後輩に精子を下さいとお願いしたら、泣かされた話

かけこ

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酔っ払いと

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 空を見上げると、黒い夜空にひと際大きい白の月が浮いている。暦の中で、白の月が一番蒸し暑い季節だ。しかしお酒で火照った体には心地よい、冷たい風が肌に触れる。

「もうすぐ青の月の季節ね。」

 エマは誰に言うともなくつぶやいた。現実逃避をしているとも言う。

 今エマの目の前には、道路に座り込み、ゲーゲーとやるクリスがいた。エマは近くで買ったお水を片手に、クリスの背中を撫でている。

 レイチェルは、クリスがもどし始めると、早々に帰宅した。なんでも「イケメンは好きだけど、ゲロはない。」らしい。
 せっかく絶好のチャンスだったのに…
 
 エマがお水を差し出すと、クリスは青ざめた顔でチラリとエマを見る。

「エマ先輩…先に帰っていいですよ。僕は大丈夫です。」
「ええ。でもどうせ同じ方向だから。すぐそこだし。」

 嘘である。
 クリスの家は魔術研究所の近くなので、中央街の端っこ。エマの家は、実家通いなので、低級貴族のお屋敷が立ち並ぶ南区の真ん中あたりに位置している。エマはこれでも、れっきとした男爵令嬢なのだ。

 クリスは水を一気にゴクゴクと飲むと、少し迷ったようにして、エマに言った。

「こんなに酔ってちゃ、ついてきても勃ちませんよ。」
「酔ってると勃たないの?それは知らなかったわ。」

 あははははっと、声を出してクリスが笑う。エマには何が楽しいのか分からない。

「エマ先輩って、おかしな人ですね。」
「そうかしら?面白みのない人間だって、よく言われるわ。」
「そんなことないです。すごく面白いですよ。」

 何がそんなに嬉しいのか、クリスは青ざめた顔で、とても綺麗な笑顔を浮かべた。

 あまりそういった顔を、エマは人に向けられたことがない。必要最低限の交流しかもたないし、外見も中身も、あまり好感を持たれるほうじゃない。

 だからどうしても、エマは人の役にたつ仕事がしたかった。

 そのために幼少期から、できるだけ多くの家庭教師に勉強を習い、他の子どもが遊んでいる時間に、寝る間も惜しんで勉強をした。
 そのかいあって、国内で最高峰と言われる魔術研究所に所属することができ、その中でも優秀な者しか配属されない魔術開発部に籍をおけた。

 なのに今、研究に行き詰っている。

 理論の部分や検証の部分で行き詰っているのなら、納得もできる。しかし実験の材料がそろわないのだ。それもこれも、エマの人脈不足が原因である。

 エマは泣きそうになって、それを隠すために立ち上がろうとした。けれども、クリスに右手首をつかまれて、中腰の状態で止まる。

「エマ先輩。僕の家に来ますか?」
「ええ。家の前まで送るわ。」
「そうじゃなくて…」

 フラリとよろけながら、クリスが立ち上がる。右手首は掴まれたままだ。
 エマより少し高い位置、ほぼ同じくらいの高さに、クリスの綺麗な澄んだ青い瞳がある。

「僕の精子、採取したいんでしょう?勃つか分からないけど、試してみますか?」
「いいの!?」
「僕でよければ。」

 エマは嬉しさのあまり、クリスに抱き着いた。

「ありがとう、クリス。恩に着るわ。」

 あははっと、クリスがまた声を出して笑う。

「お礼を言うのは、こちらですよ。エマ先輩。」
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