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6章
上司の好意は災いのもと
「また変なコメント来てる。怖いなぁ」
昼休み、スマホでSNSのアプリを開くと、通知が大量に来ている。大半はファンからの応援コメントだが、気になるものがあった。
@万年寝太郎:タマちゃーん。どうして前は返事くれたのに、無視するのぉ? ファンは大事にしないと駄目じゃん。それともちょっと登録者数増えたら天狗?
こっちも考えあるからちゃんと対応してねー♪♪ 夜道気を付けるんだよ! 変態がタマちゃんのエロボディ狙ってるかもだし。
「キモ! こわ!!」
最近、動画やSNSに万年寝太郎というユーザーから執拗に卑猥なコメントや脅迫とも取れるコメントが来る。
ブロックしても逆上するか、またアカウントを作り直して粘着するだけだと思ってスルーしていたのだが、最近内容がエスカレートしてきている。
田吾作からアドバイスされたとおり、身バレ防止には万全を期している。
それでもやはり世のネットストーカーの特定技術は凄まじいと聞くから、不安にはなる。
普段は家からお弁当を持ってきているが、昨夜深酒をして、お米を炊き忘れたので、一人でランチに来ていた。
お洒落とは程遠い寂れた食堂で一人、暗い顔で万年寝太郎のコメントを見ていると、偶然井村がやってきた。
一人で来た井村は、千紗に声をかけた。
「高倉さん。隣いいかな? 聞きたいことがあるんだ」
「はい。なんでしょう」
「なにか困ったことはない? ちょっと最近元気なさそうで気になってて」
立花にはめちゃめちゃいびられているが、それは井村がなにかと千紗に気をかけているからだ──。
爽やかな人気者の部長が、千紗のような陰気な女に優しくするのが気に入らないのだろう。
──それを井村さんが聞くのはなぁ。鈍感というか、無神経というか。恵まれてる人間って自分のことわかってないよね……。
自分のしてることの結果がわからないのだろう。だから、はっきり言ってやることにした。
「多分、こうやってお昼に一緒にいるのを見られたら、また私の立場が悪くなります」
「どういうこと?」
「わからないんですか? 立花さんの気持ち。私とランチしていたら、問題になるんです」
「問題って? 俺には妻も彼女もいないのに、ランチも好きな人とできないってわけ?」
「す、好きな人ぉ!?」
とんでもない台詞に心臓が口から出るかと思った。言葉の綾だろうが、そういう毒になる発言はぜひともやめて頂きたい。
「あの! 別に本気で私が好きって言ったんじゃないのはわかりますけど、そういう誤解を生む発言は是が非でも慎んで頂きたく存じ申し上げます!」
興奮のあまり変な日本語になっていた。
「え? なにか怒らせること言った?」
「言いましたとも!」
「じゃぁ、食事に誘うくらい許してほしい。今日駄目でも明日はわからないでしょ?」
田吾作さんに好きとは言ったが、好きだとは言われていないし付き合ってはない。嘘をつくのが苦手な千紗は黙り込んだ。
連日のいじめと、ネットストーカーの悩みで神経が高ぶっていた。
多少の八つ当たりもあるだろうが、千紗の立腹は止まらなかった。
チャラいイケメンがなにより苦手だった。好きだなんて、千紗のなにも知らないのに、軽すぎる。あまりに軽すぎる。
気まずい沈黙の中、店員が定食を運んできた。無言で食べ終わると、
「あの……誤解されると困るので別々に戻ります」
そう言い残して千紗は席を立った。
千紗の背に向かって、井村ははっきり言った。
「高倉さん、もっと君と話したい。これはプライベートで」
「──っ!!」
なんだろう。地味専なのだろうか。このご時世セクハラ、パワハラになるのではないだろうか。
──そのうちちゃんとした就職先探さないとな。動画の収益なんてあぶく銭だからアテにしちゃだめだ……。
オフィスに戻ってからも、井村の視線を感じた。あんなに失礼な態度をしたのに、ずっとこっちを見てる。
マゾなのかもしれない。
千紗のような地味な女に罵られるのに興奮する性癖なのかもしれない。
──そういうエロ同人見たことあるな……。人の数だけ性癖があるのはわかっている。でも私には田吾作さんがいるし。
千紗は、昔から変態気質の男を呼び寄せやすかった。見た目さわやかな男の性癖がさわやかとは限らない。モテ男が非モテ女子を好きにならないとは限らない。
だが千紗は井村が苦手だった。なにもかもが違いすぎる。
昼休み、スマホでSNSのアプリを開くと、通知が大量に来ている。大半はファンからの応援コメントだが、気になるものがあった。
@万年寝太郎:タマちゃーん。どうして前は返事くれたのに、無視するのぉ? ファンは大事にしないと駄目じゃん。それともちょっと登録者数増えたら天狗?
こっちも考えあるからちゃんと対応してねー♪♪ 夜道気を付けるんだよ! 変態がタマちゃんのエロボディ狙ってるかもだし。
「キモ! こわ!!」
最近、動画やSNSに万年寝太郎というユーザーから執拗に卑猥なコメントや脅迫とも取れるコメントが来る。
ブロックしても逆上するか、またアカウントを作り直して粘着するだけだと思ってスルーしていたのだが、最近内容がエスカレートしてきている。
田吾作からアドバイスされたとおり、身バレ防止には万全を期している。
それでもやはり世のネットストーカーの特定技術は凄まじいと聞くから、不安にはなる。
普段は家からお弁当を持ってきているが、昨夜深酒をして、お米を炊き忘れたので、一人でランチに来ていた。
お洒落とは程遠い寂れた食堂で一人、暗い顔で万年寝太郎のコメントを見ていると、偶然井村がやってきた。
一人で来た井村は、千紗に声をかけた。
「高倉さん。隣いいかな? 聞きたいことがあるんだ」
「はい。なんでしょう」
「なにか困ったことはない? ちょっと最近元気なさそうで気になってて」
立花にはめちゃめちゃいびられているが、それは井村がなにかと千紗に気をかけているからだ──。
爽やかな人気者の部長が、千紗のような陰気な女に優しくするのが気に入らないのだろう。
──それを井村さんが聞くのはなぁ。鈍感というか、無神経というか。恵まれてる人間って自分のことわかってないよね……。
自分のしてることの結果がわからないのだろう。だから、はっきり言ってやることにした。
「多分、こうやってお昼に一緒にいるのを見られたら、また私の立場が悪くなります」
「どういうこと?」
「わからないんですか? 立花さんの気持ち。私とランチしていたら、問題になるんです」
「問題って? 俺には妻も彼女もいないのに、ランチも好きな人とできないってわけ?」
「す、好きな人ぉ!?」
とんでもない台詞に心臓が口から出るかと思った。言葉の綾だろうが、そういう毒になる発言はぜひともやめて頂きたい。
「あの! 別に本気で私が好きって言ったんじゃないのはわかりますけど、そういう誤解を生む発言は是が非でも慎んで頂きたく存じ申し上げます!」
興奮のあまり変な日本語になっていた。
「え? なにか怒らせること言った?」
「言いましたとも!」
「じゃぁ、食事に誘うくらい許してほしい。今日駄目でも明日はわからないでしょ?」
田吾作さんに好きとは言ったが、好きだとは言われていないし付き合ってはない。嘘をつくのが苦手な千紗は黙り込んだ。
連日のいじめと、ネットストーカーの悩みで神経が高ぶっていた。
多少の八つ当たりもあるだろうが、千紗の立腹は止まらなかった。
チャラいイケメンがなにより苦手だった。好きだなんて、千紗のなにも知らないのに、軽すぎる。あまりに軽すぎる。
気まずい沈黙の中、店員が定食を運んできた。無言で食べ終わると、
「あの……誤解されると困るので別々に戻ります」
そう言い残して千紗は席を立った。
千紗の背に向かって、井村ははっきり言った。
「高倉さん、もっと君と話したい。これはプライベートで」
「──っ!!」
なんだろう。地味専なのだろうか。このご時世セクハラ、パワハラになるのではないだろうか。
──そのうちちゃんとした就職先探さないとな。動画の収益なんてあぶく銭だからアテにしちゃだめだ……。
オフィスに戻ってからも、井村の視線を感じた。あんなに失礼な態度をしたのに、ずっとこっちを見てる。
マゾなのかもしれない。
千紗のような地味な女に罵られるのに興奮する性癖なのかもしれない。
──そういうエロ同人見たことあるな……。人の数だけ性癖があるのはわかっている。でも私には田吾作さんがいるし。
千紗は、昔から変態気質の男を呼び寄せやすかった。見た目さわやかな男の性癖がさわやかとは限らない。モテ男が非モテ女子を好きにならないとは限らない。
だが千紗は井村が苦手だった。なにもかもが違いすぎる。
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