後輩に精子を下さいとお願いしたら、泣かされた話

かけこ

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愉快な仲間たち

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 クリスと共に魔道具開発室へと戻ると、先輩二人が肩を組んでじゃれ合っていた。

「なぁ~。オリバー、今日暇だろ~?」

 この声は、ティム・ベイリー。黒髪の柔和な顔立ちの先輩で、エマにとっては比較的話しやすい人である。

「暇じゃない。」
「そうだよな!暇だよな!飲みに行こうぜ!」
「行かない。」

 先輩2人は仲良しで、とても楽しそうである。

 ──研究が上手くいっている人は余裕でいいわね。

 エマは妬みの視線で2人を見やった。

 ティムが、オリバーの肩に腕を回し、囁く。

「管理部のかわいい子が来るぜ。お前彼女いないだろ。」
「いないけど、必要ない。」
「そうだよな。やっぱり彼女ほしいよな~!仕事終わりにかわいい彼女が待っててくれると、一日頑張ってよかった~!って気持ちになるもんな!」
「ならない。」
「おう!クリス!お前もそう思うだろ!」

 エマの横に立っていたクリスに、ティムが声をかける。

「えっと…僕は彼女いたことがないので、よく分かりません。」
「え!?お前彼女いたことないの!?その顔で!?」
「はい。お恥ずかしながら…」
「じゃあ、お前も今日の飲み会参加しろよ!」

 ちょっと待ってほしい。
 それでクリスに彼女ができたら、私の精子はどうなる。
 さっきまた協力を断られたとはいえ、現状唯一の希望の光なのだ。

 エマはずいっとクリスの前に進み出ると、無表情で口を開いた。

「私も行くわ。」
「え!?珍しい!」
「俺は行かない。」
「他には誰がくるんですか?」

 クリスがひょこりとエマの後ろから顔を出し、質問をする。

「今聞いてるのは、光のリーア・メイソンとレイチェル・トムソン、闇のアリア・ステイシーと水のシエンナ・ヒルの4人だったかな。」
「ああ、レイチェルは知ってます。今年一緒に就職した同期なんです。」
「やっぱり俺も行く。」
「じゃあ仕事終わりに、いつもの店に集合な!」

 こうしてエマは、仕事仲間と飲みに行くことになった。


◇◆◇◆◇◆


 現状、研究のための唯一の希望であるクリスを守るために、エマは誰よりも早く集合場所に到着した。
 王都の中心街から少し外れた西側、商店が多く並ぶ通りにその店はある。
 インペリアル・フィズ。
 ちょっとお洒落なお酒を飲むお店である。

 魔術研究所から近いこともあり、女性の魔術師職員はよくここを利用する。
 エマも来たことはあるが、片手で数えるほどである。そもそもエマは、あまり飲み会には参加しない。

 キラキラと輝く光の魔道具がセンスよく配置されていて、整えられた美しい植物と青い可愛らしい入口の扉、お洒落なその雰囲気に怖気づいて、エマは一人中に入れないでいた。

 先に中に入っているべきか…それとも誰か来るまで外で待ってるか…

 落ち着かなくうろうろとしていると、後ろから声をかけられた。

「エマ先輩早いですね。」

 可愛らしく天使の微笑みをしたクリスだった。

「仕事が早く終わったの。」
 
 嘘である。本当は提出しなければいけない書類もあるし、上司に頼まれた仕事もある。しかし全部明日に回していち早く駆け付けた。

「中に入ってましょうか。」

 入口の扉に手をかけて、堂々と中に入って行くクリスが、なんだかすごく頼もしい。6歳も年下で、ついこの間まで学生だったのに。

そこでエマはふと気が付いた。
「クリスはお酒飲めるの?」
「はい。もう18歳ですから大丈夫ですよ。あまり強くはありませんが。」

 クリスは余裕の笑みでにこりと笑う。
 なるほど。あまりお酒なんて飲んでいるイメージはなかったが、お洒落な甘いお酒なら飲んでそうだ。
 しかしエマのその想像は、かなり違う方向で崩された。

 クリスはお酒に弱かったのだ。

「エマせんぱいはぁ~っ!ぼくのせいしほしいんでしょぉ~?」
「ええ、そうね。研究に使わせてもらえたら嬉しいわ。」
「ぎゃはははははっ!エマせんぱいえろいぃ~っ!」

 酒瓶片手に顔を真っ赤にしたクリスが、エマの肩に腕を回す。逆側の手で頬をペチペチと叩かれながら、エマは酒臭い息を顔面に受けた。

 天使はどこ行った。私の天使…

「エマせんぱいしょじょでしょお~?めっちゃそばかすあるもんねぇ~?」
「たしかに経験はないけど、そばかすは関係ないと思うわ。」
「しょじょなのに、ぼくのせいしほしいのお~?どうやってとるつもりなのお~?こんなぺったんこおっぱいじゃ、むりだよねえ~?」

 そう言ってクリスは、エマの胸をペタペタと触る。

「あれえ~?ほんとにぺったんこ~!エマせんぱいおとこだったのお~?」
「少しはあるわ。ちゃんとした女よ。」

 日頃のストレスなのだろうか。いつもはすごくいい子で優秀なのに、この変わりよう。エマは非常に困惑していた。

「そこまで言うなら、自分の竿を見せてみなさいよ。私が立派かどうか見てやるわ。」

 横からクリスがいなくなったと思ったら、横顔を踏みつけられて床に倒れている。踏んづけているのは、魔術管理部・闇属性管理課のお局、アリア・ステイシーだ。

 間違えた。お局というと人知れず消されるらしいので、闇属性管理課のベテラン、アリア・ステイシーだ。
 エマはあまり交流を持ったことはないが、魔術研究所に就職して数年で寿退社をする女性が多い中、一目おかれる立場まで出世したアリアは、エマのひそかな憧れである。

 アリアとクリスに気を取られていると、反対側の横にいきなりオリバー・ウィギンスが座っていてびっくりした。

「エマ・マーレイ。肩を組んでもいいだろうか。」
「なぜでしょうか。特に必要がないので、やめてほしいです。」

 オリバー・ウィギンスのことは苦手だ。とても優秀な魔術師で数々の業績を残しているが、この人とは何を話していいのか分からない。魔道具開発室の中で、一番距離の遠い人物だと言える。

 エマの予想通り、オリバーとは特に話が弾まないので、そのまま何も話さずグラスを二杯空けた。
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