後輩に精子を下さいとお願いしたら、泣かされた話

かけこ

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 魔術大国であるマルト王国。その王都の中心街には、王立魔術研究所が建っている。王城よりも広い敷地に緑豊かな木々が育ち、歴史ある白レンガの建物は日の光を受けてキラキラと輝く。

 そんなこの国の人々の憧れの地で働くエマ・マーレイは、今人生最大の悩みに直面していた。

 ──童貞の精子がほしい。

 エマは研究所の中でも優秀な者が所属すると言われる魔道具開発室に籍をおいていて、不妊に悩む人々のために、子どもを創る手助けとなる魔道具を開発中である。

 それにはどうしても、誰とも交わったことのない真っ新な精子が必要だった。

 一度交わりをしてしまうと、その人本来がもつ魔力とは別に、ごく微量だが他者の魔力がどうしても混ざってしまう。
 できれば接吻すらしたことのない個体が良い。

 エマは少ない人脈を辿り探してみたが、なかなかいい人材が見つけられない。
 今までは動物実験でなんとかごまかしていたが、やはり人間で試してみないことにはどうにも研究が進まない。

 ──やはり、彼にお願いするしかないか。

 同じ魔道具開発室に所属する孤児出身のクリスは、高等魔術師養成学校を今年主席で卒業した、まだ若い18歳だ。
 春まで学生だった彼なら、性行為をしたことがない可能性が極めて高い。素直で優しく天使みたいな後輩(見た目も天使)なので、セクハラだと訴えられないか心配で今まで避けてきたが、この状況でそんなことは言っていられない。

 エマは覚悟を決めて、魔道具開発室にあるクリスの机に向かった。

「クリス、あなた性行為はしたことある?精子がほしいのだけど、私に協力してくれないかしら。」

 エマが話しかけると、クリスはそのふわふわとした金髪を揺らして顔を上げた。澄んだ青い瞳を見開くと、エマより6歳も年下なうえ余計幼く見える。

「エマ先輩の研究に使うんですか?」
「ええ。子どもを創るための、手助けとなる魔道具を開発したいの。」

 クリスは頬を染めて目を逸らした。恥ずかしがらせてしまったようだ。

「どうしても童貞の精子が必要なの。協力してくれない?」

 クリスは顔を真っ赤にして、俯いている。答えた声は、すごく小さなものだった。

「ごめんなさい…。僕、童貞じゃないので…」

 おそらく嘘だろう。こんなに可愛らしいクリスが、経験済だとは思えない。なにしろ24歳で鉄の女と言われるエマが、まだ処女なのだ。

「なら、それでもいいわ。あなたの精子がいいの。」

 クリスは両手で顔を隠してしまった。
 
 やはりだめか…

 エマは落胆して、自分の研究室へ帰ろうと踵を返す。その背中に、クリスの言葉が響いた。

「あの…オリバー先輩が、童貞だって噂を聞いたことがあります。当たってみてはどうでしょうか。」

 オリバー・ウィギンスは、エマの仕事の先輩である。コミュニケーション能力が低く、堅物生真面目で周りにも自分にも厳しいので、たしかにモテることはなさそうだ。しかしそれでもエリートの部類に入り、よく見れば顔も良い。しかも侯爵家の次男である。
 そしてたしか今年で28歳を超えたと記憶している。そんな男が、未だに童貞だとは思えない。

「教えてくれてありがとう。」

 エマは無表情なままお礼を言うと、自分の研究室に戻った。
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