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3章
オンラインの恋人
よくあることだが、今日も悪意あるコメントが動画サイトのコメント欄に書かれていた。
『タマは演奏がゴミみたいなレベルだから、乳を武器に再生数稼いでるカスみたいな女』
こういうのは日常茶飯事だが、目に入るとやはりいい気分はしない。
──褒められたり、けなされたり、いちいち気にしてたらヘトヘトになっちゃうから無視だ。無視。
貧乏で友達もおらず、おまけに定職もなく、母親は病気で長期入院をしているという不幸続きの千紗にも一つだけ幸せな時間があった。
ファンになってくれた男性──田吾作とオンラインでチャットしたり電話したりすることだった。
顔すら知らないが、長い時間をかけて信頼関係を築いてきた。
知り合ったのはちょうど一年半前。ちさが今の会社でバイトを始めて間もない頃だった。
不特定多数を相手に、動画を公開するという行為は、承認欲求を満たす反面、かなりストレスもあった。
心ないコメントが動画についたり、SNSで罵倒されることもある。
顔出しこそしていないが、そのうち身バレしてしまうのではないかという心配もある。
だが、こんなに稼げる仕事は、もう千紗には見つからないだろう。
借金返済のためだ。あと少し。
そしたらきっぱりやめて、エロいコスプレ姿を世界に晒すのはやめる。それまで、待っていてくれたら、田吾作に会ってみたいと思っている。
スマホを見るとメッセージが来ていた。
『顔につけてるお面、たまにずれて見えそうになってるから気を付けて』
『こないだのマイクロビキニ、あと少しで見えちゃうとこだったから、サイズが合ってるやつにして』
ハンドルネーム田吾作さん。随分古風な名前だ。
声を聞く限り、お年寄りではなさそうだ。
初期から応援してくれるファンの田吾作さんは、なにかと千紗のためにアドバイスをくれる。
ネットに疎い千紗を心配してアドバイスをくれる貴重な人だ。
「もっと脱げ」というリスナーが多い中、「演奏が好きだから露出はほどほどに」と言ってくれる紳士でもある。
体より演奏を褒めてくれるところも好感度大だった。
リアルで会ったことこそないけれど、それゆえ逆に悩みなど話しやすく、時間がある時には個人的に連絡をとるようになっていた。
投げ銭も気前よくくれるし、一番のファンといって差し支えない。
暴言コメントがあればすぐに心配して連絡をくれる。
『最近SNSで変なのに絡まれてない?』
『仕方ないってわかってるんだけどね、あんまりしつこいと嫌だなぁ』
『100の応援コメントより、1の暴言のが心には残っちゃうよね。わかるよ』
『最近誹謗中傷コメント増えてきたけどどうしよう。怖いなぁ』
『人気が出たら仕方ないけど、身バレだけは気を付けて』
『会社でも、キラキラ女子たちに仕事押し付けれちゃって』
『上の人に相談できないの?』
『私、社員じゃないし、気に入らないならやめろって思われるだけだよ』
『言ってみないとわからないよ』
いつも愚痴を聞いてもらって、優しくしてくれる田吾作をすっかり信頼してしまい、親の破産など親友にも言えずにいたことを話すようになってしまった。
ネットで繋がっているだけとはいえ、田吾作は、千紗にとって大切な人になっていた。
十代で親から自立せざるをえなくなって、一人で頑張ってきた千紗には田吾作と話す時間はほっとするものだった。
いつしか会ったこともない田吾作に千紗はガチ恋していた。
女子高育ちで、男性経験がないこと、あまり世間慣れしていないこともあって、千紗は変に思い込みが激しく、そして危うい純粋さがあった。
「田吾作さんがたとえチビでもハゲでもニートでもいい。好き……」
だが、千紗は生来の引っ込み思案とコミュ障、そして自信のなさを拗らせており、リアルで恋愛するという考えは浮かばなかった。
好きになったことがあるのは、父親の書庫にあった漫画の北斗の拳のケンシロウだけだった。
田吾作さんは確かに三次元にも存在しているのだが、会わなければ二次元のキャラと同じように千紗を傷つけることもない。
たとえ結婚していようが、クズでも変態でも(千紗の配信を見ている時点で可能性は高い)会わなければこの想いが汚れることはない。
琥珀に閉じ込められた水のように、ずっと綺麗なままでいられる。
──この恋はこのままでいい。
それは臆病な千紗にとって安全策だった。
『タマは演奏がゴミみたいなレベルだから、乳を武器に再生数稼いでるカスみたいな女』
こういうのは日常茶飯事だが、目に入るとやはりいい気分はしない。
──褒められたり、けなされたり、いちいち気にしてたらヘトヘトになっちゃうから無視だ。無視。
貧乏で友達もおらず、おまけに定職もなく、母親は病気で長期入院をしているという不幸続きの千紗にも一つだけ幸せな時間があった。
ファンになってくれた男性──田吾作とオンラインでチャットしたり電話したりすることだった。
顔すら知らないが、長い時間をかけて信頼関係を築いてきた。
知り合ったのはちょうど一年半前。ちさが今の会社でバイトを始めて間もない頃だった。
不特定多数を相手に、動画を公開するという行為は、承認欲求を満たす反面、かなりストレスもあった。
心ないコメントが動画についたり、SNSで罵倒されることもある。
顔出しこそしていないが、そのうち身バレしてしまうのではないかという心配もある。
だが、こんなに稼げる仕事は、もう千紗には見つからないだろう。
借金返済のためだ。あと少し。
そしたらきっぱりやめて、エロいコスプレ姿を世界に晒すのはやめる。それまで、待っていてくれたら、田吾作に会ってみたいと思っている。
スマホを見るとメッセージが来ていた。
『顔につけてるお面、たまにずれて見えそうになってるから気を付けて』
『こないだのマイクロビキニ、あと少しで見えちゃうとこだったから、サイズが合ってるやつにして』
ハンドルネーム田吾作さん。随分古風な名前だ。
声を聞く限り、お年寄りではなさそうだ。
初期から応援してくれるファンの田吾作さんは、なにかと千紗のためにアドバイスをくれる。
ネットに疎い千紗を心配してアドバイスをくれる貴重な人だ。
「もっと脱げ」というリスナーが多い中、「演奏が好きだから露出はほどほどに」と言ってくれる紳士でもある。
体より演奏を褒めてくれるところも好感度大だった。
リアルで会ったことこそないけれど、それゆえ逆に悩みなど話しやすく、時間がある時には個人的に連絡をとるようになっていた。
投げ銭も気前よくくれるし、一番のファンといって差し支えない。
暴言コメントがあればすぐに心配して連絡をくれる。
『最近SNSで変なのに絡まれてない?』
『仕方ないってわかってるんだけどね、あんまりしつこいと嫌だなぁ』
『100の応援コメントより、1の暴言のが心には残っちゃうよね。わかるよ』
『最近誹謗中傷コメント増えてきたけどどうしよう。怖いなぁ』
『人気が出たら仕方ないけど、身バレだけは気を付けて』
『会社でも、キラキラ女子たちに仕事押し付けれちゃって』
『上の人に相談できないの?』
『私、社員じゃないし、気に入らないならやめろって思われるだけだよ』
『言ってみないとわからないよ』
いつも愚痴を聞いてもらって、優しくしてくれる田吾作をすっかり信頼してしまい、親の破産など親友にも言えずにいたことを話すようになってしまった。
ネットで繋がっているだけとはいえ、田吾作は、千紗にとって大切な人になっていた。
十代で親から自立せざるをえなくなって、一人で頑張ってきた千紗には田吾作と話す時間はほっとするものだった。
いつしか会ったこともない田吾作に千紗はガチ恋していた。
女子高育ちで、男性経験がないこと、あまり世間慣れしていないこともあって、千紗は変に思い込みが激しく、そして危うい純粋さがあった。
「田吾作さんがたとえチビでもハゲでもニートでもいい。好き……」
だが、千紗は生来の引っ込み思案とコミュ障、そして自信のなさを拗らせており、リアルで恋愛するという考えは浮かばなかった。
好きになったことがあるのは、父親の書庫にあった漫画の北斗の拳のケンシロウだけだった。
田吾作さんは確かに三次元にも存在しているのだが、会わなければ二次元のキャラと同じように千紗を傷つけることもない。
たとえ結婚していようが、クズでも変態でも(千紗の配信を見ている時点で可能性は高い)会わなければこの想いが汚れることはない。
琥珀に閉じ込められた水のように、ずっと綺麗なままでいられる。
──この恋はこのままでいい。
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