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14章
罠
久々の出社で疲れた。でもやめることにしてスッキリした。
結局、井村が千紗を夜まで離したがらず、だらだら部屋に居座ってしまった。バイトもやめ、動画の配信も休んでいるけれど、自宅の売却準備のため、色々処分しに帰ってきたはずだが、心地よい温もりから離れられずにいた。
翌日、実家を整理すると言うと、井村がついてきた。
自分の荷物はともかく、父の部屋を整理するのは辛かった。
「このアニメ、お父さんが好きで何度もDVD見たなぁ」
「うん。俺も千紗ちゃんから聞いて見たよ。面白かった」
「この部屋でお父さんが仕事してる隣でパソコン使って動画とか見てたんです。歌ってみたとか、踊ってみたとか、演奏してみたとか。お父さんもちょっと動画を出してて──全然人気はなかったけど楽しそうでした。まさか自分も動画を出すとは夢にも思わなかったけど」
「へぇ。きっとお父さんから才能受け継いだんだろうね」
亡くなってから、寂しくて見られなかった父の部屋を見ていると、父と千紗が並んで笑っている写真が部屋に飾ってあるのが目に入る。
知らず知らずに、涙が溢れる。
「よしよし、辛いね。泣いていいから。ゆっくりでいい」
「ご、ごめんなさい。泣くつもりじゃ……」
「そうだよね。ごめん。俺もなんて言っていいかわかんないけど」
井村も涙ぐんでいて、ちょっと申し訳なくなる。本当は一人でしなくてはいけないのに。
「ごめんなさい……」
「いいんだよ。頼ってくれてマジで嬉しいんだから」
少しでもわかってくれる人がいることこそが、今の千紗には何よりの救いだった。
井村は千紗が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。今はこの温もりに甘えていたい。
「井村さん……」
「千紗ちゃん……。あのさ、家を売ったら良かったら一緒に住まないか?」
「えっ。でも未婚の男女が一緒に暮らすなんて、まずいですよ」
千紗はそこらへんは古風な考えを持っていた。そもそも肉体関係をもってしまったことだって、罪悪感がある。
「いや、ちょっと早いかもしれないけど俺とけっこ」
「あ! 電話」
突然スマホの着信音が鳴る。見るとアイさんだった。
「なんですか? 血行?」
「いやあとでゆっくり話すから、とりあえず電話に出て」
電話に出るとアイさんは興奮した様子だった。
「千紗ちゃん! 大丈夫?」
「はい。もしもし?」
「ね、ネット見て心配してかけたんだけど」
「なになに、なんですか?」
明らかにいい話ではない。すでに最悪の経験はしたつもりだったが、まだなにかあるというのか。
「ネットに千紗ちゃんの本名と顔写真が載ってる。出身地とか、学校とか。それから明らかに悪意のある嘘の情報が」
「あの、どんなですか」
「うーん。言いづらいけどいい?」
「はい」
「教師と不倫して高校を退学になったとか、会社でも複数の社員に色目を使ってクビになったとか。ぜーったい近しい者だよ。やたら千紗ちゃんに詳しいし、私怨を感じるネタばっかり。心当たりは?」
真っ先に立花の顔が浮かぶ。だが、まさかそこまでするとは信じがたい。
「いや、ありますけど。証拠もないし、わかりません。一方的に悪く言う人はいくらでもいるから」
「まぁ……そうだよね。でも気を付けて。過激な誹謗中傷も出てるから。ね、井村さんはいるの? 電話変わって」
「はい」
「井村さん? わかってると思うけど、千紗ちゃん守ってあげて。私たち表でなにかやる人間は慣れてるとはいえ、やっぱり誹謗中傷って心に深い傷を残すからね。事実無根のことだって言われ続けると、自分が悪いような気がしてきちゃうの。私も経験あるからさ」
「もちろん全力で守りますよ! ただ一度出回った情報を消すのは……」
井村が気づかわしげにちらりと千紗のほうを見る。もう母親にはバレたし、誰かに迷惑がかからなければいい。それだけだった。
アイさんとの通話を終えると、今度は井村のスマホが鳴る。しばらく深刻そうな顔で話したあと、電話を切った。
「まずいな。しばらく大人しくしてて。会社にも問い合わせが殺到してるって。ここの住所も晒されてるらしい」
「ひぇ……」
「うちにいることまでは分からないと思うから、しばらく大人しくうちにいれるかな?」
「でも、また井村さんに迷惑がかかってしまいます」
「一人で危ないことされるより、よほどいいから」
二人で千紗の家を出ると、突然男性が現れてカメラを向けられた。
「タマさんですね? 暴行犯とバイト先の男性と二股をかけたのがバレて襲われたというのは本当ですか?」
「不倫など男性関係に問題があったというのは?」
「複数の男性ファンとオフで関係をもっていたという情報がありますが」
矢継ぎ早に質問をされて、驚く。
結局、井村が千紗を夜まで離したがらず、だらだら部屋に居座ってしまった。バイトもやめ、動画の配信も休んでいるけれど、自宅の売却準備のため、色々処分しに帰ってきたはずだが、心地よい温もりから離れられずにいた。
翌日、実家を整理すると言うと、井村がついてきた。
自分の荷物はともかく、父の部屋を整理するのは辛かった。
「このアニメ、お父さんが好きで何度もDVD見たなぁ」
「うん。俺も千紗ちゃんから聞いて見たよ。面白かった」
「この部屋でお父さんが仕事してる隣でパソコン使って動画とか見てたんです。歌ってみたとか、踊ってみたとか、演奏してみたとか。お父さんもちょっと動画を出してて──全然人気はなかったけど楽しそうでした。まさか自分も動画を出すとは夢にも思わなかったけど」
「へぇ。きっとお父さんから才能受け継いだんだろうね」
亡くなってから、寂しくて見られなかった父の部屋を見ていると、父と千紗が並んで笑っている写真が部屋に飾ってあるのが目に入る。
知らず知らずに、涙が溢れる。
「よしよし、辛いね。泣いていいから。ゆっくりでいい」
「ご、ごめんなさい。泣くつもりじゃ……」
「そうだよね。ごめん。俺もなんて言っていいかわかんないけど」
井村も涙ぐんでいて、ちょっと申し訳なくなる。本当は一人でしなくてはいけないのに。
「ごめんなさい……」
「いいんだよ。頼ってくれてマジで嬉しいんだから」
少しでもわかってくれる人がいることこそが、今の千紗には何よりの救いだった。
井村は千紗が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。今はこの温もりに甘えていたい。
「井村さん……」
「千紗ちゃん……。あのさ、家を売ったら良かったら一緒に住まないか?」
「えっ。でも未婚の男女が一緒に暮らすなんて、まずいですよ」
千紗はそこらへんは古風な考えを持っていた。そもそも肉体関係をもってしまったことだって、罪悪感がある。
「いや、ちょっと早いかもしれないけど俺とけっこ」
「あ! 電話」
突然スマホの着信音が鳴る。見るとアイさんだった。
「なんですか? 血行?」
「いやあとでゆっくり話すから、とりあえず電話に出て」
電話に出るとアイさんは興奮した様子だった。
「千紗ちゃん! 大丈夫?」
「はい。もしもし?」
「ね、ネット見て心配してかけたんだけど」
「なになに、なんですか?」
明らかにいい話ではない。すでに最悪の経験はしたつもりだったが、まだなにかあるというのか。
「ネットに千紗ちゃんの本名と顔写真が載ってる。出身地とか、学校とか。それから明らかに悪意のある嘘の情報が」
「あの、どんなですか」
「うーん。言いづらいけどいい?」
「はい」
「教師と不倫して高校を退学になったとか、会社でも複数の社員に色目を使ってクビになったとか。ぜーったい近しい者だよ。やたら千紗ちゃんに詳しいし、私怨を感じるネタばっかり。心当たりは?」
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「いや、ありますけど。証拠もないし、わかりません。一方的に悪く言う人はいくらでもいるから」
「まぁ……そうだよね。でも気を付けて。過激な誹謗中傷も出てるから。ね、井村さんはいるの? 電話変わって」
「はい」
「井村さん? わかってると思うけど、千紗ちゃん守ってあげて。私たち表でなにかやる人間は慣れてるとはいえ、やっぱり誹謗中傷って心に深い傷を残すからね。事実無根のことだって言われ続けると、自分が悪いような気がしてきちゃうの。私も経験あるからさ」
「もちろん全力で守りますよ! ただ一度出回った情報を消すのは……」
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