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12章
忍び寄るネットストーカー
みなとみらいの観覧車で、初めて千紗に触れて以来、溢れる想いはさらに勢いを増して止まらない。思春期の頃だって女の子にこんなに夢中になったことはない。
「部長、今日金曜日だし、飲みませんか? みんな来ますよ」
ちょうど帰り支度をしていると、立花が話しかけてきた。
「いやちょっと今日は用事があるんだ」
「最近部長付き合いわるーい」
「悪いね」
金曜日は千紗が生配信するので、ポロリなどしないか心配でパソコンにかじりつく予定だ。
以前千紗が胸チラをやらかした時は、すぐに削除したが、かなり動画が拡散されてしまい、売名行為などと相当叩かれた。
結果としてファンは増えて、借金返済に一役買ったわけだがアンチも増えた。
殺害予告や誹謗中傷もあったので、千紗に忠告して危険そうなものは警察に連絡したり弁護士に意見を聞いたりもした。
ただ自分は彼氏でもなく、今の関係では守ることもできない。
性的な目で見られる動画配信は、長く続けるには危険だと思っている。
今もストーカーらしきファンがちらほらいるし、千紗のセキュリティ管理はずぶずぶで、井村も常に気を張って配信を見守っていた。
特に、万年寝太郎というふざけた名前のアンチが千紗の配信のたびに、異常なコメントをするようになっていたので、最近神経を尖らせている。
万年寝太郎@タマちゃーーーん。ここの成人向け動画サイトなら全裸でも配信できるよぉ。俺が撮影してあげるから、連絡待ってるね!
ご丁寧に男は自分のメアドまでつけていた。
「下種野郎が……」
普段お上品な井村も、このコメントには怒りが収まらない。
千紗の動画には、その男がつけた不快なコメントで溢れていた。以前は見るたびに通報していたが、正直意味はない。
ネットで不平不満を垂れ流すだけならいいが、こいつはリアルでも危害を及ぼすことを仄めかしている。が、殺害予告などではないので、即犯罪というわけでもなく、今のところ千紗に注意を促すことしかできない。
@万年寝太郎: おい! 人が親切に教えてやってるのに返事くらいしろよ!
最近では、千紗が返信しないのでSNSで苛立ちを露わにしていた。
やっぱり過激路線の配信は危険だ。一軒家に女の子が一人暮らしなのは、心配だ。
窓が多いから、割って入れば侵入はたやすい。
とはいえ、借金苦の千紗に配信をやめろなどとは言えない。
せめてもの助けになればと正社員も打診したが、断られた。正社員になったところですぐに返せる額でもなさそうだから、それは仕方がないのだが。
千紗の父親の借金はどれくらいあるのだろう。
どれくらいあのスケベな衣装を世界に晒したら返済できるのだろうか。
正直千紗のエッチなコスプレには井村も大変お世話になってはいるが、危険が伴う以上それなりに複雑な気持ちにもなる。
自分が二十歳の頃は、親のお金で大学に行って、サークルに入ったり、好きなバイトをしたりしていたから、千紗の苦労はいたましく思った。
もともとそれなりに裕福だったというのに、母親まで倒れて一人で頑張っているのだから余裕がないのは仕方がない。
田吾作として陰ながら千紗の相談に乗るくらいしかできないのである。
千紗は、終業時刻が終わると共に颯爽と会社をあとにした。配信の準備だろう。
SNSによると、今日は人気のアニメ曲を和風ロックにアレンジして演奏するらしい。
そのアニメのヒロインの衣裳は、かなりエロいので心配でたまらない……。
自分だけに見せてくれるなら、楽しみではあるのだが。
千紗は貧乏なので、衣裳も自分で縫ったりしているのだが、オタク気質なせいか、なにかに熱中するととてつもないクオリティになるようだった。
親のことがなければ、動画でなくとも評価される専門職について成功していただろうと思う。
スマホの画面を見てため息をつく。
千紗のSNSにまた例の男から新たなコメントがついている。
@万年寝太郎:千紗ちゃーん、今日のアニメのヒロインの衣裳かなりきわどいから期待してるよん♡
@万年寝太郎:ちょっと人気出たからって調子こいてんじゃねーよ。くそビッチ。
その直後には、ふざけんなクソ女だとか危ないコメントを書いている。情緒不安定なのかもしれない。
こういう奴にも二種類いて、ネット弁慶でリアルではなんにもできない人間と、本当に家まで調べて危害をくわえようとする人間がいる。
前者なら無視でいいが、こいつは──。
井村とて、千紗には言えないストーカーに近い行いをしてはいるが、あくまで千紗を守るためだ。正体を隠して近づくのは、普通に最低な行為だが、こっそり千紗を見守るには都合がよかった。
最近では匿名掲示板に、千紗を監視するスレッドまで立っているからそちらもチェックしていた。
「あ!」
@万年寝太郎:ねー、えっちな動画出してるTちゃんち見つけちゃった。今から行くから生配信中に〇〇〇しようね。世界中に俺たちのメイクラブ見せつけてやるわ。今から新幹線乗るね。
ご丁寧に東京駅をバックに自撮りしていた。これが1時間半ほど前の書き込み。
これにドン引きしたスレ民たちからも通報したほうがいいんじゃね? というコメントが多数寄せられていた。
男は、30分ほど千紗のマンションへ向かう道すがらUPしていた。見ると本当に千紗の最寄り駅の近くだった。
「やばい……こいつ本気だ」
千紗に電話するが、配信準備に夢中なのか出なかった。
井村は走った。
☆
「おっ、ここだ。セキュリティゆるそうな家。やっぱあんな動画出すなんて頭悪いんだなぁ。ラッキー」
男は、千紗の住む一軒家の前に立っていた。時刻は午後9時。
新幹線まで乗ってはるばる東京へ来たのだから、なんとしても楽しませてもらわねば。
男──ハンドルネーム万年寝太郎は淫らな女に対して憎しみを抱いていた。
よくSNSで自撮りの裸を撮ったりしている俗にいう裏垢女子の個人情報を集め、住所氏名を特定し、脅して言いなりにさせるという手口で犯罪行為を行っていた。
だが、警察に訴えられたことはない。皆、自分もやましいことをしているとわかっているからだ。
そういう馬鹿で淫乱な女の人生をめちゃくちゃにしてやりたい。
チャンネル名「玉響の音」を運営しているタマは、そういう男の願望をものすごく刺激してくれた。
まず顔出ししていないのもいい。全部晒らし上げると脅してあの仮面の下の顔が絶望するところが見たかった。
職もなく、貯金もない。家族もいない。失うものがない。いわゆる無敵の人だ。
闇金から借りた借金が雪だるま式に膨れ上がり、もうにっちもさっちもいかなくなっている。どうせだから、最後にでかい事件を起こそうと決めたところだ。
何度か警察沙汰にもなったが、相手が告訴を断念したため何事もなく終わった。
今夜の餌食はそこそこ人気の動画配信者タマ。
せっかくだから歴史に名を残したくて、生放送中に襲うことにした。
タマも楽して稼いだのだから罰を受けるべきだ。あんな動画で稼ぐなど言語道断。世間の厳しさを教えてやらねばならない。
馬鹿な女を懲らしめるため自分は世直しをしている。
本気でそう信じていた。
男はスマホで、タマの生配信が始まる時間を確認し、持ってきた工具で窓の鍵を開ける作業を開始した。
「部長、今日金曜日だし、飲みませんか? みんな来ますよ」
ちょうど帰り支度をしていると、立花が話しかけてきた。
「いやちょっと今日は用事があるんだ」
「最近部長付き合いわるーい」
「悪いね」
金曜日は千紗が生配信するので、ポロリなどしないか心配でパソコンにかじりつく予定だ。
以前千紗が胸チラをやらかした時は、すぐに削除したが、かなり動画が拡散されてしまい、売名行為などと相当叩かれた。
結果としてファンは増えて、借金返済に一役買ったわけだがアンチも増えた。
殺害予告や誹謗中傷もあったので、千紗に忠告して危険そうなものは警察に連絡したり弁護士に意見を聞いたりもした。
ただ自分は彼氏でもなく、今の関係では守ることもできない。
性的な目で見られる動画配信は、長く続けるには危険だと思っている。
今もストーカーらしきファンがちらほらいるし、千紗のセキュリティ管理はずぶずぶで、井村も常に気を張って配信を見守っていた。
特に、万年寝太郎というふざけた名前のアンチが千紗の配信のたびに、異常なコメントをするようになっていたので、最近神経を尖らせている。
万年寝太郎@タマちゃーーーん。ここの成人向け動画サイトなら全裸でも配信できるよぉ。俺が撮影してあげるから、連絡待ってるね!
ご丁寧に男は自分のメアドまでつけていた。
「下種野郎が……」
普段お上品な井村も、このコメントには怒りが収まらない。
千紗の動画には、その男がつけた不快なコメントで溢れていた。以前は見るたびに通報していたが、正直意味はない。
ネットで不平不満を垂れ流すだけならいいが、こいつはリアルでも危害を及ぼすことを仄めかしている。が、殺害予告などではないので、即犯罪というわけでもなく、今のところ千紗に注意を促すことしかできない。
@万年寝太郎: おい! 人が親切に教えてやってるのに返事くらいしろよ!
最近では、千紗が返信しないのでSNSで苛立ちを露わにしていた。
やっぱり過激路線の配信は危険だ。一軒家に女の子が一人暮らしなのは、心配だ。
窓が多いから、割って入れば侵入はたやすい。
とはいえ、借金苦の千紗に配信をやめろなどとは言えない。
せめてもの助けになればと正社員も打診したが、断られた。正社員になったところですぐに返せる額でもなさそうだから、それは仕方がないのだが。
千紗の父親の借金はどれくらいあるのだろう。
どれくらいあのスケベな衣装を世界に晒したら返済できるのだろうか。
正直千紗のエッチなコスプレには井村も大変お世話になってはいるが、危険が伴う以上それなりに複雑な気持ちにもなる。
自分が二十歳の頃は、親のお金で大学に行って、サークルに入ったり、好きなバイトをしたりしていたから、千紗の苦労はいたましく思った。
もともとそれなりに裕福だったというのに、母親まで倒れて一人で頑張っているのだから余裕がないのは仕方がない。
田吾作として陰ながら千紗の相談に乗るくらいしかできないのである。
千紗は、終業時刻が終わると共に颯爽と会社をあとにした。配信の準備だろう。
SNSによると、今日は人気のアニメ曲を和風ロックにアレンジして演奏するらしい。
そのアニメのヒロインの衣裳は、かなりエロいので心配でたまらない……。
自分だけに見せてくれるなら、楽しみではあるのだが。
千紗は貧乏なので、衣裳も自分で縫ったりしているのだが、オタク気質なせいか、なにかに熱中するととてつもないクオリティになるようだった。
親のことがなければ、動画でなくとも評価される専門職について成功していただろうと思う。
スマホの画面を見てため息をつく。
千紗のSNSにまた例の男から新たなコメントがついている。
@万年寝太郎:千紗ちゃーん、今日のアニメのヒロインの衣裳かなりきわどいから期待してるよん♡
@万年寝太郎:ちょっと人気出たからって調子こいてんじゃねーよ。くそビッチ。
その直後には、ふざけんなクソ女だとか危ないコメントを書いている。情緒不安定なのかもしれない。
こういう奴にも二種類いて、ネット弁慶でリアルではなんにもできない人間と、本当に家まで調べて危害をくわえようとする人間がいる。
前者なら無視でいいが、こいつは──。
井村とて、千紗には言えないストーカーに近い行いをしてはいるが、あくまで千紗を守るためだ。正体を隠して近づくのは、普通に最低な行為だが、こっそり千紗を見守るには都合がよかった。
最近では匿名掲示板に、千紗を監視するスレッドまで立っているからそちらもチェックしていた。
「あ!」
@万年寝太郎:ねー、えっちな動画出してるTちゃんち見つけちゃった。今から行くから生配信中に〇〇〇しようね。世界中に俺たちのメイクラブ見せつけてやるわ。今から新幹線乗るね。
ご丁寧に東京駅をバックに自撮りしていた。これが1時間半ほど前の書き込み。
これにドン引きしたスレ民たちからも通報したほうがいいんじゃね? というコメントが多数寄せられていた。
男は、30分ほど千紗のマンションへ向かう道すがらUPしていた。見ると本当に千紗の最寄り駅の近くだった。
「やばい……こいつ本気だ」
千紗に電話するが、配信準備に夢中なのか出なかった。
井村は走った。
☆
「おっ、ここだ。セキュリティゆるそうな家。やっぱあんな動画出すなんて頭悪いんだなぁ。ラッキー」
男は、千紗の住む一軒家の前に立っていた。時刻は午後9時。
新幹線まで乗ってはるばる東京へ来たのだから、なんとしても楽しませてもらわねば。
男──ハンドルネーム万年寝太郎は淫らな女に対して憎しみを抱いていた。
よくSNSで自撮りの裸を撮ったりしている俗にいう裏垢女子の個人情報を集め、住所氏名を特定し、脅して言いなりにさせるという手口で犯罪行為を行っていた。
だが、警察に訴えられたことはない。皆、自分もやましいことをしているとわかっているからだ。
そういう馬鹿で淫乱な女の人生をめちゃくちゃにしてやりたい。
チャンネル名「玉響の音」を運営しているタマは、そういう男の願望をものすごく刺激してくれた。
まず顔出ししていないのもいい。全部晒らし上げると脅してあの仮面の下の顔が絶望するところが見たかった。
職もなく、貯金もない。家族もいない。失うものがない。いわゆる無敵の人だ。
闇金から借りた借金が雪だるま式に膨れ上がり、もうにっちもさっちもいかなくなっている。どうせだから、最後にでかい事件を起こそうと決めたところだ。
何度か警察沙汰にもなったが、相手が告訴を断念したため何事もなく終わった。
今夜の餌食はそこそこ人気の動画配信者タマ。
せっかくだから歴史に名を残したくて、生放送中に襲うことにした。
タマも楽して稼いだのだから罰を受けるべきだ。あんな動画で稼ぐなど言語道断。世間の厳しさを教えてやらねばならない。
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