2 / 11
精子が欲しい…
しおりを挟む
あの後、心当たりを何人か当たってみたけれど、協力者を得ることはできなかった。どうしてこうも、そういう行為を済ましている人ばかりなのか。
こうなったら、今年3歳になる弟の子どもをあたってみるべきか…
いや、3歳ではまだ精通も迎えていない。無意味だ。
エマは犯罪になりそうなことを考えるほど、追い詰められていた。
精子…童貞の精子がほしい…
自分の研究室で頭を抱えていると、窓の外をふわふわとした金髪が通り過ぎる。太陽に照らされて、それはとても尊いもののようにキラキラと輝いている。
クリスは手に持ったカバンの中から、何か袋のようなものを取り出すと、あたりにばら巻き始めた。
こういった光景は、たまに見る。
広大な敷地を所有しているせいか、魔術研究所の庭には、野良だったり飼われていたり、さまざまな動物が生息しているのだ。
クリスは休憩時間を利用して、そういった動物たちにエサを与えているのだろう。
エマがぼーっとその光景を眺めていると、クリスの周りには色とりどりの鳥たちが集まり始める。
青、緑、黄色、白…
鮮やかな色に取り囲まれたクリスは華やかで、本当の天使のようだ。
感情を顔に出すことが苦手なエマでは、ああいう風にはならない。無表情というのは、動物に警戒心を与えるらしい。
エマに動物たちは、なかなか近寄ってこないのだ。
クリスはあれだけ動物に好かれるのだから、本当に純粋でいい子なのだろう。
羨ましいなと思いながら、エマはその光景を眺める。
純粋すぎてクリスはきっと、男女の交際など考えたこともないだろう。そして、キスもしたことがないに違いない。やはり、クリスは童貞だ。
──なんとか協力してもらえないかしら。
エマが物欲しそうな目でクリスを見ていると、クリスのふわふわな金髪の上に一羽の白い鳥がとまった。我が物顔で座り込む鳥にクリスが困っていると、大きな黒い鳥が横からすごい勢いで飛んできて、クリスの手に持っていた袋を強奪した。
クリスはしばらく呆然としていたが、眉尻を下げ、悲しそうな顔で空を見上げた。
他の鳥たちも皆、びっくりしたのだろう。一羽残らず、空に飛び立ってしまった。
エマはそれを見て、悪い顔で笑った。
クリスには悪いけれど、協力してくれないのなら、こっそりと盗むのはどうだろう。本人にもばれないようにすれば、きっと問題ないに違いない。
男の人は夜な夜な自分で、持て余した欲を処理すると聞く。いくら純粋なクリスだとしても、生理現象である射精はしているはずだ。
きっと、クリスも一人で処理をしているのだ。それをこっそり掠め取る。
拭き取られゴミ箱に捨てられたかわいそうな精子を、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ研究の実験材料として使わせてもらおう。
世にため、人のためである。
問題ない。何も問題ない。
エマは自分に言い聞かせるように思考を巡らせてから、さっそく準備に取り掛かった。
自分の魔力で創造した風の鳥を、物質遮光の魔道具を起動して光を反射させ、透明にする。
魔力を探知されないように、探知疎外の魔道具を指輪の形に加工して鳥の足にはめ、羽ばたく音が聞こえないように遮音の魔術もかけた。
出来上がったときには日が暮れていたが、どうやらクリスが帰宅するまでには間に合ったようだ。
エマは風の鳥を放ち、クリスを追うように指示を出す。
研究室に描いた遠見の魔術陣の上に正座をし、エマは陣を起動した。鳥の見たものが、エマの脳内に映像として送られてくる。
クリスは研究所近くの、レンガに蔦がはった可愛らしい集合住宅に住んでいるようだ。
外階段を二階へと上がり、玄関の扉を鍵で開けるクリスが見える。
エマは風の鳥を窓側へと移動させると、カーテンの隙間から中を覗いた。
クリスの部屋は、とても綺麗に整頓されていた。
一人暮らし用の小さなキッチンに、邪魔にならない小さめのシンプルなダイニングテーブル。あとは一人用のベッドがおいてあるだけだったが、壁際の本棚には大量の本が詰め込まれていて、クリスがとても努力家であることが伺える。
18歳で、魔道具開発室に籍をおいているのだ。それは並大抵の努力ではなかっただろう。
エマは、覗き見をしている自分が少し恥ずかしくなった。
──いやいや、これも研究を成功させるための努力、努力。
不妊に悩んでいる人たちの顔を思い浮かべ、エマは自らを励ました。
そんな感じでしばらくクリスを覗き見していたが、食堂でご飯を食べるために外出した以外特に何もなく、湯を浴びてクリスは就寝した。
男の人は、毎夜射精するのではないのだろうか?
いや、もしかしたら、風呂場でしたのかもしれない。
しかしそうなってくると、エマには手出しができない。
排水口に流れたものを採取しても、他の雑菌と混ざってしまって、研究には使えない。
──なんとか部屋で射精させて、布で拭ってもらえないだろうか。
悩んでいると、クリスの部屋の本棚が目に入った。
──そうか!その手があった!
エマは思いついたことを実行するために、さっそく準備に取り掛かった。
こうなったら、今年3歳になる弟の子どもをあたってみるべきか…
いや、3歳ではまだ精通も迎えていない。無意味だ。
エマは犯罪になりそうなことを考えるほど、追い詰められていた。
精子…童貞の精子がほしい…
自分の研究室で頭を抱えていると、窓の外をふわふわとした金髪が通り過ぎる。太陽に照らされて、それはとても尊いもののようにキラキラと輝いている。
クリスは手に持ったカバンの中から、何か袋のようなものを取り出すと、あたりにばら巻き始めた。
こういった光景は、たまに見る。
広大な敷地を所有しているせいか、魔術研究所の庭には、野良だったり飼われていたり、さまざまな動物が生息しているのだ。
クリスは休憩時間を利用して、そういった動物たちにエサを与えているのだろう。
エマがぼーっとその光景を眺めていると、クリスの周りには色とりどりの鳥たちが集まり始める。
青、緑、黄色、白…
鮮やかな色に取り囲まれたクリスは華やかで、本当の天使のようだ。
感情を顔に出すことが苦手なエマでは、ああいう風にはならない。無表情というのは、動物に警戒心を与えるらしい。
エマに動物たちは、なかなか近寄ってこないのだ。
クリスはあれだけ動物に好かれるのだから、本当に純粋でいい子なのだろう。
羨ましいなと思いながら、エマはその光景を眺める。
純粋すぎてクリスはきっと、男女の交際など考えたこともないだろう。そして、キスもしたことがないに違いない。やはり、クリスは童貞だ。
──なんとか協力してもらえないかしら。
エマが物欲しそうな目でクリスを見ていると、クリスのふわふわな金髪の上に一羽の白い鳥がとまった。我が物顔で座り込む鳥にクリスが困っていると、大きな黒い鳥が横からすごい勢いで飛んできて、クリスの手に持っていた袋を強奪した。
クリスはしばらく呆然としていたが、眉尻を下げ、悲しそうな顔で空を見上げた。
他の鳥たちも皆、びっくりしたのだろう。一羽残らず、空に飛び立ってしまった。
エマはそれを見て、悪い顔で笑った。
クリスには悪いけれど、協力してくれないのなら、こっそりと盗むのはどうだろう。本人にもばれないようにすれば、きっと問題ないに違いない。
男の人は夜な夜な自分で、持て余した欲を処理すると聞く。いくら純粋なクリスだとしても、生理現象である射精はしているはずだ。
きっと、クリスも一人で処理をしているのだ。それをこっそり掠め取る。
拭き取られゴミ箱に捨てられたかわいそうな精子を、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ研究の実験材料として使わせてもらおう。
世にため、人のためである。
問題ない。何も問題ない。
エマは自分に言い聞かせるように思考を巡らせてから、さっそく準備に取り掛かった。
自分の魔力で創造した風の鳥を、物質遮光の魔道具を起動して光を反射させ、透明にする。
魔力を探知されないように、探知疎外の魔道具を指輪の形に加工して鳥の足にはめ、羽ばたく音が聞こえないように遮音の魔術もかけた。
出来上がったときには日が暮れていたが、どうやらクリスが帰宅するまでには間に合ったようだ。
エマは風の鳥を放ち、クリスを追うように指示を出す。
研究室に描いた遠見の魔術陣の上に正座をし、エマは陣を起動した。鳥の見たものが、エマの脳内に映像として送られてくる。
クリスは研究所近くの、レンガに蔦がはった可愛らしい集合住宅に住んでいるようだ。
外階段を二階へと上がり、玄関の扉を鍵で開けるクリスが見える。
エマは風の鳥を窓側へと移動させると、カーテンの隙間から中を覗いた。
クリスの部屋は、とても綺麗に整頓されていた。
一人暮らし用の小さなキッチンに、邪魔にならない小さめのシンプルなダイニングテーブル。あとは一人用のベッドがおいてあるだけだったが、壁際の本棚には大量の本が詰め込まれていて、クリスがとても努力家であることが伺える。
18歳で、魔道具開発室に籍をおいているのだ。それは並大抵の努力ではなかっただろう。
エマは、覗き見をしている自分が少し恥ずかしくなった。
──いやいや、これも研究を成功させるための努力、努力。
不妊に悩んでいる人たちの顔を思い浮かべ、エマは自らを励ました。
そんな感じでしばらくクリスを覗き見していたが、食堂でご飯を食べるために外出した以外特に何もなく、湯を浴びてクリスは就寝した。
男の人は、毎夜射精するのではないのだろうか?
いや、もしかしたら、風呂場でしたのかもしれない。
しかしそうなってくると、エマには手出しができない。
排水口に流れたものを採取しても、他の雑菌と混ざってしまって、研究には使えない。
──なんとか部屋で射精させて、布で拭ってもらえないだろうか。
悩んでいると、クリスの部屋の本棚が目に入った。
──そうか!その手があった!
エマは思いついたことを実行するために、さっそく準備に取り掛かった。
0
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
襲われていた美男子を助けたら溺愛されました
茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。
相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。
イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。
なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。
相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。
イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで……
「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」
「……は?」
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる