楽しみで!ワクワクが止められませんでした!」

 (まさか、ほんまにやった事ない?)

「やったことないんやったら、一回、練習で投げてみるか?」

「え?いいんですか?」

「ウチかて鬼やない」

「ありがとうございます!じゃあ、一回だけ!」

 そう言うとケイは早速正座して扇子を持ち、蝶めがけて投げてみた。

 扇子は全く飛ばず、すぐにストンと落ち、畳を滑って枕に当たった。

「うーん。かなりコツが要りますね」

 ぎこちない手付きでケイが扇子を投げる様子を見て、ユキエは確信した。

 (間違いない!この子、ほんまにやったこと、あらへん!)

「言うとくけど、今から「やっぱり無し」言うんは、あきませんえ」

「言いませんよ!すっごく楽しそう!」

 (は?楽しそう?負けるかもしれへんゆうんに、楽しそう?)


「早く始めましょうよ!」

 ケイがユキエを急かす。

 (初めてやる遊びに、抵抗なく、しかも策も無しで、ウチに勝つつもりなんかい?)


 ユキエは違和感を覚える。

 ケイのこれは、演技なのか、ハッタリなのか、それとも素なのか。

 戦い慣れたはずの自分の戦場。しかしユキエはなぜか危機感を覚えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

なんか人類滅亡直前の世界で勇者召喚にて大ハズレみたいな顔をされた【弱体術師】の俺ですが、実は人生4周目にて過去には【勇者】の実績もある最強

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
なんか人類滅亡直前の世界で勇者召喚にて大ハズレみたいな顔をされた【弱体術師】の俺ですが、実は人生4周目にて過去には【勇者】の実績もある銀河最強レベルの【調停者】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...